お台場に電動カートレース場ができた
ジャパン・モビリティ・ショーが開催されていた10月28日、トムスは『CITY CIRCUIT TOKYO BAY(シティサーキット東京ベイ)』をプレオープンしました。場所は、東京臨界副都心エリアのパレットタウン跡地です。メガウェブがあったエリアでもあります。
設置されたコースは、屋外の全長400mの本格的なカートコースと、屋内のキッズカート用コースの2種類です。
この他、トムスが独自開発したシミュレーターでは、実際のコースをトレースすることができるようになっています。シミュレーターはステアリングの重さも実車を模しているそうです。
敷地内には、一般の人が入れる観覧スペースの他、VIPエリアも用意されています。シャワールームやロッカールームもあるのでレーシングスーツに着替えることもできます。
シティサーキット東京ベイでは、11月22日まで特別プログラムとして『プレオープンフェスティバル』を実施中で、グランドオープンは11月23日の予定です。
EVsmartブログでは何度かお伝えしてきたように、トムスは電動レーシングカートを独自に開発して、カートの全日本選手権EV部門に提供しています。
2022年にはお台場で行われた『モータースポーツジャパン』に併せて、1周500mのカートコース『MSJ シティ・サーキット』を臨時に設置して全日本カート選手権のEV部門最終戦を実施したほか、電動のレンタルカートをお披露目しました。
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2030年に世界で100カ所が目標
今回、設置されたコースは、全長400mで、2m弱の高低差があります。舗装は通常のサーキットと同様のものだそうです。
なお現在はまだ検討中ということですが、全長を500mに延伸して全日本カート選手権が開催できるようにすることも視野に入れているそうです。その際には、仮設のスタンドを設置する可能性もあります。
株式会社トムスの谷本勲社長は記者会見で、EVカートの施設はラウンドワンのようなイメージだと話し、「2030年に100店舗という方針を掲げている。EVカートは小さい施設でも楽しめるし、下をコンクリートにすればスリックカートのように走ることもできる。駅前の商業施設などにも展開したい」と、将来の目標を述べました。
なお、この「100店舗」という目標は、日本だけではなく海外も視野に入れた数字で、谷本社長は「とくにアジア圏の主要都市は候補地と考えている」と述べていいます。さらに田村吾郎・経営戦略室室長は、国内よりも国外の方が「キャッシュフローも車への興味もある」という見方を示しています。
国外についてはこれから本格的に動き出すところですが、国内は、広島市の再開発事業の中で電動カート施設を設置する計画が進行中です。東京と広島だけでなく、全国各地に気軽に電動カートで遊べる施設が増えたら楽しいだろうなあと思うのです。
カートの出力特性は遠隔操作可能
シティサーキット東京ベイではレンタル用カートとして、屋外用と、屋内コースで使用するキッズカートの2種類を用意しています。
屋外用のカートは、通常のレーシングカートのようにタイヤが剥き出しだと接触したときに危ないので、ガードを付けています。これなら少々ぶつかっても大丈夫そうです。
ベースのフレームやモーターなどは既成パーツを使用していますが、バッテリーなどと組み合わせた全体のシステムはトムスのオリジナルです。バッテリーの中身やモーターなど、細かい仕様は公表されていません。
以前、全日本選手権EV部門を取材した時に、選手権で使用しているカート『TOM’S EVK22』の仕様は少し判明しました。この時は、バッテリー容量は左右合わせて10.7kWh、最高速は120km/hというスペックでした。コントローラーは、EV用としては知られているイギリスのSEVCON製です。
今回のレンタル用電動カートは、全日本選手権用のカートとは大きく仕様が変わっています。最大出力を抑え、最高速度は100km/hに届かないようですが、営業時には70km/hに制限する予定です。でも、設置されたコースはトリッキーな部分があるので、この速度でも十分に楽しめそうです。
レンタルカートの出力特性や最高出力などは、遠隔でコントロールが可能です。走行中でも、危険な状況があれば全車一斉に速度を落としたり、イエローフラッグに合わせて速度規制をしたりすることができます。
手前味噌な話ではあるのですが、カートの遠隔操作と聞いて思い出したのが、20数年前に日本EVクラブで製作した電動レーシングカート(ERK)でした。当時、どんな方法で通信をしていたのか記憶があまりないのですが、走行中にリアルタイムで出力特性を変更することができました。
そんなテスト走行を見ながら、「これが進めばドライバー不要になったりするのかなあ」と思ったのでした。今のところまだドライバー不要にはなっていませんが、AIの進化次第で、チェスや囲碁、将棋のように人間を超えるドローンレーサーが生まれるのかもしれません。
低速トルクを抑えた出力設定
ということで、筆者も走ってみました。舗装路で電動カートに乗るのは何年ぶりだか覚えていないくらい久しぶりです。
レンタルカートに乗る場合、開催中のプレイベントではヘルメットを貸し出しています。またヘルメットの下にかぶるバラクラバ(マスク)も提供されて、持ち帰ることができます。
コースは、ピットロードが屋内の乗降エリアに引き込まれています。出るときは屋内から本コースに合流します。秘密基地から発進するみたいでちょっとワクワクします。
走り出してすぐに感じたのは、低速のトルクを抑えていることでした。そのため、アクセルコントロールで姿勢を制御するのがちょっと難しくなっています。タイヤをすべらせないで、グリップ走行を心がけないといけないようです。
カートはもともと駆動輪にデフ機構がないためステアリングを切るのに少し力がいります。そのうえ電動カートは、重たいです。そのため電動カートを思い通りに動かそうとすると、けっこう腕がしびれます。
今回のレンタルカートも同様で、やっぱりステアリングは重めです。それにアクセル操作で向きを変えることができないので、Rのきついコーナーもステアリングで曲げるしかなく、その分、重さを感じたように思いました。
なお低速トルクを下げているのは、タイヤの消耗を抑えるためだそうです。言われてみると、パワースライドで姿勢を変えるなんてことをしていたら、タイヤはすぐになくなりそうです。それにカートのタイヤはけっこう高いのです。
最高速は十分で頭を使うコースレイアウト
一方で最高速は、このコースの中では十分と感じました。アクセルを踏んだまま入っていける中速~高速コーナーがあるほか、低速コーナーはトルクの小ささをカバーする走り方をしないとタイムが出ません。ちゃんと頭を使わないといけないコース設定になっている印象です。
などといろいろ書いていますが、筆者は、乗る前に走行ルールの説明がなかったこともあって、前の車についていかなければいけないと思い込んでゆっくり走っていたら、後ろから追い抜かれて周回遅れになってしまったのでした。
「あ、自由に走っていいんだ」とわかったものの、時すでに遅し。2周目の半ばまでゆっくり走っていたのでコースの感覚がわからなかったこともあって、急に速度を上げた3周目にスピンするという失態まで演じてしまいました。
結局、3周目の途中で他の車がチェッカーを受けてしまって、予定の4周を走れなかったのでした。残念無念です。だいぶ悔しいので、いつか再チャレンジしようと思います。
走りながら考える5年間か
シティサーキット東京ベイは11月10日現在、プレオープンイベントのためカートのレンタル料金は2時間で6000円という特別な価格設定になっています。
11月23日からの通常営業の料金は、会見時のプレゼンでは、通常走行の場合は昼は10分(走行6分、乗降4分)で3500円から、夜は4500円から、最大10台でのグループ走行は10分で昼は3万5000円から、夜は4万円から、最大10台でのレース走行は、練習走行5分、予選タイムアタック4周、決勝レース5分のセットで昼8万円から、夜10万円から、などとなっています。
この他、シミュレーターは10分(走行10分、乗降3分)で1000円からです。
ただ、この料金設定について田村室長は「どんどん変えるつもりです」と話しています。例えばホテルの宿泊料金やエアチケットなどのように繁忙期と閑散期で料金設定を変えるダイナミックプライシングを採用する可能性もあるそうです。
雨天でもレインタイヤではなくスリックタイヤのまま走行予定とのことですが、これも実際に運用してみてから決めることになります。
トムスはエンターテインメント施設の運営者ではないので、シティサーキット東京ベイのような施設運営は初めての経験です。施設運営はノウハウが必要でもあり、料金も運営方法も、走りながら考えることになるのでしょう。その過程でファンをつかむことができるかどうかがポイントかもしれません。
ところでシティサーキット東京ベイの土地は5年間の期間限定利用になっています。土地の利用代と建設費がいくらなのかは明示されていませんが、10億には届かないと、田村室長はコメントしました。5年間で10億円を回収して利益を出すのは、簡単ではないように感じますが、田村室長は1日300人ならいけると話しています。
折しも2024年春は、世界選手権のフォーミュラEがお台場で開催される予定です。以前、谷本社長は筆者に、「文脈から言えば、(フォーミュラEの)前座だったらこれ(EVカート)でしょと思っている」と話しました。その通りだと思います。
お台場開催のフォーミュラEやシティサーキット東京ベイの成功を足がかりに、日本に電動モータースポーツが定着することを願う日々です。
取材・文/木野 龍逸