テスラ「サイバートラック」発表〜笑っちゃうくらい「WOW!」な電気自動車でした

2019年11月22日13時過ぎ(現地時間21日20時過ぎ)から、テスラがEV(電気自動車)ピックアップトラック『サイバートラック』のアンヴェールイベントをロサンゼルスの会場で開催。YouTubeでライブ配信を行いました。なにはともあれ、インパクトは想像以上です。

テスラ「サイバートラック」発表〜笑っちゃうくらい「WOW!」な電気自動車でした

映画『ブレードランナー』の世界が目の前に

ライブ中継より

吹き上げる炎とスモークを突き破って実車が登場した瞬間に、飲んでいたコーヒーを吹き出しそうになりました。事前の情報で、テスラが発表する新型EVの『サイバートラック(Cybertruck)』は1982年に公開されたSF映画『ブレードランナー』の世界をイメージさせるようなものになる、とは言われていました。それにしても想像以上。アンヴェールイベントは、新型車の発表会というより、まるでSF映画の封切り祝賀イベント。思わず笑うしかないレベルの斬新な内容でした。

映画『ブレードランナー』のオープニング。設定の年月は、まさに今!
https://youtu.be/itBfsIWXptc

すでにさまざまなメディアが伝えているので衝撃的な内容をご存じの方も多いでしょうが、まず、プレゼンテーションで驚いたのが大きく2つ。「鉄のハンマーでドアを思い切り叩く」そして「窓ガラスに金属製の玉を投げつけたらヒビが入っちゃった」デモンストレーションでした。

何度か全力で叩いてました。

割れちゃいました。

ドアは全く凹みませんでしたが、窓ガラスは割れて、イーロン氏が「貫通はしなかったでしょ」と苦笑い。予想外のちょっとした失敗という風でしたが、その後、イーロン氏が窓の割れた実車を背景に語る映像が、なんだかやけにカッコいい。これも間違いなく「演出」だと感じました。

思ったより安いのは、窓が割れているからではありません。

遊び心満点。お堅いメーカーには逆立ちしても真似できないでしょう。

イーロン・マスク氏が登壇すると観客が「イーロン」コールを連呼。さまざまなディテイルが語られる度に「WOW!」という大歓声。陽気なアメリカンが集まっているとはいえ、雰囲気はまんまエキセントリックなバンドのライブです。

あまりにも想定外の見た目と、窓ガラスが割れたからでしょうか。『サイバートラック』発表の翌日、NY市場でテスラの株価が7%近く下がったというニュースもありました。とはいえ、モデル3の販売が好調な勢いがあるからこそ、テスラとイーロン・マスク氏にとっては、一時的な株価下落くらいは受け止める自信があったのではないでしょうか。

それよりも大切なのは、従来の「自動車」の概念を打ち壊し、テスラならではのピックアップトラックを提案すること。そして、SF映画の中にある虚構だと思っていた近未来を、現実社会に引きずり出してくることだったのではないかと感じています。

イベントのライブ中継。テスラの公式チャンネルではアーカイブされていません。YouTubeで「Tesla Cybertruck Unveil」で検索してみてください。

エグい外観に秘められた、実は「機能美」

本当に、こんな見た目のクルマを発売するのか? と、にわかには信じられない思いもありますが、テスラの公式ウェブサイトにはちゃんと『CYBERTRUCK』のページがローンチされていて、「ORDER NOW」ボタンも表示されています。予約金は100ドル(日本円では1万5000円)、衝動的にポチってしまいそうな値段です。
(日本からのアクセスでは日本語版が表示されることがありますが、右上メニューの地域で「UNITED STATES」を選ぶと英語のアメリカ向け表示が確認できます)

プレゼンテーションの流れで『サイバートラック』の詳細を説明するととっちらかりそうなので、公式サイトの訴求ポイントに沿って確認していきましょう。

BETTER UTILITY THAN A TRUCK WITH MORE PERFORMANCE THAN A SPORTS CAR

まず、冒頭で訴求されているキャッチフレーズは「トラックより便利でスポーツカーよりパフォーマンスがあるよ!」ってことです。最上級グレードの「TRI MOTOR AWD」は、0-60MPH(おおよそ0-97km/h)加速が2.9秒以下。先日、日本でも公開されたポルシェ『タイカン』の0-100km/hが2.8秒ですから「MORE PERFORMANCE THAN A SPORTS CAR」という言葉はまんざら誇張ではありません。

発表された3モデルのスペックを表にしておきます。

CYBERTRUCK SPECS
グレードSingle Motor RWDDual Motor AWDTri Motor AWD
0-60 MPH加速6.5 秒以下4.5秒以下2.9秒以下
一充電航続距離
(EPA基準)
250マイル以上
(約402km)
300マイル以上
(約483km)
500マイル以上
(約805km)
荷室容量100 立方フィート
(約2832リットル)
100 立方フィート
(約2832リットル)
100 立方フィート
(約2832リットル)
牽引能力7500ポンド以上
(約3.4トン)
10000ポンド以上
(約4.53トン)
14000ポンド以上
(約6.35トン)
車両価格3万9900ドル
(約433万円)
4万9900ドル
(約542万円)
6万9900ドル
(約759万円)
生産開始予定2021年後半2021年後半2022年後半

搭載する電池容量は公表されていませんが、最廉価版の「Single Motor RWD」でも、一充電航続距離はEPA基準で400km以上。最上位モデルの「Tri Motor AWD」は800km以上です。もちろん、ビジネスとして採算が取れる裏付けがあってのことでしょう。以前、翻訳記事でお伝えした『電気自動車の価格はバッテリーコストが下がり2022年までにエンジン車に優る競争力を獲得する』という近未来も、グッと引き寄せられた印象です。

EXOSKELETON

公式サイトより転載

ボディはスペースXのロケットなどにも使われている無塗装のステンレス合金製。「ULTRA-HARD 30X COLD-ROLLED STAINLESS STEEL=超硬30X冷間圧延ステンレス鋼」と呼ぶそうです。従来の自動車のように「強度を確保したフレームにボディを載せる」のではなく、頑強なステンレスボディそのものが骨格となる「EXOSKELETON(エクソスケルトン)=外骨格」構造を採用しています。

ステンレスといえば、日本でも流し台の素材などでおなじみですね。錆びなくて傷つきにくくて丈夫。ただ、丈夫すぎて加工が大変な問題をクリアするために、ネット上で「ポリゴン(ポケモンのキャラ)か!」と突っ込まれている、折り紙細工のような多角形フォルムになっています。

乗車定員は6人。斬新でコストパフォーマンスと省スペース性に優れた構造を思い切って採用することで、この価格でこのポテンシャルをもつEVを発表できたのでしょう。つまり、決して奇をてらっただけのデザインではなく、ある意味でやりたいこと、やるべきことを追求した結果生まれた「機能美」であるといえます。

一点、サイドミラーが見当たらないのでカメラだと思ったけど、インテリア画像を見てもそれらしきモニターもありません。どうなっているのか謎、です。

TESLA ARMOR GLASS

窓ガラスには「テスラアーマーガラス」と名付けられた防弾ガラスを採用。プレゼンでイーロン氏は「9mm 115グレイン フルメタルジャケット弾(115グレインは7.45gで重さを示す)防弾仕様」であることを強調しました。

防弾ガラスは強化ガラスとポリマー素材を積層して銃弾の貫通を防ぐので、フレームに固定された状態で鉄球を投げつけたら割れるのは当然といえば当然のこと。考えてみれば、400万円台で防弾ガラスでVIP気分のクルマに乗れるというのも画期的です。ただ、水没時のレスキューとかで窓ガラスを破壊できないとちょっと危ないかも、というのは気になりました。ま、そこは自己責任で。

VERSATILE UTILITY(いろんな使い方ができる!)

インテリア。ステアリング形状が操縦桿っぽい。

使い方はいろいろ。荷台への積み下ろし時に便利な「ADAPTIVE AIR SUSPENSION」を採用していることや、力強い牽引能力。さらに、AC110V/220V対応のコンセントを搭載していること、用途に応じた多彩なオプションを準備する計画であることがアピールされています。

イベントでも、荷台に乗り込んだ電動ATV(All Terrain Vehicle=全地形対応車)に充電するデモが行われました。日産リーフがACコンセントを付けないのは「欧米でニーズがない」のが理由と聞いたことがありますが、使いこなし方まで提示すれば、ちゃんとニーズはあるようですね。

ちなみに、デモで登場した電動ATVもテスラ製とのこと。発売予定や価格が気になります。

公式サイトには使い方のバリエーションを示す画像がいくつか紹介されていますが、もう、実写なのかCGなのかよくわかりません。


PERFORMANCE AND EFFICIENCY(性能と効率)

最後のアピールポイントは走行性能。公式サイトでは砂漠の中のテストコース(?)を走る動画が紹介されています。ますますSF映画っぽいムービーを見るほどに、これがモーターショーにありがちなコンセプトカーではなく、本当の市販車として発表されたことに口あんぐりしてしまいます。

日本の都市部で乗るにはでか過ぎるでしょうが、このクルマで青山通りや六本木交差点を流せば、GMが誇る巨大SUV『HUMMER』以上の存在感で注目されること必至。

プレゼンテーションの中では、アメリカで人気のフルサイズピックアップトラックであるフォード『F150』がマーケットのライバルとして示されました。アメリカメディアによると、フォードもF150の電動化を計画しているそうですが、はたして、どんな勝負になるのでしょうか。

なにはともあれ、夢いっぱいなのが素敵

そもそも、このサイズのピックアップトラックは日本には不向き。仮に導入されたとしても、たくさん売れるクルマではないでしょう。

とはいえ、既存の自動車の常識を突き抜けたテスラ、そしてイーロン・マスク氏からの問いかけには「YES!」と拳を突き上げたいような、ちょっとした興奮を覚えます。

イベントから数時間後。台湾のテスラオーナーズクラブメンバーであるMichael Hsu氏が、「Starting to look at mods for my @tesla #Cybertruck @elonmusk which do u like?」「サイバートラック画像をいじってみたけど、あなたはどれが好き?」と、いくつかの合成写真をTweetしていました。

面白い!

【追記/2019.11.24】

発表から2日後、イーロンがサイバートラックの予約が14万6000台入ったことをTweetしました。42%がデュアルモーター、41%がトリプルモーター、17%がシングルモーターとのことです。

これで、今度は株価が上がるかな。

※ 記事中画像は、YouTubeライブのスクリーンショットと、TESLAのオフィシャルPR素材などを使用しています。

(文/寄本 好則)

この記事のコメント(新着順)10件

  1. そもそもこれ日本で発売できるのかなぁ
    どうみても歩行者保護にケンカ売ってるとしか思えないし
    ライトが日本の基準に合致するかも気になる処
    それ以前に防弾ガラスって必要か?と。飛び石での破損ぐらいしか効果を発揮しそうなシチュが見当たらないし、その時だって積層ガラスの損傷個所だけ交換なんて出来ないから結局は普通のガラス同様に交換することになりそう。
    パワートレインや機能面では見るべきところが多いけどデザインに関してはテスラから出て無ければSFファン以外誰も見向きしなかったんじゃないかなぁ・・・

  2. トライモーターは3年後になっちゃうみたいですけどね。
    Yみたいに前倒しされればいいけど、ロードスターもsemiもいるしなあ
    ハードに使い倒したいんでLINE-Xでオールペンしたいですね。

  3. 出たー震撼のテスラサイバートラック!この車のためにサイバーという証言があるくらいに衝撃的です(笑)
    ボディはどうみても無塗装、それこそデロリアンDMC-12に似た美しさカッコよさを感じましたよ!映画の世界にでも出てきそうなオーラがあるというか。バックトゥザフューチャーみたいに過去から未来から出没してもおかしくないでしょコレ!?

    危うく僕もポチりそうでしたが、万一それをやると一家大混乱が予想されるため当面我慢の日々が続きます。こんなにワクワクさせるクルマ、今の世界に他にあるの?と聞きたいですね。

    1. ヒラタツさま、家族不和はまずいですが、まだ2年くらいの執行猶予はありますし、ポチってみて起こる諸々にも好奇心をそそられるので、1万5000円を捨てるつもりでポチってみていただき、2年後をレポートさせてください(joking! w)。
      あ、私がポチればいいのか。
      でも、それじゃつまんないですね。

      ともあれ、うちのガレージにも入るサイバーなヤツ、出して欲しいです。w

    2. 寄本さん、返金アリなら「ポチッとな」しても構いませんが生憎当家は車庫が狭くサイバートラック買ったら置き場に困りそうです.(T_T)スペックを見て断念
      もっとも化学物質過敏や大気汚染などで田舎へ引っ越すなら話は別。電気工事士や電気主任技術者といったガテン系国家資格を持っているので職用車としてサイバートラックを使えば電源内蔵の利点を活かせてe-NV200よりも何かと役に立ちそうですから!
      そして自動運転対応なら田舎の交通空白地帯へ自家用有償旅客運送車としての投入も可能ではないかと思います。テスラの自動運転性能と災害停電時の電力供給、AWDなら震災で道路が荒れてても使えるでしょう!これぞ将に万能電気自動車
      僕が相談を受けている交通空白地域は寒冷地かつ急坂道アリなので現地点でサイバートラックが有力。価格が500万円以下なら選択肢に入りますよ?

    3. ヒラタツさま。うちのガレージには入らない! に私も一票です。

      この先少なくとも数年はテスラもそんな余裕はないでしょうが、小さいサイバーなヤツを出してほしいですね。

  4. トライモーター+FSD予約しました
    ステンモノコックでt=3mmはやばいっすね
    その厚みあれば確かにラダーフレームいらない

    1. WOW!

      良いものくん さん、納車されたら渋谷スクランブル交差点で撮影させてください。

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この記事の著者


					寄本 好則

寄本 好則

兵庫県但馬地方出身。旅雑誌などを経て『週刊SPA!』や『日経エンタテインメント!』の連載などライターとして活動しつつ編集プロダクションを主宰。近年はウェブメディアを中心に電気自動車と環境&社会課題を中心とした取材と情報発信を展開している。剣道四段。著書に『電気自動車で幸せになる』『EV時代の夜明け』(Kindle)『旬紀行―「とびきり」を味わうためだけの旅』(扶桑社)などがある。日本EVクラブのメンバーとして、2013年にはEVスーパーセブンで日本一周急速充電の旅を達成した。

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