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アウディ『Q6 e-tron』シリーズ日本発売を発表/超急速充電に有利な800Vアーキテクチャーがスタンダードに

アウディ『Q6 e-tron』シリーズ日本発売を発表/超急速充電に有利な800Vアーキテクチャーがスタンダードに

アウディジャパンがシステム電圧800Vの新しいプラットフォームを採用した新型の電気自動車(EV)『Q6 e-tron』を、4月15日に発売することを発表しました。プレミアムクラスのEVにふさわしい性能を備えたQ6 e-tronの概要を紹介します。

目次

プレミアムブランドのEVがさらに進化

EV(電気自動車)のラインナップ拡充に力を入れているアウディジャパンは2025年3月25日に発表会を開催し、新しいプラットフォームを採用した新モデル『Q6 e-tron』のシリーズを、4月15日から日本で販売することを発表しました。

新たに開発されたプラットフォーム「PPE(Premium Platform Electric)」はアウディとポルシェの共同開発によるもので、システム電圧を800Vに上げて充電性能を向上させているほか、温度管理性能や電子部品なども改良してパッケージ全体の効率も上げています。

Q6 e-tron はPPEを採用したアウディ初の市販EVになります。日本では3つのグレードを販売します。

<Q6 e-tronシリーズのラインナップ>
●Q6 e-tron
最高出力:185kW
バッテリー容量:83kWh(グロス)/75.8kWh(ネット)
航続可能距離:569km
駆動方式:RWD
839万円(税込)
●Q6 e-tron quattro
最高出力:285kW
バッテリー容量:100kWh(グロス)/94.9kWh(ネット)
航続可能距離:644km
駆動方式:AWD
998万円(税込)
●SQ6 e-tron
最高出力:360kW
バッテリー容量:100kWh(グロス)/94.9kWh(ネット)
航続可能距離:672km
駆動方式:AWD
1320万円(税込)

RWDのQ6 e-tronだけがバッテリー容量が83kWh(グロス)で、AWDの上位モデルは100kWh(グロス)です。ユーザーが実際に利用できるネット容量は、83kWhの場合で75.8kWh、100kWhの場合で94.9kWhとなっています。

マティアス・シェーパース氏。

アウディジャパンのブランド ディレクター、マティアス・シェーパース氏は、日本市場ではよりコンパクトな『Q4 e-tron』が合っているとしつつ、839万円からはじまるQ6 e-tronはプレミアムEVとして「とても魅力的」に感じてもらえるだろうと、期待感を示しました。

ベースモデルでも実用域で400km以上、ハイパワーの上位モデルなら600km近い航続可能距離があり、150kW充電に対応しているQ6 e-tronは、ガソリン車と比較しても、プレミアムクラスのSUVを選ぶなら選択肢に入れない手はありません。

なおアウディは2025年中に、今回のQ6(SQ6) e-tronのラインナップにSportbackを追加するほか、同じプラットフォームで航続可能距離700km以上の『A6 e-tron』を日本に導入予定です。

800V仕様の新プラットフォーム「PPE」

Q6 e-tronに採用されているBEV専用のプラットフォーム、PPEは、先進の技術を搭載して2024年に発表されました。アウディでは、「Q4 e-tron」シリーズにはフォルクスワーゲンのEVでも採用しているRWDの「MEB」、高性能モデルの「e-tron GT」にはポルシェ「タイカン」と共通のAWDのプラットフォーム「J1プラットフォーム」を採用していました。

技術的な解説プレゼンテーションを行ったプロダクトマーケティング部マネージャーの丹羽智彦氏。

このうちMEBはシステム電圧が400Vですが、J1プラットフォームは800Vになっているほか、AWDの前後輪ともに永久磁石式モーター(PSM)を使っているのが特徴です。

PPEでは、新たに設計したモーターを前後輪に搭載しています。Q6 e-tronでは、後輪は永久磁石式モーター、前輪は非同期モーター(ASM)を採用しています。モーターの制御システムはSiC(炭化ケイ素)半導体を採用するなどして効率向上を図っています。

今回、Q6 e-tronに採用したPPEは、ベーシックなMEBとハイパフォーマンスなJ1プラットフォームの中間に位置付けられるものですが、効率や充電性能など基本的な部分の性能向上を狙い、システム電圧を800V(800Vアーキテクチャー)にしていることが大きな特長です。

電圧アップによって、欧州では最大270kWの急速充電になっています。とは言え日本では400V規格に合わせた仕様になっています。

従来の市販EVの主流である400V規格では、日本で実際に設置が進んでいる中で高出力な150kW器であっても135kWがスペック上、充電出力の限界となります。e-Mobility Powerがすでに開発を発表している「800V規格に対応した最大出力350kW器」が社会実装されていくことに期待が高まります。

800Vアーキテクチャーで快適な充電体験を

ところで800Vというシステム電圧の仕様についてシェーパース氏は、アウディのEVが搭載するバッテリー容量を考えると今後のスタンダードになっていくだろうという見解を示しました。

ただ、シェーパース氏は、バッテリー容量をいたずらに増やして航続距離を伸ばせばいいというものではないと指摘しました。シェーパース氏は、『レンジや充電速度、価格などのバランスだと思っている』とし、ガソリン車と同レベルの航続距離で止まって、あとは「それをどう有効に活用していくかというのが次のステージになる」と述べました。

同感です。付け加えれば、プレミアムクラスのEVと、大衆車のEVでは最適なバッテリー容量も違うし、必要な航続可能距離も違うので、すべての車が350kWで充電できるようにならなくてもいいとも思います。コストや時間の使い方、車の使い方のバランスがとれるところに収束していくのではないでしょうか。

とは言っても、今はまだ大衆車と呼べるようなEVがほとんどないため、どこに平衡点があるのか、メーカーも、ユーザーも、明確に見えていないように感じます。とくに日本はEVが少ないので、EVがどのような車なのかを実感できる機会も多くありません。

だからこそというか、何度も書いたことがありますがアーリーアダプターの声を集約することが大事ではないかと思います。いずれにしても、見たくなる、触りたくなる、乗りたくなるEVの数が増えることが第一歩なので、走行性、快適性に加えて、インフラと一体化した充電性能の向上が必須なのは間違いありません。

セルの大型化で効率アップ

話をQ6 e-tronのバッテリーに戻します。PPEで採用しているバッテリーのメーカーは、今のところ開示されていません。種類はNMCタイプで、ニッケル、マンガン、コバルトの比率は8:1:1と公表されています。

仕様は、容量100kWhの場合はモジュール数が12、セル数が180です。83kWhでは10モジュール、150セルになります。セルは角型で、1モジュールあたり15セルで構成されています。

アウディの発表によれば、セル数は「Q8 e-tron」の432セル、36モジュールから大幅に減少しています。セルを大型化することによって、設置スペースを減らすことができるほか、車両の衝突安全対策と冷却システムへの適合が最適化できるそうです。

また電気的には、ケーブルや高電圧コネクタの減少、モジュール間の電気接続の削減などで損失、重量が減って、全体の効率も上がります。バッテリー開発には手間がかかりますが、プレミアムクラスならコストの吸収も可能でしょう。

このほかバッテリーの温度管理システムも改善が図られていて、温度や運転状況に合わせてバッテリー温度を最適にすることができます。もちろん急速充電前の予熱もします。

ニーズに応える急速充電ステーションを増やしたい

発表会のプレゼンテーションで、アウディのブランド ディレクター、マティアス・シェーパース氏は、EVのような新しい技術が市場で受け入れられるために「新しい商品を導入するだけでは足りない」として、アウディが重視して取り組んできたポイントを挙げました。

<ポイント>
①日本の市場にアピールできるEVの導入
②インフラへのしっかりした投資
③ビジネスパートナーとの連携。

インフラについては、アウディは自前の高出力急速充電ネットワークを整備していて、現在までにアウディ、フォルクスワーゲン、ポルシェの販売店などに375か所、385基を設置しています。充電出力は90〜150kWです。また2025年7月にはレクサスの充電ネットワークとの連携(関連記事)も始まります。

これに加えて、より快適な充電環境を整備してEVの良さを伝えるため、新たなアウディチャージングハブの計画も進めています。2024年にオープンしたAudi charging hub紀尾井町(東京)のほか、2025年4月には芝公園(東京)、厚木(神奈川)にも開設予定です。

【関連記事】
プレミアムなEV充電体験を! 誰でも利用可能な「アウディチャージングハブ」オープン(2024年4月27日)

紀尾井町のチャージングハブでは、利用者の4割が他メーカーのEVユーザーだったそうです。このことからも都市型急速充電ステーションのニーズは高いと指摘しました。シェーパース氏は、EV市場拡大に向けて個人的にも力を入れてきたのがインフラの整備だとし、「今後も取り組みを継続していく」と話しました。

3つめのビジネスパートナーとの連携については、EVによってビジネスモデル、社員教育、スキルが変わるという大きなシフトの変化があるため「簡単ではないが、一歩一歩、歩んでいく必要がある」と話しました。

そのためアウディでは、EVを売っていくための専門的なノウハウを備えた資格制度を導入。今では92%の販売店スタッフが基礎的な資格を取得したそうです。さらに8割のショールームに、e-tronのスペシャリストを配置済みだと言います。

EVに関しては、充電器が設置してあるディーラーでも充電器について理解していなかったり、補助金の内容がわからなかったりすることがあるという話を耳にします。人を育てるのは時間がかかります。でも販売店のスタッフの知識が十分で、信用できれば、EVに感じるハードルが低くなるのは間違いありません。

シェーパース氏はプレゼンテーションの中で、「アウディブランドは、ガソリンを燃やしながら車を運転する時代はそろそろ終わり」という認識を示しました。個人的にエンジン車は大好きだが、アウディは「電気自動車のコンセプトを通して、もっといい車が作れると確信している」と話しました。

同時に、EVは再生可能エネルギーがないと意味がないと指摘。各国の政策が重要で、その中で再生可能エネルギーをどう使っていくのかなどの議論も必要になるため、議論の土台を構築する意味も含めて日本では、再生可能エネルギー比率が99%以上になる屋久島への高校生ツアーなども実施しているそうです。

EVが普及する未来のためには大衆車が不可欠ですが、一方で最高のもの、最高の性能を見せることで生まれる新たな価値観もあります。Q6 e-tronがそんなプレミアムEVの代表車種になる可能性は高いように感じます。

Audi Q6 e-tronAudi Q6 e-tron quattroAudi SQ6 e-tron
全長×全幅×全高4770×1940×1695mm4770×1965×1670mm
ホイールベース2895mm
車両重量(※)2125kg2325kg2350kg
定員5人
駆動RWDAWDAWD
モーター交流同期後:永久磁石式同期/前:非同期
最高出力185kW285kW360kW
最大トルク450Nm580Nm580Nm
最高速度(※)210km/h230km/h
0-100km/h加速(※)7.6秒5.9秒4.4秒
一充電航続距離(WLTC)569km644km672km
駆動用バッテリー
種類リチウムイオンバッテリー
セル数/モジュール数150/10180/12180/12
総電力量(グロス)83kWh100kWh100kWh
総電力量(ネット※)75.8kWh94.9kWh94.9kWh
急速充電の対応出力150kW
普通充電11kW(標準)/22kW(オプション)
価格(税込)839万円998万円1320万円〜

取材・文/木野 龍逸

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この記事を書いた人

編集プロダクション、オーストラリアの邦人向けフリーペーパー編集部などを経て独立。1990年代半ばから自動車に関する環境、エネルギー問題を中心に取材し、カーグラフィックや日経トレンディ他に寄稿。技術的、文化的、経済的、環境的側面から自動車社会を俯瞰してきた。福島の原発事故発生以後は、事故収束作業や避難者の状況のほか、社会問題全般を取材。Yahoo!ニュースやスローニュースなどに記事を寄稿中。原発事故については廃棄物問題、自治体や避難者、福島第一原発の現状などについてニコニコチャンネルなどでメルマガを配信。著作に、プリウスの開発経緯をルポした「ハイブリッド」(文春新書)の他、「検証 福島原発事故・記者会見3~欺瞞の連鎖」(岩波書店)など。

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