東京都主催『EVバイクコレクション in TOKYO 2021』で実感できた電動バイクの世界

2021年12月4日〜5日、東京都は電動バイクを体験できる『EVバイクコレクション in TOKYO 2021』を開催しました。会場には国内外のいろいろな電動バイクが集合したほか、電動バイクのトライアルショーもあり、来場者も楽しんでいるようでした。展示されていた電動バイクを紹介します。

東京都主催『EVバイクコレクション in TOKYO 2021』で実感できた電動バイクの世界

電動バイクのこじんまりとした展示会

12月だというのに日差しのおかげでコートがあると汗ばむくらい暖かった日曜日、東京駅と有楽町駅の間にある東京国際フォーラムで開催されていた『EVバイクコレクション in TOKYO 2021』に行ってきました。コロナ禍のおかげで東京モーターショーも中止になったし、そもそも電動バイクはまだ少ないしで、実物をまとめて見る機会があまりありません。こういうときに見ておかないとです。

会場は東京国際フォーラム Eホール、の一画です。ホールの広さに比べるとこじんまりとした展示会場です。会場の半分が電動バイクの展示と試乗会、もう半分がイベント会場になっていました。

イベント会場では、全日本選手権を11回制覇したほかトライアルの世界選手権にも出場した黒山健一選手による、電動トライアルマシンのショーに来場者が拍手喝采でした。黒山選手のテクニックはもちろんですが、関西弁の話芸も素晴らしかったのです。トライアル芸人かと思いました。

展示ブースや試乗会にもけっこう人が集まっていて、会場は小さいのですが盛況な様子でした。あとで主催者の東京都環境局に聞くと、2日間で約3300人が来場したほか、初日は電動バイクの試乗予約が1時間で埋まるなど、予想以上の反響があったそうです。屋内のイベントで試乗やトライアルの実演ができるのは、電気ならではですね。

後日、東京都の担当者は筆者の電話取材に対し、電動バイクなどが「身近な乗り物として関心が高いことがわかった。認知度の向上には成果があったと思う」とコメントしました。

ということで、黒山選手の爆笑トライアルショーを見た後で、会場を回ってみました。回ると言っても、参加企業は、aidea、カワサキ、KTMグループ、トヨタ車体、BMW、プロト、ホンダ、ヤマハの8社です。電動バイクの数もそれほど多くないので、早歩きだと数分で1周してしまいます。

そう思っていたのですが、それぞれでお話を聞いていると興味深い話題もあり、あっという間に2時間以上も過ぎてしまいました。とくに気になった電動バイクをお伝えします。

安価でパワフルなプロトの電動バイク

最初に紹介するのは、オートバイのカスタムパーツなどを手がけている『プロト』の『GEV600』です。中国の電動モビリティメーカー、Gocciaの同名バイクを、日本仕様に仕立てて販売してます。

『プロト』は2017年に電動アシスト自転車の取り扱いを始め、2020年には『E-スクーター事業』を立ち上げて買い求めやすい価格や、乗り物として安心できるサービス体制の確立などをポイントに、商品開発をしてきたそうです。

そんなわけで、『GEV600』は、もともとの電動バイクの面影はほとんどないそうです。ダンパーもしっかりしているようですし、フロントブレーキはディスクブレーキになっています。フロントライトも大きくしています。

加えて、エネルギーマネジメントも変更して走行性能をアップさせたので、パワーモードのスタートダッシュには自信があると、担当者の方は胸を張っていました。原付一種なので定格出力は600Wですが、最大出力は1300Wです。トルクは公表されていませんが、モーターなので低回転域でのトルクは原付エンジンに勝りそうです。

自転車のVブレーキのようなものを付けた電動バイクには微塵の安全性も感じないのですが、これなら乗ってみたいなと思ったところ、『GEV600』は、取り扱っている二輪販売店で試乗ができるのだそうです。もともとプロトは二輪、四輪のパーツを扱っていることもあり、扱う商品の信頼性には気をつけているとのこと。ユーザーが安心して乗れるようにするために試乗車を揃えたと言います。試乗した人たちからは、「思ったより使える」という感想が多いと、担当者の方は話してくれました。

なお、バッテリー(960Wh=48V/20Ah)は取り外して充電するタイプで、重量は7.4kgです。それほど重くは感じません。週に2回の充電で4~5年の寿命を想定し、交換用バッテリーは5万円です。バッテリー交換の目安がはっきりしているのも安心材料になりそうです。

そして価格は16万2000円です。補助金の対象ではありませんが、排ガス規制が厳しくなっているため原付の価格も20万円以上するのがあたりまえの時代に、うれしい価格ではないかと思います。

aideaが四輪の電動小型車を発表

さて次は、EVsmartブログでも紹介したことのある電動乗り物メーカー『aidea(アイディア)』です。今回、アイディアは、すでに販売している電動3輪バイクの『AAカーゴ』を展示するとともに、超小型4輪(ミニカー)の『AA-i』を初公開しました。

ミニカーは、最大出力を600Wに抑えた1人乗りの4輪車です。パワーは原付1種と同じですが、2段階右折の必要がなくヘルメット不要で、最高速度が時速60kmになることなど、公道を走る時の利便性はずっと向上しています。日本では、今回の東京EVバイクコレクションにも出展していたトヨタ車体の『コムス』や、富山県の『タケオカ自動車工芸』の電動ミニカーが老舗ですが、市場拡大を考えると複数のメーカーがあったほうが盛り上がります。

加えて2021年6月には、ミニカーの最大積載量が従来の30kgから90kgに緩和されました。この変更は『コムス』を扱うトヨタ車体の要望が通った形だったと報じられていますす。荷物の重量が3倍になるのは圧倒的な差です。

こうしたこともあり、アイディアでは電動モビリティの「使い方の選択肢を与えたい」と考えて、ミニカー規格の『AA-i』を開発したそうです。

充電は『AAカーゴ』シリーズと同じくJ1772規格で、充電器を車載しています。バッテリー容量は7.7kWh、充電時間は200Vなら6時間です。このあたりの仕様は『AAカーゴ』と同じです。V2Xに対応しているところも『AAカーゴ』を踏襲しています。

特徴的なのは、4輪なのに曲がるときは車体がバンクすることです。この感覚は実際に乗ってみないとなんとも言えないのですが、楽しいだろうということは想像できます。曲がるときに傾けられるのは安定感の向上につながるのが大事な点ですが、個人的には、やっぱり気持ちいいと思うのです。

ちなみに昨年発売した『AAカーゴ』は、発売早々にマクドナルドでの試験導入を勝ち取りましたが、今では数百台に数が増えています。アイディアの担当者の話では、デリバリーの場合は高校生のアルバイトも多いため、原付免許で乗ることができる『AAカーゴ』がちょうどいいそうです。

【関連記事】
3輪電動スクーター『AAカーゴ』を発売した『アイディア』ってどんな会社?(2020年6月28日)

ということで、とても楽しみなミニカー規格の『AA-i』ですが、発売時期や価格はまだ未定です。市販が決まって試乗できるようになったら、できるだけ早く乗ってみたいと思います。ちょっとワクワクします。

自動二輪にも電動化の波がやってきた?

さて、ここからは少し駆け足でいきます。まず、見た目で目立っていたのが、BMWの『CE 04』です。発売予定は2022年、価格は1万3000ドル前後と予想されています。日本にも導入予定です。日本での区分は中型二輪(普通二輪)になります。

デザインは、個人的には好きです。直線的な車体のデザインが個人的には機関車というかロケットというか、とにかくエンジンのバイクでは無理だろう的な形状になっているのが気に入りました。既発売の電動バイク『C evolution』が既存の大型スクーター然としているのに対して、明らかに違う世界観があります。

充電は普通充電のみです。BMW担当者の話によると、電動スクーターのコンセプトは基本的には街乗り用です。バイクはバッテリーの搭載量に限りがあるため、ツーリング用途はあまり考えていないそうです。だから急速充電には対応していません。

日本の都市部はオートバイの駐車スペースがなくて困りものですが、こうした電動の乗り物についてはしばらく、特例措置を講じるなどしてほしいなあと思います。乗って楽しく、使って便利な乗り物でCO2削減ができるなら、こんないいことはありません。

大手二輪メーカーでは他に、ホンダとヤマハ、カワサキがブースを出していました。カワサキの2輪車はプロトタイプですが、テストコースで試験を繰り返しているそうです。

あれっ? と思ったのは、CHAdeMOの急速充電に対応していることです。前述したようにBMWは普通充電のみですし、オートバイでCHAdeMO対応は聞いたことがありません。

発売時期は未定ですが、カワサキは2021年10月6日の事業方針説明会で、世界的なカーボンニュートラルの動きに対応するためにバイクの電動化を進めること、2035年までに先進国向け主要モデルをすべてEVかHEVにすることを目指し、2025年までに10モデル以上を導入することを発表しました。ということは、CHAdeMO搭載の電動バイクが出てくる可能性も、なきにしもあらずです。

カワサキの出展ブース。

補助金含むとガソリンバイクより割安?

Honda の出展ブース。

最後になりましたが、ホンダとヤマハの電動バイクです。展示されていたのは、ホンダは2輪の『BENLY e』や3輪の『GYRO e』、ヤマハは『E-Vino』と、高級電動アシスト自転車でした。

これらのバイクを並べて見ていて、あっと思ったのは、安いことです。と言っても補助金を使うとことと、東京都であることが条件ですが。

例えば『BENLY e』はバッテリー2個と充電器2個のセットで59万円ですが、経産省6万円のほか、東京では都の補助金18万円があるので、実質的にガソリンエンジンのバイクと同じ価格になります。

『E-Vino』にいたっては、価格26万9600円で、経産省補助金2万6000円と、東京都なら8万円の助成金が出るので実質16万円になります。最近の原付1種は排ガス規制対策のために価格が上がっているので、電動バイクの方が安い感じです。いつまでも補助金を出し続けるのはいかがなものかとは思いますが、今がお得期間なのは間違いありません。

電動バイクは、確かに使い方は限られます。でもガソリンエンジンの原付バイクも、普段の使い方は限定的です。日本郵便がすでに数千台の『BENLY e』を導入しているように、用途によっては爆発的に増える可能性はあると思います。

例えば朝早くにエンジン音をブイブイさせている新聞配達のバイクなどは電気でもいいと思うのです。あの音を目覚まし代わりに使っている人は、今はもう少数派ではないかと思うのです。想像ですけども。

電動バイクでの長距離ツーリングは困難が伴いますが、原付で日本一周するのもある種の冒険レベルです。そういえばヤマハの担当者は、出川哲朗さんの番組は、電動バイクの認知度をポジティブな意味で向上させたと話していました。電動バイクで旅をするのも、できなくはありません。今から30年前に、鉛電池の電動バイクで旅をした知人もいました。普段の使い方からはずれても、なんとかなります。たぶん。

とにもかくにも、電動バイクの世界が多くの来場者に伝わった印象を受けました。そして2輪のイベントと言えば、毎年3月に開催される『東京モーターサイクルショー』です。次回は2022年3月25日からで、リアル開催になる予定です。どんな「電動化」に出会えるか、刮目して待っていたいと思います。

(取材・文/木野 龍逸)

この記事のコメント(新着順)5件

  1. 先日ニュースになっていましたが、ヤマハが125ccクラスの新型電動スクーターを発表しました。https://search.yahoo.co.jp/amp/s/s.response.jp/article/2021/12/15/352316.amp.html%3Fusqp%3Dmq331AQIKAGwASCAAgM%253D
    ぜひEVスマートさんで取り上げていただきたいです。

  2. 私の勤務するマクドは、高校生のデリバリーライダーは認められてないのですが?
    本社直営店は違うのかな?

  3. 昨年までカワサキの工場に毎日行ってました。
    見たかったなぁ。

    AA-iですが
    マイクロカー区分という事で出力が原付き一種、自動車専用道に乗れない
    となると
    ブレイズ社の三輪トライク(高速可)や三人乗りのEV-TUKTUKが値段的に有利。
    AA-カーゴの値段100万円からするとトヨタのC-pod辺りと競合しますが
    後者はドア付きの全天候対応と4人乗り。
    と、
    何を重視するか良く考えないといけないですね。
    軽EVが万能選手に思えてしまいます。

  4. 個人的趣味からのコメントです。
    これ行ったけど、あまりにも残念でした。既存電動バイクはもっとあるのに出展されておらず、しょぼすぎました。
    だれに忖度して呼ばなかったんだろうと思います(出展費用掛かるならこないってことかもしれないけど)。公道用でいわゆるバイクの性能持ったのはまったく展示がなかったです。BMWはいたけどスクーターだし、KTMもいたけど子ども用のクローズドのオフ車しかなかった。要はスーパーカブ「だけ」展示されても…

    スーパーSokoとかZeroとか、エネルジカとかいなかったわけです。つまらない。行って損しました。走りを楽しみたい人向けっての感じのはカワサキのフルカウルのテスト車、ヤマハのオフ車の2台だけ(どっちも公道ダメじゃん!)。

    だったらこの際、合法仕様の電動キックボードとか、電動自転車とか含めてもっと頑張って呼べばいいのに、さすがにヤル気なし東京都公務員が公費で開催した結果でしたよ。

  5. ハーレーが既にCHAdeMOを搭載していましたよ。
    アメ車が第一号なのに危機感を持っていましたが、さすがカワサキです。

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この記事の著者


					木野 龍逸

木野 龍逸

編集プロダクション、オーストラリアの邦人向けフリーペーパー編集部などを経て独立。1990年代半ばから自動車に関する環境、エネルギー問題を中心に取材し、カーグラフィックや日経トレンディ他に寄稿。技術的、文化的、経済的、環境的側面から自動車社会を俯瞰してきた。福島の原発事故発生以後は、事故収束作業や避難者の状況のほか、社会問題全般を取材。Yahoo!ニュースやスローニュースなどに記事を寄稿中。原発事故については廃棄物問題、自治体や避難者、福島第一原発の現状などについてニコニコチャンネルなどでメルマガを配信。著作に、プリウスの開発経緯をルポした「ハイブリッド」(文春新書)の他、「検証 福島原発事故・記者会見3~欺瞞の連鎖」(岩波書店)など。

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