東京消防庁が日本初導入したEV救急車に感じる「がんばれニッポン!」

2020年3月31日、東京消防庁が日本で初めてとなる電気自動車(EV)の救急車を導入し、池袋消防署に配置したことを発表しました。市販電気自動車の車種がなかなか増えない中、はたして、どんな電気自動車なのか。広報ご担当の部署に聞いてみました。

東京消防庁が日本初導入したEV救急車に感じる「がんばれニッポン!」

日産『NV400』の改造車で値段は約8143万円

東京消防庁のTwitterで、【日本初!電気自動車の救急車を導入】と投稿されたのは3月31日のこと。公式サイトのニュースでも紹介されていましたが、どんな電気自動車なのか、詳しいことはわかりません。一部、交通系メディアの報道では、日産『NV400』という車種をEV救急車に改造したとのこと。

EV救急車導入の目的は、東京都が掲げる『ゼロエミッション東京』(関連記事にリンク)に向けた施策のひとつ。配置先である池袋消防署の『デイタイム救急隊』は、育児や介護などで24時間勤務が困難な救急隊員が時短勤務しやすいようにという配慮から2019年5月に発足した、働き方改革に対応した組織ということです。

『NV400』という車種は日産がイギリスを含むヨーロッパを中心に販売している大型のワゴン車です。全幅がミラーなしで約2.1m。全長はバリエーションがありますが、約5.5〜6.2m程度。最大積載量も1〜1.6トンくらいを誇る、かなり逞しいスペックです。欧州でも、NV400のEVモデルは発売されていないので、東京消防庁の要望に合わせて日産がEVに改造、救急車としての架装を施した1台ということですね。

イギリス日産のウェブサイトから引用。

ちなみに、今回のEV救急車導入に当たって東京消防庁では入札を実施。入札に応じたのは日産だけだったそうです。

はたして、どんな電気自動車なのか。もう少し詳しいことを聞くために、東京消防庁の「広報報道係」という部署に連絡を取ったのが、4月21日のことでした。折しも、コロナウィルス感染拡大防止の緊急事態宣言の中、ゴールデンウィークとも重なり、実際に取材に伺うことはできなかったのですが、連休が明けた5月7日、メールで送った質問への回答をいただいたのでご紹介します。

東京消防庁への質問と回答

●入札はいつごろ実施? 発注からの納入期間は?
令和元年(2019年)4月に公示、5月に開札しました。(納入期間は)約11カ月です。

●提示したおもな条件は?
電気自動車であること。電動ストレッチャー、電動ファスナーを装備すること。車内にEN規格を採用すること等が、主な仕様です。

●特注仕様とのこと。e-NV200 では小さかった?
救急資器材、医療機器を積載すると、e-NV200 の許容荷重をオーバーしてしまいます。車内寸法も、処置を行うために必要なスペースを確保できなくなります。

●価格は?
8142万5570円(都の入札情報より回答しております)。

●電池容量は?
33kWhです。一回の充電で走れる距離としては130km(JC08)。

●電池やパワートレインなどは日産リーフと同じもの?
別のものです。

●充電設備はどのようなものをどこに設置されましたか?
池袋消防署に200V普通充電器を設置しました。

100Vのケーブルも繫がっているのは、おそらく電動の医療機器などに給電するバッテリーへの充電かと推察します。

●デイタイム救急隊は都内全域に設置されているのですか?
デイタイム救急隊は昨年度から1署(池袋)で試行中であり、効果について検証した上で、今後の設置について検討して参ります。

●今後、導入台数増加の計画は?
まずは、導入された電気救急車を含む電気自動車の運用状況を確認しながら、 救急車に限らず、EV、FCV、PHVといったゼロエミッションビークルの導入について検討してまいります。

市販EVにもっとバリエーションがあれば……

なぜ、一充電航続距離が「JC08」なのかとか、「電動ファスナー」って何? とか、いろいろ突っ込んで聞きたいこともありますが、電池容量を含め、知りたいことはおおむねわかりました。

ちなみに、「EN規格」はEU版のJISとかISOみたいな規格。つまりは国際標準規格といった意味かと思います。「電動ファスナー」というのは、ストレッチャーを支えるリフト装置のようです。日本ストライカーという医療機器メーカーが、日産の車両に実装して2019年の東京モーターショーに出展していたようで、リリースの写真があったので紹介しておきます。

電動ストレッチャー。

電動ファスナー。

突っ込んで確認はしていませんが、東京消防庁が提供してくれたEV救急車車内の写真を見ると、搭載されている電動ストレッチャー&電動ファスナーは、まさにこのメーカーの機器のようです。

EV救急車の車内。

さて、なにはともあれ気になるのが「約8143万円」という価格です。なんというか、豪邸一軒建ちそうな金額です。

いろいろと調べてみたところ、一般的な救急車の価格は2000万円程度らしいのでざっくりいって約4倍。電動ストレッチャーなどの最新装備がそれなりにコストがかかるとしても高すぎる印象は否めません。日本国内で導入されているEVバスにも「一点もの」の改造EVが多いですが、今回の救急車もオーダーメイドEVならではの高価、ということができるでしょう。

細かな実例を挙げると長くなるので割愛しますが、「EVだから高価なのはしょうがない」というのは、すでに時代遅れの感覚になりつつあります。中国メーカーであるBYDのEVバスが日本でもどんどん導入されているように、メーカーが本気になって開発すれば、エンジン車とも競争力のある電気自動車を発売することはできるはず。商用車バンや小型トラック、もちろん乗用車にも幅広く、日本の自動車メーカーが電動車を開発して発売していれば、もっとお手頃価格でEV救急車を調達することができるはずです。そして、そうならなければ、今後、さらにEV救急車が増えていくことにはならないでしょう。

ZEBの普及を実現するためにも、車種バリエーションの拡充を!

東京消防庁では、今回の「EV救急車」だけでなく、光岡自動車の3輪電気自動車である『Like-T3』を、2019年末に導入しています。

いわゆる「電動トライク」の導入を決めたのは、「”セーフ シティ” 実現に向けた取組の一環として、消防活動の早期着手等による被害の軽減や都民の多様な要望に応えていくことを目的に、千住ファーストエイドチームの運用を開始しました。この千住ファーストエイドチームでは、災害の初動対応に必要な各種装備、資器材が積載でき、狭あい地域で取り回しが良く環境への負担が少ないことから、電動トライクを採用しています」とのこと。現在、千住消防署に2台が配備されています。

前述したように、ZEV普及に前向きな東京都の方針を受けて、東京消防庁ではEVをはじめとするZEVの導入には意欲的です。

電気自動車導入事例や計画を伺う質問に対して、「当庁の電気自動車の導入事例は、乗用車の日産リーフ(平成30年度)、電動スクーター(救急EVバイク、平成30年度)、小型電気自動車(即応対処部隊の先行車、令和元年度)、救急車(池袋の特殊救急車、令和元年度)があります。今後の計画は具体的には決まっていませんが、FCV、EV、PHVの積極的な導入を図っていきます」という答えもいただきました(前述質問の回答から、EVとFCVの順番が入れ替わっている意図はわかりません)。

素晴らしい。でも、いかんせん、ますますの電動車両導入を広げていくには大切な税金で買うべき車種がない。大雑把なエールで恐縮ですが、がんばれ日産、がんばれニッポンの自動車メーカーという思いが募ります。

追記(2020.5.11)

日本EVクラブの仲間でもあるFさんから、このEV救急車のベースは「ルノー『MASTER Z.E.』のUK仕様だと思う」という指摘をいただきました。

『New Renault MASTER Z.E.』(ルノーUKの公式サイトにリンク)

そもそも、欧州日産の『NV400』は、ルノーからのOEMのようです。なるほど、電池容量は33kWhで、東京消防庁のEV救急車のスペックとも合致します。パワートレインや電池は「リーフと同じ?」という質問に「別のもの」と、とても明確な回答だったことにも納得です。NV400のエクステリアに、この市販EVのパワートレインを臓器移植した、と考えるのが合理的かと思います。

『MASTER Z.E.』の一充電航続距離カタログスペックは75マイル(=約121km ※WLTC)。EPA換算推計値では約108kmとなります。価格は約5万7000ポンド(約756万円)〜。臓器移植などのコストを勘案すると、ベース車両の価格はおおむね1000〜1500万円くらい、といった感じでしょうか。とすると、その他の装備に6000〜7000万円?? うむむうう。

追記(2020.5.19)

5月18日、日産自動車から、このEV救急車に関するリリースが発信されました。

「日産は持続可能なモビリティによって、ゼロ・エミッション、ゼロ・フェイタリティ社会の実現に向けて貢献していきます。本車両は、地域社会において環境にやさしいクルマがより利用しやすくなっていく、大きな事例の一つとなるでしょう」と同社の最高執行責任者兼チーフパフォーマンスオフィサーであるアシュワニ グプタは語りました、とのこと。

また「本車両は33kWhと8kWhの2つのリチウムイオンバッテリーを搭載しているため、電装機器やエアコンをより長時間作動させることが可能で、停電時や災害時には移動電源としても活用することができます」ということです。

公表された主要諸元を転記しておきます。車両価格や今後の具体的な展開についての言及はありませんでした。

【車両諸元情報】
車両サイズ:全長 5,548mm、全幅 2,070mm、全高 2,499mm
車両総重量:3.5トン
乗車定員:7名
モーター:最大出力 55kW、最大トルク 220Nm
駆動用バッテリー:容量 33kWh、充電 AC200V 最大 7kw 普通充電(タイプ2)
装備品用バッテリー:容量 8kWh、充電 AC100V 1.5kW
駆動方式:前輪駆動

(取材・文/寄本 好則)

この記事の著者


					YORIMOTO Yoshinori

YORIMOTO Yoshinori

兵庫県但馬地方出身。旅雑誌などを経て『週刊SPA!』や『日経エンタテインメント!』の連載などライターとして活動しつつ編集プロダクションを主宰。近年はウェブメディアを中心に電気自動車と環境&社会課題を中心とした取材と情報発信を展開している。剣道四段。著書に『電気自動車で幸せになる』『EV時代の夜明け』(Kindle)『旬紀行―「とびきり」を味わうためだけの旅』(扶桑社)などがある。日本EVクラブのメンバーとして、2013年にはEVスーパーセブンで日本一周急速充電の旅を達成した。

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