パリモーターショー2022レポート【02】長城汽車(GWM)の大衆車EV『ORA』も欧州進出

10月17日から23日(現地時間)に開催された「Mondial de l’Auto」(パリモーターショー)でEVに絡んだ中国勢や新興勢力の動きに注目するシリーズ企画。第2回は、大衆車EV『ORA』などの電動車を擁する、長城汽車(GWM)の欧州展開をレポートします。

パリモーターショー2022レポート【02】長城汽車の大衆車EV『ORA』も欧州進出

欧州展開に力を入れるGWM

今回パリモーターショーで、中国勢2社(BYD・GWM)とベトナム1社(VinFast)の動向を探ったシリーズ。第2回は欧州でPHEV WEY Coffee 01とEV ORA CATを展開するGreat Wall Motors(GWM/長城汽車)だ。

GWMは中国の大手自動車メーカーのひとつ。創業は1984年というのですでに40年近い歴史を持つ企業だ。2018年にはBMWと中国国内でBMW MINI EVの販売に関する合弁企業を立ち上げ、2020年には本格的にPHEVを含む電動化シフトを進めている。

欧州進出もそのころからで、2021年のミュンヘン(IAA Mobile 2021)でEU HQの開設発表、WEY Coffee 01/02およびORA CAT/ORA CAT GTのお披露目をしている。英国やドイツ、オーストリアなどですでにビジネスを始めているので、パリショーがEU初進出というわけではない。だが、プレスカンファレンスの挨拶をしたGWM Europe PresidentのHenry Meng氏は「フランスは重要な地域」と語っており、今後のEU展開や新型車となる「NEXT ORA CAT」の発表も行った。

近年、EUのモーターショーは現地化が進み、開催国以外のOEMがブースを出すことがなくなっている。昨年のミュンヘンでもフランス勢OEM(日本OEMも)の参加はなかった。パリショーも同様で日米独の主だったOEMは出展していない。中国とは政治的に微妙な緊張感を持つ間ながら、GWMはドイツ、フランスと立て続けにモーターショーに出展した。そのデモンストレーション効果はあったようだ。

カーボンニュートラルと充電インフラへのコミット

Henry Meng氏。

続けてMeng氏が強調したのは、同社のカーボンニュートラルへの取り組みだ。同社はグローバルでゼロエミッションカーに注力していくとした。工場のカーボンニュートラル化を目指し、2023年には最初のゼロエミッション工場を操業させる。また、2025年までに50車種の次世代エネルギー車を用意するという。この中には水素燃料電池車(FCV)も含まれている。バッテリーリサイクルおよび充電ステーションの事業にも乗り出す。

BYDもそうだが、グローバルOEM各社がアライアンスを含めて充電インフラやサービスへのコミットメントを打ち出す中、日本OEMの同様な動きを期待したいところだ。日産は他社に先んじてディーラー充電網を整備したが、そろそろ次のZESP(電力インフラや設置者の都合ではなくユーザー指向の仕組みを期待)をリリースしてパイオニアの貫禄を見せてほしい。

ちなみに、今回のパリショーではABBを始め充電器メーカーのほか、各国の充電サービスプロバイダーのブースも多かった。EUでは家庭用のAC普通充電器(6~22kW)の市場が広がっている。連動して、サービスプロバイダー向けの充電器(DCおよびAC)の展示も活況を呈していた。充電器メーカーやサービスプロバイダーは、イタリアやスペインの企業が目立った。スペインの充電プロバイダーのブースでは、社員の青年が「ホンダe」を所有しておりその運動性能を絶賛していた。普通充電を含むインフラが整備されるだけで、日本では航続距離が問題視されがちなEVが十分な商品力を持つということだ。

2021年でのEUにおけるEV充電器市場は88億米ドル、28年までに234億米ドルまで達する(年平均成長率15%)という予測(*1)がある。日本でも「Power X」のような野心的な取り組みが始まろうとしている。EVを「陰謀論」や「負の産業」のようにとらえるのはそろそろ卒業したい。

WEY Coffee01にみるGWMのHEV戦略

話をGWMに戻す。GWMが発表したPHEV、WEY Coffee01スペックは以下のとおりだ。

WEY Coffee 01

発表価格:€55,900(約817万円)
EV航続距離:146km(EPA換算推計約130km)
搭載バッテリー容量:39.67kWh

PHEVでありながら40kWh近いバッテリーを搭載し、EV走行は146km(WLTP)まで可能だという。ガソリンエンジンを合わせた航続距離は800kmとしており、全走行の90%はEV走行で可能だともいう。バッテリー容量がコンパクトEV並みの40kWhあるならEV航続距離はもっと伸びそうだが、2モーター、1エンジンがパラレル方式でユニット化されているので、モーターのみの走行効率が制限されるからだろう。

ちなみに、EV航続距離は欧州基準のWLTP値。実用に近いアメリカEPA基準に換算すると、約130kmとなる。

40kWhという容量はあきらかにEU6e規制を見据えたものだ。内燃機関の環境係数が段階的に引き上げられ、HEV、PHEVも電動走行距離を延ばさないと販売が継続できない。EUでは2030年までに1990年比でCO2排出量を半減させるEU7も決定し、この流れはほぼ確定した。EU7は2035年に事実上新車ガソリンエンジンが禁止となると言われている規制だ。

GWMでは、23年1QにCoffee 01より小型のCセグメントSUVとなる「WEY Coffee 02」の市販開始も発表した。

マーケティングコンセプトを優先させたEV

ORAは大衆的な価格のBEVとして登場し世界中で話題となったモデルであり、2019年にはEVsmartブログでも紹介した。その後、モデルのバリエーションを拡げながら、すでに欧州進出を果たしている。

ORA CATはミュンヘンで発表された車両と大きく変わらないが、ドイツではORA GOOD CATと呼ばれていたものがORA FUNKY CATになっている。年次と展開エリアによってマーケティングコンセプトを変える戦略だ。

ORA FUNKY CAT

発表価格:€32,000(約468万円)
航続距離:310km(EPA換算推計約277km)
バッテリー容量:47kWh
モーター出力126kW

ORA FUNKY CAT GT

発表価格:未発表
航続距離:400km(EPA換算推計約357km)
バッテリー容量:63kWh
モーター出力:126kW

プレスカンファレンスでは、ORA CATがEURO NCAPで5つ星を獲得したことも発表された。運転のしやすさや安全性のため、ADAS機能も充実している。360度セーフティカメラ、2026年からEUで義務化されるドライバーモニタリングシステムにも対応している。そのための車内カメラは音声・顔認証機能も搭載され、パーソナライズ設定が可能となる。

ORA FUMKY CATの説明は、GWM EuropeのDirector of Brand & Marketing Rebecca Grajecki氏が担当した。Grajecki氏は、独創的なデザイナー ココ・シャネルになぞらえORA FUNKY CATが個性的な車であると紹介した。コンセプトは「Friendship」だという。価値観を共有し、信頼できる友達という意味が込められている。レトロなデザインに先進機能を満載し使い勝手を優先させたORA FUNKY CATはあきらかにEVアーリーアダプタ以外の市場を見ている。

ORA第3のモデルも発表された

新しい発表もあった。ORA CAT、ORA CAT GTに続くORAブランド第3のモデルとなる「NEXT ORA CAT」だ。おそらくコードネームでリリース時には別の名称がつけられるであろう。外観は丸みを帯びた流線形でORA CATイメージを踏襲する。発表および取材範囲でのスペックは、全長5m弱、全幅1.8m超えるくらいに拡大される。バッテリー容量は89kWhと大容量化されモーター出力は300kW/680Nm、0-100km/hが4.3秒とEVスポーツセダンを意識したスペックだ。リアには電動スポイラーが装着される。通常走行時はボディに収納されているが、走行速度に応じてフラップがオープンし角度が変わる。

CATというよりCHEETAH(チーター)的だがハードEVファン向けというわけではなさそうだ。フロントシートはヒーターとベンチレーター内蔵だ。リアゲートは足をかざすと開閉ができる。360度カメラも装備され、パノラミックルーフで採光と視界に開放感がある。インパネとセンターコンソールはフラットディスプレイ化される(展示車両のインパネは丸形の3クラスターメーターのダミーだった)。サウンドシステムは11スピーカーだという。

(取材・文/中尾 真二)

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					中尾 真二

中尾 真二

アスキー(現KADOKAWA)、オライリー・ジャパンの技術書籍の企画・編集を経て独立。「レスポンス」「ダイヤモンドオンライン」「エコノミスト」「ビジネス+IT」などWebメディアを中心に取材・執筆活動を展開。エレクトロニクス、コンピュータのバックグラウンドを活かし、セキュリティ、オートモーティブ、教育関係と幅広いメディアをカバーする。インターネットは、商用解放される前の学術ネットワークの時代から使っている。

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