【追記あり】テスラが交渉か? 電気トラックは独の日曜祝日トラック運行禁止の例外へ

ドイツでは1956年から日曜・祝日の大型トラックの運行が禁止されています。市民が静かで埃っぽくない休日を過ごせるように、という配慮です。これに対しテスラは、電動トラック・牽引車「Semi」の発売を控え、運行禁止の例外措置を求めているようです。

テスラが交渉か? 電気トラックは独の日曜祝日トラック運行禁止の例外へ

2020年2月21日(現地時間)に“BUSINESS INSIDER(リンク先はドイツ語)” が伝えるところによると、2月13日(木)ごろ、テスラからの代表団が秘密裏にベルリンを訪れ、大型トラック運行禁止規制を電気トラックについては緩和するよう、現地政府に働きかけを行ったたようです。電動の「牽引車」と電動の「トラック」を展開する予定のテスラ・セミの発売を控え、内燃トラックとの決定的な差別化を図ろうという戦略です。大型貨物車の電動化には、政治のほうも少しは手伝ってくれても良いんじゃない? というところでしょう。実現すると、ロジスティックスの世界で電動車と内燃車の大きな差になります。

テスラの電動牽引車Tesla Semi。テスラの公式サイトより転載。

言わずもがなですが、この施策には労働者の保護という意図もあります。日曜くらいはだれでも休めるようにする、というドイツ社会の根幹に関わる価値観の表れです。筆者は1995〜96年にフランス国境の街ザールブリュッケン(Saarbrücken)に滞在したことがありますが、平日でも18:00には基本的にお店が閉まり、土日は閉店が当たり前でした。日本で言うところのイトーヨーカドーのようなチェーン点スーパーのカールシュタット(Karlstadt)も平日日中だけの営業で、時間内に買い物に行くのが大変でした。

お店が閉まった後にビールやチーズなどが欲しくなったらどうするか?ガソリンスタンドに行けば良いのです。ガソリンスタンドにはコンビニエンスストアのような小さな店舗が併設されていることが多く、そこはさながら万屋(よろずや:grocery store)です。アメリカ発祥のコンビニは、こうした店舗がガソリンスタンドから離れて独立した業態だとも言われていますね。

ブランデンブルク州はテスラ&電動車の味方?

テスラと言えば、ベルリンの南東にある「グリュンハイデ(Grünheide)」にギガファクトリーを予定していると言われています。10億ドルの大型プロジェクトになるとも噂され、現地のブランデンブルク州政府としても、テスラとは良好な関係を構築したい思いがあることでしょう。このプロジェクトは、電動化を推進したいブランデンブルク州としては最優先事項であり、ライバルである首都ベルリン市よりも成果を上げている、とアピールできる絶好の材料です。

画面左上がドイツ首都のベルリン。右下にギガファクトリーの予定地とされる「グリュンハイデ」が見える。

そういう事情もあり、ブランデンブルク州政府はテスラの提案に対して非常に好意的で、数週間前に現地を訪れたテスラの代表部の要請を「連邦交通デジタルインフラ省(BMVI: Bundesministeriums für Verkehr und digitale Infrastruktur」に取り次いだようです。

BUSINESS INSIDERが入手した情報によると、同省の国務大臣シュテフェン・ビルガー(Steffen Bilger, PSts Bilger)氏と会ったテスラの代表部は、この件についてはさらに調査を行う、との前向きな言葉を同氏から受けました。とくに運輸・物流の部分で、持続可能なモビリティーを一層強化する方向が話し合われたとしています。

シュテファン・ビルガー氏。メルケル政権の若き国務大臣で、連邦交通デジタルインフラ省を率いる。どこかの国の大臣たちと違って、若〜〜い!同氏の公式サイトより転載。

なお、首都ベルリンは別の州を構成していますが、地理的にはブランデンブルク州(州都ポツダム)の中央部に位置しています。ローマ市の中にバチカン市国が位置しているのと似ています。

ドイツでの規制解除の意味

この「規制除外」はなにもテスラ・セミだけに恩恵をもたらすものではありません。たとえばメルセデスが予定している電動大型トラックにも適用されるでしょう。同じく大手のスカニアだって未来を考えて電動化を準備していることでしょうから、実現すると、ことにドイツにおける流通界の電動化を大きく加速することになりそうです。

ドイツの都市の様子。これは南西部ババリア地方の主要都市ミュンヘン。イザール川の中州(この写真だと右の画面の外)に建つ「ドイツ博物館」は1日見て歩いても飽きないし、名物のヴァイスブルスト(白くて太いソーセージ)やヴァイツエンが美味しい。ドイツでは案外ワインがメジャーだが、ここババリアではさすがにビールが人気。

大型トラック運行規制とは

さて、ドイツでは1956年5月1日から「日曜・祝日の大型トラック運行禁止」という大胆な政策を導入しました。具体的には、日曜日と祝日の0:00から22:00までは、総重量が「7.5トン」を超える「大型トラック」と「トレーラー牽引貨物車」は、その商用での運行が禁止されています。

ただし、肉類・魚類・乳製品といった生鮮食料品を積んだトラックや、社会インフラの修理・メンテナンスを担うトラック、緊急車両は規制の対象外となっています。

日曜日と祝日に大型トラックの運行を禁止しているのはドイツに限ったことではありません。欧州ではわりと広く行われています。ドイツは導入がとりわけ早かったということです。

たとえばフランスでは、同様の貨物トラックの運行禁止が行われており、ドイツよりも厳しい「土曜日22:00から日曜日24:00」が設定されています。

またスペインでは、「日曜と祝日の午前8時から午後12時まで」と、「祝日前日の13:00から24:00まで」は運行が禁止されています。週末の環境負荷・インフラ負荷削減という観点から、この動きは1990年代から広がりを見せています。

【追記】

今回、この件で質問を送っておいたイタリア・ペルージャの友人から情報が届きましたので、ご紹介します。

イタリアで毎年公開されている「大型トラック走行禁止カレンダー」。これを見れば一目瞭然。

イタリアでも日曜・祝日の大型トラックやトレーラーの運行は禁止されています。面白いのは、イタリアでは毎年「大型トラック走行禁止カレンダー」が公開されている点。これを見れば毎年の規制日(これは2019年の例)が一目瞭然です。

【追記終わり】

そんなに前から?

1956年と言えば日本では「昭和31年」。経済白書に「もはや『戦後』ではない」と記された年として印象的に記憶している方が少なくないのでは?

この解釈に関しては、従来から「敗戦後の混乱期をやっと抜け出して、高度成長期をこれから迎えようという上向きの気持ちが滲み出ている」というように解釈されていますが、じつは「敗戦の混乱はあったものの、朝鮮戦争による『特需』という好機が到来して伸びることができた『戦後』は終わり、今後の成長には『苦痛を伴う変化が必要だ』と強調している」というのが真相だったようです。

日本はこれより少し前の日露戦争後と第1次世界大戦後に、実際に経済成長と工業生産の伸びを経験しています。そのような「戦後」はもう終わって、今後は真の力が問われる、と戒めたということです。事実このあと、日本経済は産業構造の転換に成功して高度成長を実現したのは皆さんご存じのとおりです。

長々と書いてしまいましたが、何はともあれ、同じく第2次世界大戦の敗戦国として廃墟の中から立ち上がったドイツでは、こんな時期にすでに「人々の暮らし」や「環境」に対して眼差しを向けるほど成熟していた事実は、じつに羨ましい限りです。

近年のトラック走行規制のうごきと今後

ドイツ政府は2010年夏には、規制をさらに強化したこともありました。休日・祝日に加えて、7~8月は土曜日も主要な高速道路での大型トラックの走行を禁止しました。これは、夏の休暇の時期に自家用車を利用して移動する人が増えるため、高速道路などでの渋滞の緩和を狙ったものでした。

ブランデンブルク州の町並み。ドイツではどの街にも「マルクト・プラッツ(市場広場)」があり、街の中心を成している。

しかし昨今では、環境保護の観点からも、夏だけでなく、大型連休や学校が休みの時期の土曜日には大型トラックの運行を制限すべきだとの意見も出ているようです。そうなると、電動トラック・牽引車の優位性はさらに高まることになそうです。

なおテスラは、ドイツ以外の欧州諸国でも、同様に「電動トラック・トレーラーの商用利用の日曜・祝日運行禁止」の適用除外を働きかけているようです。電動車両ととても相性の良い「自動運転や運転支援システム」による安全運行の向上は充分あり得ることなので、残された課題はトラック自体の重さによる道路や橋梁への負荷ぐらいしか残ってなさそうですね。

(文/箱守知己)

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この記事の著者


					箱守 知己

箱守 知己

1961年生まれ。青山学院大学、東京学芸大学大学院教育学研究科、アメリカ・ワシントン大学(文科省派遣)。職歴は、団体職員(日本放送協会、独立行政法人国立大学)、地方公務員(東京都)、国家公務員(文部教官)、大学非常勤講師、私学常勤・非常勤講師、一般社団法人「電動車輌推進サポート協会(EVSA:Electric Vehicle Support Association)」理事。EVOC(EVオーナーズクラブ)副代表。 電気自動車以外の分野では、高等学校検定教科書執筆、大修館書店「英語教育ハンドブック(高校編)」、旺文社「傾向と対策〜国立大学リスニング」・「国立大学二次試験&私立大学リスニング」ほか。

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