※冒頭写真はギガファクトリーベルリンの完成予想図(提供元/Tesla, Inc.)
モデル3の販売は「引き続き好調」
イギリス拠点で世界的な自動車関連データベースを提供する調査会社である『JATO(ジェイトー)』が、2021年6月の欧州での新車販売台数データを発表。「テスラモデル3は引き続き好調。6月にヨーロッパで2番目に売れている車になった」というタイトルでニュースリリースを発信しました。
【ニュースリリース】
Tesla’s Model 3 continues to perform well becoming Europe’s second best-selling car in June(JATO)
モデル3の販売台数は2万5697台。まず、セグメントごとのトップ3を示すチャートを引用しておきます。
「Midsize」セグメントで、2位のBMW 3シリーズ(1万2294台)にダブルスコア以上の差を付けてダントツの1位となりました。
全カテゴリー、およびPHEV(プラグインハイブリッド車)とBEV(電気自動車)のトップ10の表も引用しておきましょう。
モデル3は、全体1位のフォルクスワーゲン『Golf』(2万7247台)に1550台差と迫る第2位です。
日本では軽自動車とミニバンが隆盛ですが、ミドルサイズのセダンでも、まして電気自動車でもこんなに、ちゃんと売れるんですね。
ちなみに日本メーカーの車種では、トヨタ『Yaris』が全カテゴリーの6位に入っています。
今や、モデル3は作れば売れる状態か?
少しニュースリリースを遡り、モデル3の販売台数推移を確認してみました。
月次 | 台数 | 全体順位 | 前年同月比 |
---|---|---|---|
2021年6月 | 25,476 | 2 | +262% |
2021年5月 | 8,726 | -- | +301% |
2021年4月 | -- | -- | -- |
2021年3月 | 23,755 | 4 | +55% |
2021年2月 | 5,405 | -- | +55% |
現在、欧州にモデル3を供給しているのは上海のギガファクトリー。おそらくは中国でも引く手あまたで出荷を調整した4月は、欧州ではBEVカテゴリーでもベスト10圏外となり、販売台数は「–」です。とはいえ、ちゃんと欧州向けに出荷された月は、前年同月比を大きく上回る結果を残しています。
欧州はもとより、巨大な中国市場、そしてささやかながらも我らが日本市場などをカバーしている上海ギガファクトリーのモデル3は、想像するに「作れば売れる」状態なのでしょう。
現在、テスラがベルリン郊外に建設中のギガファクトリーは、環境団体の反対などのトラブルがあり操業開始が予定より遅れていますが、モデル3やモデルYの欧州現地生産が始まれば、電気自動車シフトが進む欧州で、テスラの躍進がさらに進むことは想像に難くありません。
JATOのリリースには、欧州での燃料別シェアも図示されていました。
ガソリン車、ディーゼル車、プラグイン車(BEVとPHEV)ごとに分けられていて、2019年6月に3%だったプラグイン車のシェアが、2021年には18%にまで伸びています。今後、欧州の自動車メーカー各社からバリエーションさまざまなBEVが発売されることによって、この勢いがさらに加速していくことでしょう。
ベルリンのギガファクトリーでは、コストダウンと性能アップを両立したリチウムイオン電池を、年間200~250GWh(250GWh=50kWhのBEV500万台分)生産する計画であることや、欧州の人材を活用してベルリンギガファクトリーのオリジナルモデルとなるEVを開発する構想(以前の記事でご紹介しました)をイーロン・マスク氏が明かしています。こうした計画や構想が進展&実現すれば、ますます欧州におけるEVへの支持が高まり、テスラのアドバンテージが広がりそうです。
【関連記事】
●ベルリンのギガファクトリーはヨーロッパに何をもたらすのか?〜イーロン・マスク氏の発言を解説(2020年12月17日)
世界の動きを正しく知っておきたい
この記事執筆を思い立ち、JATOのプレスリリースを確認している過程で、ちょっと気になることがありました。
JATOには日本拠点もあり、日本語のリリースも発信しています。本国サイトでは毎月、欧州の月次新車販売台数などのリリースが発信されており、日本語サイトにも翻訳が反映されているのですが、タイトルというか、見え方がまったく異なっているのです。
一例を挙げておきます。
●英語版リリースのタイトル(2021年5月発表)
「Volkswagen’s ID.4 became the first SUV to top the European BEV rankings in April」
↓
●日本語版リリースのタイトル
「2021年4月欧州新車販売台数速報」
●英語版リリースのタイトル(2021年4月発表)
「Increased demand for EVs in 2020 contributed to a 12% fall in Europe’s average CO2 emissions」
↓
●日本語版リリースのタイトル
「【最新版】2020年欧州二酸化炭素排出量レポート」
日本語版のタイトルは、リリース(レポート)のタイトルというよりは「タグ」ですよね。
もちろん、本文を開くと「フォルクスワーゲン ID.4が4月に、SUVとして初めて、最も売れたBEVとなった」とか「2020年に電気自動車需要が増加したことで、欧州の二酸化炭素排出量の平均値は12%減少した」という見出しが記されているのですが、毎月のニュースをアーカイブするページにはタイトルしか表示されないので、情報に到達するためにワンクッション置かれてしまう感じに違和感を覚えました。
日本のJATOの広報担当者も、シンクタンクのレポートタイトルとしては分析の主旨を伝える言葉の方が強い、なんてことは百もご承知でしょうから、もしかすると、「今月はID.4がすごい!」よりも「4月欧州新車販売台数速報」というお役所的なタイトルの方が、日本人の感性にしっくりくるということなのかも知れません。と、そこから飛躍して、こういうお役所的感性(ある種の思考停止)が、日本のEVシフトへのチャレンジ遅延や、充電インフラ整備停滞の原因の根っこにあるんじゃないだろうか、と、妄想が広がってしまったのですが、みなさんはどう感じるでしょうか。
かくいう私も、EVsmartブログでの情報発信に関わる以前は、ほとんど日本語の情報しか漁ってはいませんでした。最近は、ことに電気自動車に関することは、臆せず、面倒がらず、英語(ときには中国語やドイツ語とかも)の情報にもアクセスするよう心掛けています。まあ、Google先生頼みではありますが……。
あと、2021年2月のJATOのリリースには、自動車メーカー各社のプラグイン車比率を示す、こんなチャートもありました。
「Europe-27」というのはEU加盟国のことだと思うので、ヨーロッパ全体のプラグイン車比率がこの時点で14%。そして、メーカー各社のプラグイン車比率が紹介されています。もちろん、HVはプラグイン車に含まれていません。くどくどと言葉にはしませんが、日産(ルノー)以外の日本勢が下位にズラリと並んでいます。
EV派としてはヨーロッパが羨ましい……
最後に一点。先にご紹介した6月のBEV販売台数トップ10。当然10車種の電気自動車が並んでいるのですが、切ないことに、今、日本でも普通に購入できるのは、テスラ『モデル3』と、プジョー『e-208』の2車種だけです。ことにフィアット『500』のEVは個人的に待望していて、フィアットジャパンも導入を示唆してはいますが、まだ具体的な発表はありません。
何度もいろんな記事で繰り返しているように、日本でEV普及がなかなか進まない最大の要因は「選択肢が少なすぎる」ことだと思っています。欧州メーカーは当面EU域内への供給が優先でしょうし、ことに日本の自動車メーカーから、どれを買うか迷うくらい、魅力的なEVの車種が、日本国内向けに発売されることを願っています。
(長くなるので現状への細かな批評はまたあらためて)
さらに、10位に記されている「MG ZS」は知りませんでした。ググってみると、もちろんイギリスの名門「MG」のBEVで、コンパクトSUVです。
MGのSUV? には少し違和感がありますが、そういえば、スポーツカーの名門ブランドであるMGも中国メーカーに買収されたんですよね。この「ZS」もおそらくチャイニーズBEVなのでしょう。とはいえ、バッテリー容量44.5kWhで、日本円にして400万円前後という価格、4314×1809×1620(mm)という3サイズはかなり魅力的です。もう少し車高が低いとさらに日本向きですね。
なんだかモデル3から離れてしまいましたが……。いろんな意味で、ヨーロッパ、そしてテスラがすごいよなぁと感じるニュースなのでした。
(文/寄本 好則)