ヒョンデ『IONIQ5』がお出迎え
東急線の二子玉川駅に隣接する二子玉川ライズのイベントスペース(中央広場)&ガレリアで、昨年に続き2回目となる『EV:LIFE FUTAKOTAMAGAWA 2022』が開催された。二子玉川駅改札を出て右手に向かうと、すぐ会場がある。最初に目に飛び込んできたのは、催し看板の横に出展されたヒョンデ(現代)のIONIQ(アイオニック)5だった。そのうしろに、燃料電池車(FCV)のNEXO(ネッソ)が並ぶ。
ヒョンデは2月初旬に、12年ぶりに日本市場へ電気自動車(EV)とFCVで参入することを発表した。日本の脱二酸化炭素への貢献と、前回日本市場へ参入した際の顧客との絆を保つためと、ヒョンデの張在勲(チャン・ジェフン)CEOは記者会見で語った。それでも、なぜ、いま、改めて日本なのか? という疑問は解消しなかった。
今回の出展に際し、そこを確認すると、日本市場は小さいといわれながらも、国単位で見れば中国、米国に次ぐ3番目の規模であり、また日本の消費者は品質に対し厳しく、日本で評価を得られれば、ヒョンデの商品性や品質は世界最高水準になるだろうとの期待があるという。その考え方は、チャンCEOが、かつてカルソニックカンセイ(現マレリ)で働いた経験があり、日本市場の品質への厳しい目を直に体験したことが背景にある。またその経歴があることで日本語が堪能だとのことだ。
この話を聞いて改めてIONIQ5を見ると、スッキリした爽快さのあるつくりで、親近感がある。何かをことさら強く主張する違和感を覚えさせず、EVをつくり慣れた様子がうかがえる。室内には開放感があり、機能が適切に配置され、時代の先端にある一台という手ごたえも感じさせた。
IONIQ5と同じプラットフォームを使うキア(起亜)EV6は、今年の欧州カー・オブ・ザ・イヤーを受賞している。IONIQ5も3番目の得点を獲得したことからも、走りの本場とされる欧州で高い評価を受けた一端を、内外装を見るだけでも伝えてきた。そのうえで、まだ試乗はしていないが気付いたことは、部品の質感であった。もう少し上質さを出せれば、上級車種としてEVの価値が高まるだろう。ヒョンデのチャンCEOが日本市場に期待したのはそうした品質の向上ではないかと思った。
5月から始まるというインターネットを通じた受注は、販売、分割払い、そして残価設定での支払いであり、リースについては現在検討中とのことだ。
ソニーの『VISION-S 02』も国内初公開
会場中央付近に並んだのは、数日前にホンダと合弁会社設立を発表したソニーのVISION-S 02と01だった。人だかりが目立ったのはこれだった。また、01と02が並ぶと、今年発表された新しい02の仕上がり品質は01より高く見え、全体の調和や仕上がりが向上している。
違和感がなく、親しみやすさを覚えさせる造形は、IONIQ5同様にEVであることをことさら主張したり片意地を張ったりせず、素直に理想像を思い浮かべ形づくられた様子が伺える。
内装は正面のダッシュボードに液晶画面が並び、それはすでに我々はホンダeでも経験している。だが、02は淡い内装色やガラス張りの天井ということもあるだろうが、あたかも劇場や居間でくつろぎながら画面を見るといった空間になっていることに気づかされる。一方ホンダeのダッシュボードは、従来にない斬新さはあってもあくまでクルマの内装という印象だ。
ホンダとの合弁会社設立の意義
良し悪しではなく、まさにそこが、ホンダとソニーが合弁会社を設立し、EVを製造・販売する意義だと感じた。たとえばソニーからホンダへ転職したり、出向したりするだけでは、VISION-S 02のような空間づくりはできないだろう。かといって、ホンダがソニーやその他企業で娯楽を含めた快適性を学んだとしても、ホンダに戻ればクルマの室内空間の域を出ないのではないか。
合弁会社という新しい器のなかで、従来の概念にとらわれず企画構想し、それを実現する段階で、記者会見でホンダの三部敏宏社長が語った化学反応が起こる可能性はある。そのとき、世界のどの自動車メーカーもなしえなかった、EVならではの世界感が生まれるのではないか。先鞭をつけたのは、米国テスラである。だが、VISION-S02が見せた室内空間は、さらに次の何かを期待させた。
トヨタが『bZ4X』を世に問う意義
トヨタはbZ4Xを出展した。並んで、SUBARUソルテラも置かれていた。車両説明に立ったトヨタ広報担当者は、声を掛けてくる見学者が、トヨタの報道発表に隅々まで目を通し、十分な知識を携え見に来ていることが印象深いと話した。EVではそうした来場者があることを、トヨタははじめて体験したのではないか。
日本市場でのEV販売は1%に満たないとはいえ、関心が薄いわけではない。ことにEVの展示や試乗に来場する人々は非常に高い関心をもっていることが稀ではない。そうした意識が高いユーザーへのトヨタの驚きのなかに、10年遅れてようやく市場導入を果たしたトヨタの初々しさが滲みでていた。
マツダも、MX-30のEVをマイルドハイブリッド車のあとから市場導入した際、自宅に太陽光発電を設置して待ちかねていた顧客の存在に、開発責任者は驚きと感動を覚えていた。EVの現場とは、そういう世界である。つまり、単にエンジン車やハイブリッド車(HV)の次という位置づけではなく、EVは電気を有効活用し、環境により高い配慮を持った快い暮らしの創造を呼び起こすクルマなのである。
だからこそ、EVsmartブログ編集長がSOC表示の重要性をbZ4Xの記事で記したのであり、トヨタ広報はさっそくIONIQ5はどうであるか確かめに行ったという。もちろん、IONIQ5にはSOCの表示がある。
そのようなEVにとって大事な装備や思いにトヨタが気付いたことだけでも、bZ4Xを今年世に問う意味は大きいだろう。SUBARUも、ようやく市販EVを出したのだから、関心の高い消費者との接点を積極的に増やしていくことが重要になると思う。
次世代車の主役はやはり電気自動車
会場入り口近く、IONIQ5の横に出展されていたのは、メルセデス・ベンツのEQSであった。研究施設に置いてあるものを持ち込んだとのことで、外観を確認できるのみで、窓ガラスは黒く塗りつぶされ室内を覗き見ることはできなかった。あわせて、EQCが出展されていた。
先に市販されたEQCやEQAは、顔つきなどにEQシリーズ専用の表情はあるが、エンジン車と共通の車体のEV化という仕立てだ。メルセデス・ベンツとしてきちんと仕上げられているが、EV専用としての新鮮さや驚きにはまだ不足がある。EQSがどのような仕様で現れるのか。Sクラスで採用したAR(拡張現実)や、前回の東京モーターショーで公開されたヴィジョンEQSの内装など含め、早く実物を確認し、試乗してみたいとの期待をもたらした。
会場全体を巡って改めて思うのは、次世代車とは、もはやHVでもPHEVでもなくEVだということだ。環境対応の側面だけでなく、EVであることによる静粛性や乗り心地の快適さ、重厚さ、そしてモーター駆動による壮快な速力などが、新たな移動感覚をもたらし、これまでにない移動空間の創造をもたらすことを意味する。だからこそ、ソニーが高い関心を持ち、娯楽という喜びを融合できるのではないかと、挑戦する腹を括ったのだと思う。
従来に比べよりよく、環境性能がよりよくなるといった面にしか目がいかない人にとって、いまは深い関心を持てないかもしれない。しかしヒョンデを含め、EVに熱心な自動車メーカーは、私が常々言ってきた「10年後の市場は変わる」という手ごたえを基に、21世紀を積極的に生きようと志す人々の移動手段として大きな期待を寄せていると感じた。
(取材・文/御堀 直嗣)
※記事中写真は御堀さんが撮影したもののほか、ル・ボラン編集部やテスラ関連の情報を発信しているテスカスさんからも提供いただきました。ありがとうございます。