アウディの電気自動車「e-tron」にスポーツバックが追加

アウディは3月末までに、EV(電気自動車)「e-tron」のクーペモデル「スポーツバック」をドイツやイギリス、アメリカなどで発売したほか、公共充電施設で充電できる会員制サービス「e-tron Charging Service」の新料金を発表しました。「スポーツバック」は今年後半に日本にも導入される予定です。

アウディの電気自動車「e-tron」にスポーツバックが追加

e-tronは2モデル、2グレードの4車種を予約中

アウディは2019年11月に「e-tronスポーツバック」のスペックなどを発表、販売は2020年春頃になることを発表していました。今のところイギリス、ドイツなどで予約が始まっています。このほかe-tronのベーシック版「50クアトロ」が2月に発売されたことで、ラインナップはe-tronとe-tronスポーツバックのそれぞれに「50クアトロ」「55クアトロ」の2モデルが揃い、計4モデルになりました。

また、スポーツバックの日本導入についてアウディジャパン広報に確認したところ、今年後半の遅くない時期に予定しているとのことでした。日本の公共充電施設での充電サービスにどのように対応するかは未定です。

ただ残念なことに、コロナウイルス禍の影響でフォルクスワーゲングループの工場が多数、停止しているため、ヨーロッパでも納車されるのがいつになるのかは不透明な状況です。

ではまず価格から。欧州メーカーの価格設定は、販売する国によって装備が微妙に違っていてバラバラなので、ここでは本国ドイツを見てみました。

e-tron 50 クアトロ/6万9100ユーロ~
e-tron 55 クアトロ/8万900ユーロ~
e-tron 50 クアトロ スポーツバック/7万1350ユーロ~
e-tron 55 クアトロ スポーツバック/8万3150ユーロ~

現在、1ユーロが約117円なので、ベーシックモデルのe-tron 50クアトロで約808万円になります。英国でのe-tron 50クアトロの価格は5万9900ポンド、約800万円です。スポーツバックは50クアトロで約835万円、55クアトロは約972万円です。

一般大衆向け電気自動車としては、フォルクスワーゲンのID.3が4万ユーロ未満(約468万円)と言われているので、当然と言えば当然ですが、電気自動車になっても明確にグループ内のブランドイメージ(価格帯)が違うことがわかります。

e-tronスポーツバックとe-tronの基本性能はほぼ同じ

e-tronスポーツバックのインテリア。

e-tronとe-tronスポーツバックの諸元はほぼ同じです。違うのはスタイリングで、e-tronスポーツバックはe-tronの後部を斜めに切ってクーペのような形状になっています。これにより空力が少し向上したそうです。

アウディ『e-tron』 主要スペック

e-tron スポーツバックe-tron
50クアトロ55クアトロ50クアトロ55クアトロ
【動力性能】
最大出力230kW (312.8ps)265kW(360.4ps)
300kW(408ps)/ブースト
230kW265kW(360.4ps)
300kW(408ps)/ブースト
【加速性能】
0–100km加速6.8秒5.7秒6.8秒5.7秒
最高速度190km/h200km/h190km/h200km/h
【バッテリー】
容量71kWh95kWh71kWh95kWh
電圧400V400V400V400V
【航続距離】
WLTP(複合)347km446km336km436km
EPA換算推計値※約310km約398km約300km約389km
WLTP消費電力(複合)26.3〜21.6kWh/100km26〜21.9kWh/100km26.6〜22.4kWh/100km26.4〜22.4kWh/100km
1kWhあたり走行距離(複合)※3.8〜4.63km/kWh3.85〜4.57/kWh3.76〜4.46/kWh3.79〜4.46/kWh
【サイズ】
全長4901mm4901mm
全幅(ミラー除く)1935mm1935mm
全高1616mm1632mm1616mm
ホイールベース2928mm2928mm
車両重量2370kg2480kg2370kg2490kg
乗車定員5人5人

このためか、e-tronスポーツバックはe-tronに比べてわずかに消費電力が小さくなっています。都市部と高速道路を合わせたWLTP複合モードでの航続距離は、e-tron 50クアトロが336km(EPA換算推計値=約300km)なのに対してスポーツバックは347km(約310km)、e-tron 55クアトロが436km(約389km)なのに対してスポーツバックは446km(約398km)と、いずれも10km程度長くなっています。実用上、微妙な違いではありますが。

これを1kWあたりの走行距離に換算すると、約3.8~4.6km/kWhになります。車重が2.4トン前後あることもあり、「電費がいい!」とはちょっと言いにくいところです。

フロア下に敷き詰めたバッテリーの容量は、50クアトロが71kWh、55クアトロが95kWhです。ただしこれは理論値で、ドイツのカタログを見ると正味容量(実用域)は50クアトロで64kWh、55クアトロで86kWhとなっています。

充電時間は、急速充電の場合0%から80%まで50クアトロは120kW対応で30分、55クアトロは150kW対応で同じく30分です。普通充電は最大11kW対応ですが、2020年夏をめどに22kW対応が可能になるオプションのコネクターが発売される予定です。また家庭用では240V(ドイツでは230V)か、400V3相のいずれにも対応しています。

イギリスのニュースリリースによると、家庭用240V充電の場合は7kWで、満充電までに10.5時間かかります。400V3相の場合は公共充電施設と同じ11〜22kWでの充電が可能なので時間は短くなります。これらのことから考えると、日本国内の一般住宅では現実的に最大6kW程度の普通充電となるのではないかと思われます。

回生ブレーキ制御のアップデートでワンペダルの操作性が向上

モーターの最大出力と加速性能は、50クアトロで230kW、55クアトロで265kWです。さらに55クアトロは、アクセルを床まで踏み込むとブーストモードが起動して、最大出力が300kWになります。この時のトルクは664Nmにまで増大します。

テスラ モデルXのロングレンジが660Nmなので、ほぼ同等です。ぜんぜん関係ありませんが、なんとなくポルシェ911 GT3と比べてみると、最大トルクは460NmなのでEVのトルクの大きさに改めて感心します。まあ、GT3は最大500psで2000万円以上しますが。というか、この強大なトルクをフルに発揮する場所を探すのは大変そうです。

他方、ブーストモードの作動条件を考えるとあくまでも付加的な機能と考えられるので、使い方によってはバッテリーへの負荷も一定程度増えると思われます。いずれ定量的な負荷の増大分がわかれば紹介したいところです。

アクセルオフ時の回生ブレーキはパドルシフトで3段階に調節できます。e-tronスポーツバックの場合、100km/hからの回生容量は最大で220kW、300Nmと、出力の70%のパワーでエネルギーを戻せます。この強大な制動力は、減速時の状況に応じて、電気的な回生のみ、機械ブレーキのみ、両方の組み合わせで動作します。

e-tronはこうした強力なエネルギー回収や充電サイクル数の確保のために、バッテリーの冷却制御にも力を入れています。確かにエネルギーの出し入れを野放図にやっているとバッテリーの寿命を短くします。また夏の日中に高速道路を走ればバッテリー温度が上がり、充電可能な出力にも影響します。リアルワールドでどのような使い勝手になるのか、e-tronが日本で試せるようになったら確認してみたいと思います。

このほか2019年11月に公表されたアップデートのリリースを見ると、回生ブレーキの制御幅が広がりワンペダルの操作がやりやすくなったようです。電気系の制御はプログラムのアップデートで可能なはずなので、テスラのようにどんどん改良できるといいですね。

アウディが従量課金の充電サービスを提供

e-tronのラインナップ拡充に合わせて、アウディは2020年1月27日に、ヨーロッパで新しい制度の会員制充電サービスを始めることを発表しました。ユーザーは使用状況に合わせて2種類の料金設定を選ぶことができ、使用頻度の高いユーザー向けにはより安い従量課金の制度ができました。

アウディユーザーはサービスに加入することにより、月額の基本料金と使った分の電気料金を支払うことで、ヨーロッパ24カ国に13万5000カ所ある充電施設を利用することができます。充電施設の数は、2019年11月時点では約11万カ所とリリースに記載されていたので、文字通り日に日に増えているようです。

【イギリスの充電サービスWEBサイト】
e-tron Charging Service is a product of Digital Charging Solutions GmbH

充電サービスの料金設定は、走行距離が短いけれども柔軟に充電したい都市部のユーザーに向けた「シティーレート」と、頻繁に長距離を走るユーザーに適した「トランジットレート」の2種類です。

ここではイギリスの料金を見ていきます。イギリスでは、シティーレートの月額基本料金は4.95ポンド、トランジットレートは16.95ポンドです。

使用料金は従量制になっています。アウディのサービスでは、最大出力22kWのAC充電では0.3ポンド/kWh、最大150kWhの急速充電は0.39ポンド/kWhに設定されています。またロンドン市内では、20分を上限に最大22kWの普通充電を0.14ポンド/kWhでできる特別な料金設定もあります。

2つのコースで違いが出るのは、欧州で広いネットワークを持つIONITYの急速充電器を使った場合です。IONITYは1月に、0.79ユーロ/kWhという従量課金の料金を発表しました。

【関連記事】
欧州電気自動車充電ネットワークの『IONITY』がKWHベースの新料金体系を発表

これに対してアウディは、イギリスのトランジットレート会員に対して0.28ポンド/kWhと、IONITYの半分以下になる料金を設定しています。さらに、通貨がユーロの圏内でIONITYのネットワークが使える場合は、どの国でも0.31ユーロ/kWhで利用できます。ちなみにシティーレートの場合はIONITY会員と同じ料金設定です。

アウディの充電サービスは、欧州の20カ国以上の国で利用できます。従量課金制度が整備されていない国では、月額基本料金と、1回の充電につき定額を支払う料金設定になっている場合もありますが、IONITYのネットワークがカバーしていれば、安い料金設定で使うことも可能です。

さらにアウディは、2020年内を目標に「プラグ&チャージ」機能を導入する予定だとしています。アウディのEVで充電施設に行くと、自動認証されて充電可能になるサービスです。日本導入には高い壁がありますが、欧州に行く機会が(万が一)あれば、いちどは試してみたいサービスです。

ともあれ、これは欧州での話。日本では、NCSから「e-Mobility Power」に移行して、どのような充電課金システムが構築されていくのでしょうか。

120~150kWという高出力充電器網が整備されつつある欧州では、より一層、EVと内燃機関の車の差が小さくなっていくと思われます。それに呼応するようにEVの性能も上がり、車種も増えます。

その過程では、内燃機関の車と同じように大出力、大容量の利便性を中心に追求していくことでエネルギーセキュリティが改善されないという負の側面に関する議論も起きてくるでしょう。それでも、使い方によっては内燃機関を大きく凌駕するポテンシャルを備えているEVが、これから先、急速にしぼむことは考えにくくなってきました。

さて、日本はどこへ向かうのか。急速充電器は50kWから進歩するのか。そもそもEVはどうなれば今以上に増えるのか。見通しは不透明ですが、少しずつ前に進んで行ければいいと思います。

(文/木野 龍逸)

この記事のコメント(新着順)2件

  1. アウトランダーPHEVと家内用にリーフ、86、軽、リッターバイクを所有しているが、スポーツユースならリッターバイクにかなわない。
    長距離はヤッパガソリンと電気の2系統燃料を使用できるPHEVが使い勝手が良い。
    東京へ日帰り出張で往復700㎞が年に数回ある。トイレと食事休憩のみ。
    充電施設が充実しているなら十分使えるが現状お寒い状況の日本では厳しい。
    PHEVのEV航続距離が100㎞以上あれば、日常EVとして使える。
    高速長距離はガソリンエンジン音は全く気にならないし。
    現状5-60㎞でも十分。それで500万円で買える。 
    せめて1,000万出すなら、正味航続距離は5-600㎞は欲しい。
    それなら1,200万になっても買いたい。
    EVとしての完成度ならID3を待ちたい。
    モーターカーの快適性は捨てがたいので、家内用にはID3で、私用には次期アウトランダーPHEVのできをみて決めるかも。

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					木野 龍逸

木野 龍逸

編集プロダクション、オーストラリアの邦人向けフリーペーパー編集部などを経て独立。1990年代半ばから自動車に関する環境、エネルギー問題を中心に取材し、カーグラフィックや日経トレンディ他に寄稿。技術的、文化的、経済的、環境的側面から自動車社会を俯瞰してきた。福島の原発事故発生以後は、事故収束作業や避難者の状況のほか、社会問題全般を取材。Yahoo!ニュースやスローニュースなどに記事を寄稿中。原発事故については廃棄物問題、自治体や避難者、福島第一原発の現状などについてニコニコチャンネルなどでメルマガを配信。著作に、プリウスの開発経緯をルポした「ハイブリッド」(文春新書)の他、「検証 福島原発事故・記者会見3~欺瞞の連鎖」(岩波書店)など。

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