EVの地下交通システム「ベガス・ループ」最新体感記〜新ルートも開通して超便利!

「The Boring Company」がプロジェクトを進める電気自動車(テスラ車)による地下交通システム「VEGAS LOOP」は、将来的に108マイルを結ぶ壮大な計画です。1月に開催されたCES2024の期間中、新たに開通した区間を含めて最新の乗り心地を実体験。EVエンジニアの福田雅敏氏がレポートします。

EVの地下交通システム「ベガス・ループ」最新体感記〜新ルートも開通して超便利!

運行ルート全体を歩いて確認してみた

昨年10月、幕張メッセで開催されたCEATEC2023を見学した筆者は展示内容に少し物足りなさを感じてしまった。モビリティとテクノロジーの最新事情を目にしたいという思いから、毎年アメリカ・ラスベガスで開催されている世界最大の電気テクノロジー見本市「CES」(コンシューマー・エレクトロニクス・ショー)を急遽訪れることにした。

CESといえば、展示ホールの外での大きな楽しみのひとつとして、EVsmartブログでもたびたび紹介してきた「VEGAS_LOOP(ベガス・ループ)」がある。筆者は2016年ごろ、慶応大学の研究者が「ハイパーループ構想」のコンペティションにチャレンジした「慶応アルファ」(Keio Times特集記事へリンク)を見せてもらったことがある。ベガス・ループも「ハイパーループ」と同じテスラのイーロン・マスク氏が率いる「The Boring Company」(ボーリングカンパニー)が進めているプロジェクトだ。

真空チューブ内の超高速移動を目標とする「ハイパーループ」より一足お先に運用を始めたのが、専用の地下トンネルにテスラの電気自動車を走らせる地下交通システム=ベガス・ループである。

CESに行ったら体験しない手はないので、ラスベガスに到着早々の1月6日、ステーションがある赤と黒の大きな目立つビルである「Resorts World Las Vegas」(リゾートワールド)に行ってみた。が、何と閉まっていたのである。そういえば、営業はCES会期中のみとどこかで見た気がして、スマホで確認すると今回の稼働は1月7日からになっていた。

とはいえ、このまま帰るのはもったいないし、時間もできてしまったので、歩いてベガス・ループのステーション巡りをしてみることにした。

昨年の木野さんのレポート(関連記事)では、リゾートワールドとCES会場のLVCC(ラスベガスコンベンションセンター)のRIVIERA STATION(リビエラステーション)間。LVCC内のWESTSTATION(ウエストステーション)からSOUTHSTATION(サウスステーション)間が開通していて、リビエラステーションとウエストステーション間はPHASE 2事業となっており、まだ開通していなかった。

今回ベガス・ループの案内MAPを見るとリビエラステーションとウエストステーションが開通していたので開通区間すべてを歩いて確認できる。正確なルートの真上を歩けるわけもないので、地図を頼りにだいたいの位置を確認し、公道と歩道、LVCC内の道路を歩いてみる。

スタートはリゾートワールドステーション。実際のステーションは地下にあり、この日は入れなかったので地上から出発。ルート上で最初のステーションであるLVCC内のリビエラステーションは地上にある。そしてウエストステーションに到着。ここも地上にある。また歩道を歩きセントラルステーションに到着。ここも地下にあり、運用はしていないが入れたのでステーションまで行ってみた。ここまで1時間近く掛かったと思う。

そしてまた地上に出てLVCC構内を歩いてサウスステーションに到着。ここも地上にある。リゾートワールドステーションからサウスステーションまで歩くと優に1時間を超えた。

1日の乗車料金は5ドル

そして、営業が開始された1月7日に再度訪問。これまで「STATION CLOSED」と表示されていたディスプレイに「VEGAS LOOP」の案内が表示されるようになっていたので早速乗ることに。木野さんの報告にもあったとおり、リゾートワールドステーションからLVCC間は有料(その日中なら何回でも乗れる)となるので、まずは$5(昨年のレポートでは$4.5)を払わなければいけない。ApplePayなどでも払えるが私はクレジットカード決済とした。

そしてもう一つ条件がある。イベント参加者でないと乗れないのである。私の場合、CESの受付は先に済ませてクレデンシャルは手に入れていたので条件はそろっていた。

リゾートワールドステーションには、ベガス・ループの円筒の構造物となる「トンネルセグメント」が展示されていた。厚さ20㎝ぐらいのコンクリート製のセグメントである。これを円筒形に繋ぎ掘削機で掘ったトンネルに入れていくのである。写真のトンネルの白いものがセグメントを繋ぎ合わせたものだ。

実際のトンネルをよく見るとセグメントそのものが見える。ベガス・ループで使われる車両はテスラで排ガスが出ることもないので、汚れずに白いまま既に数年運用してきたことになる。やはりEVは環境にも良いのだと改めて感じた次第である。

受付を済ませたスマホに表示されたQRを乗り場でかざし、案内スタッフに行先をサウスステーションと告げ、いよいよ乗車である。まだ、CESも開幕前なので運用台数も少ないようで、ホーム(?)で少し待つことに。

数分待って、やって来たのはテスラモデルY。乗車してドライバーに確認すると、今回は100台が用意されているが、この日(1月7日)は25台が稼働しているらしい。使われている車両は、モデル Yを基本としてモデル Xもあり、モデル Xはリアバンパー後ろにキャリアが付けられており、車いすを載せることが可能。さらに、1台だけサイバー・トラックが導入されているが、特別な時だけのようで今日の運用はないとのことだった。乗れなくても、せめて見るだけ見たかった。

リゾートワールドステーションとウエストステーション間はトンネルが1本なので交互の通行となり、信号とバーが付いている。赤だったのでトンネル入り口で一旦停車。1台がこちらへ入ってきた後、信号が緑に変わりスタートとなった。トンネルは前述したとおり白いのだが、壁面におそらくLEDのランプが埋められており、何色かに変わる演出がされていた。

トンネルの最高速度は40マイル(約64km/h)とのことで、直線では結構勢いよく加速し40マイルまですぐに到達する。トンネルの直径は3~3.5m程度と思われ狭い感じがするので初めて乗った時は少し怖い気がした。そしてドライバーの腕もたいしたものだと感じた。

途中、リビエラステーションとウエストステーション間の開通(地上を走るが)によって、歩けば1時間も掛かったものが5分程度で到着することができるようになった。

サウスホールは今回のCESでは使わないので開いていない。行くところもないので、サウスステーション周辺を見学。ここには、オブジェとして掘削機の円筒型の歯が置いてある。それを見て時間を少しつぶし、次にセントラルステーションに向かうことに。ここでも地上に出て少し散策してステーションに戻り、さらにウエストステーションに行く。1日の間の乗車は何回でもOKなのでありがたい。ウエストステーションにはトンネルのセグメントを一周繋いだトンネルの断面が展示されていた。それぞれのステーションでトンネルの構造を見せていたのである。

そしてウエストステーションからリビエラステーションに行って下車。これで一通りのステーションを制覇したことになる。

乗り心地は、意外に揺れる……

プレスデー開幕後、ショーの取材中は会場内の移動に何度も使った。LVCCは世界最大級の展示場と言うこともあってかなり広い。改めてベガス・ループの便利さを感じた次第である。また、ショーには合計で13万人+αの来場があったようで、ベガス・ループも混雑していた。おそらく100台がフル稼働であっただろう。ステーションによっては少し渋滞もしていたし、乗るのに数分待つこともあった。

そして乗り心地であるが、意外なくらい揺れを感じた。恐らく道路のアスファルトの両端の部分はトンネルの直径が余り大きくないことからアスファルトを施工する際に大きなロードローラーが入れなかったのだろう。そのせいで、路面に少しうねりがあり車に揺れが出るのだと思われる。

相乗りになるので多くのドライバーさんに話を聞くことはできなかったが、当然ながら、運用されているテスラ車にはどの車両にもナンバーが付いていた。ベガス・ループの営業日以外は、ドライバーのマイカーやライドシェア車両として使われているのだろう。将来的に、通常は地上を走るテスラ車がベガス・ループの繁忙期には地下交通システムの車両として活躍するといった仕組みができあがっていくのかも知れない。ライドシェアなどとともに、柔軟性の高い公共交通システムとして発展を期待したいところだ。

日本でも、たとえば東京ビッグサイトの南ホールから東ホールへの移動には時間が掛かるのでベガス・ループのような移動手段があれば便利だと思う。また、実際にベガス・ループを体験してみて、便利な移動手段でありながら一種のアミューズメントでもあると感じた。そこはラスベガスである。

VEGAS LOOP(The Boring Company)公式サイトより引用。

ベガス・ループは将来的には空港にもつながり、ラスベガスの街中に張り巡らされる計画だ。いつ完成するかはわからないが、だんだん延伸していくようなので次回訪問の際に新ルートが出来ていればまたここで報告したい。

【関連記事】
イーロン・マスク氏が進めるEVによるラスベガスの地下交通システム『Loop』を体験!(2021年11月17日)
新ルートが開通した『VEGAS LOOP』に試し乗り〜空港直結の路線ももうすぐ着工予定(2023年1月25日)

取材・文/福田 雅敏

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					福田雅敏

福田雅敏

埼玉県生まれ。自動車が好きで自分で車を作りたくて東京アールアンドデーに入社。およそ35年にわたり自動車の開発に携わるが、そのうち30年はEV、FCEVの開発に携わりこれまで100台以上の開発に携わってきた。自動車もこれまでに40台以上を保有してきた。趣味は自動車にミニカー集め(およそ1000台)と海外旅行で38か国訪問している。通勤などの足には、クラリティ FUEL CELL(燃料電池車)を愛用し、併せてDS7 E-TENSE(PHEV)を保有している。

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