ダイムラーやフォルクスワーゲンがEV販売台数の倍増を発表

2022年の新年が明けて早々、電気自動車(EV)について景気のいい話が飛び込んできました。メルセデス・ベンツを擁するダイムラーはEVとプラグインハイブリッド車(PHEV)の販売台数が2021年に過去最高になったと発表。続いてフォルクスワーゲンが、EVの販売台数が前年比で倍増したと発表しました。

ダイムラーやフォルクスワーゲンがEV販売台数の倍増を発表

メルセデス・ベンツはEVが約2倍に増加

メルセデス・ベンツを擁するダイムラーは2022年1月7日、2021年1月から12月の販売台数を発表しました。発表によれば、メルセデス・ベンツの電気自動車(EV)とプラグインハイブリッド車(PHEV)の出荷台数は前年比69.3%増で、過去最高の22万7458台になりました。このうち4万8936台がEVの『EQ』シリーズで、前年比は約1.5倍になっています

また、2021年8月に発売された航続距離700kmを超えるフラッグシップEVの『EQS』は、年末までに1万6370台の予約が入ったそうです。1500万円を超える車(イギリスでの価格)が、短期間とはいえ月に3000台以上売れるのは驚きです。日本の月販台数なら上位20位に入ります。

Mercedes-AMG EQS 53 4MATIC+

この他、『スマート』は内燃機関(ICE)からEVの『スマート EQ』への切り替えを進めたためか、2020年には前年比でマイナス67.1%と大きく落ち込んでいましたが、今年は0.3%の微増で3万8514台になりました。

なお『スマート EQ』は、ダイムラーの2021年1月8日のリリースを見ると、2019年に約1万8400台、2020年に約2万7000台と少しずつ増えています。今年も販売を伸ばしていて、見かけの増え方0.3%とわずかなものですが、現在はEVオンリーになっていることを考えると堅調に推移していると言えそうです。

全体の需要が伸びない中でEVは好調

そしてメルセデス・ベンツとスマートに商用車のメルセデス・ベンツバンを合わせると、2021年のEV販売台数の合計は9万9391台に達しました。前年比では90.3%の増加です。

メルセデス・ベンツの商用EV。

一方でメルセデス・ベンツの乗用車と商用車全体では、コロナ禍や半導体不足の影響から、販売台数は前年比で4%減となっています。乗用車に限ると5%減です。

こうした状況から、メルセデス・ベンツのマーケティングと販売を担当するダイムラーAGの取締役会メンバー、ブリッタ・シーガー氏は次のように述べています。

「困難な年に、マイバッハ、AMG、Gクラスは新しい記録を達成しました。現在の市場で最も長い航続距離を持つEQSはとても力強いほか、12月には完全電動のAMGの生産が始まり、私たちの電動フラッグシップの新しい章が始まりました。すべてのブランドでの世界的な需要は、メルセデス・ベンツが新しい電気の時代に向かって加速する追い風となっています」

もともとダイムラーは本気なのですが、EVにかける期待の大きさが現実感を伴ってきたという印象を受けるコメントです。

フォルクスワーゲン グループでもEVが過去最高の伸び

ダイムラーに続いて、ドイツ自動車業界を牽引するフォルクスワーゲン グループも、2021年の販売台数を発表する中で、EVが過去最高の台数になったことを強調しました。

フォルクスワーゲン グループは、2022年1月14日に発表した2021年の販売実績の中で、1年間に45万2900台のEVを販売したことを明らかにしました。2020年は23万1600台なので、95.5%の増加です。ダイムラー同様、約2倍に増えています。EV同様にPHEVの販売台数も大きく増えていて、61%増の30万9500台に達しました。

なおフォルクスワーゲン グループの世界での販売台数は、半導体不足の影響で4.5%減の888万2000台でした。この中でEVが占める割合は、前年の2.5%から倍増し、5.1%になりました。

フォルクスワーゲン グループのセールス責任者クリスティアン・ダールハイム氏は次のようなコメントを出しています。

「2021年は世界的な半導体不足のために非常に困難な年となりました。しかし、私たちは一貫して未来に向けての『NEW AUTO』戦略を実行してきました。電気自動車の販売台数が2倍になり、すべての車両に対する需要が高いことは、私たちが正しい方向に進んでいることを明確に示しています。この基盤の上に今年も歩みを続け、変革を引き続き推進していきます」

「NEW AUTO」は、フォルクスワーゲン グループの2030年までの経営戦略を示したもので、2030年にEVの比率が全体の半分を占めると予想しています。この戦略の発表イベントでヘルベルト・ディース最高経営責任者(CEO)は、モビリティの変化について「馬から車へ移行した20世紀初頭以来、最大の変化を遂げるだろう」と述べていました。2021年のEV倍増は、「NEW AUTO」で示した世界観の第一歩ということになりそうです。

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フォルクスワーゲンが2030年までにEVシェア50%とするプランを発表(2021年7月21日)

ドイツではEVの割合が10%を超えた

The new Volkswagen ID.4 GTX

フォルクスワーゲン グループは、販売中のEVのうち上位6モデルの内訳を公表しました。

●フォルクスワーゲン ID.4 11万9600台
●フォルクスワーゲン ID.3 7万5500台
●アウディe-tron(Sportbackを含む) 4万9200台
●シュコダEnyaq iV 4万4700台
●フォルクスワーゲン e-Up! 4万1400台
●ポルシェ Taycan(Turismoを含む) 4万1300台

今のところ日本に入っているのはアウディ『e-tron』とポルシェ『タイカン』だけなのが残念ですが、今年(2022年)は最も売れている『ID.4』が登場するかもしれません。広報によれば2022年以降ということなので、期待したいところです。

【関連記事】
フォルクスワーゲン『ID.4』発表~日本導入は2022年以降で検討中(2020年9月25日)

フォルクスワーゲン グループは今回、一部の地域や国について販売台数に占めるEVの割合を公表しています。地域としてもっともEVの比率が高いのは西ヨーロッパで、10.5%を占めています。前年の6.2%から大きく伸びました。

西ヨーロッパの全販売台数は286万400台なので、約30万台がうれたことになります。なおヨーロッパ全域でのEV販売台数は31万400台なので、ほとんどが西ヨーロッパということになります。

市場の中で伸び率が最も高いのは中国で、前年の2万2100台から9万2700台に319%増加しました。つまり4倍以上に台数が増えたことになります。次はアメリカで、前年の1万2400台から3万7200台と、200.2%増です。台数の多いヨーロッパは、前年の19万1800台から31万400台に、61.9%増でした。

ちなみに中国市場では、フォルクスワーゲン グループは1年で330万4800台も売っているので、EVのシェア自体はまだ2.8%程度にとどまります。まだ伸びる余地があるということなのか、中国のEVに押されているということなのか、状況が気になります。

西ヨーロッパの中でも、お膝元のドイツでは11.4%がEVになりました。この他、アメリカではEVの販売台数が前年に比べて3倍の、3万7200台になりました。アメリカでの全販売台数は67万1800台なので、EVのシェアは5.5%です。けっこう大きいですね。

ところで足元の日本を見てみると、おそらく最も売れている日産『リーフ』が1万843台です(自動車販売協会連合会の統計)。自販連のモデル別統計の中では43位です。日本での日産の年間販売台数は45万1671台なので、日産のEV比率は2.4%になります。

思ったより多いような気がします。ただ、日産の販売台数がトヨタの3分の1程度にとどまることや、他社にはそれほどの台数が出ているEVがないことなどを考えると、日本市場のEVのシェアは微々たるものと言っていいと思います。

ちなみに日本市場のEV比率は、2020年は全販売台数が459万8615台(自販連統計)に対してEVは1万6239台(次世代自動車振興センター統計)なので、EVの割合は0.35%です。2021年は、EVについては今のところ自販連がまとめたものしかないので軽自動車が含まれていないのですが、全販売台数が444万8340台に対してEVは2万1139台の、0.48%でした。軽自動車の数は2020年は約1500台なので、増えたとしてもわずかと思われます。

とすると、日本のEVの市場シェアは1年で0.35%から0.48%へ約1.4倍と、大幅に、大幅に(2回言ってしまいます)増加したとも言えますが、全体から見ると微々たる変化です。言葉の使い方は難しいのです。

ただ、この状況で、日本の車がすべてEVになったら産業構造が大きく変わり失業者がたくさん出るという不安感を自工会として前面に出すのは、やはり行きすぎだと感じます。パリ協定という目標に向けて動くなら、その前にやることが山のようにあるのではないでしょうか。社会変革に向けて提言すべきこともあると思います。

ドイツのようにトップメーカーの販売台数の1割がEVになるような状況になれば、構造転換について真剣に議論する必要があると思います。その状況を想定して、今から日本でも議論をしたほうがいいとも思います。でも、大きな変化が見えない今、いきなり100%がEVになったら大変だということを言い出すのは、あまりに唐突だしネガティブな見方だと感じます。

いずれにしても、世界をリードするメーカーのうち、自動車を生み出したドイツでは、構造転換に向けて歩みの速度を速めていることがわかる2021年だったようです。この先5年、10年で、フォルクスワーゲン グループのディースCEOが馬から自動車へ移行して以来の変化が起きると予言した通りになるのかどうか。ドキドキが止まりません。

(文/木野 龍逸)

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					木野 龍逸

木野 龍逸

編集プロダクション、オーストラリアの邦人向けフリーペーパー編集部などを経て独立。1990年代半ばから自動車に関する環境、エネルギー問題を中心に取材し、カーグラフィックや日経トレンディ他に寄稿。技術的、文化的、経済的、環境的側面から自動車社会を俯瞰してきた。福島の原発事故発生以後は、事故収束作業や避難者の状況のほか、社会問題全般を取材。Yahoo!ニュースやスローニュースなどに記事を寄稿中。原発事故については廃棄物問題、自治体や避難者、福島第一原発の現状などについてニコニコチャンネルなどでメルマガを配信。著作に、プリウスの開発経緯をルポした「ハイブリッド」(文春新書)の他、「検証 福島原発事故・記者会見3~欺瞞の連鎖」(岩波書店)など。

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