テスラの新バッテリー戦略『ロードランナープロジェクト』〜より安価で高性能な電気自動車用電池開発へ

テスラがカリフォルニア州フリーモントにある自社工場の2階を大幅に改築し、バッテリーの研究と大量生産に注力するべく申請したことが明らかになりました。海外で報じられた内容をご紹介します。

テスラの新バッテリー戦略『ロードランナープロジェクト』〜より安価で高性能な電気自動車用電池開発へ

ロードランナープロジェクトの概要

テスラは新たなバッテリー開発拠点の工事が約3カ月で終わると見積もっており、フリーモント市に提出された事業計画からは以下のような内容が読み取れます。

プロジェクトの概要:テスラはフリーモント市47700 Kato Roadと1055 Page Avenueにある施設の改築をしたく申請をします。施設はバッテリーの研究開発(R&D)及び生産に利用されます。47700 Kato Roadの改築には2階部分の設置と、既存ルーフライン上部へ小規模な3階部分の設置が含まれ、両方とも高さ制限と構造物フットプリントの制限内に納まります。R&D及び生産工程に使用される危険物質が新たに導入されることになります。新しい電気設備用のエリアが2つの建物の間にある既存エリアに設けられます。

赤のポイントがPageビル。グレーのTeslaの部分がKatoビル。

47700 Kato Road

新しいバッテリー生産設備と研究開発スペース(名称:ロードランナー)のため、約2万1,485平方フィート(約1,996平方メートル)の追加フロアを2階(現在オープン空間となっている中央部分を塞ぐ形になる)に新設、さらに約8,260平方フィート(約767平方メートル)の3階部分をその上に設置します。これらの改築により、Katoビルディングの床延べ面積が約2万9,745平方フィート(約2,763平方メートル)増えますが、ビルのフットプリントや見た目の変更はありません。……今回の計画では、新しいバッテリー生産稼働用の、多くのルーフトップ機械設備(例:エアハンドリングユニット、HVACシステム、ファンなど)も導入されます。内部フロアスペースが建設された後には、テスラはバッテリー増産とR&D運用の新しい設備の運用を始めます。

1055 Page Building

既存のビルには大きなフロアプランの変更はありませんが、建物の南側と北側は、テスラのロードランナープロジェクトを補佐する生産と研究開発のために使われることになります。

今回のKato RoadとPage Avenueにあるビルの改築により、バッテリーの陽極生産と最後の仕上げを行うことになります。そのためにはこれまで使われていなかった多くの化学物質も使われるようになり、申請書の中では以下のように記述されています。

危険物質:施設でこれからテスラが行う研究開発と生産過程では、多種の化学物質が貯蔵され、使用されます。これらの物質の中にはバッテリー生産によく使われる、可燃性、猛毒性、毒性を含み、かつ揮発性のある物質が含まれており、1996年にコンピューターディスク生産用に提出した申告とは異なるものになります。

テスラが行ってきたこれまでのバッテリー開発

車載用電池を巡っては、テスラはネバダ州にあるギガファクトリー1で長年の間パナソニックと組んで共同開発を行っています。この工場ではパナソニックがセルを生産し、テスラがそれを買い取ってバッテリーモジュールとパックを作っています。ギガファクトリーだけでの電池生産量には限界があるため、テスラはバッテリーをいかに調達するか思案してきました。大衆向けモデル3やモデルYのデリバリーが始まり、さらに多くの電池を必要としたテスラは、最近中国のCATLや韓国のLG化学とも調達契約を結んでいます。

またテスラは2019年にMaxwellを買収し、そのウルトラキャパシタと乾式電極技術を自社開発の電池に活用することを発表しました。この目的はリチウムイオンバッテリー・セルのパフォーマンス向上であることが分かっています。2019年の株主総会では、テスラは公式に自分達でバッテリー・セルを生産する体制に入ることを認めていました。

フリーモント工場の改築によって始動する『ロードランナープロジェクト』は、よりエネルギー密度が高く、安価なバッテリー・セルの大量生産を目指しています。新しいセルを使えば、車一つ当たりのバッテリーを少なくしつつも、航続距離を延ばすことが可能になります。

【関連記事】
LG化学がテスラ車へのバッテリー供給増強〜EV用電池確保が生産台数の鍵になる(2020年7月11日)
テスラがLG化学から中国(ギガファクトリー3)生産車両のバッテリーを購入(2019年9月2日)
バッテリーの劣化から考える電気自動車選び/リチウムイオン電池容量低下の原因は?(2020年5月25日)

テスラのフリーモント工場。画像はテスラ公式より引用。

米メディアのElectricによると、kWh当たりのバッテリーコストが100ドルになれば補助金なしでも電気自動車の価格がガソリン車と同等になります。この高パフォーマンスバッテリーが大量生産されれば、さらに車両価格は安くなり、利益率も高い電気自動車ができます。

今回の事業計画書には、バッテリー生産部門に400人の従業員がシフト制で週7日24時間労働で当たり、また年間の消費電力は以前と比べ年間7万2,800MWh増加の9万2,800MWh/年になると書かれています。テスラのバッテリー生産能力は、さらに飛躍するということです。

すでにテスラは世界の中で電気自動車生産においてかなりのリードを取っていますが、今年後半からフリーモントのバッテリー工場が本格稼働するとその動きがさらに加速し、他の自動車メーカーがまったく追いつけない域に行くのかもしれません。

参照記事:
Tesla reveals more on status of Roadrunner secret project for battery production
Tesla’s secret Roadrunner project: new battery production at $100 per kWh on a massive scale
5 Reasons Why Tesla Acquired Maxwell Technologies: Video

(文/杉田 明子)

この記事のコメント(新着順)1件

  1. ロードランナーと聞いて昭和時代の名作アクションゲームを連想しましたが(苦笑)同一建物で3階以上あって迷路のような構造だからピンときた(笑)といってもゲームみたいに金塊が出てくるわけではありませんが、テスラとしてその工場は「金のなる木」になるでしょうな。
    電気設備増設というのも電気技術者としてピンとくるもの。予想外の大電力消費でありますが、テスラのことだから恐らくソーラーパネル増設で賄うんでしょうか。

    電池の内製は歓迎すべきです。既に日産や三菱など既存電気自動車メーカーは自社と電池製造会社との共同出資会社を設立し電池の大量生産や価格低廉化に一定の成果を出しており、テスラがそれを行わず高嶺の花に留まっていたのはおかしいと思っていましたので…そのあたりがベンチャーと大企業の違いでしょうか!?
    それじゃなぜ日本では電気自動車が売れないのか!?と思うのですが、万人向けの完璧を目指す日本的経営姿勢や現代日本人には自由な発想の芽が育たないから!「出る杭は打たれる」に尽きます。テスラは日産三菱と違うアプローチに成功しています…そう考えると日産三菱もテスラ並の斬新な発想を持ち込まないとヤバイかもしれません、ただし車体サイズの小ささで生き残る可能性は充分にありますがそのテスラが小型車で攻勢をかけるとひとたまりもないかな!!(爆)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です


この記事の著者


					杉田 明子

杉田 明子

2010年代に住んでいた海外では'94年製のフォード→'02年製のトヨタと化石のような車に乗ってきました。東京に来てからは車を所有していないのですが、社用車のテスラ・モデル3にたまに乗って、タイムスリップ気分を味わっています。旅行に行った際はレンタカーを借りてロードトリップをするのが趣味。昨年は夫婦2人でヨーロッパ2,200キロの旅をしてきました。大容量バッテリーのEVが安くレンタルでき、充電インフラも整った時代を待ち望んでいます。

執筆した記事