新型BMW i3発表(バッテリー大盛)

2016年9月27日、BMW株式会社はBMW i3の改良新型を10月1日より発売すると発表しました。主な改良ポイントはバッテリーの容量で、21.8kWhから33kWhへ。サプライヤーは変わらずサムスンSDIです。充電インフラの課題についても触れています。

新型BMW i3発表(バッテリー大盛)

プレスリリースはこちら(グレードごとの価格情報あり)です。
新型のバッテリー容量に関してあちこちで「94Ah」という表記を見ると思いますが、このAhという単位は非常に不親切。バッテリー電圧が分からないと実際にどのくらいの電力量(=電気の量、単位はkWh、電気は1kWhいくらで買います)なのかが分からないんですよね。バッテリー電圧は33,000 / 94 ≒ 350V位と想定されます。電気自動車としては一般的ですね。

BMW i3 White
BMW i3 White

33kWhではどのくらい走行できるのでしょうか?プレスリリースや他のサイトにはJC08基準で390kmという数値がかかれていますが、これは絶対に達成できません(規格を作った方、スミマセン)。そもそもガソリン車の燃費基準であるJC08が、なんで電気自動車の走行可能距離(航続距離といいます)に関係あるのでしょうか?
JC08基準では、例えばリッター20kmというような言い方をします。これは、1リットルのガソリンで20km走れるということですね。もしガソリンタンクが40リットル入れば、この車は40l x 20km/l = 800km走行できることになります。電気自動車の場合はガソリンは使用しませんので、バッテリーが満タンの状態から、ガソリン車と同じJC08の基準に従ってテストし、走行できなくなるまで何km走行できたかで「走行可能距離」を出しているのです。
ところがこのJC08というテスト方法、非常に低速での加減速が多く、かつ高速運転時間が短いのが特徴です。そして、ガソリン車に比べ、電気自動車は低速での加減速での消費電力が比較的小さく、高速走行がどちらかというと苦手なのです。おわかりでしょうか、つまり、JC08基準は電気自動車に有利な数字が出るようになっているのです。もちろん意図的にそうされているのではなく、基準がたまたまそうだ、というだけです。

BMW i3 Charging
BMW i3 Charging

一言でまとめると、JC08は電気自動車の場合全く当てになりません。
世界には、JC08以外に米国の基準であるEPAと欧州の基準であるNEDCがありますが、走行可能距離の順に並べると、厳しい順にEPA < NEDC < JC08となっています。JC08基準は世界で一番電気自動車に甘い基準ということなのですね。EPA基準値は、空いている道で、注意して走れば何とか達成できるレベルだと思います。したがって当ブログではほとんどの記事にEPA基準を用いています。EPA基準値はこのサイト(注、英語)で調べることができます。

新型BMW i3に話を戻しましょう。

型式バッテリー容量EPA航続距離JC08航続距離EPA/JC08乖離率
従来型BMW i321.8kWh81マイル=129km229km56%
新型BMW i333kWh114マイル=182km390km47%

新型はJC08とEPAの乖離がさらに広がっていますね。これは、車のソフトウェアやタイヤ等の改善もあるかも知れませんが、おそらくより大きなバッテリーによる回生効果の増大による改善であると考えてよいと思います。大きなバッテリー=減速時によりたくさんのエネルギーを回収できる=加減速が続く道では電費が良くなる、ということなのです。(純粋な電気自動車と比較して)小さなバッテリーを積むPHEVは純電気自動車より電費が悪いのですが、それも全く同じ原理です。
またEPA値を達成できるのは夏、猛暑じゃない時にエアコンをかけている状況下です。冬の暖房時は30%程度の電力消費の増加が想定(注、私見です)されます。

結果として、新型BMW i3の夏の実走行可能距離182km、冬は140km前後であると考えられます。東京都心を出発するとして冬のパターンを作ってみました。

ここまで行くと、、必要距離
新東名の駿河湾沼津SA下り約120km
伊豆半島東側へのアクセス:網代温泉約114km(熱海の先、伊東の手前)
伊豆半島西側へのアクセス:伊豆中央道長岡北IC約136km(沼津の先、修善寺の手前)
中央道の双葉SA下り約132km(ちょっと危ないかな)
上信越道の横川SA下り約139km(冬は上りもあるので一個手前の上里で充電)
関越道の赤城高原SA下り約138km(同様に冬は上里で充電)
東北道の上河内SA下り約131km(同様に冬は一個手前の都賀西方PAで充電)
常磐道の友部SA下り 約95km(夏は次の中郷SAまで、64km追加)
房総半島へのアクセス:野島崎灯台約114km(房総半島の南端になります)

なお公式に発表されている情報では、新33kWhバッテリー搭載車はバッテリーが空から80%まで充電するのに45分間かかると記載されています。何か凄く長い気がしますか?
例えば高速道路にある50kWのチャデモ急速充電器の実際の出力は、おおよそ90%の45kW相当。これは1時間=60分間に45kWhの電力量を供給できる「ポンプ」みたいなものですから、45分間では、45kWh x 45分 / 60分 = 33.75kWh。ほぼ、新型BMW i3のバッテリー容量と同一です。
もう少し計算してみましょう。バッテリーの容量は33kWhですが、ほとんどの電気自動車では容量の90%しか使うことができません。そして急速充電は80%まで行うわけですから、33kWhのバッテリーを空から80%まで充電するためには、33kWh x 90% x 80% = 23.8kWh。ずっと45kWのフルパワーで充電し続けていれば、23.8kWh / 45kW = 0.53時間 = 約32分で本来は充電が終わるはず。しかし、リチウムイオン電池の特性で、バッテリーが満タン近くになるにつれ、充電の速度は遅くなります。結果として、30分では80%充電が終わらないということになります。テスラなどの大容量バッテリー搭載車でも32分を切ることはできません。
つまり、これは電池の限界ではなく、「充電器の限界」なのです。これより電池技術がいくら進化しても、現状の規格では、同一バッテリーサイズではこれより速く充電することはできないのです。できるだけ早期に100kW、200kWなどの高容量急速充電器を設置開始しないと、充電器の平均利用時間が伸びてしまうと考えられます。
# 注、別に80%まで常に充電する必要はなく、10分でも20分でも好きなところで切り上げてよいのです。上記の問題はさらにバッテリー容量の大きなテスラモデルS/Xでも同様に発生しますが、テスラでは、スーパーチャージャーという120kWのハイパワー急速充電器を設置することで、この課題を解決しています。

BMW i3 Blue
BMW i3 Blue

どうでしょうか?冬にこれだけ走れれば、行き帰りでちょっとずつ充電するだけで一泊二日の小旅行くらいは簡単にできそうですね!新型日産リーフ30kWhのEPA走行可能距離が171kmですからそれをさらに11km上回る設定と、リーフをターゲットによりプレミアムな路線を狙ってきていることが分かると思います。普段は街乗りが多い、旅行は一泊が多く100km超くらいの場所が多いような方は、最近旅館などにも充電器が設置され始めていますので、それを活用すれば途中での経路充電をせずに帰ってくることも可能な、フレキシブルな活用ができる車だと思います。

参考記事:電気自動車の電費の計算方法関してはこういう記事も書いています。

この記事のコメント(新着順)2件

  1. いつも、有益な情報ありがとうございます。 i3(旧モデルになりますが)の距離表示は生モノです。その生モノ度合いはモデルSの標準値表示精度と比べると如実にわかります。3つのモード(エアコンフル稼働+速度制限無/エアコン中稼動+速度制限130km/h/エアコン無稼動+速度制限90km/h)で航続可能距離がかわります。エアコン無稼動モードが最長距離表示をしますので、カタログもそれベースと思います。速度制限といっても、注意がでますが、速度がでないのではありません。加速など出力も3つのモードで異なる事が体感できます。カーメーカーそれぞれ数値表示にも努力をしているのでしょうね。

    1. あまやん様、コメントありがとうございます!
      BMWもメーター工夫しているのですね。よく海外では「Guess-o-Meter(あてにならないメーター)」と呼ばれていますが、電気自動車の走行可能距離予測はメーカーごとにバラバラです。
      正確に出せないなら、諦めてテスラみたいに定数表示(%表示のスケールをEPA走行可能距離に準じたkmに固定比率で変換します)のほうがいいかも。テスラユーザーの中には%表示で使用している人も多いそうです。
      もちろん正確に出せればいいんでしょうが、上り坂になったら急に半分になったら困りませんか?でも上り坂は実際に電費は半分以下になり得ます。
      逆に、上り坂に入ったから、その瞬間電費をベースに、上り坂が永久に続く前提で走行可能距離予測をしてよいのでしょうか?それも変ですよね。

      多分人は、急に変化する数値を見ると不安になるのだと思います。定数表示にしておけば、暖房入れようが上り坂を登ろうが、数値そのものは変わりません。少し早く数値が減少するだけ。このほうが安心だと感じるのは私だけでしょうか。

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この記事の著者


					安川 洋

安川 洋

日本アイ・ビー・エム、マイクロソフトを経てイージャパンを起業、CTOに就く。2006年、技術者とコンサルタントが共に在籍し、高い水準のコンサルティングを提供したいという思いのもと、アユダンテ株式会社創業。プログラミングは中学時代から。テスラモデルX P100Dのオーナーでもある。

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