富士急バスが導入したBYDの大型電気バス『K9』に緊急試乗

全国で電気バスの導入事例が増えています。2020年3月には、富士急バスがBYDの大型電気バス『K9』3台を導入したことが発表されました。早速、富士河口湖町にある本社を伺って導入経緯などを取材。少しだけ試乗もさせていただきました。

富士急バスが導入したBYDの大型電気バス『K9』に緊急試乗

324kWhの電池で250km以上の航続距離

今回、富士急バスが導入したのは、中国に拠点がある比亜迪(BYD)の大型電気バス『K9』です。BYDの日本法人であるビーワイディージャパン株式会社では、自社サイトでも「山梨県初の大型電気バスを納入」と題して、ニュースリリースを発信。世界文化遺産である富士山への電気バス納入をアピールしています。

電気バス『K9』のおもな仕様をご紹介しておきましょう。

大型電気バス『K9』の概要
車長×車幅×車高12,000×2,500×3,400mm
バッテリー容量324kWh
航続距離250km以上
乗車定員 56 人(運転手含む)
仕様路線バス仕様
3台の電気バスが揃ってました。1台は充電中。

BYDの電気バスが日本でも続々と導入されていることについては、ちょうど1年ほど前、『日本にもBYDの電気バスが続々と導入中!』という記事でもお伝えしました。また、福島県の会津バスが導入した尾瀬国立公園内のシャトルバス(尾瀬バス)として導入した『K9』よりもやや小型の『K7』には、実際に試乗に出かけたレポートもお届けしました。

日本を代表する世界遺産、富士山で運用されることになった電気バス。導入の経緯などについて、世の中は自粛ムードのさなかではありましたが、山梨県富士河口湖町の富士急バス本社を訪ね、お話しを伺ってきました。

世界での実績を評価してBYDを導入

富士急バスの本社では、3名のご担当者が迎えてくださいました。まずは会議室で、気になるポイントを質問してみました。

Q. 電気バス導入を決めたきっかけは?

もともと富士急バスでは、富士山が世界遺産に登録(2013年6月)される以前から、CNG(圧縮天然ガス)バスや、ハイブリッドバスなどの低公害車をいち早く導入して環境保全に取り組んできました。今回、電気バスの導入を決めたのも、そうした環境保全への取組のひとつです。

【関連サイト】
富士急バス公式サイト『低公害車のご紹介』
※ 今後、電気バス紹介ページも公開する予定とのこと。

Q. BYDのバスに決めたポイントは?

BYD社の電気バスは中国をはじめ世界中で5万台以上の納入実績があり、日本でも導入事例が増えています。そうした実績を積み重ねている点が導入を決めたポイントですね。

Q. すでに運行は始まっていますか?

正式な運行はまだこれから。現在はドライバーの訓練と運行テスト中です。全長が12mと、大型の観光バスよりも長いこともあり、ドライバーの習熟が必要で、運行コースの選定も進めています。

Q. 五合目へのシャトルバスにも活用しますか?

今のところ四合目までの実証を終えていて、五合目までの運行についても航続距離としては問題ないので、おそらく運行することになると考えています。とはいえ、今回導入する電気バスは3台。五合目のシャトルバスは3台では足りない体制で運行しているので、全てが電気バスということにはなりません。

いずれにしても、富士急バスでは五合目へのシャトルバスには低公害車や年式の新しいクリーンディーゼルを運用して、環境保全に配慮しています。

Q. 運行路線が決まったら大きくアピールされますか?

運行体系はまだ未定です。とはいえ、たとえば運行が始まれば走る路線の予定は日々決まりますから、たとえば前日にお問い合わせをいただければ電気バスの運行路線をご案内することは可能になると思います。

Q. 今後、電気バスを増やしていく計画は?

今のところ、明確な目標台数などは定めていません。これから、実走行でさまざまなデータを蓄積して、コストパフォーマンスなどを含めて検討していくことになります。

専用充電器も3台設置。

電気バスがもっと広がっていくために大切なこと

お話しを伺った後、実際に本社駐車場に停められていた『K9』の実車と対面。設置済みの専用充電器も拝見しました。BYD製の専用充電器は二系統の出力ケーブルがあり、バス側も2つの充電口で対応。定格出力は80kWで、実質的な出力は「380/400V×63A=約25kW×2」と表示されていました。おおむね50kW出力で充電できるということですが、バッテリー容量が324kWhと巨大なので、最大出力と仮定した単純計算でも、空から満充電にするには「324÷50=約6.5時間」かかります。

実際の運行時は、満充電からの航続距離で一日の運行には十分なので、毎日車庫に戻ったら充電して翌日はまた満充電からスタート、というスタイルになることを想定しています。充電設備は本社のこの駐車場にしかなく、経路充電のCHAdeMOに対応もしていないので、基本的には富士河口湖町を拠点とした地元エリアでの運行になるということですね。

充電はケーブル2本挿し。

ひと通り見学した後には、「試乗しますか?」と声がけいただいて、本社の周囲を少しだけ試乗もさせていただきました。当たり前だけど、上り坂でもエンジン音がなく静かです。静かなので、モーターやコントローラー特有の「ヒュイーン」という音が目立ったり、路面が荒れた場所でのロードノイズなどが気になりますね。

とはいえ、訓練中のドライバーさんからの評価としては、なんといっても「出足のスムーズさ」を実感。「お客様にも喜ばれるでしょう」という感想でした。

お話しを伺い、試乗してみて、少し気になったことを書き留めておきます。

電気バスの選択肢が少なすぎる!

まず、これからもっともっと日本でも電気バスが導入されていくためには、電気バスの選択肢があまりにも少なすぎるということです。富士急バスでも、導入する電気バスとしてBYD以外の選択肢はまったくない、のが実情です。乗用車も同様ですが、車種選択肢の少なさが、EV普及の最も大きな障壁になっている現実を痛感します。

今回、富士急バスが『K9』を選んだのは、乗車定員56名と、電気バスのなかでは多いことが大きな選択理由だったそうです。とくに富士山への路線では大量輸送が必要で、ディーゼルバスなら78名定員といった車種もあるそうです。

乗客などを含めた車両総重量が20トン未満とする日本国内の基準に合わせると、重い電池を搭載する電気バスは定員が「重量」に縛られてしまう面があるんですね。

この『K9』は路線バス仕様。BYDには観光バスタイプの『C9』(沖縄県伊江島に導入)や、日本に多い小型路線バスの利用ニーズを見据えた『J6』などのバリエーションもあります。とはいえ、バス会社の思いからすると、BYDの電気バスでことさらに「満足」というわけではないのが現実です。電動化への動きで出遅れた日本の商用車メーカーにも、まだまだチャンスは残されているのではないか、と思うのですが、どうなんでしょう。

ちなみに、富士急バスが運行テストを行っている一定の期間中、BYDからメカニックのスタッフがほぼ常駐してドライバーや整備のみなさんへのアドバイスなど、サポートを行ってくれている(この日はご不在でしたが)そうです。BYDジャパンも気合い十分ですね。

「使い方」のバリエーションや工夫にも期待!

電気自動車には環境面でのメリットがありますが、従来のエンジン車両と比較して、どうしようもないデメリットもあります。たとえば、富士急バスのケースを見ても、充電場所は本社車庫だけ。走り回る範囲には制約があります。

単純に「ディーゼル車を電気バスに置き換える」という発想だけでは、デメリットばかりが際立ってしまう懸念もあるでしょう。だからこそ、電気バスならではの環境性能、気持ちよさを活かした「使い方」を工夫すると面白いのではないか、と思います。

たとえば、最近私が個人的に気になっているのが「富士山下山ツアー」です。五合目までバスで行って、一合目まで歩いて下山するガイドツアーですね。東京から日帰りでOKだし、見どころもいろいろあるようで、機会があれば一度チャレンジしてみたいなと思ってました。この、五合目まで行くバスが「電気」なら、気持ちいいじゃないですか。「電気バスで富士山下山ツアー」があったら、かなり魅力的なコンテンツだと、個人的には思うのですが、みなさんはどう思われますか。

と、これは一例ですが、電気バスならではの富士山(あるいは日本各地の自然など)の楽しみ方を提示してくれる「使い方」が登場することにも、期待しておきたいと思います。

水陸両用バスもありました。これも乗りたい&これもEVになればいいのに。

なにはともあれ、電気バス普及を応援します!

実は、今回の富士急バス取材は、先駆的テスラオーナーとして知る人ぞ知る有名人、アラン・中村(中村壽継)さんにお誘いいただいて実現しました。中村さんは富士河口湖在住のモデルSオーナー。高等技術専門校でテスラ車を使った出前授業を行ったり、毎年夏にはスバルラインパレードランを開催するなど、電気自動車普及に熱意をもって取り組んでいる方で、EVsmartブログでも何度もご紹介しています。

Alan is the most famous Tesla evangelist in Japan. His lecture was on current world trends and Elon Musk's philosophies.
山梨県立峡南高等技術専門校で電気自動車について講義する中村さん(2019年7月)。

テスラ社の理念に共鳴し、最近では『富士山からサステナブル&SDGsを発信する会』を立ち上げ。今回、いよいよ富士急バスが電気バスを導入したというニュースを受けて「一緒に話を聞きに行こう!」と声がけいただき、EVオーナーズクラブ代表の桑原文雄さんととともに、富士急バス本社をお訪ねしました。

電気自動車普及はまだまだこれから。先駆的なEVオーナー=イノベーターによる自主的&ユニークな活動は、EVsmartブログとしてもどしどし取材してご紹介していきたく思っています。全国のEVオーナー有志のみなさんからの「こんなことやるよー」という情報ありましたら、コメント欄などでぜひご一報ください。

(取材・文/寄本 好則)

3 thoughts on “富士急バスが導入したBYDの大型電気バス『K9』に緊急試乗”

  1. 日中の人件費の差では説明がつかないほどの価格差が発生してるのは
    やはり真剣さと専業メーカーの差なのでしょうか?

    日本のバス業界は、インフラの制約で載せられる乗客が少ない割には、都市部では人口密度が高く鉄道が敷いてあれば鉄道有利とかなり厳しい業界です。
    逆にバスが有利なところは規制緩和でどんどん参入して価格競争で疲弊しています

    バスは鉄道に比べてイメージが悪いのは理由がさまざまありますが
    ディーゼルの音と振動が与えるネガティブイメージもあると思うのです。

  2. 鉄道マニアバスマニア兼業が来ました(笑)
    富士急といえば富士急ハイランドや新宿~河口湖間の高速バスで稼いでいるイメージがあり同時に富士山の環境保護にも熱心な会社でありますよね。
    以前富士山五合目へ行ったときもシャトルバスがCNG(天然ガス)車両だったので判ります。実際ディーゼルエンジン車より静かで排気ガスもあまり気にならなかったです。
    これは10年前の話。今回の電動バス導入も其の延長線上、おそらくCNG車の代替じゃないでしょうか!?
    ただEVバスも自然環境保護を謳う地域以外にはあまり広がってませんよね。CNGは設備費が巨額だし、EVも充電に必要な高圧受電設備が必要で其の割に航続可能距離が短いし。それらボトルネックが解決しないと一般普及は短いでしょ!?
    中国企業がEVバスを開発したのも大気汚染が深刻だから。エンジン技術の進んだ日本はそこまでいってないからEVバスへの真剣味が足りなくなるんでしょ。
    そもそもバス自体クルマとの戦いで既に撤退した地域(交通空白地帯)も少なくありません。むしろ必要になるのはEVマイクロバスじゃないですか!?定員10~29名程度で小回りの効くEVバスが出たらバス路線のなくなった地域へ自家用有償旅客輸送向けに売れる可能性がありますよ!?日産がキャラバンEVもしくはシビリアンEVを出せば一定数普及しそうですがゴーン氏以外に実施できる人いるんだろうか!?です。

  3. ここの話でもありますが
    一度急速充電設備さえ設定すれば航続距離の短さは工夫で何とかできる余地があります。

    正直、日本メーカーでも異業種では気づいていて
    海外メーカーへ部品やソリューションレベルでの販売や営業活動はやってるし
    日本車メーカーも売れるかどうかはともかく海外ではEVモデルを出してますが国内ではあからさまにやる気がない、普及させたくないという意志は強く感じる。

    売ろうとして失敗した車は数あれど中には最初から売る気のない車ってのはあるんですよ。ディーラーの目立つところに置かない、置いてもインセンティブの対象にならない=販売員の評価につながらない、そもそも一般のディーラーに置かなくて事実上受注生産と官公庁などむけでしかない、
    などなどなど

    日産と三菱の新軽ベースEVと、ホンダeが今のところそれなりに期待できる国内EVですが…

    モデル3なりその他の輸入車に期待したほうがいいかも

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					寄本 好則

寄本 好則

兵庫県但馬地方出身。旅雑誌などを経て『週刊SPA!』や『日経エンタテインメント!』の連載などライターとして活動しつつ編集プロダクションを主宰。近年はウェブメディアを中心に電気自動車と環境&社会課題を中心とした取材と情報発信を展開している。剣道四段。著書に『電気自動車で幸せになる』『EV時代の夜明け』(Kindle)『旬紀行―「とびきり」を味わうためだけの旅』(扶桑社)などがある。日本EVクラブのメンバーとして、2013年にはEVスーパーセブンで日本一周急速充電の旅を達成した。

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