フォルクスワーゲン『ID. 2all』世界初公開〜大衆価格のコンパクトEVを日本にも!

フォルクスワーゲンは2023年3月15日(現地時間)、コンパクトクラスの電気自動車(EV)コンセプトモデル『ID. 2all』を発表しました。車の全長は約4mで航続距離は450km、価格は2万5000ユーロ以下を予定しています。まずはヨーロッパで2025年に発売する予定です。速報でお伝えします。

フォルクスワーゲン『ID. 2all』世界初公開〜大衆価格のコンパクトEVを日本にも!

待ちに待ったコンパクトEVは2万5000ユーロ以下

『ID.』のあとの番号が小さくなれば車もコンパクトになっていくのは『ID. 4』『ID. 3』を見ればわかるので、次の『2』や『1』がいつになるのか、首を長くしていた人は多いのではないでしょうか。その姿がようやく明らかになりました。

フォルクスワーゲンは3月15日(現地時間)にオンラインとリアルの併催で発表会を開催し、コンパクトクラスEVのコンセプトモデル、『ID. 2all』をワールドプレミアとして発表しました。待ちに待った小型の大衆EVです。

ヨーロッパで人気になっている『ID. 3』が『ゴルフ』だとすれば、『ID. 2』は『ポロ』クラスということになりそうです。

フォルクスワーゲンがEVのプラットフォームとして開発したMEB(modular electric drive)のエントリープラットフォームを採用していて、駆動方式はFWDです。2026年までに10車種のEVを市場投入する目標のうちの、1台になります。

なお、今回の『ID. 2all』はコンセプトモデルで、改めて量産バージョンが発表される予定です。市販は、まずはヨーロッパ市場で2025年に始まる予定です。ヨーロッパ以外の地域については発表されていません。できれば日本にも早い時期に入ってきてほしいですが、はてさてどうなりますか。

300万円で300km超えのコスパを実現か

最大の特徴は、コスパと車のサイズでしょう。まず、価格は2万5000ユーロ(1ユーロ=141.6円として約354万円)を下回る予定です。日本で現状の補助金が適用されれば200万円台後半になります。

現行のSUVタイプのEVが600万円前後になっていることを考えると、かなり抑えられていますね。欧米の平均収入で考えると、日本よりもお買い得感は格段に増すはずです。日本の平均収入よ、もっと上がれ~と、こういう時に思ったりします。

そして驚いたことに、この価格で航続距離が450km(WLTP)と発表されているのです。EVsmartブログが独自に使っている係数(WLTP/1.121)で、実用値に近いと思われる米環境保護局と米エネルギー省による測定値に換算してみると約401kmです。少なくとも350kmくらいは問題なく走れそうです。

EVの価格と航続距離については、以前から100km/100万円、150km/150万円くらいのコスパの車があるといいと思っていましたが、それに近いバランスだと思います。

将来的に2万ユーロ以下のEVを目指す

『ID. 2all』の価格と航続距離でもかなりなコスパですが、筆者としては、さらに小さい200km/200万円のEVが出てくると、ICE車では太刀打ちできなくなるかもなあと思うことがあります。そういえばテスラは、今の車両価格を半分くらいにすることを目指しています。

この点に関して、フォルクスワーゲンのトーマス・シェーファー最高経営責任者(CEO)は発表会でこんな興味深い発言をしています。

「さまざまな困難があるにもかかわらず、私たちは2万ユーロ以下ののBEVを出すことに取り組んでいます」

きたきたきた~、ですよ。これ、『ID. LIFE』のことですよね。発売時期や価格は発表当時と少し変更がありそうですが、目指す場所は変わりません。

EVで世界に変化をもたらそうと思えば、やっぱり大衆車クラスの価格帯のモデルは不可欠です。そしてテスラだけでなく、フォルクスワーゲンもその分野に挑戦していることが明らかになりました。こんな車が出てきたら、市場構造の大転換が起きる可能性がとても高くなります。

シェーファーCEOは続けて、こんな見通しを述べました。

「2026年以降、私たちの電気自動車のポートフォリオは、競合他社の中で最も広範なものになるでしょう。そして2030年までに、ヨーロッパで販売する車両の70%ではなく、80%がオール電化になると予想しています」

フォルクスワーゲンの方針は明確です。この見通しが大間違いであればフォルクスワーゲンという会社の存続が危ぶまれますが、はたしてそうなのでしょうか。

翻って日本メーカーはこの動きを、どこまで本気で検討しているのでしょうか。2年後に、わずかしか販売台数が見込めない高級車や、実証実験に使うような車しか持っていないようだと、世界の動きから取り残されてしまうのではないかと心配になってしまいます。ま、いちライターの心配など、なんの不安材料にもならないでしょうけども。

欧州車では標準的な全長4050mm、2ドアハッチバック

では、車のサイズを見ていきましょう。全長5mを超えるEVが多い中、『ID. 2all』の全長は4050mmです。

『ID. 3』は全長が約4261mm(欧州仕様)、現行の『ゴルフ』の全長が4295mmなので、200mm以上短くなっています。これだけ差があると、実車の見た目もこじんまりとしているかもしれません。

ただし幅は1812mmなので、『ID. 3』の1809mmとあまり変わりません。『ID. 4』の1820mmとも8mm違いです。『ゴルフ』の1790mmよりも20mmほど広くなっています。

この幅だと、日本の道路にとってはあまりコンパクトとは言えなさそうです。東京に限らず日本の道路事情を考えると、できれば1800mmを切ってほしいのですが、バッテリーの搭載スペースを考えると難しそうではあります。

『ID. 2all』のプラットフォームは、フォルクスワーゲンがEV用に開発した「MEB」のひとつです。「MEB」はバッテリーの基本コンポーネントで、車のサイズに応じてモジュールの数を変えられるようになっています。1モジュールに含まれるセル数は24個で固定されています。

モジュールの数を減らすと前後に短くなりますが、「MEB」の解説図を見ると幅の変更余地はほとんどないように見えます。『ID. 3』や『ID. 4』と幅があまり変わらないのはこのためかもしれません。

なお『ポロ』のサイズは、全長が4085mm、全幅が1750mmです。こうして見ると、『ID. 2all』の全長はかなり短いことがわかります。

ホイールベースも『ID. 2all』は2600mmで、『ID. 3』の2770mmに比べるとかなり短くなっています。ショートホイールベースに幅広のハッチバックというデザインで、乗り心地がどうなるかもちょっと楽しみです。

また『ID. 2all』は、「MEB」採用のEVでは初めて、FWDにしています。バッテリーモジュールの数を限定してホイールベースを詰めただけでなく、FWDにした理由には、ちょっと興味がわきます。機会があれば確認したいポイントです。

外観は、オーソドックスな2ドアのハッチバックです。筆者は好きな形状なのですが、日本では不人気なのであまり種類が多くありません。輸入車も、2ドアだと日本導入が見送られたりします。

けれども最近はフィアット『500』が長期にわたって好調です。家族構成も少人数化する傾向があります。なので、ぜひ日本にも入れてほしいなあと思うのです。

450kmの航続距離はシティーコミューターとしては十分すぎる性能

すでに書いたように、『ID. 2all』の航続距離は450km(WLTP)と発表されています。まだコンセプトモデルでもあり、バッテリー容量は出ていませんが、充電時間は10%から80%まで約20分となっています。

受け入れられる充電器の出力がどのくらいかもわからないので、推測の推測ですが、仮にフォルクスワーゲンUKが『ID. 3』のスペックで例示している120kWの急速充電器を使って最大出力で充電したとすると、1時間で120kWhなので20分ならその3分の1として40kWhです。これが搭載容量の70%とすると、全体では約57kWhになります。

加えて、「MEB」プラットフォームではモジュール数に応じて55kWh、62kWh、82kWh(グロス容量)の3種類になるという見方もあります。

『ID. 3』は、58kWhのバッテリーを搭載する『Pro』グレードの航続距離が265マイル(約424km)なので、この予想はいい線いっているのではないかと思います。

だとすると、実用で約350km前後というのは経路充電のインフラさえ整っていれば十分すぎる能力だと思います。車のサイズ感はシティーコミューターのようなものなので、さらにバッテリー容量を減らした廉価版グレードがあってもいいかもしれないですね。

そうすると、補助金込みで200万円くらいになったりするかもしれないし、シェーファーCEOが言う2万ユーロ以下のEVが現実味を帯びてくるかもしれないなどと、2~3年後のヨーロッパ市場の展開に妄想が膨らむのでした。

変革を続けてきたフォルクスワーゲンの歴史

ところで発表会のリアル会場では、『ID. 2all』の公表に先だって、『カルマンギア』や『ビートル』、歴代の『ゴルフ』、コンパクトクラスの代表格『ルポ』などフォルクスワーゲンが送り出してきた大衆車が次々と登場したのに続き、懐かしいプラグインハイブリッド車『XL1』も姿を見せました。

VOLKSWAGEN – FOR THE PEOPLE – World Premiere VW ID. 2all(YouTube)

そして『ゴルフ』、『ビートル』、『ID. 3』、『ID. BUZZ』が並ぶ中、『ビートル』から姿を見せたシェーファーCEOはこんな話をしました。

「フォルクスワーゲンは、時代を超越したデザイン、優れた仕上げ、そして旅に必要なものを提供することで、あなたを笑顔にしてくれる象徴的な製品を持つブランドです。そしてこのブランド自体も、今見ていただいたように、旅をしているのです。常に進化を続け、決して立ち止まることなく、たびたび自己改革を繰り返してきました」

そこから生まれたのが、「Eモビリティーをメインストリームに押し上げた『ID. 3』」だと、シェーファーCEOは言いました。

そして次のように述べています。

「私たちは、フォルクスワーゲンを本物の愛すべきブランドにするという明確な目的のもと、会社を急速かつ根本的に変革しています。この『ID. 2all』は、私たちがブランドをどこに持っていきたいかを示しています。私たちは、お客様に寄り添い、最高の技術を素晴らしいデザインと組み合わせて提供したいと考えています。私たちは、電動モビリティを大衆に提供するために、ペースを上げて変革を実行しています」

自動車業界は、100年に1度の大変革が起きています。フォルクスワーゲンの車からは、そんな変化を感じることができます。

『ID. 2all』の量産バージョンにとどまらず、その先にある大衆EVがどんな車になるのか。今から楽しみです。

『ID. 2all』スペック概要
駆動FWD
最高出力166kW(226ps)
航続距離約450km(WLTP)
充電時間10%から80%まで約20分
0-100km/h加速7秒以下
最高速度160km/h
全長×全幅×全高4050×1812×1530mm
ホイールベース2600mm
ホイールベース225/40 R20
価格(予定)2万5000ユーロ

文/木野 龍逸

この記事のコメント(新着順)1件

  1. このカンファレンスでバッテリーは38kWhと56kWhの2種類と発表されていたと思いますが。2万5000ユーロのグレードは前者でしょうね。

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					木野 龍逸

木野 龍逸

編集プロダクション、オーストラリアの邦人向けフリーペーパー編集部などを経て独立。1990年代半ばから自動車に関する環境、エネルギー問題を中心に取材し、カーグラフィックや日経トレンディ他に寄稿。技術的、文化的、経済的、環境的側面から自動車社会を俯瞰してきた。福島の原発事故発生以後は、事故収束作業や避難者の状況のほか、社会問題全般を取材。Yahoo!ニュースやスローニュースなどに記事を寄稿中。原発事故については廃棄物問題、自治体や避難者、福島第一原発の現状などについてニコニコチャンネルなどでメルマガを配信。著作に、プリウスの開発経緯をルポした「ハイブリッド」(文春新書)の他、「検証 福島原発事故・記者会見3~欺瞞の連鎖」(岩波書店)など。

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