全車EV:陸前高田の『三陸おもてなしレンタカー』が目指すビジネスモデルとは?

岩手県陸前高田市に、電気自動車(EV)だけで開業したレンタカーサービスが『三陸おもてなしレンタカー』です。公共交通機関で訪れるにはあまりにも不便な町で、はたしてどんなビジネスを展開しようとしているのか。テスラ モデル3で訪れてキーパーソンの思いを取材。モデル3同乗試乗会も開催しました。

全車EV:陸前高田の『三陸おもてなしレンタカー』が目指すビジネスモデルとは?

陸前高田でレンタカー業は成立するのか?

2020年1月25日、岩手県陸前高田市に、全車EVの『三陸おもてなしレンタカー』が開業しました。創業メンバーの一人でもある堤健一さんは、元三菱自工社員で、i-MiEV普及啓発などの担当者。さらに三菱自工への中途入社以前から、コンバージョンEV製作などを手がけていて、日本EVクラブで電気自動車普及活動や電気自動車遊びに一緒に取り組んできた友人です。

左から、創業スタッフの作増さん、浅間さん、堤さん。もう一人の三浦さんはご不在でした。

三菱を退社後は、株式会社LTEという電気自動車リース業などを手がける会社を起業して、電気自動車普及をまさに天職とする人だけに、EVレンタカー店の開業に関わるという知らせはそんなに意外なことではありません。でも、自らも陸前高田に移住するという話を聞いて、ちょっと心配になったのでした。

読者のみなさんは、陸前高田へ行ったことはありますか? 試しに、私(寄本)の拠点である世田谷区三軒茶屋から、レンタカー店に近い『アバッセたかた』というショッピングモールまで、Googleマップで鉄道利用のルート検索をしてみました。

一関まで東北新幹線を利用しても、陸前高田までは5時間以上かかります。さらに、一関から気仙沼まで在来線で1時間半くらい走った上に、気仙沼からは津波で流されてしまった大船渡線をバスで代替輸送するBRT(bus rapid transit=バス高速輸送システム)に乗り換えて、ようやく「陸前高田駅」に到着。陸前高田でレンタカーを借りるということは、陸前高田までこうした公共交通機関で行くことになるのでしょうが、はっきり言ってすごく不便です。

ロングドライブレポートの復路編でも紹介した『東日本大震災津波伝承館』と『道の駅 高田松原』が昨年秋にはオープンしたので、陸前高田を訪れる観光客は増えるでしょうが、おそらくはマイカー利用者がほとんど。わざわざレンタカーを借りるニーズなんてないんじゃないの? と感じたのです。

アバッセたかたの向かい。レンタサイクルショップと共用のオフィスでした。

プランはあってもプレイヤーがいない

『三陸おもてなしレンタカー』へ取材に伺ったのは2020年2月22日(土)のこと。かさ上げや道路整備工事がおおむねできあがりつつある津波被害を受けた旧市街地、『アバッセたかた』というショッピングモールと道を隔てて設置されたトレーラーハウスの「オフィス」で、運営会社である「東北株式会社」CEOの浅間勝洋さんにお話しを伺いました。

なぜ、ここでEVレンタカー?

まず聞きたかったのが、なぜ、この陸前高田という不便な場所で、しかも全車EVというレンタカー店を開業することになったのか、です。

浅間さんは神奈川県生まれ。元々は東京で広告関連の仕事をしていました。陸前高田は父親の郷里ということもあり、震災後、ボランティアとしてさまざまな活動に協力するうちに、2017年頃から交流人口拡大戦略策定に関わるようになったそうです。

とはいえ、復興と活性化のためにさまざまなアイデアやプランは浮かぶのですが、それを実践するプレイヤーが地元にいない。「それなら!」と、2019年3月、浅間さん自身が地域活性化のためのソーシャルビジネスに取り組むべく東北株式会社を起業。具体的に何から手を着けるか検討しているところに、市の関係者から「レンタカーをやらないか」と相談されたのが、今回の開業のきっかけでした。

浅間さん自身はレンタカー業なんて門外漢でしたが、陸前高田でレンタカー店起業というアイデアのFacebook投稿に、自動車が専門の堤さんが反応して協力を申し出て話し合いが始まり、どうせやるなら、サステイナブルなモビリティである電気自動車でと話が進展。作増さんと三浦さんというスタッフとともに4人が陸前高田市の地域おこし協力隊としての委嘱を受けて、まずは事業を軌道にのせるためのチャレンジを始めたところ、ということです。

商品はただの「レンタカー」じゃない!

ロゴ入りののぼりが目印です。

失礼ながら、浅間さんや堤さんにも、直接「ニーズがないのでは?」という疑問を伺ってみました。実際に自ら移住して、人生を賭して新規事業に挑んでいるお二人の回答は明快でした。

『三陸おもてなしレンタカー』が目指しているのは、「来た人にEVを貸し出す」というただのレンタカーとしてのビジネスではありません。

●陸前高田をはじめとする三陸をEVレンタカーで訪ねる魅力を創造する。
●環境に優しい電気自動車で、地域の利便性向上に貢献する。

端的にまとめると、この2つの「軸」を確立して利用者を増やしていくことを、『三陸おもてなしレンタカー』は目指しているのです。

実際に動き始めている、いくつかの具体例を紹介しておきましょう。

地域の「乗り合いバス」に活用

まず、地域の利便性向上への具体的取り組みの事例といえるのが、2月4日から陸前高田市横田町で始まった「支え合い交通」の実証実験です。

市内山あいの横田町から、市役所やアバッセたかたがある「まちなか」までは約10km。路線バスが利用しにくい地域の高齢者のために、三陸おもてなしレンタカーの『e-NV200』を活用して、毎週火曜日の午前中、地域から「まちなか」までの送迎を行うという試みです。

ドライバーは地域のボランティアが支えているとのこと。電気自動車を語るとき、MaaSをはじめとする「新しい交通システム」がしばしば話題になりますが、実際に「仕組み」が機能するためには、リアルな「電気自動車」や、運転する「人」が不可欠なのは当然のこと。小さな取り組みではありますが、三陸おもてなしレンタカーが開業したことで、陸前高田に「新しい移動手段」へのチャレンジが始まっているのです。

三陸ジンジャーとのコラボ

「三陸をEVレンタカーで訪ねる魅力を創造」の具体的な取り組みとして、4月末までの期間限定でスタートしたのが『三陸おもてなしレンタカー×三陸ジンジャー』のコラボ企画です。

ジンジャーは、いうまでもなく「生姜」のこと。国内の生産は高知県がトップであるように、生姜はもともと熱帯原産で、温暖な気候を好みます。

陸前高田で『三陸ジンジャー』というブランド名の生姜栽培に挑戦しているのは、2014年に千葉県から移住した菊池康智さんです。陸前高田には祖父母が住んでいて、海を望む高台にかつて果樹栽培などをしていた畑がありました。震災当時は30歳、首都圏で普通に働いていましたが「2年くらいモヤモヤ」した思いを抱え、2014年に移住を決意。陸前高田で農業を始めるため、地域に合ったユニークな作物を検討するなかで、当時、復興支援のために東北でも気候が穏やかな陸前高田での栽培研究が進められていた生姜と出会い、試行錯誤ののち、2017年に生姜生産と加工品販売で起業しました。

三陸ジンジャーを生産する菊池さん。手に持った生姜が立派です!

「健康にいい機能性食材ともいえる生姜は女性が好き。しかも三陸で栽培するのは希少でブルーオーシャン。おやきを作るお母さんたちと出会ったり、生姜のおかげでネットワークが広がっていきます」と菊池さん。

『三陸おもてなしレンタカー×三陸ジンジャー』のコラボ企画では、モデルコースが紹介されています。

【6時間コース】
●農園見学

●三陸ジンジャーを使用したドリンクを飲みながら菊池さんのお話し

●三陸ジンジャーを使用した料理を楽しむ

●三陸ジンジャーが販売されている道の駅「高田松原」や産地直売所「はまなす」などで買い物

三陸ジンジャーを使った料理やドリンクは、陸前高田市内の『PECHKA(ペチカ)』というCafe & Libraryや、『FRYINGPAN(フライパン)』というカレーが美味しい農家カフェ、レンタカー店から約50kmの遠野市内にある『遠野醸造 TAPROOM』などで出会い、楽しむことができます。

今回、私もFRYINGPANを訪ねて、スパイスホットジンジャー(350円)をいただきました。ウェブやガイドブックの情報を携えて陸前高田を訪れたとしても、三陸ジンジャーの菊池さんと出会うことはなく、FRYINGPANを訪ねることもなかったでしょう。津波伝承館や震災遺構を見学し、しかめっ面でまだ荒れ地が目立つ風景を眺めるだけの旅になってしまうかも知れません。

加工品もなんだかオシャレ。

道の駅でも大人気? 売り切れ寸前でした。

フライパンでいただいたホットジンジャードリンク。

甚大な災害に見舞われたことで、復興へと前進する被災地には、さまざまな町で素敵な人たちの意欲的な取り組みが存在しています。私自身、何度か被災後の三陸を旅して、そうした人たちのエネルギーこそが、今の三陸の大きな魅力だと感じています。三陸おもてなしレンタカーがモデルコースとして提案することで、普通に旅するだけでは気付けない、出会うことが難しい三陸の魅力に触れられるのは、とても価値のあることだと感じます。

浅間さん、堤さん、もっともっとこういうコラボプランを増やしてください!

「けせんライナー」利用者を無料送迎

東京と陸前高田をリーズナブルに結んでいるのが、岩手県交通が運行する夜行バス『けせんライナー』です。23時に池袋駅西口を出発、朝6時半過ぎに、陸前高田市役所前(4月1日からは陸前高田駅)に到着します。

三陸おもてなしレンタカーでは早朝6時30分から営業開始。けせんライナーで訪れるEVレンタカー利用者の無料送迎を行っています。

テスラ モデル3同乗試乗会を開催

ところで、13時からのインタビューを終えた後、15時から17時の2時間だけではありましたが、今回乗っていったEVsmartブログチームのテスラ モデル3パフォーマンスの同乗試乗会を行いました。

天気はあいにくの雨。本当に人が来るのか心配でしたが、思った以上に続々と、6組ほどのご家族連れなどにモデル3の加速感や、インフォテイメント(センター液晶パネル)のエンタテインメント機能(つまりは、ゲーム!)などを楽しんでいただきました。

試乗した佐々木龍一さんご家族。ぜひ、EVの世界へ!

しかも、福島から、山形から、盛岡からなど、遠く県外からわざわざ足を運んでくれた方がほとんど。電気自動車やモデル3に興味はあっても、なかなか試乗する機会がない地方の方々の思いに触れることもできました。

かなり真剣にモデル3やモデルYの購入を検討しているご家族が多かったのですが。「まちなか」の道、約5kmほどをたっぷり走る試乗コースを走りながら、ご主人が奥さまを雄弁に説得したり、逆に実際の乗り心地を体感して奥さまがどんどん前のめりになったりして。参加してくれたご家族にとって、少しは有意義な時間になったかな、とホッとしています。

電気自動車の三陸ドライブは気持ちいい!

私は2013年と2018年に、一充電で約120kmしか走れない改造電気自動車で三陸沿岸を旅しました。2013年には、海辺の町にさしかかる度、まだ痛々しい瓦礫の山を目にしましたが、今では復興工事が進み、真新しい立派な道と、美しい海辺の風景に出会うことができます。

たとえば、仙台から八戸あたりまで沿岸を走る場合でも、要所要所の町ごとに急速充電のネットワークはしっかりと繫がっています。ご自分の電気自動車で行くもよし、陸前高田で日産リーフかe-NV200を借りるのもよし。一度、電気自動車で三陸を訪ねてみてはいかがですか?

三陸おもてなしレンタカーに用意されているのは、電池容量30kWhのAZE0型日産リーフが5台。ワンボックスタイプのe-NV200が1台です。冬用のスタッドレスタイヤと、夏用のエコタイヤは、横浜ゴムさんが協賛してくれているそうです。いろんな「力」が集まって前進する三陸の復興。応援したいですね!

(取材・文/寄本 好則)


One thought on “全車EV:陸前高田の『三陸おもてなしレンタカー』が目指すビジネスモデルとは?”

  1. 電気自動車レンタルいいですね。過疎化が進みバス路線がなくなった地域へ導入するには最適と思います。
    自身玩具修理ボランティアを皮切りに各種市民活動家同士の交流を進め、地域の抱える問題にも耳を傾けたところ…実は交通弱者対策が不十分じゃないか?との相談を受けました。実際バス路線撤退が予定されている地域へ自家用有償旅客輸送の話を提案(ついでに取り壊し予定の木造校舎を事務所代わりに使う案も提示)。問題は輸送車e-NV200をどう入手するか?ですが(現在受注停止中)。
    調べた中には京丹後市など電気自動車を地域輸送に使った事例が結構あります。時期的に陸前高田もそれに倣っているんじゃないでしょうか!?

    陸前高田の事例を見るに地域輸送もレンタカーも同時に手掛けるのはアリ…想定した地域は下呂温泉や飛騨高山に近く観光地をハシゴ出来そうですので参考にさせて頂きますm(__)m

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