イーモビリティパワーとジャパンチャージネットワーク
株式会社e-Mobility Power(イーモビリティパワー)は、東京電力ホールディングスが60%、中部電力が40%を出資して2019年に設立された会社です。「いつでも、どこでも、誰もが使える、リーズナブルな充電サービスを、すべてのモビリティに」をキャッチフレーズとして、電気自動車(EV)やプラグインハイブリッド車(PHEV)などの電動モビリティ普及を促進する「充電インフラの整備とサービスの提供」を目指して設立されました。
今まで、日本国内の充電インフラ拡充とサービスネットワークの構築は、トヨタ自動車株式会社、日産自動車株式会社、本田技研工業株式会社、三菱自動車工業株式会社の自動車メーカー4社と、東京電力エナジーパートナー株式会社、中部電力株式会社などが出資して2014年に設立された合同会社日本充電サービス(NCS)という会社が担ってきました。すでにお伝えしているように、イーモビリティパワーは2021年4月1日付けで吸収分割によってNCSの事業や権利を承継することが発表されています。
一方のジャパンチャージネットワーク株式会社(JCN)は、充電器利用時の認証と課金を行うシステムを提供しているネットワークベンダーのひとつです。おおまかにまとめると、日本国内の電動車充電インフラは、設置事業者がNCSに加盟、もしくは提携して利用料金などを受け取ることになっていて、実際のユーザーへの課金はJCNをはじめとするNCSと連携するネットワークベンダーが行っています。
充電インフラの設置推進や充電ネットワーク構築と、実際の認証課金サービスを別々の会社が担い、さらに認証課金サービスを提供するネットワークベンダーが複数混在していることで、なんともわかりにくい仕組みになっていたといえます。
【参考記事】
●【2021年版 まとめ表】電気自動車用充電認証カード徹底検証(2021年3月13日)
ネットワークベンダーには、JCNのほか、エネゲート、トヨタコネクティッド、日本ユニシス、NECなどがあります。とはいえ、JCNは高速道路SAPAに設置されている急速充電器の約95%や、日産ディーラー、全国約1000カ所のコンビニなどの急速充電器、商業施設の普通充電器にも多く採用されている、ネットワークベンダーの最大手です。
つまり、今までNCSとJCNが別々に行っていた事業が、NCSの吸収分割、JCNの買収によってイーモビリティパワーに集約されることになります。具体的に「何が起こるのか」については今後の状況を注視しつつ、改めてイーモビリティパワーに取材してみないと断言することはできませんが、日本でもようやく「便利でリーズナブルな充電サービス」が広がる可能性が高まったと期待できます。
日本の充電インフラの課題とは
イーモビリティパワーに解決を期待したい、日本の電気自動車充電インフラの課題とは何か。端的に整理しておきましょう。
①高速道路SAPAへのQC複数台設置
QCとは急速充電器のこと。電気自動車の充電は、拠点となる車庫などで行う「基礎充電」や宿泊施設などで行う「目的地充電」、そしてロングドライブ途中で電気を補充する「経路充電」に大別できます。充電方法としては、基礎充電と目的地充電はおもに交流200V電源で行う「普通充電」(出力は3〜6kW程度 ※一部車種では12kW程度の高出力充電も可能)が中心で、高速道路SAPAなどで行う経路充電はおもに直流の高出力(20〜150kW程度)で行う「急速充電」となります。
経路充電=急速充電がとくに必要とされるのが、長距離を走るニーズが高い高速道路上のSAPAであることは明白です。日本国内の高速道路SAPAにはおおむね急速充電器の設置が網羅されつつあります。でも、多くのスポットで設置されている充電器は1基のみ。連休などの混雑する時期には、充電器に電気自動車の行列ができる充電渋滞の発生が課題になってきています。
今まではNEXCOなど道路を管理する事業者が設置する仕組みだったので、電気自動車がまだ普及しているとは言いがたい状況で「複数台設置」を進めるのはなかなか難しいことでもありました。でも、今後はイーモビリティパワーが主体的にSAPAへの充電インフラ設置を進める仕組みになっていけば、より長期的に電動車普及を促進する視野をもち、電気自動車の利便性を高めるための複数台設置が進んでいくのではないかと期待できます。
②急速充電インフラの高出力化
現状、日本の急速充電インフラは20〜50kW程度の出力で広がっています。10年前、日本を走る電気自動車がリーフとi-MiEVくらいだった頃は、それで十分だったのですが、近年、輸入車を中心に電池容量100kWhクラスの大容量電気自動車が増えてきています。たとえば、高速道路SAPAに設置されている最大出力44kWの急速充電器では、規定の30分間で補充できる電力はおおむね20kWh前後。電費が5km/kWhの大容量EVではおよそ100km走行分しか充電できません。
イーモビリティパワーでは、EV 用充電器設置に関する包括契約を締結したカインズの店舗に、1基の充電器から2台同時充電が可能な最大出力120kW級(この施設では90kW程度で運用される見込み)のQC器を設置するなど、QCの高出力化にも意欲的です。
QCの高出力化には、充電器に引き込む電源の基本料金や規制などの課題もあるのですが、東京電力と中部電力が設立したイーモビリティパワーにとってはまさに本業に関わることなので、規制の改革などを含めて最善の解決方法を開拓していってくれるのではないか、と期待したいところです。
③認証&課金サービスの複雑さ
前述のように、充電時の認証や課金サービスが複雑化しているのは日本の充電インフラの大きな課題になってしまいました。ことに充電(認証)カードをもたず、ゲスト充電で利用する際の面倒さは「嫌がらせかよ!」と感じるほどです。
イーモビリティパワーが認証や課金サービスを提供するネットワークベンダー最大手のJCNを買収したことで、たとえば、いちいち専用の充電カードで認証するのではなく、充電ケーブルを接続するだけで認証課金が行われたり、クレジットカードや交通系ICカードなどで支払いを済ませることができるような、シンプルでリーズナブルな仕組みが導入されるといいですね。
④集合住宅などへの普通充電設備拡充
集合住宅や賃貸の駐車場における基礎充電、あるいは宿泊施設やレジャー・商業施設など長時間滞在する場所への普通充電設備(目的地充電)拡充も、日本の電気自動車普及にとって大きな課題です。
これも、電力会社を母体とするイーモビリティパワーがJCNと一元化したことで、合理的な目的地充電設備設置サービスが誕生するのではないか、と期待します。
集合住宅や賃貸駐車場の基礎充電はプライベートな利用形態が中心になるかと思われるので、公共充電のためのサービスであるJCN的な認証課金はさほど必要ではありません。独自の便利な課金方法などを提供する普通充電設備のサービスがいろいろと生まれているところでもあります。イーモビリティパワーには、幅広く普通充電設備を拡充するための電力供給や電気料金についての規定の改善など、大きな仕組みを変革していってくれるといいなと思います。
⑤従量課金の実現
最後に、現状では従量課金が難しいという課題です。今、日本国内の充電設備は充電した電力量ではなく、充電器に繋いでいた時間に対して課金される仕組みになっています。私自身、詳細を検証したことはないですが、ざっくりいうと、計量法という法律の制約があり、従量課金を導入するのはコストも掛かって大変、ということのようです。
設置する事業者としては、時間課金の場合は出力が50kWの急速充電器より、20kWとか出力が小さい充電器を設置したほうが電気料金などがお得になります。単純計算すると、たとえば同じ30分の充電で50kW器で25kWh充電できるのに対して、20kW器では10kWhだけとなり、利用者への課金額は同じ、という現実が、日本国内で出力が小さい急速充電器が増えてしまっている要因にもなっているのです。
従量課金の導入や、高出力器を導入するための法改正や仕組みづくりなど、イーモビリティパワーが充電インフラを設置する主体となって進めることで、経産省や代議士さんなどを巻き込んだドラスティックな進化が実現することを期待しています。
JCN買収は朗報、だと思います
以上。イーモビリティパワーによるJCN買収のニュースから連想する、日本の電気自動車充電インフラの課題と、その解決をイーモビリティパワーに期待する! の巻、でした。
今まで、日本の充電インフラがやや迷走気味だったのは、電気自動車普及をちゃんと見据えた上で、大きな視野で充電インフラのあり方をプロデュースする存在がなかったからではないかとも思えます。バラバラに機能していたNCSとJCNがイーモビリティパワーに一元化されたのは、日本の電気自動車普及にとって朗報といえるでしょう。イーモビリティパワーが充電インフラの設置主体になっていくことで「かゆいところに手が届く」感じの、クレバーで合理的な充電インフラ拡充が進んでいくことを期待しています。
一方で、ここに挙げたような「公共」充電インフラの課題は、独自の充電ネットワーク構築が進んでいるテスラ車ではあまり深刻な問題ではなくなります。タイカンの発売とともに独自充電インフラ整備を発表し進めているポルシェの電動車でも、同様に「チャデモの公共充電インフラはたまに使う程度」となることでしょう。
イーモビリティパワーが電力会社目線で充電インフラ拡充を進めるとはいえ、現実として充電インフラは「電気自動車の性能の一部」であり、自動車メーカーが関与しないのはいかがなものかという面があります。今後、日本の自動車メーカー各社がイーモビリティパワーとどう連携していくのか。そのあたりも注視していきたいと思います。
(文/寄本 好則)
こんにちは、
和歌山県の急速充電機
道の駅6個所(いずれも2016年4月頃設置のエネショップ分)が撤去
とのこと、
低い利用率の問題というより
経営母体の変わったエネショップとの契約条件変更
という気配を感じますが
今後エネショップ運営の充電機が次々撤去
なんてことが無いかどうか
その辺りの大人の事情を探っていただけませんでしょうか?
イーモビリティパワーに関電が係わっていないのも
不安要素。
実際のところは、JCNが単体では、成り立ちそうもないというのが、現状なのかもしれませんね。
イーモビリティパワーとして少なくとも2点は改革が必要だと思っています。
1)急速充電インフラの高出力化のために提携料を見直しを!
急速充電インフラの高出力化を促すためには、まずはイーモビリティパワーが設置事業者に支払う提携料を見直すべき。
現状は出力に関係なく10.78 円(税抜価格 9.8 円)/分です。
30分電力を提供した場合、10.78円/分×30分=323.4円しか支払われません。
>最大出力44kWの急速充電器では、規定の30分間で補充できる電力はおおむね20kWh前後。
設置事業者によって電力契約が違うので一概には言えませんが、323円÷20kWh=16.15円/kWh以下で電力分に関してだけはようやくプラス。
充電器そのものは補助金をもらわなければ全額設置事業者と言うのが現状です。
125Aを超える出力の充電設備の普及が進まないのは容易に想像できます。
メーカーによって出力に対する電流値が違うので、電流値を基準にi-MiEV16kWhで「少しは充電速いな~」と感じる75Aを基準に74A以下、75A~125A、126A以上の少なくとも3つ程度に分けて高出力型の設置を促す料金形態に変更するべき。
日本メーカー製PHVとBEVとの充電待ち回避も考えるなら60A以下、61A~85A、86A~125A、126A以上の4段階にすれば、ブログ本文で課題とされている従量課金の実現の解決にも繋がります。
イーモビリティパワーが設置事業者に支払う提携料が変更になれば、時間課金の単価も電流に応じたものになるので、PHVは低電流機、アイ・ミーブやZE1リーフ40kWh型は125A機、リーフ+eなどは高出力機と車の受入れ最大電流値に応じた充電設備を選べ、充電待ち回避にも繋がります。
引用元 eMP一般提携契約の条件
https://www.e-mobipower.co.jp/partner/info/
提携料のお支払い
当社は、設置事業者さまに対し、会員用認証カードによる提携充電器利用に係る料金を提携料としてお支払しします。
・支払条件:1 回/年
・支払単価:急速充電器 10.78 円(税抜価格 9.8 円)/分
普通充電器 1.65 円(税抜価格 1.5 円)/分
2)30A(6kW)普通充電の推進
駆動用電池の大容量化に伴い、15A(3kW)普通充電だと深夜料金時間帯だけで満充電にならない状況が発生しています。
またイオンモール等に設置されているオレンジ色ケーブルが目印の30A(6kW)対応のNEC製クラウド型普通充電設備も15A(3kW)に制限して運用しています。
30A(6kW)普通充電の推進もイーモビリティパワーが設置事業者に支払う提携料を見直し、電流が大きくなっても電流に応じた料金が支払われる形にするべき。
30A(6kW)で普通充電出来れば(現状ではZE1リーフやe-NV200の一部しか対応していませんが)、イオンや7&iで3時間充電すれば18kWh充電出来るので、ZE1リーフ40kWh型で100Aで30分休息した場合と同等の電力を充電出来ます。
上記から少なくとも「急速充電インフラの高出力化」、「従量課金の実現」は、イーモビリティパワーが設置事業者に支払う提携料を見直すことで複数の項目が改善されると思います。
いわれてみればJCNって40kW以上の充電器ばかり設置してますよね…その分ビジター料金高かったけど維持費的に仕方ないと納得もしたり。
ついでに電力会社が絡めば電気事業法の改革も進むかもしれませんよ!?電気主任技術者視線でも低圧受電最大49kWネックと感じてますー[実際高圧受電100kVA未満の需要家が維持費高いと愚痴をこぼす]。低圧受電を99kWまで拡大すれば充電器も90kWまで比較的簡単に設置でき電気自動車充電への不安も幾分減ると思いますよ?
このへんは電気の現場に携わる電気自動車乗りを増やして声を大きくするのが得策やないですか!?僕はその一人として今後も活動していきますよ!?
NCSは出資関係から自動車メーカー間の思惑がどうしても絡んで来ても仕方のない状況でしたが、イーモビリティパワーは自動車メーカー間の思惑は排除されることが期待できますので、それでも強引に足を引っ張る勢力が無ければ今後のインフラは期待できそうです。
JCNには今まで散々お世話になってきましたので、感謝の気持ちで一杯です。
特にJCNが開発した(させた?)スマホアプリの高速充電なびは大変使いやすく優秀なソフトウェアです。
経路で探索すると最短経路となるので、充電スポットが少ない経路となってしまうこともありましたが、欲を言えば、そこは充電スポットがそこそこ多くなる経路も選択される機能も欲しいと思っています。
この高速充電なびのメンテナンスも表面ではイーモビリティパワーが引き継ぐのだと思いますが、実際は相見積を取りつつどこかの委託先に任せるはず。
アユダンテ様、是非とも御社が名乗りを上げて高速充電なびを引き継いで頂けると安心できます。宜しくです。
いいニュースだと思います、電力会社が経営母体であれば従量課金になるはずですね。今迄の時間課金では詐欺行為の様な気がします。いずれにせよ設置台数を大幅に増やしていかないと益々世界から取り残されてしまいますね。