※トヨタの発表では「最大7300億円」とされていますが、直近の為替レート(約140円)で計算して7500億円としています。
bz3は実質的にBYDからのOEMか
秋の気配が少しずつ感じられるようになってきた中、米カリフォルニア州でのZEV規制強化や日本電産の社長交代、リーフの値上げに、トヨタの新型EV『bz3』のスペックやデザインが明らかになるなど、新しい動きが明らかになっています。
本題に入る前に少しだけ、トヨタの新型EV、ミドルサイズセダンの『bz3』について紹介してみます。素性が明らかになったのは中国工業情報化部の公開情報からで、中国のSNSなどで拡散しました。
公開情報を見ると、車幅が1835mmとけっこう広いことや、車重が1835kg前後で最高速度が160km/h、ホイールが16インチか18インチの二種類、最大出力が180kWであることのほか、リン酸鉄バッテリーの生産と組み立てはBYD子会社の武威富力電池、パワートレインはBYD子会社の弗迪动力有限公司(フィン・ドリームス・パワートレイン)の型式であることなどがわかります。
トヨタとBYDは2020年4月に、バッテリーの研究開発を手がける合弁会社『比亚迪丰田电动车科技有限公司(BYD TOYOTA EV TECHNOLOGYカンパニー有限会社)』を設立していますが、『bz3』の開発にどの程度まで関係していたのかは確認できていません。
ただ、『bz3』は共同開発とはいえ、リン酸鉄(LFP)バッテリーの情報はBYDが握っています。パワートレインも『bZ4X』ではアイシン、BluE Nexus、デンソーが共同開発したeアクスルを搭載していたことを考えると、『bz3』の型式を取得している弗迪动力が開発の中心である可能性は高そうです。
そうすると、開発段階でトヨタとの共同作業があったとしても、主要な部分はBYDが提供していることになり、実質的にはBYDのOEMに近いのかもしれません。
今どき、自動車メーカー間で車をやりとりするのはあたりまえなのでいいのですが、相変わらず水素エンジンに関しては社長自らが積極的に開発をアピールしている一方で、EVについては技術を手の内に入れるというよりもコスト削減や開発時間短縮に注力しているようにも見えて、これからどうしていくのかがとても気になります。
前フリが長くなりましたが、そんなこんなの動きのひとつとして、バッテリー生産への追加投資の発表があったのでした。
まずは2026年までに40GWhの生産を目指す
トヨタが新規投資を発表したのは2022年8月31日でした。カリフォルニア州でのZEV規制強化が発表された6日後です。もちろん、大型投資の案件が数日で決まるわけがないので、投資方針はカリフォルニア州の決定とは関係ないと思います。
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とは言え、2035年までに車から温室効果ガスを出さないようにするというカリフォルニア州の方針は2020年9月の州知事令で出ていたので、これに対応したものとは言えそうです。
他方で2026年までというスケジュールは、カリフォルニア州の新規制が2026年モデルイヤーからのスタートなので、照準を合わせているのかもしれません。
トヨタの発表によれば、新規の総投資額は最大7500億円(約56億ドル)です。投資はすべてバッテリーの生産設備構築に向けられます。
投資の地域別内訳は、日本国内に約4000億円、アメリカに約3500億円(約25億ドル/1ドル=約140円で計算)です。
これにより、2024年から2026年の間に最大40GWhのバッテリー容量を生産できる体制を構築することを目指します。仮に『bZ4X』のバッテリー容量、71.4kWhで計算すると約56万台分になります。
トヨタは2030年までに280GWhを生産するという大目標を掲げています。今回の投資はその一歩になります。
日本ではPPES工場の増強とトヨタ所有地での内製強化
もう少し中身を見ていきます。まず日本国内では、トヨタの下山工場、明知工場に生産ラインを作るほか、静岡県湖西市のトヨタ所有地に工場を新設します。これらの工場ではトヨタがバッテリーを内製する予定です。
同時にパナソニックホールディングスとの合弁会社「プライムプラネットエナジー&ソリューションズ」(PPES)の姫路工場の生産ライン増強も行います。
トヨタはそれぞれの工場の生産容量を発表していませんが、トヨタの発表と同日にPPESは独自のニュースリリースを出し、自社目標を公表しました。
PPESの発表によれば、姫路工場に新設するラインでは、2024年に年間7GWhを生産することを目指し、これ以降も拡大する予定です。生産するのは角型バッテリーです。
7GWhを『bZ4X』の台数に換算すると約98000台分になります。
アメリカは豊田通商との合弁会社で生産
一方のアメリカでは、トヨタの北米事業体「Toyota Motor North America(TMNA)」が豊田通商と2021年11月に設立した合弁のバッテリー生産会社、「Toyota Battery Manufacturing, North Carolina(TBMNC)」を通して生産します。投資額は約25億ドル(約3500億円)です。
余談ですが、TBMNCって、MNCバッテリーみたいでなんとなく「電池」っていうイメージの略号です。
閑話休題。TBMNCは、設立時のニュースリリース(2021年12月7日)で、当面の投資額と生産容量を公表しました。リリースによれば、投資額は用地建物込みで約12億9000万ドル(約1800億円/1ドル=140円)。2025年の工場稼働を目指していて、稼働時には4本の生産ラインで各20万台分、合計80万台分のリチウムイオンバッテリーを生産する予定としています。
その後は少なくとも生産ラインを6本にし、年間120万台分のEVにバッテリーを供給することを目指します。これらの数字を『bZ4X』のバッテリー搭載容量で逆算すると、80万台分は約57GWh、120万台分は約86GWhになります。
これから出てくるEVのバッテリー搭載量は70GWhより少ない?
ここで、あれれ? と思いました。
トヨタは今回の発表で、2024年から2026年に日米で合計40GWhとしているので、ここまで『bZ4X』ベースで試算したように2025年に北米で57GWh、日本で少なくとも7GWh(トヨタ工場を含むとさらに数GWh増える)になるとすると、発表を大きく上回ることになります。
うーん、ということは、これから出てくるEVのバッテリー容量は『bZ4X』よりもかなり少なくなるのかもしれません。確かにテスラ『モデル3』のロングレンジで79.5kWh、スタンダードなら54kWhです。
それに充電インフラが拡充すれば、距離を走らないときにはただのオモリになってしまうバッテリーを大量に搭載する必要性は薄れます。搭載するバッテリー容量を減らせれば、エネルギー効率を向上することもできます。日本を含め、小さな車の需要が多い地域もあります。
こうしたことを考えると、当面の40GWhで賄えるEVの台数は、60万台~100万台くらいになるのかもしれません。あくまでも、筆者の机の上の計算ですけども。
当面のカリフォルニア州新規制分は生産可能か
ところで、トヨタのカリフォルニア州での販売台数は年間約30万台前後、北米での販売実績は、2021年は年間約233万台です。この数字をベースにこれから必要になる可能性のあるEVの台数を考えてみます。
カリフォルニア州の新規制では、2026年モデルイヤーは35%、2030年モデルイヤーでは68%をZEVにすることを義務付けているので、2026年は約10.5万台、2030年は約20万台がトヨタの割り当てになります。
だとすると、カリフォルニア州での必要分はTBMNCの生産量で賄えそうです。
また北米全体を考えてみると、カリフォルニア州大気資源局によれば、カリフォルニア州のZEV規制に追随しそうな州が最大17州あり、このすべてが同等の規制を実施した場合は北米市場の約40%をカバーします。
仮に17州全てが新規制を採り入れるとすると、2026年の規制スタート時点では81万台が必要になりますが、こんなに早く実施するのはちょっと難しいかもしれません。
その先を見てみます。2028年では51%、2030年では68%なので、2021年ベースで考えると必要なZEVの数はそれぞれ、約119万台、約160万台です。
そうすると、TBMNCが現時点で計画している生産量は、最も規制が早く進む場合で2028年までの必要量を確保していることになります。この数字が、今のトヨタが考えるもっとも急激な変化なのかもしれません。
■トヨタのEV生産可能台数(机上の予想)
2025年に80万台→将来的に120万台
■規制に対応するための必要台数(最も多い場合)
2026年 81万台
2028年 119万台
2030年 160万台
日本を含めた地域がどうなるかは不透明
今回、トヨタが発表した7300億円という投資額も、40GWhという生産計画も、欧米他社に比べれば大きくありません。例えばフォードは2026年にEVを100万台生産、バッテリーは129GWhの確保を目標にしています。それに比べると、トヨタの目標はこじんまりとしています。
それでも、これまでほとんど具体的な数字を出してこなかったことに比べれば、少しずつ前進している感はあります。
あとは、日本、中国、インドなど今後の成長市場でどんな目標を立てていくのか。何を目指していくのかが、数値目標を伴って出てくるといいなあと思います。今回も、PPESが7GWhという計画を出しているのだから、トヨタも後出しにすることはないと思うのですが。
とにもかくにも、とかくEVに後ろ向きと言われるトヨタから、少しだけ情報が出てきました。十分な情報量、目標とは言い難いですが、なにもないよりはよさそうです。日本メーカーは堅実な最低限の目標からスタートする傾向がなくはないので、強引に前向きに捉えれば、最低限の数字なのかもしれませんし。
この週末にもてぎで開催されたスーパー耐久レースで、新たに発表されたカワサキの水素エンジン搭載バギーに、豊田章男社長が嬉々として乗っている様子が報じられていました。ふと、豊田社長が水素エンジンの代わりにEVに乗る日がいつになるのか、そんな日が来るのか来ないのか、どうなんだろうなあと思いました。
初代『プリウス』が登場した時にトヨタは、「21世紀に間に合いました」というキャッチコピーを流しましたが、21世紀はこれから80年続きます。その80年をどう進んでいくのか。ガラパゴス化でおいてけぼりにされないようなビジョンが見てみたいと思う今日のこのごろなのでありました。
(文/木野 龍逸)
トヨタは思い切って、本気でEVシフトした方がいいと思う。この世の絶対原則である栄枯盛衰からは逃れられない。これまでトヨタは輸出で日本の外貨獲得に貢献し、HVという極めて優れた燃費向上のシステムを作ったわ、十分に役目は果たしたよ。グズグズしてると取れたはずの仕事も取り逃して、ジリ貧になるよ。EVシフトによって職を失う人達も大丈夫、今は人手不足だから仕事は腐るほどあるから。
世界一の自動車生産を誇るトヨタが、EVシフトを計るのはそう簡単な事ではないと思います。トヨタがEVシフトに慎重なのは、内燃機関を基軸とした現在の自動車産業構造に大きな痛みや変革を必要とするからだと思います。しかし今トヨタが自ら変革を起こさないと手遅れになります。現在の状況はパソコンの黎明期に似ていると思います。誰があの時、スティーブ・ジョブス率いるアップルが巨大なIT企業に成長すると想像できたでしょうか?メインフレームコンピュターにしがみついたがIBMが凋落していった様に、恐らくトヨタがハイブリッド技術に固執するなら、テスラやBYDに敗れ去る運命にあると思います。
これらのバッテリー生産計画ではエンジン工場のバッテリー工場への転換が含まれているはずです。
ところで、リチウムが多くの国で産出しない以上バッテリー価格=EV価格ですから中国メーカーに勝てる非中国系自動車メーカーなど存在しませんよ。
全ての先進国メーカーは中国系に勝つ見込みはゼロです。
DDF様、コメントありがとうございます!
>リチウムが多くの国で産出しない以上バッテリー価格=EV価格ですから中国メーカーに勝てる非中国系自動車メーカーなど存在しません
リチウムの生産国は案外多様です。
https://www.statista.com/statistics/268789/countries-with-the-largest-production-output-of-lithium/
TOP 5だけ抜粋すると、
オーストラリア 55,000t
チリ 26,000t
中国 14,000t
アルゼンチン 6,200t
ブラジル 1,500t
現在、リチウムの精製は中国が主ですが、例えば米国はこのほど成立したIRA法により、リチウムの採掘および精製までも、自国との自由貿易協定のある国に限定することで、中国資本にすべて乗っ取られることを防止しようとしています。これらの動きを考えると、中国のリチウム生産は今後も増加すると思いますが、「先進国メーカーの勝つ見込みがゼロ」というほどではないと思います。
安川様、ありがとうございます。
確かに産出国は多様ですね。
そして中国は資源の埋蔵地と生産が同じ国内で完結できる唯一の主要国ということで、中国の圧倒的優位を悟ってしまいました。アメリカですら南米もしくは海をまたいで豪州からの輸送費などが上乗せされてしまうので…
先進国メーカーはより厳しいコスト管理をしてやっと中国系と同じラインというところなのかなと。
DDF様、そうですね、ただ今後米国などでも鉱山の開発は進むみたいですし、来年の勢力図が今から楽しみです。