上海モーターショー2023/EVカルチャーショック(と懸念)

中国製の新エネルギー車(NEV)が上海モーターショー2023を席巻するなか、海外勢は存在感を出すために奔走。アメリカ在住のアナリスト、Lei Xing氏 による「中国が電動モビリティに移行する転換期をとっくに越えていることを世界に知らしめた」とするレポートです

上海モーターショー2023/EVカルチャーショック(と懸念)

【元記事】Shanghai electric cultural shock (and concern)  by Lei Xing.

わずか3年でさらに電動化が進んだことを実感

北京と上海で合計6日間を過ごす機会があった私は、そのうちの3日間、国立展示コンベンションセンター(上海)で開催された上海モーターショー2023(第20回上海国際自動車工業展覧会)に参加し、6万歩以上も会場を歩き回りました。中国、特に上海では、わずか3年でさらに電動化が進んだことを目の当たりにして、私は語る言葉を無くしています。

世界最大のNEV市場で開催される、世界最大のモーターショーは、こうした変化の象徴そのものです。2年に1度開催されるこのモーターショーで発表、ローンチ、展示されたすべての車がNEVであるかのようでした。実際、多くのブランドはNEVしか出展していませんでした。

端的に表すと、「来て、見て、触って、感じて、会話した。そして私は心の底からショックを受けた」ということです。

私は、前職の「チャイナオートレビュー」での勤務を通じて、長年中国の自動車市場を観察してきました。また中国に20年住んでおり、中国という国家、そしてその自動車業界の変貌を目の当たりにしてきました。したがって、この期間に起こったあらゆる変化とそのスピードについてよく理解しています。コロナ禍によって3年3ヶ月間中国から離れることを余儀なくされ、その間、China EVs & Moreというポッドキャストの共同ホストとして、またこのプラットフォームのフリーランスとして、地球の裏側から中国のEV、AV(自動運転車)、モビリティ産業を観察してきましたが、私は自分の目に映るものを信じることができませんでした。

「ショックを受けた」という表現では弱すぎるかもしれません。パンデミックの影響で3年以上中国から離れて、今回ついに訪中できた外国の自動車メーカー経営陣の多くも、同じように感じていると思います。彼らの多くは、現地でかなりの時間を費やし、中国があっという間にEVの国へと変貌を遂げたことをその目で見ています。フォルクスワーゲングループやメルセデスといったドイツのメーカーの役員は、中国で数日、あるいは数週間を費やし、パートナー企業やスマートEV関連のスタートアップ企業と面談し、また中国各地のショッピングセンターで存在感を発揮しているショールームを訪れて、現地市場の動向を積極的に学んでいます。メルセデスCEOのオラ・ケレニウスとフォルクスワーゲングループCEOのオリバー・ブルーメは、ともに数週間を中国で過ごし、今年に入ってから何度も中国を訪れていると報じられています。

これらのメーカー幹部の多くと同様に、私にとっても中国に戻り、NEV普及率25%が本当に意味するものを理解することが重要でした。2019年時点で5%未満だった普及率が3年で5倍の水準に到達し、しかも普及率目標を予定より3年早く達成したという真の意味です。この数字を驚異的だと言うのは簡単ですが、北京で走っているNEVの数の多さ、さらに上海では4台中3台がNEVのように感じられたことを通じて、私はこの状況を心の底から把握できたのです。

上海モーターショー2023は、中国が電動モビリティに移行する転換期をとっくに越えていることを世界に知らしめました。出展していたブランドや車、モデルの数の多さは、こうした時代の流れを体現するとともに、市場競争がいかに複雑に絡み合っていて予測がつかないものなのかも改めて感じさせられます。

10日間にわたるイベントが終了した4月27日、主催者がイベントの統計情報を発表しています:

● 総展示面積:360,000㎡以上
● 車の展示台数:1,413台(1,200モデル)
● 世界デビュー案件:93件(うち海外ブランド28件)
● コンセプトカーの台数:64台
● NEV台数:513台(うち中国ブランド186台)
● NEVモデル数:271種類
● ジャーナリストの数:13,000人以上
● 来場者数:906,000人
● 4月18日~19日の記者会見数:151件

これには、ポールスター社のブースに植えられていた8万本にものぼるチューリップや、多くのブースからライブ配信を行っていたセ「ウェブ」リティ(ネット上のセレブ)や、キーオピニオンリーダーたちは含まれていません。

閑話休題。

世界中で、パンデミックはあたかも過ぎ去ったものとなりました。世界中の国々が、電動モビリティや自動運転モビリティへの道を歩む中国の後ろ姿を追い続ける中で、上海モーターショーは様々な意味で分水嶺となる瞬間でした。中国メーカーおよび海外メーカー、サプライヤー、技術系スタートアップの参加と関心度合いの観点で、開催する意味があって本当に世界中の関心を引き付けるという意味では、上海モーターショーは現在、最大かつ唯一の国際モーターショーです。

中国ブランドに感じた「自信」

今回のショーに対する私の学びをいくつかご紹介します。

ショーで発表、ローンチされた中国ブランドのNEVは数え切れないほどある一方で、海外ブランドのNEVの発表、ローンチ数はほんの一握りでした。

中国ブランドは、NEVに関する競争において、デザイン、品質、革新性、技術面で海外ブランドの先を行っています。エンジン車時代の海外ブランドのお株を奪ってしまったのです。前回の上海モーターショーに参加した4年前であれば、私はこんなことは言わなかったでしょう。そして、20年以上にわたって中国の自動車市場を取材してきましたが、中国ブランドがこれほどまでに自信を示し、海外ブランドがこれほどまでに焦っているのを見たことがありません。上海モーターショー2023における、BYD、NIO、Xpeng、仰望(Yang Wang)などのスマートEVスタートアップや新興ブランドのブースの混雑ぶりと、ビュイック、シボレー、ヒョンデ、起亜などのブースの閑散ぶりの対比は、一目瞭然でした。

海外ブランドが中国を追い上げるのに必死なのは明白でした。特にドイツメーカーは、展示会の何日も前から役員や幹部が中国入りしていたり、モーターショーで「地産地消、そして海外へ」というモットーを繰り返していました。BMWグループはイブニングイベントで、「今日の中国の顧客の感動は、明日の世界の感動につながる」、「中国の成功の方程式は世界中でも通じる」、「中国はBMWにとって外せない地域」、「中国での研究開発の重要性を高め、BMWの世界中の研究開発組織で中国らしさを取り入れる」といったスローガンを掲げました。フォルクスワーゲングループは、GMのPATACに相当する「100%TechCo」を設立し、中国現地での研究開発と製品ローンチを加速させることを発表しています。一方、騰勢(Denza)は記者会見で「伝統的なラグジュアリーメーカーはロゴ(ブランド)を重んじ、NEVのラグジュアリーブランドはテクノロジーを重んじる」と述べています。少し乱暴な表現ですが、これはまさに、中国ブランドによるラグジュアリーの再定義と言えるでしょう。

海外ブランドが追い上げモードにある一方で、中国ブランドはEVのグランドツアラー、ミニバン、マッチョなオフローダーなど、さまざまなセグメントに急速に進出しています。BYDのシーガル、Yang WangのU8/U9、DenzaのD9はその典型例です。最低価格が約11,000ドル(約150万円)のシーガル、同16万ドル(2180万円)以上のU8という2つのモデルは、中国メディアだけでなく、世界のメディアからも最も注目を浴びていました。奇瑞汽車(Chery)のiCAR、NETA、広州汽車(GAC)のAIONなどは、NEVの最も競争が激しい価格帯である20万~30万元(395〜592万円)のGTモデルを発表またはローンチしています。

活躍しているのはOEMだけではありません。車載電池最大手のCATLが製造する麒麟(チーリン)バッテリーは、Li Autoの次期BEVに採用されるほか、同社のナトリウムイオン電池はCheryの次期モデルに一部採用される予定です。CATLは、2023年中に500Wh/kgという驚きのエネルギー密度を誇る「凝聚態電池」を自動車用として年内に生産開始する可能性があるなど、電池のイノベーションと技術に関する話題を独占しています。

地平線(Horizon Robotics)、黒芝麻智能(Black Sesame)、芯馳(SemiDrive)などのチップ企業は、新製品とパートナーシップの拡大を発表し、亿咖通(ECARX)は魅族(MEIZU)とともに、フライムオートというコネテクティビティソフトウェアおよび、演算プラットフォーム「Antora1000」を披露しました。両社は、中国のスマートコックピットと自動運転用チップの供給を独占しているクアルコムとNVIDIAに対抗するためのチップ群も発表しています。LiDAR関連のスタートアップ、図達通(Innovusion)は、フロントガラスにLiDARを組み込む最新のイノベーションを披露し、若波濤(Robosense)や禾賽(Hesai)などのInnovusionの競合企業は、自社LiDARを搭載したOEMのモデルの発表を通じて、間接的にモーターショーで存在感を発揮していました。

都市における二地点間移動のためのADAS機能、いわゆるナビゲート・オン・オートパイロット(NOA、アクティブガイダンス運転支援機能)の競争は熾烈を極めています。Li Autoが、新しい全シナリオ対応のNOA機能をユーザーに永久無料で提供すると発表すると、会場は大いに盛り上がりました。一方、Xpengは、モーターショーに先立ってSEPA2.0プラットフォームを発表しています。このプラットフォームの本格稼働により、パワートレーンのコストを25%、自動運転機能コストを50%削減することが目標となっています。

ここまでにお伝えしたトピックは全て、海外ブランドが中国でのNEV市場での競争に追いつくための機会が次第に減りつつあることを意味しています。エンジン車市場は縮小を続け、NEVの販売が伸びる状況で、「既存顧客をつなぎとめる」必要があります。中国ブランドは変化する顧客ニーズに対応するために、よりスピーディに決断を下し、垂直統合を進めています。

モーターショーを歩き回ったあと、帰途につくなかで、私は当初のショックが収まり、他方である懸念が湧いてきました。中国の自動車メーカーによる現在のブランド展開は持続不可能であり、中には脱落するメーカーもあると思います。デザインは似たりよったりで、価格競争が熾烈であることから、これらのブランドや企業の長期的な健全な成長や収益性に寄与しないのではないでしょうか。最近登場した多くの中国メーカーのブランドや提供価値が実際のところどのようなものなのかは明確ではありません。 威馬汽車(WM Motor)、恒馳(Hengchi)、启辰新能源(Enovate)、愛馳汽車(AIWAYS)、蔚来汽車(NIUTRON)などのブランドは、市場から撤退済、または撤退のカウントダウンが始まっています。 実際、Xpengの何小鵬CEOは「32社から8社」への進化が起こると予想しています。すなわち、長期的には8社がそれぞれ300から400万台を販売する体制へ移行すると考えているのです。

このまま全員で成長を続けることはできません。私は、中国のスマートEVスタートアップ、中国の既存自動車メーカー、海外の既存自動車メーカーの各陣営から、勝者と敗者が出るだろうと考えています。

しかし間違いなく、NEVに関する競争では中国がリードし、海外ブランドは追随することになるでしょう。今のところは、です。

翻訳/翻訳アトリエ(池田 篤史)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です


この記事の著者


					池田 篤史

池田 篤史

1976年大阪生まれ。0歳で渡米。以後、日米を行ったり来たりしながら大学卒業後、自動車業界を経て2002年に翻訳家に転身。国内外の自動車メーカーやサプライヤーの通訳・翻訳を手掛ける。2016年にテスラを購入以来、ブログやYouTubeなどでEVの普及活動を始める。

執筆した記事