小型商用電気自動車『ELEMO』を発売するベンチャー企業『HW ELECTRO』の心意気とは

ベンチャー企業の『HW ELECTRO株式会社』が、小型商用電気自動車『ELEMO(エレモ)』を2021年7月に発売することを発表しました。バッテリー容量は13kWhと25.92kWhの2タイプ。価格は199万円〜となる予定です。

小型商用電気自動車『ELEMO』を発売するベンチャー企業『HW ELECTRO』の心意気とは

朝霧高原のイベント会場で初対面

『HW ELECTRO』の小型商用電気自動車と初対面の舞台となったのは、あさぎりフードパークで開催された第1回『Japan EV Meetup』(JEM)の会場でした。

実は今年の2月頃、EVsmartブログも協力して筑波サーキットで開催しようとしていた『ハイパーミーティング改2020 in TSUKUBA』の準備過程で、友人の〝おしゃべりレーシングドライバー〟鈴木学さんが「面白いEVがあるんだよ」と紹介してくれて、一緒に走ろうとしていました。学さんが『HW ELECTRO』の資料を送ってくれて、実車と会えるのを楽しみにしていたのですが、イベントは開催延期。今回、想定外の場所で取材することができたのでした。

まず、『HW ELECTRO』が発表している『ELEMO』の概要を紹介しておきましょう。

2種類の電池容量と3タイプの基本ボディを用意

パンフレットやフライヤーもちゃんとできあがっています。

駆動用バッテリーの容量は13kWhと25.92kWh(約26kWh)の2種類で、一充電航続距離は13kWhが120km、26kWhが200kmとアナウンスされています。これは中国の工場で製造される元車両のスペックということですが、実測体感値でもこのくらいはしっかり走る、とのこと。商用車なので積み荷の重さにもよりますが、kWh当たり7kmくらい走れると想定すると、それぞれ「90km」と「180km」程度が実用的な航続距離と思われます。

さらに「フラットベッド」「アルミ平ボディ」「ボックスタイプ」と3タイプのボディを標準で用意。ボックスタイプには高さ1200mmと1520mmの2サイズが設定される予定になっています。

パンフレットより。

価格とスペックの概要を表に整理しておきます。

ボディタイプフラットベッドアルミ平ボディボックスタイプAボックスタイプB
予定価格1,990,000円2,500,000円2,130,000円2,640,000円2,200,000円2,710,000円2,260,000円2,770,000円
電池容量13kWh約26kWh13kWh約26kWh13kWh約26kWh13kWh約26kWh
航続距離120km200km120km200km120km200km120km200km
外形サイズ(全長×全幅×全高/mm)3910×1376×19053910×1440×19053910×1400×19053910×1450×2225
荷室サイズ(全長×全幅×全高/mm)2270×1300×11602270×1440×11602270×1400×12002270×1400×1520

可愛いルックスですが、全長が3910mmなので軽自動車ではなく登録車となります。(12/1 追記)

最高出力などは未公表ですが、駆動用モーターの出力(おそらく定格)は12kW。0-50km/h加速が15秒、最大時速が85km/hとなっているので走りは穏やかな感じと思われます。でも、最大登坂角は20%と、EVらしい低速からトルクの太い走りやすさもありそうです。

「そうです」とかまだ曖昧な表現が多くて恐縮ですが、実車が登場して試乗できるようになったら、さらに詳しくお伝えします、ね。

【公式サイト】
HW ELECTRO

なぜ、EVベンチャーへのチャレンジを?

JEM会場で、『HW ELECTRO』CEOの蕭偉城(ショウ・ウェイチェン)さんにお話しを伺うことができました。

蕭偉城さん。

この日、会場で展示されていたのは『ELEMO』のベースとなる車両で、アメリカに拠点を置く『CENNTRO』社のモデルです。発売する車両は、足回りなどを改良し、AC電源を取り出せる100V1500Wのコンセントや、ブレーキの踏み間違い防止システムを取り付けるなど、『HW ELECTRO』の日本仕様に仕上げたモデルとなります。

なぜ、このベース車を選んだのか? 詳しい出自までは聞いていませんが、蕭さんは台湾出身。『CENNTRO』社とことさらの利害関係があるわけではなく「EVベンチャーの起業を構想して輸入できる車両を探している時にたまたま出会ったモデルだった。なによりシャシーが優れているのが、この車両を選んだ理由」です。

EVベンチャーへのチャレンジを決意したのは、2018年の大阪北部地震で停電を体験したことがきっかけでした。数時間のことではあったものの「停電した街を彷徨いながら、携帯電話の電池が切れてしまうことに大きな不安を感じました。電気自動車にはもともと興味があったけど、社会のレジリエンスを高めるためにも、EVの普及がとても大切なことだと実感したのです」と蕭さん。

手がける商材として小型商用車を選んだのは「ベンチャーとして大手メーカーには望めない個性を提供できる」と考えたから。もともとタイヤブランド『グッドライドジャパン』の代表としてモータースポーツのチームを組んで、ドリフトを楽しむ『D1GP』などにも参戦しているという蕭さん。培ってきた「車を仕上げるノウハウ」を活用して、個性的な小型商用電気自動車を作り上げることにしたのです。

ボディ右下側面の充電口。

2022年には独自モデルの発売を目指す!

今回発表された初代『ELEMO』は2021年7月に発売予定。『CENNTRO』社のベースモデルは、中国国内ではなく欧米で販売されているものですが、それでも日本でのナンバー取得への道のりはなかなか困難だったようです。関係当局への相談や調整を経て、年内にはナンバーが取得できる予定ということなので、来年の春には試乗レポートをお届けできる、といいですね。

蕭さんが想定する展開としては、まず「B to B」で賛同してくれるユーザー企業とパートナーシップを結び、「年間で370台くらい」の販売を目指します。

さらに、2022年の後半には「軽自動車規格の小型商用電気自動車を独自開発して発売する」ことを目標としています。独自開発車のコンセプトは、電池容量20kWh程度をメドに「150万円で150km」を実現すること。これは奇しくも、私がマイカーの中古リーフ購入を検討する際に掲げた目標と同じです。私自身、150万円程度でちゃんと150㎞走れるEVがあれば、日本でのEV普及は間違いなく加速するはず、と思っています。

ちなみに、初代『ELEMO』は急速充電には対応していません。チャデモ規格に対応したインバーターやBMSを備え、バッテリー温度管理などのシステムを搭載するのは、大きなコストが掛かるからです。毎日の走行ルートや距離が決まっている使用形態が多いので急速充電は不要にできるというのも、小型商用車に的を絞った理由のひとつです。

蕭さんを取材し、ベースモデルの実車を見て感じたのは、この初代『ELEMO』は、HW ELECTROとユーザー企業が協力して、魅力的な小型商用電気自動車活用の実例を作るためのモデルだということです。

リーフレットには、コネクテッドサービスを活用して運行管理を行う「走るIoT」の実現が可能であることや「移動電源としての活用」などとともに、完全なフラットベッドの荷台にユーザーの業態に合わせた「自由なカスタマイズ」ができることがアピールされています。

もちろん、HW ELECTROは初代『ELEMO』のコンセプトや実用性に自信をもって発売するのでしょう。でも、この初代モデルは軽自動車規格の独自開発車へのステップであることも明言しているのです。個人ユーザーであれば「2年後に150万円で150kmのモデルが出るならそれまで待とう」と考えるのでしょうが、初代『ELEMO』を導入するユーザー企業には、「EVを普及させてレジリエンスを高め、持続可能な日本社会を目指す」という蕭さんの心意気に共感し、HW ELECTROと一緒にチャレンジして欲しい。と、勝手ながら日本のEV普及を願うひとりとしてお願いしておきます。

『HW ELECTRO』は、来週12月5日(土)に都内で開催予定の『日本EVフェスティバル2020』に出展。ボディをばらして『ELEMO』(ベースモデル)のパワーユニットなどを公開する計画、とのことです。

(取材・文/寄本 好則)

この記事のコメント(新着順)7件

  1. ヒラタツさま
    トヨタ車体のコムスに乗っている者です。
    コムスは急速充電しないので良くわからなかったのですが、バッテリーの発熱対策とは、主に充電時の発熱に対応する為の物なのですか?
    走行時も結構発熱するものなんですかね?

    1. HIROさんご指名有難うございます。
      物理(電気)の話、バッテリーの発熱は基本W=I^2*R(発熱は電流の二乗と抵抗に比例)なので充電でも放電(モーター駆動中)でも発生します。急加速が電動車のバッテリーへ負担をかけているのは事実ですよ。
      ※電源である電池にも内部抵抗があり、発熱の原因でもあります。リチウムイオン電池の抵抗値低減が課題になるほど問題が深刻な訳で。
      実際アイミーブMタイプ(内部抵抗の低い東芝SCiB搭載)で真夏の藤枝市へ出かけた際、時速80キロ走行や急速充電を都合8回繰り返した結果バッテリーが発熱、夕方を過ぎても電池が冷えないため急速充電での電流が半分以下になりました…電池温度計がなくとも電気屋の勘で保護装置が働いたとみています。電流半分なら発熱1/4で納得。

  2. こんにちは。

    可愛い顔のデザイン、街中での調和、とても素敵ですね。

    コンビニ大手の小口配送など、フィーダー用に用いれば、ニーズは無限ですね。

    100Vなら、日本の一般家庭でも充分充電出来ますし、延長コードがあれば、非常給電が可能ですね。

    日本のインフラの場合、中途半端な展開なので、既存のシステムを利用出来るのは強みです。給電時、『形式認証』された、給電メーターと、売電先の決済口座があれば、一般の家庭でも、積極的に売電に協力してくれるでしょう。

    ボディの架装などは、日本の規格適合がありますが、読み込めば『キット』で出来ますので、小さなビルダーでも、解決出来ます。

    クリーンで、調和のとれた、街の働き者として、お目にかかりたいですね。

    1. 海鋒成幸 さま、コメントありがとうございます。

      100Vコンセントで、給電メーター&決済端末機器、いいですね。出川さんのバイク旅でも使えそうです。電気料金としては100Vで1回(2時間やったとしても多くて2〜3kWh=数十円程度でしょうか)の充電なら少額なので、使った電力量が明示されて、チャリンとお支払いするのも楽しいかと。

  3. これは急速充電ナシを除けば100V/1500w給電装置が魅力の車。軽逸脱(3480mmオーバー)の全長も惜しい…でも250万200kmなら深夜電源車として使う業者も現れると思いますよ。
    ただこれが売れるとなればミニキャブMiEVトラック再来はどうなる…おそらく対抗上220万円/16kWh/JC08-180km/CHAdeMOはつくと考えます。
    個人宅配の赤帽用に使うとなるとCHAdeMOナシは中距離運送で困るはず。人によってはダイハツハイゼットジャンボなど軽トラでもリクライニングできる車種を望むためそこも考慮しないと売れないかもです。
    電気自動車にはCASE(Connected/Automated/Share/Electric)が求められますが、日本向けには給電装置も必須と考える設計者がいて発売にこぎつける医師の高さは評価できますよ。たぶんCHAdeMO非対応は電池保護があるかもしれません…発熱対策が不十分だと劣化早いですから。急速充電耐性の高い電池は日本の東芝SCiB以外思いつかないですw

  4. また一つ魅力的な提案が出てきましたね。
    これまた軽自動車規格内です。
    電気軽トラの需要はメーカーが思っている以上に大きいものだと思いますが、
    その理由の一つが「定期ルート」なのでコストのかかる急速充電を省略できること、だとは。
    私自身三菱ミニキャブMiEVトラックのオーナーですが、普段乗りに使っているので急速充電や(SCiB)125Aで充電できることの便利さからは逃れられないわけです。
    電トラだからこそ割り切れるのでしょうね。
    今はまだ販売価格がネックですが、150km150万円がじつげんしたらいいですね。

    今思えば120km140万円だったミニキャブMiEVトラックって偉大なるBEVだったのだなぁ。大事にしよう。

    1. 軽貨物さま、コメントありがとうございます。

      記事本文で説明が足りませんでしたが、一点、補足しておくと、この初代ELEMOは全長が3.9mで軽自動車規格ではなく、登録車となっています。26kWhモデルは13kWhの電池パック2セットを搭載しており、そのスペース確保のために後部のオーバーハングが長くなっているようです。(その分、荷室は大きいです)

      独自開発モデルでは、軽自動車規格とすることを目指しています。

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この記事の著者


					寄本 好則

寄本 好則

兵庫県但馬地方出身。旅雑誌などを経て『週刊SPA!』や『日経エンタテインメント!』の連載などライターとして活動しつつ編集プロダクションを主宰。近年はウェブメディアを中心に電気自動車と環境&社会課題を中心とした取材と情報発信を展開している。剣道四段。著書に『電気自動車で幸せになる』『EV時代の夜明け』(Kindle)『旬紀行―「とびきり」を味わうためだけの旅』(扶桑社)などがある。日本EVクラブのメンバーとして、2013年にはEVスーパーセブンで日本一周急速充電の旅を達成した。

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