パリモーターショー2022レポート【03】ベトナムから世界に飛躍するVinFast

10月17日から23日(現地時間)に開催された「Mondial de l’Auto」(パリモーターショー)。中国勢2社(BYD、GWM)とベトナム1社(VinFast)の動向を紹介する連続レポート。第3回はベトナム発の新興EVメーカー「VinFast」に注目します。

パリモーターショー2022レポート【03】ベトナムから世界に飛躍するVinFast

【関連記事】
パリモーターショー2022レポート【01】BYDが欧州にもEV3車種投入を発表(2022年10月31日)
パリモーターショー2022レポート【02】長城汽車(GWM)の大衆車EV『ORA』も欧州進出(2022年11月3日)

野心的なグローバルミッションを掲げるVinFast

VinFast(ビンファスト)はベトナムのコングロマリットであるVinグループのメンバー企業で、EV専業を宣言した自動車メーカーだ。創業は2017年。グループ企業には内燃機関エンジンを含む2輪車や商用車などを手掛ける会社も存在するが、VinFastは2018年に世界に向けてEV乗用車を生産・販売することを発表した。

Jean-Christophe Mercier氏。

その発表の場は、前回のパリモーターショーだった。そのためコロナ禍の中断をはさんだ今回の発表では「我々は再び帰ってきた」(Deputy CEO VinFast Europe Jean-Christophe Mercier氏)という挨拶から始まった。

VinFastが最初に手掛けたEVは「VF e34」という車だが、前回のパリショーでは、D/EセグメントのSUVである「VF8」「VF9」を発表した。VinFastはベトナムのGMの工場をベースに起業された。だがEUで発表されたVF8、VF9はピニン・ファリーナにデザインを依頼し、洗練されたグローバルカーという位置づけだった。南アジアの新興メーカーでありながら、GM工場、BMWの技術、欧米エンジニアや一流デザイナーをうまくアサインし、異例の世界デビューを成し遂げた企業だ。

VF8およびVF9は、ベトナムおよび北米で販売が開始された。ユニークなのは搭載バッテリーを充電課金とした点。「バッテリーサブスクリプション」方式の販売方法を採用し本体価格を抑えている。ちなみにバッテリーサブスクリプションの販売方法はEUでも適用される。

Mercier氏は「VinFastのEVはすでに世界で15万台以上も登録されている。VF8および9についても6万5千台の受注実績があり、1月から出荷も始まっている。北米では自社工場も稼働させ、欧州では、パリ、フランクフルト、アムステルダムにHQを設置した。南アジア発の企業として世界に高性能なEVを提供していく」と野心的なグローバルミッションを掲げた。

世界市場に向けてラインナップを揃えてきた。(公式サイトから引用)

新型車両スペックが公開されなかった理由

今回、22年のパリショーでは、新たにCセグメントSUV「VF6」およびDセグメントSUV「VF7」の市場投入が発表された。VF6と7については2022年のCES(ラスベガス)で新型として発表はされていた。今回はプロトタイプと見られる車両とEUでの正式販売をアナウンスした形だ。EUでの販売は23年に始まるとされるが、車両のスペックなどは「サイトを見よ」とのことで詳細は明らかになっていない。

VF8、9のスペックから類推するしかない状態だが、パリショー終了後、10月31日にCATLとVinFastがバッテリー供給に関する提携(MOU:覚書の締結)を発表した。両社は、共同でCTP(Cell to Pack:バッテリー車載パッケージ技術)を活用したCIIC(スケートボードシャシー)の開発を進める。新型のスペック詳細が発表されたなかったは、このアライアンスの成果が新型に投入される可能性がある。

CATLは、VinFastをパートナーとしてバッテリーのパック技術だけでなく、車両プラットフォーム(CIIC)へのコミットを表明したことになる。完成車メーカーをグループに持つBYDのe-Platform3.0やCell to Bodyコンセプトに対抗するもので、VinFastにとっては、バッテリーの供給体制以上のパートナーを得たことになる。

新型のスペックが公開されなかったので、若干拍子抜けの感は否めなかったが、Mercier氏は「VF6、7はトリノデザインとなるが、VinFastのデザインシグネチャは引き継がれ、先進ADAS機能や安全機能も踏襲される」とEU展開でもグローバルクオリティを維持すると約束した。

23年はモバイルサービスや拠点数の拡大を目指す

VF6
VF7

VF6とVF7の展示車両は、たしかにVFシリーズであることを認識させるエクステリアデザインだ。VinFastのシグネチャであるV字型の直線的なLEDライトも健在だ。インテリアの基本構成も現行モデルを踏襲している。ラジオボタン風のスイッチがついたセンターコンソールディスプレイは運転席側に角度調整されている。

VF8、VF9はGMエンジニアおよびBMWとの技術提携によるレベル2自動運転機能も有名だ。渋滞時の追従型オートパイロットは新型にも搭載されるはずだ。

これ以上の機能的な詳しい紹介はなかった分、サポート面や販売体制の説明には力を入れていた。モバイルエンジニアとサポートバンの導入や現地スタッフによる200人態勢のカスタマーサポートについて言及した。EU圏では、ドイツ ケルンを始め、パリ、アムステルダム、ニース、ベルリン、ミュンヘン、フランクフルト、ハンブルグの販売拠点が稼働している。

23年第1四半期には、オーバーハウゼン、マルセイユ、レンヌ、モンペリエ、メッスにも販売拠点が追加されるとした。レンヌ、モンペリア、メッスはフランスだ。ドイツに続いてフランスの拠点強化に力を入れる。

オランダのデン・ハーグとロッテルダムの拠点も予定がある。オランダはドイツ、フランスに次ぐ西ヨーロッパのEV大国と言われている国だ。

充電設備についても発表があった。VinFastの車両はヨーロッパ全域で30万か所の充電ポイントが利用可能だ。利用可能なDC急速充電器の最高出力は250kW。また主要拠点の充電器は最大150kW出力のものを用意するとした。チャージングプロバイダーとの契約は今後も拡張していく。

Rising Star Awardを獲得

VF9のインテリア。

プレスカンファレンスの最後は、AUTOBESTによる「Rising Star Award」受賞の発表だ。AUTOBESTはルーマニアに拠点を置く、東ヨーロッパ8か国による自動車関係の評価機関。自動車製造開始からわずか4年で15万台というグローバル展開を成し遂げたことの評価だ。

AUTOBESTの創設者で議長を務めるDan Vardie氏が壇上にあがり、Mercier氏の記念トロフィーを渡した。

EVは複雑な内燃機関エンジンとは異なり、モーターとバッテリーというシンプルな構造で参入障壁が低いとよく言われる。一方で、機能としてのEVは簡単だが、製品としての自動車は単純ではないという意見もある。どちらも間違っていないが、片方だけで現在の状況をすべて説明することはできない。

VinFastは、高度な知見を要する自動車市場にわずか4年で製品を市場に送り出し、10万台規模の会社に成長した。この事実は新興企業だから、という色眼鏡で見るべきではない。世界のEVベンチャーでは資金調達はできても、最初の工場出荷まで紆余曲折あるのは珍しくない。

VinFast成功の背景

だが、ベトナムではもう40年以上前から日米欧の製造業が工場を構えている。自動車製造に関しては、設備のノウハウや生産技術、知見も十分持っていたといえる。同時に世界の自動車メーカーの戦略に接してきたわけで、いきなり世界レベルの製品づくりが可能だったとしても不思議はない。

Vardie氏はアワード授与に際して「彼らの成長は、戦略と技術革新が正しかったからだ」とも述べていた。変革時期に技術と戦略と適切な投資を間違えなければ4年で世界に通用する自動車を製造することができる。CASE革命、あるいは100年に一度の変革とは、それを可能にするものだといえるだろう。

(取材・文/中尾 真二)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。


この記事の著者


					中尾 真二

中尾 真二

アスキー(現KADOKAWA)、オライリー・ジャパンの技術書籍の企画・編集を経て独立。「レスポンス」「ダイヤモンドオンライン」「エコノミスト」「ビジネス+IT」などWebメディアを中心に取材・執筆活動を展開。エレクトロニクス、コンピュータのバックグラウンドを活かし、セキュリティ、オートモーティブ、教育関係と幅広いメディアをカバーする。インターネットは、商用解放される前の学術ネットワークの時代から使っている。

執筆した記事