バッテリーの劣化から考える電気自動車選び/リチウムイオン電池容量低下の原因は?

電気自動車の購入を検討する際にバッテリーの劣化は気になりますよね。10年以上その車に乗り続けるつもりの人には当然重要なことですし、3年~5年で手放す人でも下取り価格に影響を与えるので無視はできません。

バッテリーの劣化から考える電気自動車選び/リチウムイオン電池容量低下の原因は?

※冒頭写真はレクサス『UX300e』のバッテリーシステム。空冷ですが、専用の冷却器やブロアを備えているようです。

バッテリーの劣化とパフォーマンス

リチウムイオン電池が劣化する主な原因は、充電の仕方と温度管理の2つです。充電の仕方とは、なるべくバッテリーを100%や0%にせず中央付近(30~80%)で使うこと。温度管理とは急加速や急速充電を控え、できるだけ20~30℃程度の範囲内で使うことです。

そして、劣化と車の性能はトレードオフの関係にあります。速く走ったり急速充電をすると発熱量も多くなり、冷却が追いつかない場合は劣化を防止するためにパフォーマンスを制限するしかありません。逆に温度管理がしっかりできる車はストレスなく使えるということです。

長距離旅行の性能

温度管理の方法には空冷と水冷がありますが、水冷のほうが圧倒的に効率が高いです。今どき空冷エンジンの車はほとんど見かけないのも、高い冷却能力が求められているからです。

下図ではリーフとレクサスUX300eだけが空冷式バッテリーで、その他は全て水冷式です。リーフは理論上100kWまでの急速充電に対応しているのですが、おそらく発熱しすぎるため70kW程度に制限されているのでしょう。また、リーフは初代、二代目共に連続充電をするとオーバーヒートして充電速度が落ちるという弱点があります。UX300eはエアコンの冷気をバッテリーに圧送するため多少は排熱できますが、最大充電速度が50kWに設定されていることから、やはりオーバーヒートが懸念されるのでしょう。

以前に『カナダの東西をつなぐ、テスラのトランスカナダスーパーチャージャー網がついに完成』でも触れましたが、モデル3やポルシェ・タイカンのように高速充電+連続充電ができるとガソリン車と遜色ないペースで長距離移動が可能になるため、車で遠方に出かけるのが好きな方は、こうした性能に注目すると良いでしょう。

各モデルの発売年度と上位グレードの最大充電速度

過熱したリーフの最大充電速度(出力)は推定値です。

日々の充電と総走行距離

冒頭で、バッテリーはなるべく中央付近で使ったほうがいいと書きましたが、もう少し詳しく見てみましょう。下表は様々な充放電のサイクルと劣化度合いをグラフにしたものです。100%まで充電してから放電する黒、赤、紺の線を見ると、どれも劣化が激しいことが分かります。一方、オレンジ色の75~65%という狭い幅で使うと劣化は防げるのですが、利用した合計エネルギーでみると、一番お得というわけでもありません。

放電深度とサイクル数の関係

出典:Battery University

仮にAの線まで劣化する間に何サイクル可能かで比較すると、オレンジは9000サイクルぐらいまで到達します。つまり75~65%の10%分を9000回往復できます。全エネルギーの10%を9000回、言い換えると100%を900回分を取り出せるということです。

一方、75~25%(水色)を見ると3000サイクル可能です。全エネルギーの50%を3000往復するので、取り出せるエネルギーは100~0%を1500回分です。劣化は進みますが、オレンジより遥かに多くのエネルギーが取れる事が分かりますね。

次に、放電する幅について、緑色と紺色を比べてみましょう。緑色(85~25%)はバッテリーの6割を使用していて、紺色(100~50%)は5割です。Aの線に達するまでに取り出せるエネルギーは、先程の計算からそれぞれ1200回分、750回分なので、バッテリーを利用する幅よりも、紺色の100%充電という行為が劣化を進めると言えます。この表には0%まで放電するグラフはありませんが、0%付近まで頻繁にバッテリーを使い切る行為も劣化を進めます。

それではこのデータを実際の車に当てはめてみましょう。1回の充電で実走行で400km走行できる水冷式のテスラ・モデルSを75~25%で使った場合、1500回分のエネルギーが取り出せるため……

400km x 1500回(水色) = 60万キロ

たとえ一番ひどい黒線(100~25%)で使ったとしても30万キロ走った頃にやっと1割劣化することになります。下表はテスラユーザー1500人以上からデータを集めた実際の劣化のグラフですが、ほぼ一致する結果になります。

テスラオーナーの実データに基づく劣化の推移

出典:Teslanomics

アメリカのEV市場で主流の75~100kWhの大型バッテリーを積んでいる水冷の車は、多少雑に扱っても影響はそれほどないと言えます。しかし日本や欧州で主流の30~50kWhのバッテリーだと10~15万キロ前後から影響が出始めると予想されるので、普段からバッテリーに負担をかけないように習慣づけましょう。

劣化度合いの測り方

「買ったときは〇〇kmだったけど、今は〇〇だから、○%劣化した」という話をよく見かけますが、満充電時の航続距離予測はそれまでの走行スタイルなどを含めて計算しているため、正確とは言えません。よくスピードを出す人は少なめに予測され、ゆっくりと走る人は劣化どころか航続距離が増えたという方もいます。

簡便かつできるだけ正確に測るには、バッテリーを限りなく0%まで消費して、そこから何kWh充電できるか見る必要があります。

充電後に電力量が表示される様子

何kWh充電できたか分かれば、新車当時の数値と比較することで劣化度合いが分かります。新車当時の記録がない場合は、インターネットで調べるしかないですが、例えばテスラの2017~2019年頃の100kWhバッテリーは98.4kWhが利用可能な容量です。もし95kWhしか充電できないようだと……

95 ÷ 98.4 = 0.965

バッテリーの容量は96.5%ということになり、3.5%劣化したと言えます。先程のテスラオーナー1500人が参加するグラフも同じ方式で劣化を測定しています。

今後のバッテリーの進化

現在、EVのバッテリーの総合性能はテスラが頭一つ抜けています。温度管理、エネルギー密度、価格、充電速度など全てを高い次元で実現しているのは自社でバッテリーの研究開発を行い、優秀な研究者を集め、常に新しい技術がないか目を光らせているからです。

生産はパナソニックと協力してネバダ州のギガファクトリーで行っていますが、中国向けの車両のバッテリーは中国のバッテリー大手CATLと組んで作るそうです。その他にもちょうど1年前に、キャパシタやバッテリーの生産技術をもつMaxwell Technologiesも買収しており、同社の持つ技術でバッテリーをより安く作れるだけでなく、エネルギー密度も現在の2倍ほどに引き上げられる可能性を持っているようです。

Maxwell社の旧ホームページより。③を見ると買収される以前からエネルギー密度500Wh/kgへの道筋が見えていたと推測される。(出典:Maxwell Technologies)

この他にもバッテリーの高速生産技術を持つ中国のHibarも買収し、韓国のバッテリーメーカー ハンファとも提携して、確実に自社でバッテリーを大量生産する準備を整えています。テスラは特許も多数取得しており、中でも興味深いのが「タブレス電極をもつバッテリーセル」の発明です。

タブレス電極に関する特許のイラスト

円筒形バッテリーはトイレットペーパーのように巻いて作るのですが、プラスとマイナスの電気を、図でいう122番のような細い「タブ」に集めて電極につないでいます。これはトイレットペーパーを広げて考えると分かりやすいですが、電気が流れようとすると、端の方にある電子はかなりの距離を移動してタブまで行かないといけません。移動距離に応じて内部抵抗が増え、発熱しやすくなるため、この特許ではタブを廃して上端と下端の全てを電極にしてしまうことで移動距離を最小限にして発熱を防ぎます。また、先日お伝えしたバッテリーパック製造の簡略化のためのセルトゥパック技術にも利用されると噂されています。

テスラは産学連携もしており、カナダのダルハウジー大学のジェフ・ダーン博士と2016年から研究を続けています。ダーン博士は単結晶カソードによるバッテリーの長寿命化や、リチウムドージング等の研究などを追求しています。長寿命化は100万マイルバッテリーに必要なだけでなく、自動車から住宅や送電網に電気を戻すV2Gでも重要な技術になります。リチウムドージング等の研究はそれぞれバッテリーの性能を数%ずつ高めてくれます。たった数%ですが「チリも積もれば」でこの15年ほどで性能が2倍になったのです。

これら全ての集大成として、テスラは「Battery Investor Day」を6月に開催する予定です。去年の4月に「Tesla Autonomy Day」というイベントが開かれ、専門家しか理解できないレベルで同社の自動運転への取り組みについて説明をしましたが、Battery Investor Dayではギガファクトリーの現在の生産能力の数十倍を誇るテラファクトリー計画や、EVがガソリン車と同じ価格帯になる高性能低価格の新型バッテリー、そしてそれを搭載した新モデルについて発表と試乗会があると思われます。

Tesla Autonomy Dayの様子。会場にはメディアと研究者がいたが、メディアの大半は何を言っているのかさっぱりわからないといった様子の場面も。???マークは編集部にて付加。(出典:テスラ公式YouTubeチャンネル)

ライバル各社はバッテリーをサプライヤーから購入する形で今年から続々と新型EVモデルを投入してきますが、リーフ以外はまだ長期的な性能についての統計がありません。レクサスは『UX300e』に10年100万キロの保証をしており、その他のメーカーは(テスラ含め)まだ10万キロ前後の保証となっているため、100万キロ/マイルの保証ができるかが次世代EVの争点になると見られます。実際に100万キロも走る人はほとんどいないでしょうけど、EVはガソリン車よりも寿命が長いため、劣化を気にせず普段使いできることが、今後、売れるためのアドバンテージになっていくでしょう。

Tesla Autonomy Day の後に日経新聞ではテスラの自動運転コンピューターがトヨタやVWの6年先を行くといった記事を書いていたので Battery Investor Day でも同様のことが起きないといいのですが。トヨタが全固体電池を自社で研究しているように、各社研究をバッテリーメーカー任せにせず、しっかりと予算をかけて優れたバッテリーを開発してくれることを願っています。

(取材・文/池田篤史)

【リチウムイオン電池について知るための関連記事】
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●電気自動車のバッテリー(2015年12月29日)
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5 thoughts on “バッテリーの劣化から考える電気自動車選び/リチウムイオン電池容量低下の原因は?”

  1. 密閉鉛バッテリー4機掛けのスクーターを、中古で買いました。
    ヤマハの電動スクーターバッテリーは、7万円とか。
    ウチの子は、ヨドバシで4個2万円でオツリ。
    古い、シンプルな技術を見直すのも、一考かと。

  2. ためる使うでワンサイクルだと思うのですが、うちでは、フィット終了後、夜間電力に日中の太陽光余剰電力を注ぎ足し充電という形で充電しようと思うのすが、夜間の充電→充電休憩→太陽光の充電の場合、電池の劣化というものは無いのでしょうか?

    1. 脱化石燃料 様、コメントありがとうございます。

      >夜間の充電→充電休憩→太陽光の充電の場合、電池の劣化というものは無い

      充電はこまめに行っても問題ないと思います。気にするべきは、充電レベルを90%より多く設定しないこと。すぐその後に出発する場合はいいのですが、長時間駐車する予定のときは、最大充電量を90%くらいに抑えておく方が、バッテリーが長持ちすると言われています。

  3. ご返答ありがとうございました!
    90%ですね。
    最近、コロナの影響で、化石燃料車と40kwリーフを手放し、おまとめし、62kw完全電気自動車に移行しました。
    充電器をさがしていたところ、V2Hを考えていたのですが、値段上キツかったので、6kwの充電を探していた所、パナソニックのAisegに対応し、フィット終了後の余剰電力を充電に回せるのと安価で出来るのでこちらにしました。そうなると、夜間充電し、昼間太陽光の充電の間、乗るとサイクルができてしまう場合と、乗らずに注ぎ足しの場合で劣化具合が気になっていました。安心しました。
    ただ、化石燃料車の代わりと言うことで、遠出が出来る62kwにしたのですが、zeps2で無くたってしまった為に遠出の足かせになってしまうジレンマが生まれました。長距離不便でも40kwでzeps2を使い旅ホーダイか。

  4. バッテリーの劣化は電気自動車の課題ですよね。
    それにいち早く対応したi-MiEV(M)は充放電サイクル1万回とすれば100万キロ走れますが、それ以前にサスペンション・ベアリングなどの走行部品やインバータ・モーター・配線・コネクターといった電気部品が先に劣化するかもしれませんよ!?
    短距離中心の軽自動車ユースを考えると一日平均30kmとしても年間約1万km。サイクル上「100年乗っても大丈夫」と言いたいのですが…化学物質の劣化もありうるでしょう!?ただ車両寿命的に交換は考えにくいというだけで。
    劣化の主な原因は電池の温度。テスラ車の電池が持つのも絶えず電池空調を施しているからであって。いくらタフなSCiBだって電池空調ないから真夏の急速充電は電流制限が出ますよ!?

    最近よく問題になるソーラー家庭のアフターFITですが当家は電池容量的にi-MiEV(M)で乗り切れるとは思えません。ただMiEVpowerBOXはあるので蓄電池から電源供給可能というだけで…尤もSCiBは100%充電でも劣化が遅いからあまり深く考えなくても済むのは有難いっすwwww
    IHクッキング1回5分で使う電力量が約0.1kWh(電気ケトル1L沸騰1回分も約0.1kWh)なので今後いろんな負荷をつないで電力量を観察してゆけばいいのかな!?

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この記事の著者


					池田 篤史

池田 篤史

1976年大阪生まれ。0歳で渡米。以後、日米を行ったり来たりしながら大学卒業後、自動車業界を経て2002年に翻訳家に転身。国内外の自動車メーカーやサプライヤーの通訳・翻訳を手掛ける。2016年にテスラを購入以来、ブログやYouTubeなどでEVの普及活動を始める。

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