中国がEVやPHEVなど「新エネルギー車」の割合を60%へ

中国は2035年までに、EVおよびPHEVなどの「新エネルギー車」(以下、新エネ車)販売台数の割合を全体の60%に引き上げる目標を掲げることを計画していることがわかりました。新エネ車にHV(外部から充電できないハイブリッド車)は含まれていません。

中国がEVやPHEVなど「新エネルギー車」の割合を60%へ

15日に閉幕したCO25は不調に終わりましたが、欧州メーカーもCO2削減では高い目標を掲げているなど、産業構造の変革は今後ますます加速しそうです。

電動車の販売台数は大幅減でも、販売計画は拡大

中国の新車販売台数は2018年に約2808万台で、2017年比では2.8%の減少でした。市場の縮小は、実に28年ぶりでした。今年はさらに減少することが確実です。中国政府は2017年に、新車販売台数の目標を2020年に3000万台前後にするという目標を掲げていましたが、現状では厳しいと言えそうです。

中でも新エネ車の減少幅は大きく、2019年11月の販売台数は全体が前年比3.6%減少だったのに対し、新エネ車は43.7%減でした。今年になって政府による補助金が段階的に削減されているのが原因と考えられます。

こうした中、中国の産業技術情報省は12月3日に、2025年までに新車販売台数の25%、2035年には60%を新エネ車にするという政策案を発表しました。この目標は、補助金の削減で新エネ車が販売台数を大きく減らしている現状を考えると、容易なものではないことはすぐにわかります。

自動車市場は縮小しても、電動車拡大は維持

自動車市場の成長は一段落ついたようですが、中国当局は、都心部を中心にした大気汚染の防止や、石油の輸入量削減のため、新エネ車を増やしたいと考えています。ブルームバーグなどによると、EVやPHEVなどの電動車はこれまでに販売台数は大きく伸びましたが、それでも市場全体では5%に過ぎません。

そのため補助金以外でも、購入税免除、大都市でのナンバープレート発給制限の緩和など、さまざまな施策を実施しています。

また中国では2019年から、米カリフォルニア州のZEV規制のように、一定規模の完成車メーカーに対して、決まった割合の新エネ車生産を義務付けています。目標値は車の性能に応じて、ZEVと同じようにクレジット数でカウントされ、2019年は生産台数の10%にあたるクレジットを新エネ車で達成しなければなりません。2020年には12%に引き上げられる予定です。

これまで新エネ車は、自動車市場の成長が鈍化する中でも順調に販売台数を伸ばしてきました。けれども2019年の補助金削減以降、さすがに新エネ車市場にも陰りが見えます。

それでも中国政府は今後も、新エネ車について野心的な目標を維持することが明確になりました。生産割合の義務化については、メーカー各社から緩和の要望が出ていましたが、結局、当初の計画通りに実施しています。しかも義務化されている割合は、政府の将来計画に比べればはるかに少ないので、今後、さらに増えるのは間違いなさそうです。

つまり自動車メーカーが中国で商売をしようとすれば、必然的に新エネ車開発を手がける必要があるということです。市場規模を考えると、台数も自然に多くなります。三井住友銀行のリポートによれば、中国の新エネ車市場は2018年に126万台でした。市場の移り変わりも激しいので、新車開発も必要になります。

日本のEVやPHEVの数はなかなか増えませんが、グローバル化した自動車メーカーが中国市場を放置するという選択肢はなさそうです。中国乗用車協会のCui Dongshu事務局長はブルームバーグの取材に対して、「新エネ車の需要は今後2年間で回復するでしょう。2025年の目標は妥当なものだと思います」と強気な発言をしています。

中国の場合、多少無理があっても政府が掲げた目標を達成することは最も重要な課題になります。無理が通れば道理が引っ込む、わかっちゃいるけどやめられない、というところでしょうか。そんなわけで、今後もEV、PHEVのラインナップ拡大が続くのは確実でしょう。

中国国内ではEV用充電ステーション整備も進められています。

COP25は不調でも、欧州ではCO2削減が既定路線

チリからスペインに舞台が変更されたCOP25(国連気候変動枠組み条約第25回締約国会議)は12月15日、温暖化対策の強化を目指す文書を採択して閉幕しました。CO25での最大の関心事はパリ協定を具体化するための詳細ルール策定でしたが、会期を2日間延長しても合意に至らず、来年、イギリスのグラスゴーで開催されるCOP26までに各国が計画を策定することになりました。

COP25における日本のプレゼンスは相変わらず低く、石炭火力発電所の拡大を進める日本政府の立場を説明した小泉進次郞環境大臣の演説が、国際NGOから不名誉な「化石賞」を受賞するなど、世界に後ろ向きの姿勢を発信したにとどまりました。

一方で欧州各国の政府や企業の、脱炭素への意思は明確です。欧州の自動車メーカーや部品メーカーは、相次いでカーボンニュートラルを目指すことを宣言しています。5月にはボッシュが2020年にカーボンニュートラルを達成できるという見込みを発表しました。同じく5月にダイムラーは、中期経営計画「アンビション2039」の中で、2039年以降に販売する乗用車をカーボンニュートラルなものにするとしています。

さらにフォルクスワーゲンは、11月に生産を開始した「ID.3」をカーボンニュートラルにしたことを発表したほか、2050年までにグループ全体でのカーボンニュートラルを目指しています。

こうした動きについて日経新聞は、EVは走行中にCO2を排出しないものの、発電方法によってはLCAでの排出量が多くなることがあることや、欧州委員会が2050年にEU全体でのカーボンニュートラルを義務化する方向で動いていることなどが背景にあると解説しています。

いずれにしても、自動車メーカーがカーボンニュートラルに向けて本腰を入れるとということは、サプライヤーを含めると、巨大な産業に大きな影響を与えることになります。ボッシュやコンチネンタルの動きはこの流れを先取りしたものと言えます。もちろん、日本の部品サプライヤーも無関係ではいられないでしょう。

F1もカーボンニュートラルを目指す

自動車に関してはもうひとつ、モータースポーツでも興味深い動きがありました。「F1」は11月に、2030年までにF1のレースをカーボンニュートラルにする目標を発表しました。F1のチェイス・キャリーCEOは、「二酸化炭素の排出を大幅に削減する、世界初のネットゼロカーボンのハイブリッド内燃機関エンジンを提供する」とコメントしています。

【参考記事】
Formula 1 announces plan to be Net Zero Carbon by 2030

化石燃料を使う限り内燃機関単体でのゼロカーボンは無理なので、バイオ燃料などへの転換を計画しているようです。また走行時の削減だけでなく、燃料製造過程などでのCO2吸収なども換算することになるかもしれません。計算方法によってはグリーンウォッシュという批判も出るかもしれませんが、F1を持続可能なイベントにするためにも、環境対応が不可欠になったことを示していると言えます。

日本では、トヨタが中国でレクサスブランドからEVを発売したり、ホンダが欧州でEVに取り組んだりしていますが、お膝元の日本での電動化への動きはまだまだ心許ないのが現状です。世界的にカーボンニュートラルを目指す動きが進む中、化石賞を受賞した日本や、日本メーカーの対応は、批判的な見方を中心に、ますます大きな注目を集めてしまうのではないかと危惧します。

隣国、中国のドラスチックな変化を見ていると、政策でも、また各社の取り組みにも、もう少し前向きな動きを期待したいところです。

(文/木野 龍逸)

訂正:初出時、中国の新エネ車の規制について、販売台数ベースで10%と記載していましたが、正しくは生産台数に対するクレジット数でのカウントでした。お詫びして訂正します。

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					木野 龍逸

木野 龍逸

編集プロダクション、オーストラリアの邦人向けフリーペーパー編集部などを経て独立。1990年代半ばから自動車に関する環境、エネルギー問題を中心に取材し、カーグラフィックや日経トレンディ他に寄稿。技術的、文化的、経済的、環境的側面から自動車社会を俯瞰してきた。福島の原発事故発生以後は、事故収束作業や避難者の状況のほか、社会問題全般を取材。Yahoo!ニュースやスローニュースなどに記事を寄稿中。原発事故については廃棄物問題、自治体や避難者、福島第一原発の現状などについてニコニコチャンネルなどでメルマガを配信。著作に、プリウスの開発経緯をルポした「ハイブリッド」(文春新書)の他、「検証 福島原発事故・記者会見3~欺瞞の連鎖」(岩波書店)など。

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