GMがEV用バッテリー開発拠点を新設〜コスト60%低減と容量70%アップを目指す

ゼネラル・モーターズが電気自動車のバッテリーを開発する新たな拠点を設置することを発表しました。GMが次世代バッテリーと位置付ける『Ultium』の開発支援を行います。新拠点は2022年半ばまでに完成し、同年末までにバッテリーのプロトタイプを試作する予定です。

GMが電気自動車用バッテリー開発拠点を新設〜コスト60%低減と容量70%アップを目指す

次世代アルティアムでコストを60%削減を目指す

2021年10月5日、ゼネラル・モーターズ(GM)がミシガン州ウォレンにあるグローバル・テクニカル・センターの敷地に新たなバッテリーの開発拠点、『Wallace Battery Cell Innovation Center』(以下、ウォレスセンター)を新設することを発表しました。ウォレスセンターは、これまで約10年にわたってGMのバッテリー開発をリードしてきたGM Research and Developmentで培った経験をベースに研究開発を進めていきます。

ウォレスセンターは2022年半ばに施設が完成し、2022年第4四半期にはバッテリーセルのプロトタイプを作り出す計画です。GMはさらに、バッテリー関連の開発作業をウォレスセンターに統合し、GMがEV戦略の中心に置いている『Ultium』(アルティアム)の次世代タイプのコストを少なくとも60%低減することを目指します。施設は最終的に、当初面積の3倍まで拡張する可能性があるとしています。

ウォレスセンターの設置にあたり、GMのグローバル製品開発・勾配・サプライチェーン担当のダブ・パークス上級副社長は次のように述べています。

「ウォレスセンターは、次世代のアルティアムバッテリーの開発と生産、および次世代のEVバッテリーを市場に投入する能力を大幅に強化します。ウォレスセンターの新設はバッテリー開発業務の大幅な拡大であり、将来、より長距離でより手頃なEVの基礎となるバッテリーセルを構築する計画において、重要な役割を担います」

GMは2035年までに生産するすべての車をEVにする計画を発表しています。その手前の目標では、2025年までには全モデルの40%にあたる30モデルをEVにする予定です。目標達成に向けて2025年までの5年間で270億ドルを投資し、EV化を促進していきます。

ウォレスセンターは、このEV化計画の中核を担う部門と位置付けられているのです。

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GMが2035年までにすべての乗用車モデルを電気自動車にすると発表(2021年2月2日)

現行バッテリーのエネルギー容量70%アップを目指す

GMのリリースによれば、ウォレスセンターでの研究開発は、リチウムバッテリー、シリコンバッテリー、全固体電池などをカバーし、オハイオ州ローズタウンにあるアルティアム・セルをはじめ、テネシー州スプリングヒルや非公開の場所にあるLGエナジー・ソリューションとの合弁事業を含む、各地のバッテリー工場に展開できる製造方法の提供も行います。

施設には、GMが全米最大のバッテリー検証ラボと強調する、面積10万フィート(約9300平方メートル)の『Estes Battery Systems Lab』(エステス・ラボ)が設置される予定です。エステス・ラボでは、セル、モジュール、パックの各レベルで主要な耐久テストが可能になります。ウォレスセンター全体では、材料合成のラボ、各種チャンバー、材料分析装置などを備えたフォレンジックラボなども設置される予定です。

将来的には1リットルあたり600~1200Whのエネルギー密度を持つバッテリーセルを作り出すことが期待されているそうです。

ちなみにテスラが使っているパナソニックのセルは、2020年7月30日のロイターによれば、モデル3の2170が700Wh/Lとされているので、GMの狙い通りに量産できれば同じ容量でも航続距離が飛躍的に伸びることになります。個人的には、航続距離を伸ばすよりもバッテリーの搭載重量が半分になったりすると、全体効率が上がるし運動性も向上するのでとても嬉しいです。

GMはウォレスセンター発表の翌日、10月6日に、投資家に対する説明会の中で、今後10年間で年間収益を現在の2倍にすることを目指すほか、シボレーからクロスオーバーのEVを3万ドルで発売する計画や、ハマーEV、キャデラック初のEV『LYRIQ』などの計画について説明しました。なお2022年1月にラスベガスで開催される『CES(コンシューマー・エレクトロニクス・ショー)』では、シボレーのフルサイズピックアップトラック『シルバラード』のEV版を発表する予定です。

これらGMの主力製品はアルティアムのバッテリーを搭載する予定ですが、フルサイズのピックアップトラックに大量のバッテリーを載せるのは、効率を考えると脳の中に疑問符が躍ってしまいます。だとすると、販売台数を増やしていくのなら容量を大きく改善した次世代アルティアムが必須になるのではと思います。その意味でも、ウォレスセンターの役割は極めて大きいと言えます。

なお「ウォレス」の名称は、シボレー『VOLT 1』『VOLT 2』や『ボルトEV』などを開発したほか、LGエナジー・ソリューション(元LG化学R&D)との関係を構築して合弁会社『Ultium Cells LLC』(アルティアム・セル)の立ち上げをリードしながら、2018年にガンで亡くなったGMのディレクターの名前に由来しているそうです。

GMの『Ultium』プラットフォーム。

LGとの関係はウォレスセンターでも継続

ところでGMとLGエナジー・ソリューションのバッテリーといえば、昨年から今年にかけて大量にリコールを出した『ボルト』が思い起こされます。2021年9月17日のロイターによれば、現在までに対象台数は14万台余りに達し、リコール関連コストは18億ドル(約2030億円)にのぼります。

最後のリコールは2021年8月20日で、2019年から2020年の間に米国とカナダで販売された約7万3000台の『ボルト』が追加でリコールになりました。GMはリコールを発表したリリースで、追加の関連コストが10億ドルに達すると予想しています。

同時にバッテリー製造に不備があった工場を特定。韓国の梧倉(オチャン)工場を含む複数の工場で製造されたバッテリーセルに原因があったと指摘しています。GMは、LGに補償を求める方針です。

『ボルト』のリコールの際、GMは現行ユーザーに対して、充電は90%で制限すること、可能なら頻繁にバッテリーを充電して、残量を走行可能距離70マイル(113km)未満にはしないようにすること、充電後はすぐに屋外に駐車すること、屋内で一晩中の充電はしないことなどを求めています。これでは使い勝手が悪いことこの上ないですね。

『ボルトEV』のリコールについてロイターは、GMがLGに補償を求める方針を明らかにしている一方で、実際の交渉は進んでいないと指摘。その上で、韓国人アナリストのコメントを引用してGMとLGは“仮面夫婦”の状態になっていると評し、「すぐに代わりの相手が見つからないので、離婚せずにいるだけの状態」だと指摘しています。

その後、9月20日にGMは、LGのバッテリー生産を再開したことを発表しています。再開したのは、オランダと、ミシガン州ヘーゼルパークのLGの工場です。これで『ボルトEV』の交換用モジュールの出荷が始まる見込みです。交換後のバッテリーには、8年間/10万マイル(16万km)の保証が付きます。

合わせてGMは、リリースから60日以内にバッテリーの診断用ソフトウエアをローンチすることを発表しました。

リリースでGMは、ダグ・パークス上級副社長の「今後もLGと積極的に協力して、追加のバッテリーを供給していきます」というコメントを掲載していますが、ロイターの報道を考えると楽観視はできないのかもしれません。

ただ、GMのEVに本格的にアルティアムのバッテリーが搭載されるようになると、GMがバッテリー開発も主導していくようになるのかもしれません。ウォレスセンターの新設はその第一歩とも考えられます。実際、大量リコールの後、GMはLGの品質管理に介入しています。

今後のGMとLGの関係性に変化があるのかどうか、とても気になります。

そういえばGMとLGの合弁会社、アルティアム・セルは、2020年10月から2021年4月まで、ほぼ毎月、多いときは2021年2月のように月に8本もリリースを出していたのですが、5月以降はリリースが途切れています。アルティアムはホンダでも使うことが決まっていますし、GMにとってもLGにとっても大きな商売です。まだ半年とは言え、間が空いているのはちょっと気になります。

そんなこんなで、いろいろ不安を感じたGMが新しい開発拠点を設けることで主導権を握りにきている、なんていうことを妄想したりしています。ウォレスセンターについては今後も、新しい話題を追いかけたいと思います。また、何か情報があればコメントでお寄せいただければ嬉しい限りです。

(文/木野 龍逸)

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					木野 龍逸

木野 龍逸

編集プロダクション、オーストラリアの邦人向けフリーペーパー編集部などを経て独立。1990年代半ばから自動車に関する環境、エネルギー問題を中心に取材し、カーグラフィックや日経トレンディ他に寄稿。技術的、文化的、経済的、環境的側面から自動車社会を俯瞰してきた。福島の原発事故発生以後は、事故収束作業や避難者の状況のほか、社会問題全般を取材。Yahoo!ニュースやスローニュースなどに記事を寄稿中。原発事故については廃棄物問題、自治体や避難者、福島第一原発の現状などについてニコニコチャンネルなどでメルマガを配信。著作に、プリウスの開発経緯をルポした「ハイブリッド」(文春新書)の他、「検証 福島原発事故・記者会見3~欺瞞の連鎖」(岩波書店)など。

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