ポルシェジャパンがABBと150kW以上の急速充電器を共同開発、に突っ込んでみた

2019年4月12日、ポルシェジャパン株式会社が電気自動車レース「FIAフォーミュラEチャンピオンシップ」のタイトルパートナー企業でもある『ABB』と、日本国内におけるポルシェ電気自動車専用の急速充電器開発に関する業務提携に合意したことを発表しました。はたしてポルシェジャパンは、どんな急速充電器をどの程度の規模で整備しようとしているのでしょうか。ポルシェジャパン広報部に質問してみました。

ポルシェジャパンがABBと150kW以上の急速充電器を共同開発、に突っ込んでみた

150kW以上の次世代CHAdeMO展開に積極的に協力

ポルシェジャパン株式会社が、電気自動車(EV)インフラのリーディングカンパニーであるABB株式会社と、日本国内におけるポルシェ電気自動車専用の急速充電器開発に関して業務提携に合意したことを発表しました。ニュースリリースによると、ポルシェジャパンはABB製の急速充電器を全国のポルシェセンターと公共施設へ設置し、電気自動車用の急速充電ネットワークを構築し、2020年には国内導入が予定されているポルシェ初のフル電動スポーツカーである『タイカン』の充電に使用できるとしています。

また、この提携によって2020年半ばまでに150kWを超える急速充電を可能とする次世代のCHAdeMOを展開させるために積極的に協力して取り組んでいくことを表明しています。

ポルシェウェブサイト『E-パフォーマンス』ページでは、タイカンのイメージ動画も紹介されています。

ポルシェジャパンニュースリリース
ABBジャパンニュースリリース
※アイキャッチ画像はABBの急速充電器『Terra HP high power charging』のリリースから引用

ABBはスイス・チューリッヒに本拠を置く多国籍企業で、産業用ロボットや電力網インフラ機器のトップカンパニーであり、CHAdeMOおよびCCS(コンボ)の充電規格協会の創設メンバーにも名を連ねています。また、フォーミュラEのタイトルパートナー(スポンサー)でもあって、電気自動車への注力度がわかります。

ちなみに、ポルシェはフォーミュラEにも2019年末から始まるシーズン6から参戦することも予定しています。

ポルシェジャパン社長 七五三木敏幸氏のコメント
「ABB社とのパートナーシップにより、世界で最高レベルの急速充電器およびネットワークをお客様へご提供できることを大変嬉しく思います。ポルシェでは、2025年までに販売台数の半分を電気駆動モデル、または部分的に電気駆動のプラグインハイブリッドモデルとするプロジェクトがあり、オーナー様にとって重要な急速充電器のインフラが整備されることは、ポルシェ電動化プロジェクトの大きな前進と確信します」

ABB株式会社代表取締役社長 アクセル・クーア氏のコメント
「スポーツカーブランドとしてマーケットをリードしているポルシェ初の電気自動車のインフラに対し、ABBの技術を提供できることは喜ばしいことです。ABBはEVインフラの世界的リーダーです。私たちは、よりクリーンで、より効率的かつ費用対効果の高いソリューションの開発を可能にする、柔軟で高品質な充電システムの構築を開拓してきました。当社は、ポルシェジャパンのEVインフラ拡充に携われることを嬉しく思います。また、これを機にタイカンをはじめとした電気自動車の普及が日本国内で高まることを期待します」

ABB高出力急速充電器の説明資料(ABBウェブサイトより)

よくわからない点を質問してみました

高出力急速充電器の新規開発、充電インフラ網の整備は素晴らしいことです。ただ、発表の内容だけではサンドウィッチマンの富澤さんじゃないですが、「ちょっと何言ってるかわかんない」ところもあります。はたしてポルシェジャパンは、どんな急速充電器をどの程度の規模で整備しようとしているのでしょうか。ポルシェジャパン広報部にメールで質問してみました。

Q. 「全国のポルシェセンターと公共施設へ設置」とのことですが、全国46店舗の正規販売店への設置という理解でいいでしょうか?
「正規販売店に順次となります。設置や電力引込にかかる時間に差がありますので、準備でき次第順次導入となります」

Q. 公共施設は具体的にどういった場所を想定されていますか?
「ポルシェのお客様が日常的に訪れる(訪れやすい)場所を想定しております」

Q. 高速道路SAPAは想定に含まれますか?
「検討中です」

Q. ホンダと日本郵便のように全国をネットワークした大きな母体と連携するのでしょうか?
「独自のステーション設置と並行して、全国をネットワークとした大きな母体と連携することは検討しています」

Q. 設置数は全国で何カ所何基程度を想定していらっしゃいますか?
「未定です」

Q. 経路充電インフラとして設置間隔はどの程度の距離を目安に考えてらっしゃいますか?
「経路充電としては展開せず、既に設置されているNCS等の充電インフラをお客様に展開できるように考えています」

Q. 150kWで経路充電ではないというイメージがうまく理解できません。販売店のユーザーサービス、という考え方ということでしょうか?
「公共施設に設置する充電器は急速充電器1基というパッケージではなく、多種の充電器を複数台1箇所に設置する計画です。(充電ステーションのイメージ)ですので、お客様によっては自宅充電の代替品でもありますし、目的地充電にもなりますし、経路充電にもなりえます」

Q. 公共施設に設置される充電器は他車の使用も可能となる計画ですか?
「ポルシェ車を優先とする計画ですが、CHAdeMO規格の車両は基本的に使用可能です。公共施設の意向により車両を限定する可能性はあります」

Q. 車両を限定する可能性というのは、どのようなケースを想定していらっしゃいますか?
「今のところ想定ケースはありませんが、施設側のご意向、あるいはオーナーと施設の総意があれば可能性としてございます」

Q. 課金などはNCSに加盟という理解でいいでしょうか?
「現在のところNCSに加盟する予定はございません」

Q. CHAdeMO規格のポルシェ以外の車両が使用する場合、ほとんどの方がNCSの充電カードを使うのではないかと思います。NCSに加盟しない場合、独自の認証課金システムが必要になるかと思いますが、そうした点を含めて検討中ということでしょうか?
「公共性を持った独自の課金システムを検討しております」

Q. ユーザーに、どのような充電課金制度を提供される予定ですか?
「未定です」

Q. チャデモ規格で、V2H機器への対応はどうなるでしょうか?
「未定です」

ちょっと先走りした質問が多かったですが……

何度かのメールのやりとりによる回答を列記しました。ちょっと先走った質問が多かったのか、検討中や未定ですという答えも多かったですが。整理すると、以下のような構想であることがわかりました。

●150kW以上の次世代CHAdeMO規格による急速充電器を開発して設置する。
●まずは全国46店舗の正規販売店に順次設置。
●全国をネットワークする公共施設的な母体との連携もあり得る。
●充電ステーションには普通充電を含めた複数台設置を計画。
●公共性をもった独自の課金システムの提供も検討中。

ポルシェ独自の充電インフラはNCS(日本充電サービス)には加盟せず、タイカンなどのポルシェユーザーは既に設置されているNCS等の経路充電のインフラが利用できるようにするということは、ユーザーが加入するポルシェの充電カードはNCSと提携するということでしょう。ポルシェ車以外のEVユーザーがポルシェの充電器を使う際の「公共性を持った独自の課金システム」とはどのようなものなのか。もう少し伺いたいところではあります。

いずれにしても「複数台設置の充電ステーション」(ぜひ24時間対応でお願いします)という方向性はとても正しいことだと思います。

ポルシェ初のEVとなるタイカンは、2019年3月時点で、全世界の20,000人以上が購入希望者リストに登録。2020年には派生モデルのクロスツーリスモが導入されるほか、今年2月には現在のベストセラーポルシェであるマカンの次期モデルは電気自動車にすることも発表されています。

ポルシェジャパンのウェブサイトでは、すでに『E-パフォーマンス』=タイカン(Taycan)が大きくフィーチャーされています。ポルシェの電動化には、今後もますます注目していきます。

Porsche Taycan Cross Turismo Prototype : World’s first drive(YouTube)

(寄本好則)

この記事のコメント(新着順)7件

  1. ポルシェがNCS認証を使わないのは大正解だと思います。 ガソリンのように、どのメーカーのクルマのユーザーでも同じ料金で利用できれば良いな、とは思いますが、VWグループ以外にどの様な形で提供されるのか注目したいですね。

    率直に言って、NCSは株主4社(トヨタ、日産、ホンダ、三菱)以外のEVの国内販売を充電料金格差によって阻害するための会社なのではないか、という印象が強いですね。 その生い立ちを考えれば、4社の国内充電インフラへの貢献は確かですし、あるディーラーの充電ネットワークを他社製車のユーザーに割高料金で提供するのは当然あっていいと思います。

    しかし、道の駅やSA/PAなどの公共施設に、補助金を使って設置された充電施設を利用する料金が、メーカーによって何倍も差が出るというのは不公正です。 ガソリンでそんな事が許される訳がありません。

    トランプさん、非関税障壁はここにありますよー。

  2. 追伸、電気技術者としてインフラ系電機メーカー(業界用語で”重電”)の話をさせて下さい。
    (コアな話になってしまうことをお許しください(-_-)~~~)
    日本のチャデモ急速充電器メーカーの多くが高圧受電設備の機器を製造しています…実際、富士電機の高圧真空遮断器、ニチコンの力率コンデンサ、日立のキュービクル・負荷開閉器・変圧器・電力測定用補機などを現場でよく見かけ、いずれも大電力デバイスの製造に長けているともいえます。
    ABBの変圧器も偶に見かけますが、そう考えるとこの会社は日本の電力事情に合った機器を製造していることになり、それなりに期待が持てそうです。
    当然ポルシェ充電ステーションに設置されるはずの高圧受電キュービクルにはABB変圧器が使われ、他の機器もチャデモ充電器メーカーの機器を使ってくることになるでしょう!(技術提携でもあれば猶更)
    そう考えると日欧共同作業という見方も出てくると思いませんか?!
    (戯言だったら申し訳ありませんが、現業の邪推もひとつの道標になるかもしれませんので)
    電気設備保守の現場では海外製より日本製のほうが信頼が高いと考える風潮があり、すべて海外製だと手間を焼くと心配する声が根強くあります。
    部品供給体制の充実度も大事!ABB社が日本市場でどれだけシェアを持つかは不明ですが、日本の環境に合った材料で構成してほしいですね。
    そして万一故障したときの修理復旧体制も大切。ハードもさることながら、ソフト面も保守現場に無理強いさせず余裕のあるサービスを提供できる体制を望みます。

  3. 日本で一番多く普及しているEV充電器の認証サービスといえばNCSですよね!そうなるとNCSと提携するとしか思えませんが?
    エコQ電・ユニシス・JCNがNCSと提携するのも公共性利便性の高さが基にあり、文脈的に「独自の」は日産・三菱・ホンダなどと同様メーカー独自の充電カードを指し、「公共性の」は事実上広く一般的に使える接続サービス[NCS]を指すと推測できます。

    たとえば三菱i-MiEVに乗っていて三菱電動車両サポート会員になっているとしましょう。カード発行は間違いなく三菱(NCS出資会社のひとつ)、課金認証がエコQ電など、課金認証でカード発行元(三菱)へ請求を出すのがNCS…これでよろしいでしょうか!?
    (間違っていたらご指摘を)
    この分だとポルシェの場合、NCSには出資せずとも提携などして課金認証のとりまとめを依頼する形になるのでは?と踏んでいます。

    それにしてもCHAdeMO2が日産でなくポルシェの店舗に多く設置されるとは。夢にも思っていませんでしたww複数台ならテスラスーパーチャージャー状態ですね。
    そうなると他社製大容量EV(リーフe+など)ユーザーに充電器を占拠されかねませんが…当然他社ユーザーの料金は高めに設定するんでしょうけど(他メーカーのカードならNCS経由で1分15円は取る)。

    150kW複数台とあれば高圧受電必須ですよね!!(電験3種持ちだから判る)
    電力会社との契約のほか、電気工事手配も引込柱やキュービクル設置に伴う土木基礎工事が必要、主任技術者選任や保安規定の絡みで保安法人へ要委託…おそらく3ヶ月以上の準備期間が必要と考えられます。当然費用も莫迦にならないから「順次設置」となるだけで。テスラスーパーチャージャーと同じですよww
    (実際会社でテスラの高圧受電設備図面を見た経験あり)

    これは明らかにポルシェが日本への本格展開を仕掛けてきたと思えます。
    できればこれがVtoHに対応して2019年問題に苦しむソーラー発電設置住宅居住者の恩恵に与る事ができれば最高ですが!!(それが問題だ)

    少なくとも「動く蓄電池」として100万台のEV+VtoH需要が望めるはずです(本日イオン店舗に来ていた蓄電池業者のパンフのデータより)。
    その業者が言うには実際3日以上の長期停電があった地域からの蓄電池・V2H設置相談が他の地域を上回っているとか!ホントに電気がなくて困り「背に腹が変えられない」からですよ。
    俺も来月(5/26)その地域(下呂市萩原町)でi-MiEV+100V給電装置のデモを実施しますが、人手不足なので仲間を募集したいと思います!希望者があればコメントください。

    1. ユーザーへの充電カードは提携するけど、ポルシェが設置する充電器は加盟しないってことだと理解しています。テスラのスーパーチャージャーと同じですよね。とはいえ、チャデモ規格で使えるからNCS加盟しなくても公的に汎用性のある「課金システム検討中」というのは、合理的なスタンスだな、とも感じています。例えば、スイカが使えればNCSより便利ですし。w

      このあたり、充電インフラはメーカーのユーザーサービスを超えて、社会インフラであるべきと思う要因のひとつでもあります。

    2. 広く使われている課金サービス、鉄道系以外にもありますよね!
      たとえばイオン系のWAON。セブンイレブン以外のほとんどのコンビニで使えますし、何より「ワォーン!」決済音が可愛いから「女性でも難なく使える」とアピールすればいいのではないでしょうか!?(慣れるまでは恥ずかしいけど)
      もちろんWAONカードならイオンでの普通充電は無料ですし、急速充電も三百円かかるけど使えるし。
      普通充電有料のカードしかないEVオーナーがイオンモールでWAONをかざしている姿をよく見かけます。特にリーフ・i3ユーザーに多い。
      俺はi-MiEV乗りですがWAONかざします!どうせ買物するから別に三菱電動プレミアム会員カード出すまでもありませんよ。
      そう考えるとWAONに乗っかかる可能性も否定できません。ただポルシェ車オーナーがイオンによく行くかは知りませんが(^^;;;

  4. 充電インフラが増えることはEVにとっていいことですが、その反面ユーザーにとっては非常に複雑になっていますね。

    ところでEVSmart様へのお願いなのですが、今現在日本に設置されている充電インフラの違い(運営会社、料金等)を解説するような記事やページはありませんでしょうか?
    テスラモデルYが日本で発売されたら乗り換えようと考えているのですが、どうしても電気自動車の充電インフラが複雑でよくわかりません。
    なんとなく、電気自動車は基本的にChademoという充電規格に対応していて、充電器の課金システムはNCSという会社がほとんど牛耳っている。ユーザーはNCS対応の充電器を使う際には、NCSや提携業者が発行した充電カードやビジター利用で充電する…ということはなんとなく理解できたのですが、エコQ等の他の課金システムを運営する会社もある…?カードや充電場所も数種類あり、場所や充電方法(急速か普通か)カードを発行した会社によって料金が違う…という漠然とした知識でいます。

    まさに「わからないところがわからない」状態で恐縮なのですが、そのようなことを解説しているページや記事を作成ないし案内していただければと思って書き込ませていただきました。
    よろしくお願いいたします。

    1. 次はEVにしたい、様、コメントおよび貴重なご意見ありがとうございます。早速編集部で検討し、近々記事を作成したいと思います。
      取り急ぎ、、

      >電気自動車は基本的にChademoという充電規格に対応していて

      日本国内の純電気自動車(エンジンを搭載しない)は、ごく一部を除いてチャデモ規格に準拠しています。プラグインハイブリッド車は、特に欧州車は、ほとんどチャデモ規格に対応していません。

      >充電器の課金システムはNCSという会社がほとんど牛耳っている

      牛耳るわけではないのですが、NCSは自動車四社が出資を行い、作った合弁会社であり、充電カードの発行がその役割です。カードは大きく二種類あり、自動車メーカーが発行するカードと、NCS本体が直接発行するカードがあります。それぞれ料金や利用条件が異なります。

      >ユーザーはNCS対応の充電器を使う際には、NCSや提携業者が発行した充電カードやビジター利用で充電する

      はい、NCS対応の充電器で充電するには、上記自動車メーカーが発行しているNCS対応カード、またはNCSが直接発行しているカードで充電できます。また一部の充電器では、ビジター充電が可能なものもあります。それらは充電器に方法が記載されています。

      >エコQ等の他の課金システムを運営する会社もある

      はい。エコQ電(エネゲート)のほかにも、日本ユニシス(スマートオアシス)、ジャパンチャージネットワーク(JCN)、トヨタメディアサービス、NECこれ以外にも地域限定で充電カードを発行している会社があります。最初の五社は課金システムを持っていて、ビジター課金の際にはこれらのシステムが直接使われます。またNCSはこれらの会社に接続しているだけで、自前での課金システムは持っていません。

      >カードや充電場所も数種類あり、場所や充電方法(急速か普通か)カードを発行した会社によって料金が違う

      はい、おっしゃる通りです。ここら辺が一番ややこしいところですね。NCSが自動車メーカー出資であること、またNCSの最大の顧客が自動車メーカーであること、そして充電ネットワーク5社(そのうち主要なのは最初の3社です)はほぼNCSのみが顧客であることから、自動車メーカーの利益を最大化する方向ですべてが動いています。NCSに加入している自動車メーカーのカードを有料で契約するユーザー以外の、ビジターユーザーの利便性はあまり考えられていないのが現状です。

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この記事の著者


					寄本 好則

寄本 好則

兵庫県但馬地方出身。旅雑誌などを経て『週刊SPA!』や『日経エンタテインメント!』の連載などライターとして活動しつつ編集プロダクションを主宰。近年はウェブメディアを中心に電気自動車と環境&社会課題を中心とした取材と情報発信を展開している。剣道四段。著書に『電気自動車で幸せになる』『EV時代の夜明け』(Kindle)『旬紀行―「とびきり」を味わうためだけの旅』(扶桑社)などがある。日本EVクラブのメンバーとして、2013年にはEVスーパーセブンで日本一周急速充電の旅を達成した。

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