バス業界注目のイベントでも電気バスが主役に
2022年11月22日、千葉県の幕張メッセで「第8回 バステク in 首都圏」(主催/株式会社ぽると出版)が開催されました。「バステク」とは、電気バスなどを含む最新鋭バス、バス用の最新機材やサービスなどに関する企業が集結。バスの試乗(客席だけでなく、大型免許があれば運転もできる!)や安全装備のデモンストレーションも行う体験型バスイベントです。
このイベントに、福岡県北九州市に本社を置く「EVモーターズ・ジャパン」が、初登場となる8.8m観光バス(試乗&試運転)と10.5m路線バス(展示のみ)、2車種のEVバスを出展しました。EVモーターズ・ジャパンについては、以前『EVモーターズ・ジャパンの心意気~電動化は脱化石燃料を実現するための日本の生き残り戦略』という記事で紹介したように、EVsmartブログとしても注目&応援しているEVベンチャー企業です。
実は、私、というかEVsmartブログ編集部は22日の「バステク」を現地取材に行けなかったのですが。イベント翌日である23日、EVモーターズ・ジャパン(以下、EVM-J)の広報ご担当者が、イベントの様子とともに、現場で撮影した写真などを送ってくださいました。興味深いポイントもあったので、速報記事をお届けすることにした次第です。
興味深いポイント「その1」は、バステクはことさらにEVバスを中心にしたイベントではないものの、今回の出展車両を見ると、EVM-Jの2台以外にも何台かのEVバスが出展されており、主催者が作成したリーフレットやイベント告知の写真の大きさなどを見るに、「イベントの主役」ともいえる存在感を占め始めていることです。
出展車両の、アルテックの『カルサン e-JEST小型電気バス』、オノエンジニアリング『9m級路線バス』、アルファバスジャパン『ECITY L10』はまだ実車を見たことも関係者に取材したこともなかったので、やはり、なんとか時間を工面して取材に行けば良かったなと悔やみつつ。
EVM-Jの広報担当者によると、試乗&試運転で出展した8.8m観光バス(F8 series-6 Coach)は約25名のドライバーが試運転して約400名が客席試乗を堪能。来場者に実施した「展示内容で印象的だったもの(3点まで選択可能)」というアンケートで、断然トップとなるなど、EVM-Jの取り組みやEVバスが高く評価されたということです。
国交省の藤井直樹事務次官、堀内丈太郎自動車局長といった方々もバステク開催前にEVM-JのEVバス試乗を体験されたとのこと。電気バス、ひいてはEVの魅力や必要性を、国のキーパーソンのみなさんにもますます実感していただければ、と思います。
北九州からどうやって運ぶの? 充電は?
イベントとは直接関係ない話ではありますが。EVバスを出展という話を聞いて、私が気になったのが「北九州の本社から千葉の幕張まで、どうやってEVバスを運んだの?」ということ。そして「試乗会などで、充電はどうしたの?」という疑問です。
EVM-Jのバスは急速充電のチャデモ規格に対応しているはずですが、北九州のEVM-J本社から幕張メッセまで、Googleマップで検索すると約1100kmあります。高速道路SAPAの急速充電器は駐車区画が狭いところが多いので、大型バスが充電するのは困難でしょう。
答えは「カーフェリーで運んで、ナンバーは取得できている車両なので港からは普通に走って会場へ運びました」ということでした。そりゃそうか、という回答ではあったのですが、突っ込んで話を聞く内に、興味深いこともわかりました。
今回、幕張メッセでの出展に先駆けて、EVバスはまず北九州の門司港〜大阪南港までフェリーで輸送。関西方面で数日間、数カ所での試乗会などを行い、再び大阪南港〜有明港までフェリー。幕張の会場へと走行したとのこと。さらに、22日のイベント終了後は28日に名古屋で試乗会を行うというのです。
多くの企業が集うイベント時に限らず、EVM-Jでは全国各地で独自にEVバスの普及活動を展開している、ということですね。
また、試乗車の充電については、事前にしっかり充電するのでイベント中の充電は必要なく、「発電機と自社製の小型急速充電器でイベント終了後の移動に向けて充電している」とのこと。写真も送っていただきました。
トラックの荷台に急速充電器が隠れているそうです。EVM-J製の持ち運び可能でコンパクトな急速充電器を発電機と繋いで使用しているとのことでした。
少し話が飛びますが「EVバスは充電器とともに移動」と聞いて、私も活動に関わっている日本EVクラブで2008年に実施した「CO2削減EV洞爺湖キャラバン(ジャーナリストによるリレーブログページへリンク)」を思い出しました。
2008年7月、洞爺湖で開催されたサミット(先進国首脳会議)へ向けて、まだ市販されていなかった三菱『i-MiEV』と、スバル『R1e』というEVで、石井昌道さんや国沢光宏さん、片岡英明さんらのモータージャーナリストが交替で運転しながら東京から洞爺湖まで走破するというチャレンジです。当然、当時の日本に急速充電インフラなんて存在していなかったので、現在はe-Mobility Power、そしてチャデモ協議会の会長でもある東京電力の姉川さんらの尽力で、行く先々で電気工事して急速充電器を仮設置、充電しながら進んでいくというウルトラCな荒技を展開したのです。残念ながら当時の私は家のローンに追われて小銭稼ぎに懸命で、この旅に同行はできなかったのですが……。
今の日本は、まだまだ本格的なEV普及の黎明期。15年、20年前と同様に、EVの魅力を広めるためには、関係者の手仕事的な力業が不可欠なんだなぁといった感慨を覚えたのでした。
それにしても、改めて1994年に日本EVクラブが設立されてからのあれこれを思い起こすと、日本でなかなかEVが普及しないことへのじれったさを感じます。個人的に、以前から「EVが普及しないのは欲しくて買えるEVがないのが最大の理由」と叫んできました。「ユーザー」という言葉が示すように、われわれ消費者がどんなに望んだところで、自動車メーカーが「欲しくて買えるEV」を発売してくれないことには、普及なんてするはずはないのです。
さすがに、個人でバスを買うことはできない(EVM-Jでは小型商用車なども開発中)ですけど。魅力的なEVを社会に提案するという意味においても、EVM-Jのチャレンジは素晴らしいと感じます。
そして、今回のバステクに出展されていたEVバス。EVM-Jは中国メーカーと提携して開発&生産しているし、オノエンジニアリングやアルファバスジャパンも中国製EVバスの輸入販売。アルテックのカルサン e-JESTはトルコのメーカーが生産し、欧州ですでに人気を拡げている車種とのこと。残念ながら、日本のバスメーカーによるEVバスはありません。
かくなる上は、EVM-JをはじめとするEVベンチャーへの期待が膨らみます。
EVM-Jでは、2023年秋には、北九州で商用EVの最終組み立て工場を建設して稼働予定。その場所を活用して、ゼロエミッション社会の実現をコンセプトとした体感型EV複合施設「ゼロエミッションe-PARK」を建設することを発表しています。
がんばれ、EVM-J。目を覚ませ、既存の日本メーカー! という思いを強く感じるニュースなのでした。
【編集部注】 車名略称、充電方法など、一部修正しました。(2022.11.24)
(取材・文/寄本 好則)
バスオタにはたまらない話題ですな(笑)一時期既存のディーゼルエンジンバス改造車が出回っていましたし。
しかし肝心の日野がエンジン問題を起こし一部車種は生産停止しましたよね…早急に改善して生産再開の際には電動化も推し進めていただきたいです。
※本質はVWのディーゼル排気ガス不正と大差ないとみた。
その日野自動車も路線バス向けに東芝と組んでEVバスを出してた記憶ですが…航続距離が短けりゃ営業所で充電すればいいですよ。運転手の休憩も労働基準法などで決まっているはずですし←それが重要。
高速貸切系車種にしてもエンジンとモーターのハイブリッドにするべきです。鉄道でさえJR東海が「発電機つきハイブリッド電車」HC85系特急ひだ号を運行している以上、バスもそれに追随する時が来たと感じますよ。当然ハイブリッドだと充放電が多いから電池はタフな東芝SCiBになりますが…問題は電池重量と格納スペース、ただでさえ冷房機器を車体上部に配置してラゲッジスペースと乗務員仮眠室確保に苦心してますから。
普段EVばかり乗っているせいか、ごくたまに路線バスに乗ると、あまりのワイルドさに”コレはないなー”と思ってしまいます。(自分のエリアのバスが古いのかもしれないけど。)増加していく高齢者に優しいバスが早く普及しないかな・・福祉名目で政府が補助付けたりできないのだろうか。