GMが「ハイブリッド車は終わり」と明言。20車種以上のEVを発売へ!

ゼネラルモーターズ(GM)会長のMark Reuss氏が「ハイブリッド車は終わり。電気自動車のリーダーとしてキャデラックを再構築する」と明言。「2023年までに、世界で少なくとも20車種の電気自動車を発売する予定」であることを、『FOX NEWS』(2019年1月11日)の記事が伝えています。

GMが「ハイブリッド車は終わり」と明言。20車種以上のEVを発売へ!

『GM says hybrids are over, reboots Cadillac as an electric vehicle leader』(FOX NEWS)
※トップの写真はキャデラックXT5のイメージです。

会長自らが電気自動車へのシフトを明言

記事によると、GMはハイブリッド車は終わりであると判断し、キャデラック(ブランド)の新モデルによって、アメリカにおける電気自動車市場を主導していくことを発表しました。

会長のMark Reuss氏は、GMによるEV用第3世代バッテリーとプラットフォームの構想を紹介。「まずはキャデラックの新モデルから導入を始める。特定のモデルに応じて異なる数の電池セル搭載を可能にする『ice cube tray』設計によって、前輪駆動や後輪駆動、全輪駆動といったさまざまな車種やバッテリーサイズに対応できる」と述べています。

GMがラインナップしているハイブリッド車の将来についてのアナリストからの質問には「ハイブリッド車はICE(エンジン車)のための対策でしかなく、これからはリソースが完全に電気自動車に向けられることになる」と答えています。

さらにMark Reuss氏は「(大衆に支持されうる)電気自動車の航続距離は300マイル(約483km)程度とするのが、コストと性能のバランスがとれたスイートスポットである」という考えを示しています。また、GMは「EVgo」「ChargePoint」「Greenlots」など急速充電サービスを提供する会社と提携を開始して、3万1000カ所の充電インフラネットワークを統合(シームレスに利用できるようにするという意味でしょう)。2023年までに世界で少なくとも20車種の電気自動車を発売する予定であることが伝えられています。

この記事が伝えるMark Reuss氏の言葉通り、すでにGMはハイブリッドの主力車種であるシボレー『Volt』の販売中止と、電気自動車への投資加速を公表しています。

1月13日にはアメリカで、1月17日にはゼネラルモーターズ・ジャパンからも、キャデラックブランドのEVについての情報がプレス向けにリリースされました。

【英語版プレスリリース】

リリースの写真には「キャデラックが電気自動車社会の未来を切り開く!」と、気合いの入ったキャプションが添えられていました。

このプレスリリースによると「EVモデルの車名や詳細は発表が近づき次第公表する予定」で、「キャデラックは2021年まで、半年に1台の新型車を発表する計画」とのことです。

「GM」が電気自動車に本気になることの意義

「ゼネラルモーターズ(GM)」は、日本では案外きちんと知らない人が多い会社かも知れません。本社は、自動車産業の中心地として知られた米・ミシガン州デトロイトにあります。今は「ラストベルト」としての方が知られていますね。GMは1908年にミシガン州フリントで設立され、1930年代から第二次大戦時にかけては全米最大のシェアを握り、1950〜60年代には世界最大の自動車会社として繁栄。アメリカを代表する自動車メーカーとして、フォードモーター、クライスラーと並んで「ビッグスリー」と呼ばれました。

GMはアメリカ車として知られているブランドをいくつも傘下に収めています。日本で現在販売しているのは、高級車ブランドの「キャデラック」、スポーツカーやSUV、ピックアップトラックで有名な「シボレー」の2つのブランドです。そのほか「ビュイック」や「GMC」といったブランドのほか、オーストラリアの「ホールデン」、中国の「五菱」、「宝駿」といったブランドも展開しています。

過去にGMが傘下に収めていて、今は手放したものもあります。1980年代にGMと提携していた「いすゞ自動車」が、当時の人気車種「ジェミニ」や「ビッグホーン」に、当時の西ドイツの「オペル」社と関連が深いチューナー「イルムシャー」によるモデル「ジェミニ・イルムシャー」を登場させたり、英国「ロータス」社によるチューンド・バージョン「ジェミニ・ハンドリング・バイ・ロータス」を発売した背景には、当時はオペルもロータスもGMの参加に入っていた事実があります。2019年現在、オペルもロータスもGM傘下を離れています。80年代にクルマに乗っていた方、80年代車のお好きな方には、よく知られた話ですね。

20世紀末には日本車など輸入車との競争に晒されて収益が悪化し、2009年6月に経営破綻して国有化されました。2013年12月には国の持ち株が全て売却され国有化が解消されています。FOX NEWSの記事では「近年GMの販売を牽引しているのは、大型SUVとアメリカで根強い人気のあるピックアップ・トラックである」ことや、「(EVの推進に対して)アメリカ政府の補助金を期待している」ことが紹介されています。

ともあれ、20世紀中、内燃機関の時代を牽引してきたGMが「電気自動車へのシフト」を発表したことには、時代の転換点を示唆する大きな意義があるといえるでしょう。

かつて、GMが電気自動車を発売したことも……

現在、GMではシボレーブランドで『BOLT EV』という電気自動車をラインアップ(日本では未発売)しています。さらに、少し歴史を遡ると、世界のメーカーに先駆けて電気自動車に取り組んだことがありました。

2006年に公開された『誰が電気自動車を殺したか?(原題/Who Killed the Electric Car?)』というドキュメンタリー映画をご存じでしょうか。

1994年、自動車の排気ガスによる大気汚染が深刻だったカリフォルニア州では、大気資源局が「ZEV(Zero Emission Vehicle)法」を施行して排出ガスを出さない自動車を一定割合で販売することをメーカーに義務づける規制を開始。GMは1996年に鉛バッテリー(のちニッケル水素バッテリーに変更)を搭載した『EV1』を発売(リース販売)しました。ところが、2003年に突然計画を中止。すべてのEV1をユーザーから回収し、そのほとんどをスクラップにしてしまうという出来事がありました。

この映画は、ユーザーのグループがEV1の葬儀を行うシーンから始まり、電気自動車の普及を妨げた(殺した)のは誰なのか、追求していくドキュメンタリーです。容疑者には「自動車メーカー」や「石油会社」「消費者(コンシューマー)」「州大気資源局」「アメリカ政府」「水素燃料電池車(FCV推進は、そもそもEV普及への対策だった気配も…)」、そして「バッテリー性能」などが挙げられて、映画のラストではそれぞれに対する判決が下されます。

ネタバレになるので詳細は明かしませんが、GMを中心とする自動車メーカーには「Guilty(有罪)」判決が下されています。15年ほど前、自ら電気自動車普及の動きに終止符を打ったGMが、今度は「キャデラック(大排気量エンジン&大型車の象徴でもあった)を電気自動車のリーダーにする」と宣言したのは、明確に「時代が変わりつつある」ことを示していると感じます。

『誰が電気自動車を殺したか?』は、電気自動車に興味のない人が観ると退屈しちゃうかな、と感じるくらい大真面目なドキュメンタリー映画ですが、今、なぜ電気自動車が注目されているのか、電気自動車普及の本当の課題は何なのか、深く示唆して、教えてくれる内容です。DVD化されているし、Amazonのプライムビデオなら199円(レンタル)で視聴できます。

GMの転進が、中国市場向けの限定的な展開でないことを、そして今度こそ、電気自動車普及の福音になることを願っています!

(文:寄本好則、箱守知己)

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この記事の著者


					寄本 好則

寄本 好則

兵庫県但馬地方出身。旅雑誌などを経て『週刊SPA!』や『日経エンタテインメント!』の連載などライターとして活動しつつ編集プロダクションを主宰。近年はウェブメディアを中心に電気自動車と環境&社会課題を中心とした取材と情報発信を展開している。剣道四段。著書に『電気自動車で幸せになる』『EV時代の夜明け』(Kindle)『旬紀行―「とびきり」を味わうためだけの旅』(扶桑社)などがある。日本EVクラブのメンバーとして、2013年にはEVスーパーセブンで日本一周急速充電の旅を達成した。

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