ポルシェ純電気自動車「タイカン」の急速充電は当面250kWに制限と報道

2019年7月12日、英「CAR MAGAZINE」電子版は、欧州で2019年に発売が予定されているポルシェ・タイカンの試乗記を掲載しました。この記事から、タイカンの充電出力が250kWに制限されていることがわかりました。ポルシェはこれまで、タイカンは350kW、800Vの超急速充電器を使えばわずか4分で100kmを走れるだけの電気量を充電できると説明してきました。でもCAR MAGAZINEによれば、発売当初は250kWに抑えられているようで、2021年までに350kW対応になる予定だとしています。

ポルシェ純電気自動車「タイカン」の急速充電は当面250kWに制限と報道

『Porsche Taycan ride review: electric game-changer』CAR MAGAZINE

※冒頭写真はイギリスで開催されたグッドウッドフェスティバルで走るタイカン(ポルシェニュースルームより)

ポルシェは今年5月28日に、ポルシェとアウディを含むフォルクスワーゲングループ、BMW、ダイムラー、フォードが合弁で2017年に設立した「IONITY(アイオニティ)」が、350kWの充電出力をもつHigh Power Charging Point (HPC)を欧州の100カ所に設置したことを公表(ニュースリリースへリンク)しました。これらの充電スポットは欧州の標準規格「CCS(Combined Charging System)」に対応しているので、タイカンも使うことができます。でも4分で100km走行可能な充電という超高速充電の実力を見ることができるのは、少し先のことになりそうです。

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目玉が頭蓋骨にへばりつくように2時間走って、電池残量は48%

CAR MAGAZINEの記事では、これまであまり明らかになっていなかったタイカンの充電性能やスペックについて、だいぶ突っ込んだ記述をしています。少し詳しくチェックしてみましょう。

まず電池容量は、試乗記に出てくるタイカン「ターボ」のプロトタイプでは96kWhで重量は650kg。408セル、34モジュールで構成されているLG製のリチウムイオンバッテリーは、床下に搭載されているようです。タイカンは4輪駆動のハイパフォーマンスモデル「ターボ」の他に、後輪駆動のベースモデルが用意されるようで、こちらは電池容量が80kWhに抑えられています。

ポルシェが公表している1回の充電での走行可能距離は、NEDCモードで500km以上となっています。これに対して、リアルワールドでの電費がどうなのかが気になるところですが、CAR MAGAZINEでは実際に試乗した結果、ポルシェの開発センターがあるヴァイザッハの田園地帯を「swiftly(速く)」に2時間以上走って、48%の残量があったとリポートしています。つまりNEDCモードで、250km分の電気量が残っていることになります。

とはいえ記事では走行距離が書いていないので、どのくらなものなのかは正直なところよくわかりません。わかるのは、ポルシェが発売するEVのパフォーマンスがどのくらいなのかを、かなり高い領域で確認しているらしいということです。たとえば、タイカンが装備しているローンチコントロールモードでスタートすると、「まるで目玉が頭蓋骨の後ろの方に絞り込まれていくよう(your eyeballs are being squeezed to the back of your skull.)」になると表現しています。

記事によれば、タイカンの前後輪に搭載されているモーター出力を合計すると最大出力460kW(600ps)以上、最大トルクは850N・mを超えます。この数字は、ポルシェの中でも最高性能を誇る911 GT3 RSの383kW(520PS)をはるかに凌駕するので、目玉が頭蓋骨にへばりつくというのも、わからなくはありません。

筆者には、目玉がへばりついた経験はありませんが、スタートダッシュだけでなく、走行速度域の高い欧州のワインディングロードで、かなりヘビーな走り方をしているのは間違いないようです。仮に2時間で150km以上走っているとすると、あと150kmほど走れる電池残量があることになります。

4時間で300kmも走れば少しは休みたくなるので、休んでいる間に充電すればいいから電池量は十分なのかも……などということが思い浮かびますが、より詳細な性能評価は今後のお楽しみといったところでしょうか。

Taycan prototype on the roads of Shanghai

テスラモデル3と急速充電の性能を比べてみる

ところで、前述したようにタイカンの急速充電の能力は、当面は250kWまでに制御されているようです。これほど高い電力を受け入れることができるのは、今のところ、スーパーチャージャー バージョン3(スーパーチャージャーV3)に対応しているテスラモデル3だけです(モデルSやXは今後対応予定)。ではタイカンとモデル3では、充電性能にどのくらいの差があるのでしょうか。これもまた、CAR MAGAZINEの記事などを参考に考察していきたいと思います。

まず、テスラモデル3ロングレンジは、スーパーチャージャーV3を使えば15分で、高速道路を163マイル(約260km/EPA)走行可能な分を充電できるとリポートされています。

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『テスラ モデル3をスーパーチャージャーV3に繋いでみたら、12分以内で50%の充電完了!』

一方、前述したようにポルシェは、350kWなら4分で100km走るだけの電気量を充電できるとしています。またCAR MAGAZINEは、350kWなら80%まで、わずか14分で充電できるようになるとしています。1回の充電での航続距離は512km(NEDC)なので、80%なら409kmです。

テスラモデル3=250kW 15分/260km分(EPA 高速道路)
タイカンターボ=350kW 14分/409km分(NEDC)

各記事を参照したデータなので航続距離のモードが違いますが、タイカンターボの「409km」をEPAで7.5掛けだとすると、約307kmになります。

うーん、なんだか微妙ですね……。

こうやって並べてみると実用上の違いはあまりないようにも感じます。日常での使用を考えると、15分のトイレ休憩(充電)をはさんで200km以上を連続して走ることができるというのは、移動の自由を満喫するためには必要十分。充電の出力250kWが350kWになることが、それほど重要な課題だとは、正直言って感じません。

さらに言えば、EVsmartブログではたびたび言及されてきたことですが、急速充電器が最大出力で充電できるのは自動車側の電池容量が一定以下に減っている時だけです。前出の「テスラ モデル3をスーパーチャージャーV3に繋いでみたら、12分以内で50%の充電完了!」の記事を確認すると、スーパーチャージャーV3とモデル3ロングレンジの組み合わせではSOCが5~20%の間は最大出力の250kWが出ていますが、20%を超えると直線的に出力が下がりはじめ、50%で150kW、80%では50kW程度まで落ちています。

急速充電による電池の劣化を防ぐためには出力調整は必須なので、350kWの超急速充電器とタイカンの組み合わせでも同じような仕様になると思われます。SOC20%を超えると最大出力が下がっていくのが電池側の受け入れ性能の問題だとしたら、350kW充電器の場合は最大出力を出す時間はもっと短くなるかもしれません。

このあたりは、タイカンの市場投入後にわかってくると思われますが、結局は、休みたいときに休んだ場合に都合よく最大出力が出る電池残量になっているかどうかはわからないので、場合によっては350kWや250kWという高出力がほとんど発揮されないケースも出てきそうです。

充電効率を高めるために電池残量が減るまで走ってから休むのか、休みたいときに休んでちょこっとずつ充電していくのか。EVライフが広がる中で出てくる、EVユーザーの選択肢なのかもしれません。

TESLA MODEL3

どこまで充電器の出力は上がるのか

もっとも、今はまだ350kWの超急速充電ステーションは、欧州でも数が限られています。それどころか250kWの充電ステーションについても、CAR MAGAZINEは「まだらに点在」しているだけだと指摘。実際に利用できるのはほとんど150kW仕様なので「80%まで充電するためには最低40分間は『Grand Theft Auto』(派手なカーアクションなどで人気のオンラインゲーム)をしなければいけない」と述べています。

つまり現状では、EVが250kW、あるいは350kW対応になっても、恩恵をフルに受けられる機会は限られているということになります。ほんとうに利便性を感じられるのは、数年後になるのでしょう。もっとも、日本では100kWクラスの急速充電器すらまだほとんど存在していないのですが。

ところで私見ですけども、充電器の出力が上がっていくことについては懸念があります。ひとつは、充電効率=エネルギー効率のことです。

充電時間を短くすれば、1台の車が充電器を占有する時間が短くなるので、EVが増えたときの利用環境は間違いなく向上します。けれども出力を上げていくと熱の発生が増えて、充電効率が落ちていくことになります。電池の劣化も早めてしまいます。

あまりに出力向上ばかりを考えすぎて充電効率が落ちてしまうと、EVの持つメリットを相殺してしまう可能性があるのです。今はまだあまり注目されていませんが、高出力化が進む中で議論になるのは間違いないと思います。

EVはモビリティ全体のエネルギー効率を上げることができる、つまりCO2を減らすことができるというのが大きな特長です。電気が完全に再生可能エネルギー由来になって、自由にいくらでも使えるというのであれば別ですが、そうでなければ、いかに効率よくエネルギーを使うかは非常に重要なポイントになるはずです。

必要以上に充電時間を短くすることで効率が落ちてしまっては、本末転倒になる可能性があります。充電効率はほとんど公表されていないだけに、分岐点がどこにあるのか、自動車メーカーがどう考えているのか気になります。

利便性の向上とEVの社会的使命のバランスは、いつかどこかで考えないといけなくなるでしょう。もちろん、電池や充電器、電子デバイスの性能次第でバランスは変わってきますが、モデル3やタイカンの登場は、そうした議論が俎上に載るきっかけになるようにも感じています。

(木野龍逸)

この記事のコメント(新着順)1件

  1. 当初は250kWで行くんですね。 ちょっと残念ですがそれでも250kWは十分速いですし、遅くても2021年までと原文にはありましたから、納車開始の2020年から1年未満で350kWの圧倒的な充電速度に移行できるなら、大歓迎じゃないでしょうか。Ionityもまだ少ないとはいえ順調に展開しているみたいですし、欧州が羨ましいです。

    日本はどのくらいの出力でいけるのか、CHAdeMO次第みたいな感じになってて非常に残念な限りです。

    原文には、他にも時速300km/hで何マイルもバッテリーの冷却のためのパワーダウンなく巡行出来るとか、ドイツ車らしい性能も記述がありますね。実際に市販車がどうかはこれから評価が出るのでしょうが、今までのBEVと一線を画すかも知れない、ポルシェの名に恥じないモノに仕上がってそうで楽しみです。もちろん、日本を含むほとんどの国には不要な性能ではありますが、それを可能にしたと思われる二段変速機は少し興味があります。

    充電速度と効率については、そのための800Vであろうと期待しています。電池側は同時に2倍の数のセルを直列にして充電する訳ですが、各セルの充電についてみれば従来通りの速さのはずです。2倍のセル数を充電すると2倍の熱が発生しますが、それは効率としては従来と同じであり、これで電池が高熱にならない冷却が出来れば問題なさそうです。(冷却は容量が2倍で時間が半分になるはずです)

    もう一方の充電器側も、受電電圧はもっと高い訳ですから、高電圧化は効率の観点から正しそうに思います。伝送も高電圧の方が高効率ですし。部品単位で課題などもきっとあるのでしょうが、ユーザーとしては是非効率を落とさずにモノにして欲しいところです。

    原文タイトルにある、Game Changer、ゲームの流れを変えるものという意味ですが、タイカンが何を変えるのか、変えられるのか。非常に楽しみな1台だと思います。

    実査に走り出したら、是非、充電時間や航続距離などもご紹介いただければ幸いです。

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この記事の著者


					木野 龍逸

木野 龍逸

編集プロダクション、オーストラリアの邦人向けフリーペーパー編集部などを経て独立。1990年代半ばから自動車に関する環境、エネルギー問題を中心に取材し、カーグラフィックや日経トレンディ他に寄稿。技術的、文化的、経済的、環境的側面から自動車社会を俯瞰してきた。福島の原発事故発生以後は、事故収束作業や避難者の状況のほか、社会問題全般を取材。Yahoo!ニュースやスローニュースなどに記事を寄稿中。原発事故については廃棄物問題、自治体や避難者、福島第一原発の現状などについてニコニコチャンネルなどでメルマガを配信。著作に、プリウスの開発経緯をルポした「ハイブリッド」(文春新書)の他、「検証 福島原発事故・記者会見3~欺瞞の連鎖」(岩波書店)など。

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