閣議決定された「規制改革実施計画」に盛り込まれたEV充電器整備の施策とは?

6月16日、政府が「時代に適合した規制の在り方」を実現するための「規制改革実施計画」を閣議決定。「EV普及に向けた充電器の整備のための規制・制度の見直し」の施策が盛り込まれています。

閣議決定された「規制改革実施計画」に盛り込まれたEV充電器整備の施策とは?

グリーン分野の冒頭にEV充電インフラ施策

2023年6月16日、政府が「規制改革実施計画」を閣議決定しました。変化のスピードが速い世界の情勢に対応し、「我が国が豊かで活力ある国で在り続けるため」に「時代に適合した規制の在り方を模索し、実現していかなければならない」とする目的を掲げ、「スタートアップ・イノベーション」から「地域産業活性化」など幅広い分野にわたる内容で、「グリーン」分野の冒頭には「カーボンニュートラルに向けたEV普及のための充電器の整備に向けた見直し」の項目が盛り込まれました。

閣議決定された内容は、内閣総理大臣の諮問機関として2019年に設置された「規制改革推進会議」で検討が進められてきたもので、2022年11月に開催された第24回再生可能エネルギー等に関する規制等の総点検タスクフォースではEVsmartブログにも声がけをいただき、おもに充電インフラについて提言しました。

【関連記事】
EV普及に向けた充電器整備について「再エネタスクフォース」で提言〜ユーザー本位の改革を要望(2022年11月19日)

EV充電インフラ施策の具体的内容

「規制改革実施計画」は、内閣府のウェブサイトで公開されています。PDFファイルは全体で127ページ(インデックスを除くと122ページ)に及ぶ分厚さで、EVに関する内容は、資料ノンブルの27〜32ページに記載されています。

はたして、どんな規制改革が行われていくことになるのか、具体的に確認しておきましょう。内容説明は要約します。

【1】EV用充電器の整備に係るロードマップの策定
(a)高速道路の経路充電施設、(b)それ以外の経路充電、基礎充電、目的地充電施設整備に関するロードマップを策定する。
<状況>
(a)は措置済み。(b)は令和5年度上半期を目途に措置予定。

【2】サービスエリア・パーキングエリアの充電器設置
全国の高速道路SAPAへの高出力急速充電器設置について、国土交通省、経済産業省は、NEXCO等の高速道路会社や独立行政法人日本高速道路保有・債務返済機構等の関係機関と適切に連携しつつ、ロードマップの実現のために協力する。
<状況>
措置済み。

【3】高速道路近傍のEV充電器利用のための高速道路からの一時退出の実現
高速道路からの一時退出による充電器利用でも一時退出しない場合と同じ料金を適用できるよう経済産業省やEV用充電器の設置主体となる事業者とも連携して実現する。
<状況>
令和6年度措置予定。
ただし、充電もETCカードで課金など疑問点があることは別記事で提示しています。

【4】道の駅における充足充電器の整備
全国の道の駅への急速充電器設置について、国土交通省から道の駅の設置者である市町村等に対し、当該事業に協力するよう通知を発出する等の措置を行う。
<状況>
令和5年度上期目途で措置。

【5】EV用充電器の設置促進に係る補助制度の検討
ロードマップと整合性がある充電器設置促進に向けて、要件等を検討し、必要な措置を講ずる。
<状況>
令和5年度に検討して結論を出し、結論を得次第速やかに措置。

【6】一般道における道路占有許可等の基準の明確化
一般道にEV用充電器を設置する際の道路占用許可等の基準を各自治体が定めやすいよう、国がガイドライン等を作成・公表し、各自治体に周知を行う。
<状況>
措置済み。

【7】緑化地域制度におけるEV用充電器スペースの扱いの見直し

緑化地域における商業施設等において設置されるEV用充電器スペースの扱いについて、緑化率の算定方法を整理した上で、通知等により全国の地方公共団体宛てに示し、かつ公表する等の措置を講ずる。
<状況>
令和5年度上半期措置。

【8】新築集合住宅へのEV用充電器の設置の促進
(a)新築集合住宅を供給する事業者に対し、自社が供給する集合住宅へのEV用充電器の積極的な設置について要請文書の発出等を行う。
(b)経済産業省において、補助制度の改善等を図るととともに、国土交通省と協力して、自治体における補助制度との連携や事業者に対する支援措置の周知・普及を行う。
<状況>
令和5年度上期目途で措置。

【9】既設の集合住宅へのEV用充電器の設置の容易化
既設の集合住宅へのEV用充電器の設置の容易化を図るため、管理組合の合意形成の円滑化に資する具体的な方策として、標準管理規約コメントにおけるEV用充電設備の設置に係る記載の充実化等について、法務省、国土交通省及び経済産業省の連携の下、検討し、必要な措置を講ずる。
<状況>
令和5年度に検討して結論を出し、結論を得次第速やかに措置。

【10】月極駐車場へのEV用充電器の設置の促進
月極駐車場へのEV用充電器の設置促進のため、充電器に関する補助制度について充電事業者や駐車場管理事業者等に周知を行う。
<状況>
令和5年度上半期措置。

【11】集合住宅における充電スペースに係る総合設計制度上の扱いの合理化
国土交通省は充電器を一般に開放する場合か否かにかかわらず、「敷地内にEV充電器を設置する建築物」を市街地の環境の整備改善に資するものとして、容積率割り増しについて、各地方公共団体に通知する等の必要な措置を講ずる。
<状況>
令和5年度に検討して結論を出し、結論を得次第速やかに措置。

【12】EV用充電器を設置している住宅の取得を促す措置
EV用充電器を設置している住宅の取得を促すインセンティブ制度の導入に向けて、必要な措置を講ずる。
<状況>
措置済み。

【13】集合住宅の駐車場の附置義務に関するEV用充電器スペースの算入可否の明確化
経済産業省が作成するEV充電器普及のロードマップの方針を踏まえ、駐車場法に基づく附置義務制度の考え方を示すとともに、地域の実情に応じた事例を紹介すること等、地方公共団体に対して通知を発出するとともに、その内容を公表する等の必要な措置を講ずる。
<状況>
令和5年度上期目途で措置。

【14】大規模小売店舗の立地法における駐車場収容台数についてのEV用充電器付き駐車スペースの算入に係る明確化
経済産業省は大規模小売店舗に設置するEV用充電器付きの駐車スペースに関し、大規模小売店舗立地法上の必要な駐車場の台数に算入可能である旨を明確にするため、自治体に対し、通知の発出等必要な措置を講ずるとともに、措置の内容をホームページ上で公表する。
<状況>
令和5年度に検討して結論を出し、結論を得次第速やかに措置。

【15】EV用急速充電器の消防法上の設置方法及び届出等の解釈の統一化
EV用急速充電器の設置方法関係規定の解釈や届出の際の提出書類について、各消防管区で統一化を図るため、通知を発出する等の措置を講じ、周知を行う。
<状況>
措置済み。

【16】受電電圧600V以上のEV用充電器について一般EVユーザーが扱えることの解釈の明確化と周知等
経済産業省は、受電電圧600V以上のEV用急速充電器について、EVの一般ユーザーが充電行為を行える旨について広く周知を行う。
<状況>
令和5年度に検討して結論を出し、結論を得次第速やかに措置。

【17】「高圧」扱いとなる場合のEV用充電器の安全な施設方法の明確化
高圧扱いとなるEV用充電設備について、具体的にどのような設置形態とすれば、高圧に関する規制に抵触しないのか、施設方法等を明確化すること。
<状況>
令和5年度に検討して結論を出し、結論を得次第速やかに措置。

【18】高電圧のEV用充電器の保安を担当する主任技術者に関する制度の合理化
より多くのEV用充電器の保安を主任技術者が担当できるよう、経済産業省において、外部委託承認制度における点検頻度の在り方・換算値等の見直しについて検討を行い、結論を得て、結論を得次第速やかに措置する。
<状況>
令和5年度に検討して結論を出し、結論を得次第速やかに措置。

【19】急速充電器の互換性の確保
特定のEVのみしか接続できない仕様となっている急速充電器について、自社のユーザー向けのサービスとして設置している状況を尊重しつつ、他の規格との接続性を高め、他のユーザーの利便性が向上するよう必要な措置を検討し、検討結果に応じた措置を講ずる。
<状況>
可能な限り早期に検討して結論を出し、結論を得次第速やかに措置。
(編集部注)この項目については、テスラスーパーチャージャーを想定しているのか何なのか、ちょっと意図がわかりませんでした。

【20】急速充電器の互換性テストを行う環境の構築
CHAdeMOの認証を取得した充電器であっても、EVと接続できない場合や所定の受電出力が出ない事象が発生している。このため、希望する車両メーカーが、CHAd eMOの認証を受けた様々な充電器と接続確認ができる場を提供する。
<状況>
令和5年度に検討して結論を出し、結論を得次第速やかに措置。

【21】普通充電器の出力上限の見直し
普通充電器の充電時間の短縮による利便性向上の観点から、JARI認証における6kWの上限について、海外の規格等を参考とし、より高出力のものまで認証されるよう検討する。
<状況>
令和5年度末を目途で措置。

【22】EV用充電器を設置した事業者等を適切に評価する仕組みの構築
環境省は、事業者によるEV用充電器の設置等を「地球温暖化対策計画書制度」のガイドラインにおける評価項目例として新たに追加するとともに、その好事例を記載する。
<状況>
措置済み。

【23】EV用充電器の不具合発生時の復旧作業の合理化に向けた取組
EV用充電器について、不具合が発生した際に、可能な限り遠隔監視・制御技術によるリセット(再起動)を可能とし、EV用充電器の利便性を向上させるため、例えば、OCPP(Open Charge Point Protocol)を搭載したEV用充電器を普及させるための施策を実施する等の必要な措置を講ずる。
<状況>
令和5年度に検討して結論を出し、結論を得次第速やかに措置。

【24】屋外広告物条例におけるEV用充電器案内看板の設置基準の整理
EV充電器の案内看板の扱いについて、対応が異なる各地方公共団体における具体的な判断の相違点を含め必要な点の実態を整理し、地方公共団体に対し国土交通省より通知を発出するなど必要な措置を講ずるとともに十分な周知を行う。
<状況>
令和5年度上期目途で措置。

EVシフトで日本が生き残っていくために……

EV充電についての全項目を抜き出しました。少しまとめようかとも思ったのですが、列記されている内容はおおむね日本のEV充電インフラの課題を網羅しているので、EVユーザーのみなさんはざっくりと見渡しておくだけでも有意義だと思います。

内閣府のタスクフォースでは、実際の設置事業者をはじめ、EVsmartブログ(プレゼンターは当時の運営会社だったアユダンテ社長の安川さん)など、たくさんの方々がさまざまな意見を出しました。まずは、こんなに幅広く具体的な改革案をまとめてくださった内閣府タスクフォース、また各省庁関係者の方々に敬意を表します。

その上で、あえて懸念を挙げておくと、多くの課題への措置が「周知」や「通知」にとどまっていることには「ほんとに進むんだろうか」という不安を感じる点もあります。たとえば「【9】既設の集合住宅へのEV用充電器の設置の容易化」といった課題については、より具体的な法改正など効果的な施策が進展することを期待したいところです。

また、冒頭に挙げられている「ロードマップ」の内容こそが重要であることは言うまでもありません。措置済みとなっている高速道路の急速充電器整備のロードマップ(計画)については、eMobility Powerの公式サイトなどで公開されています。

急速充電に関するもろもろは、現状の日本の公共充電インフラにおける課題がかなり網羅されている印象です。とはいえ、アメリカではテスラによるNACS(North American Charging Standard=北米充電標準規格)に統一されつつあり、日本の自動車メーカーも北米向けEVはNACSに対応せざるを得ないでしょう。そうなると「日本国内向けもNACSで」という動きが出てくることも予想できます。

はたして、日本が誇るチャデモ規格はNACSを凌駕することができるのか。日本で販売されるEVの充電性能はどういうものであるべきなのか。そのためのビジョンを構築するには、やはり自動車メーカーから具体的な提言やプロダクトが示される必要があると感じます。

ともあれ、今までモヤモヤしたまま匍匐前進を続けていた日本のEV充電インフラに対して、より具体的な方向性が示されました。

適切な場所に、十分な数と性能の充電インフラ整備が進んでいくことを願っています。

文/寄本 好則

この記事のコメント(新着順)3件

  1. 先の投稿で「これからのカーボンニュートラルを実現していく日本の姿というものが全く見えてきません」と書いている手前、今回閣議決定された「規制改革実施計画について」を読んで感じたことを改めて投稿したいと思います。
    正直なところ充電インフラについては、総花的ではありますが今問題にされている点について、それぞれちゃんと考えられていて一定の期待とともに頑張っていただきたいと思いました。
    規制改革実施計画ですから仕方ないのですが、日本という国がこのエネルギー変革の中で、どういう国を目指すのか、その方向性が見えづらいと思いました。別の形でも良いから、2050年カーボンニュートラルに現時点で示せる方向性を語って欲しいと感じました。
    私としては、もう既に「全方位で本気です」という状態ではないと思っています。
    そういう意味では、やはり国は原子力と水素は外せないんだなぁってところは、悲しくなりましたが。
    せめて東京都のようにカーボンニュートラルに向けて、本気ってところを見せて欲しいものです。

  2. 電気工事の内容、追加配線の困難さ、その辺りの実務を御存じの上で、簡単にマンションへ充電設備を追加設置出来ますよ!とおっしゃっている方々も少なくない様です。管理組合にはお金が腐る程あるし、足りなくなったら管理費とか修繕積立金期間限定で値上げすれば大丈夫とでも思って居られるのでしょうか?管理会社は工事費で売り上げアップ&評価アップでウハウハでしょうが、管理組合には頭の痛い工事費総額という問題が出てきます。

    100V単相を200V単相へのコンセント変更一つとっても電気工事士免許が必要ですが、これらを提言された方々は、既存マンションへの配線設置工事でお幾ら程を見込んでおられましょうか?

    基本は新築マンションへの充電設備を余裕を持ち過ぎた状態での既存設置し、EVの進歩に備えさせるのが、一番容易で低額で確実では無いでしょうか?既存マンションへの工事には補助金額を増やさねばならんのでは?

    実際マンション一棟分の電力が必要なんですよ?引き込みの3相電力が基本料金幾ら掛かりますか?

    アスファルトカットして配線を埋めて、ポールの基礎も、カットした上で設置せにゃあならんので、初めから準備しておかないと、この程度の金額なら埋め込み配線求められるトコはどこも手を出せないんじゃないかな?

    其処らを勘案すると、これでもアリバイ作りではないかなぁ?管理組合理事長として苦労して居るモンからすりゃあ、扇動するだけの提言は止めてほしいもんです。

  3. この内容を応援はしますが…
    これを考えた官僚や政府のお役人は、BEVに乗ったことがあるのでしょうか?
    BEVが何かを体験せずに策定したなら無駄です。
    また、マスコミの方々もしっかり勉強して欲しいです。
    「充電時間待てない」と昔の価値観でしかものを語れない自動車評論家や勉強不足の一般紙のマスコミ。
    そんな評論や記事を読んでいると辟易とします。
    否定ばかりするのはやめて「どうすれば、これが実現できるか」考えて行動して欲しいものです。
    そうでないと、ユーザーはただ冷ややかな目で見ているだけです。

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この記事の著者


					寄本 好則

寄本 好則

兵庫県但馬地方出身。旅雑誌などを経て『週刊SPA!』や『日経エンタテインメント!』の連載などライターとして活動しつつ編集プロダクションを主宰。近年はウェブメディアを中心に電気自動車と環境&社会課題を中心とした取材と情報発信を展開している。剣道四段。著書に『電気自動車で幸せになる』『EV時代の夜明け』(Kindle)『旬紀行―「とびきり」を味わうためだけの旅』(扶桑社)などがある。日本EVクラブのメンバーとして、2013年にはEVスーパーセブンで日本一周急速充電の旅を達成した。

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