カリフォルニア州が「2035年までに電気自動車100%」を義務付ける新たな規制を承認

カリフォルニア州大気資源局はこの8月に、州内で販売される新車の100%を2035年までに電気自動車かプラグインハイブリッド車にすることを義務付ける新たなZEV規制を承認しました。今後、アメリカ国内の十数の州がこの規制に追随する可能性があります。規制の概要を解説します。

カリフォルニア州が「2035年までに電気自動車100%」を義務付ける新たな規制を承認

販売台数4500台未満のメーカーも規制対象に

強大な台風11号の行方が気になる週末、東京でも雨が降り続く中、みなさまいかがお過ごしでしょうか。先日、Netflixの韓流ドラマ「美男堂の事件手帳」を見ていた時、主役の女性刑事が乗っている車に「あ」と思ってガン見してしまいました。

いや、刑事の車がヒョンデ『IONIQ 5』だったんです。映画「ミッション・インポッシブル」ではBMW『i8』のコンセプトモデルが登場したことがありますが、さすがに電気100%ではありませんでした。刑事が電気自動車(EV)に乗っていると、犯人を追跡する時に電欠しないように(祈)とか思ってしまうのは、まだ筆者がEVに首まで浸かっていないせいでしょうか。

とうとうサスペンスドラマにEVが登場する時代になったんだなあと感慨深かったのですが、海の向こうでは着実に将来を見据えた政策が動き出しているのでした。

カリフォルニア州大気資源局(CARB)は2022年8月25日、新たなゼロエミッション・ビークル規制(ZEV規制)を承認しました。発表された規制では、2035年までに州内で販売される新車の100%を、二酸化炭素などの温室効果ガスを排出しない電気自動車(EV)かプラグインハイブリッド車(PHEV)にすることを自動車メーカーに義務付けています。

目標が達成できない場合は、1台につき2万ドルの罰金が科されることが報じられています。

新たな規制の名称は「Advanced Clean Cars II」(ACC2)と言います。これまでのZEV規制を上書きし、目標レベルを上げただけでなく、以前は規制対象外だった年間4500台未満の少量販売メーカーにも2035年に100%の義務が課されています。

つまりスバルやマツダはもちろん、ポルシェやフェラーリなどのスーパースポーツカーもEVかPHEV以外は売れなくなるわけです。

カリフォルニア州のギャビン・ニューサム知事はACC2規制の承認にあたって、「カリフォルニア州は、ゼロエミッションの交通の未来に向けた革命をリードし続けるだろう」とコメントしています。アメリカの自動車排ガス規制をリードしてきたカリフォルニア州の自負が感じられますね。

1年ごとに割合を増やして2035年に100%

ACC2規制は2026年モデルイヤーからスタートするので、実質的に2025年に発売される新車から適用されます。

2026年は35%をEVまたはPHEVにする必要があり、2035年に100%になるまで順次、割合が引き上げられます。なおPHEVは、バッテリーだけで50マイル以上走れることが条件です。また自動車メーカーは、販売台数の20%以下までしかPHEVにすることができません。

年ごとの必要割合は以下の通りです。

2026年以降に求められるZEVの割合

モデルイヤー求められる割合
202635%
202743%
202851%
202959%
203068%
203176%
203282%
203388%
203494%
2035 以降100%

なお現行のZEV規制では除外されていた年間販売台数4500台未満の自動車メーカーはこの目標とは別に、2032年までに適合計画を提出して、2035年に100%ZEVにすることが求められています。当面は内燃機関も売っていいけど、ゴールは決まっているということです。

2035年には約200万台のZEVが販売されると予想

CARBでは、規制進展の中でのEV、PHEV、FCEVの販売台数予想も出しているので見てみましょう。

カリフォルニア州新車ディーラー協会(CNCDA)によれば、2021年のEV販売台数は17万6357台でした。CARBは、これが2026年に約67万台になると予想しています。

【関連記事】
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なおCNCDAのデータでは、2021年のカリフォルニア州の新車登録台数は約185万台です。CARBは2035年にZEV合計で約200万台と予想しているので、少し増えています。

パワートレイン別販売およびリースの予測台数

YearBEVPHEVFCEVTotal
2026599844636655616669125
2027756756640005646826402
2028904973745005674985147
202910647077486557021145274
2030120268575221333431326253
2031135763975564483471489028
2032148171375897560721613682
2033160657376219563101739103
2034171514893543565391865230
20351752019183238567591992017

さらにもうひとつ、CARBは毎年のバッテリー必要量も予測しています。これも表で見てみましょう。

必要なバッテリー容量予測

予想バッテリー容量(GWh)
2026年42.1
2027年53.1
2028年64.5
2029年79.3
2030年94.7
2031年109.8
2032年122
2033年134.2
2034年145
2035年151.9

2026年には42GWh、2030年には94GWh、2035年には152GWhとなっています。これを販売台数の見込み数で割り算すると、ちょっと乱暴ですがPHEVの分は考えないとして、2035年では1台当たり約86kWhになります。

なんとも大容量です。こんな大容量バッテリーの車だらけになると、環境影響や効率など別の問題が出てきそうですが、規制には小型車だけでなくピックアップトラックなども含まれるので、アメリカでは大容量化が避けられないと言えます。むしろそうしないと、規制を実施することが難しいのかもしれません。

ところでトヨタが力を入れている燃料電池車(FCEV)は、ごくわずかな数にとどまっています。CARBはACC規制の中で、EVのバッテリーに8年または10万マイル(16万km)までに75%の容量を維持する保証を求めています。FCEVにとってこの保証は鬼門ではないかと思われます。

トヨタはFCEVの『ミライ』で、燃料電池、高圧水素タンク、モーターの保証期間を、5年または10万kmとしています。もっとも脆弱性が懸念されるのは、燃料電池本体です。

バッテリーは、多くのメーカーがすでに8年または16万kmというCARBの要求を満たすレベルになっているのに対し、燃料電池は耐久性向上が、ここ10年来の変わらぬ課題と言われています。CARBも保証期間の要求をしていません。普及への課題のひとつは、ここにあるかもしれません。

加州の後に最大17州が追随する可能性

ACC2規制の狙いは、気候変動対策と、公害対策です。カリフォルニア州では、温室効果ガスの50%、大気汚染物質の80%を運輸部門が排出しています。

CARBによれば、ACC2規制は2037年までに小型車からのスモッグの原因となる汚染物質を25%削減する効果があると見込まれています。その結果、心肺疾患による死亡を1290人、心肺疾患による入院を460人、喘息による救急外来受診を650人減らすことができ、累積で約130億ドル(約1兆8000億円)相当の医療費削減につながると推計しています。

カリフォルニアの青い空と言いますが、海の上に黄土色のスモッグが漂うこともあります。改善はされていますが、CARBの資料によれば、オゾンの汚染は全米屈指です。気候変動が原因とみられる山火事も頻発しています。行政マンがACC2にかける期待は小さくないと言えます。

そんなACC2規制の厳しい条件を、最大17の州が追いかける可能性があります。アメリカでは連邦法の規制が優先しますが、カリフォルニア州とこれらの州は、連邦法を上回る規制を独自に規定することが認められています。

現在、カリフォルニア州のZEV規制は、以下の州が採用しています。

コロラド州、コネチカット州、メイン州、メリーランド州、マサチューセッツ州、ミネソタ州、ネバダ州、ニュージャージー州、ニューヨーク州、ニューメキシコ州、オレゴン州、ロードアイランド州、バーモント州、バージニア州、ワシントン州。

この他、ペンシルバニア州、デラウェア州は現行ZEV規制の採用を検討中です。これらの州がACC2規制を採用すれば、全米の新車販売台数の40%をカバーすることになります。

内燃機関との決別はヨーロッパの規制が先行していますが、アメリカの潜在能力は侮れません。それにACC2規制は、ヨーロッパにはない罰則規定があります。この違いは大きいと思います。

最大9500ドルの補助金や低所得者層への支援も

CARBは2035年に100%をZEVにする目標を達成するため、ACC2規制で手厚い補助を用意しました。まず補助金は、旧車を廃車にしてよりクリーンな車を購入する場合に最大9500ドルが出ます。

また低所得者に対しては最大7000ドルの補助金も設定しているほか、最大5000ドルの頭金支援も実施します。これらの予算として、今後数年間用に9億ドル以上が計上されています。

自宅に充電器を設置できない人も少なくないことから、充電インフラ整備には3億ドルの予算が組まれる予定です。

自動車メーカーはおおむね規制を受け入れ

ではこうしたACC2規制を、自動車メーカーはどのように考えているのでしょうか。まずフォードは、ACC2についてサステナビリティ担当最高責任者のボブ・ホリクロス(Bob Holycross)氏の名前で次のような前向きなコメントを発表しました。

「フォードでは、気候変動対策は戦略的優先事項であり、気候変動対策が攻撃されていた時期に、自動車排出基準の強化のためにカリフォルニア州と協力したことを誇りに思う。(中略)CARBのACC2規制は、クリーンな交通手段を定義し、米国の模範となる画期的な基準だ」

ホンダはHPで声明を公表。カリフォルニア州の規制は「野心的だが、クリーンモビリティーの将来にとって重要なマイルストーンになる」と評価しています。同時に、目標達成のためにはインフラ整備、政策や市場のインセンティブなど多くの分野で「すべての関係者が思慮深く協力することが必要」であり、「私たちが共有する気候に関する目標を達成するための最善の方法について、カリフォルニア州や他のステークホルダーと引き続き協力していきたい」としています。

この他、ニューヨークタイムズ電子版によれば、GMは2035年までにEVだけを販売するという目標も持っているとしつつ、「ゼネラルモーターズとカリフォルニア州は、電気自動車の未来という共通のビジョンを持っている」と広報担当者がコメントしています。

そして世界最大の自動車メーカーであるトヨタは、ロサンゼルスタイムズ電子版によれば、CARBに自動車排出基準を設定する権限を認めるという書簡を送ったそうです。

トヨタはトランプ政権の時に、カリフォルニア州の規制権限をとりあげようとする政権側について訴訟に補助参加をしていました。政権交代で訴訟からは手を引いています。

今回は、トヨタはCARBの権限を認めるそうです。もちろん、法的に規制を認めるかどうかは連邦環境局(EPA)の権限で、トヨタには権限はありません。なんというか、やっぱりどことなく後ろ向きの空気感が漂っているように思えてなりません。

そんなカリフォルニア州の新しい規制ですが、もくろみ通りにいくかどうかは、世論の動向やEVのコスト推移などに影響されます。CARBではコストについて、2030年までに従来の車と同等のコストになり、2035年までには購入から10年間のランニングコストが7900ドルの節約になると予想しています。

けれども、すでにバッテリーコストは高騰しています。原材料確保だけでなく精製能力や生産設備も、バッテリー容量確保のボトルネックになりつつあります。

道は平坦ではないことが、今から見えています。それでもカリフォルニア州の挑戦は、車や社会が持続可能性を確保するための、大きな一歩になると思います。慎重に、でも大胆に、日本も新しい動きを追いかけてほしいところです。

(文/木野 龍逸)

この記事のコメント(新着順)1件

  1. カリフォルニア州の大気汚染の歴史は、以下のビデオを見るとよく分かります。
    https://www.youtube.com/watch?v=k2Ra8PRtXSU
    昼間だというのに都市全体が茶褐色のガス(スモッグ)に覆われ、やがてそのガスの正体はオゾン(光化学オキシダント)という事が分かりました。ガソリン車から排出される未燃ガソリン燃料と窒素酸化物が、南カリフォルニアの強烈な太陽光を浴びると人体に有害なガス(スモッグ)を生成してしまうのです。
    自動車しか交通手段のないカリフォルニア州で、スモッグ対策の究極的な解決策は、ガソリン燃料を燃やさない電気自動車を普及させることなのです。

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					木野 龍逸

木野 龍逸

編集プロダクション、オーストラリアの邦人向けフリーペーパー編集部などを経て独立。1990年代半ばから自動車に関する環境、エネルギー問題を中心に取材し、カーグラフィックや日経トレンディ他に寄稿。技術的、文化的、経済的、環境的側面から自動車社会を俯瞰してきた。福島の原発事故発生以後は、事故収束作業や避難者の状況のほか、社会問題全般を取材。Yahoo!ニュースやスローニュースなどに記事を寄稿中。原発事故については廃棄物問題、自治体や避難者、福島第一原発の現状などについてニコニコチャンネルなどでメルマガを配信。著作に、プリウスの開発経緯をルポした「ハイブリッド」(文春新書)の他、「検証 福島原発事故・記者会見3~欺瞞の連鎖」(岩波書店)など。

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