米国軍10万台のディーゼル車を、電気自動車が駆逐する

米国軍は2041年までに10万台の化石燃料を使う軽戦術車両を購入する計画を立てていますが、電気自動車へ変更するかもしれません。『CleanTechnica』から全文翻訳記事をお届けします。

米国軍10万台のディーゼル車を、電気自動車が駆逐する

元記事:100,000 Diesel-Killing Electric Vehicles For US Army, Eventually by Tina Casey on 『CleanTechnica

電気軽偵察車両プログラムが復活

新しく成立した国防権限法(NDAA)2022には、2021年前半に頓挫した電気軽偵察車(eLRV)計画が含まれており、米国国防総省が電気自動車を拡大する準備をしているサインと見られます。NDAAの承認は、国防総省が新たにEVを大量に買いつける(既存フリートに追加する)ことを意味するかもしれません。もしそうでなければ、既存ガソリン車を電動化する方向に動いているようです。

Defense Newsの友人は、軍が特殊利用電気自動車コンセプトを発表するためジョージア州フォート・べニングに自動車メーカーを招待した後、昨年5月にeLRV計画があからさまに消えていることに気付きました。

今まで国防総省による電気自動車の使用目的は、主に普通の電気自動車、バン、トラックでもできるような、重要ではないものに限られていました。もし戦術車両の採用まで進めば、脱炭素の梯子を登る重要な一歩になります。

「軍は様々なeLRVの利用可能性に関してまとめましたが、資金が足りないため計画の将来は不透明です」と、Defense NewsのリポーターであるJen Judson氏は見ていました。

心配はいりません。今週初めにミシガン州上院議員のGary Peters氏は、2022年度NDAAを通してeLRV計画が再認可されたと発表しました。

Peters氏の事務所は、「法案はミシガンにおける、電気及び代替燃料車両開発の研究とエンジニアリングに認可を与える見積もり費用も含まれています。この資金はミシガンでの車両研究開発を保証し、給料の良い雇用を生み出して私達がモビリティの先端に居続けるのに役立ちます」と説明しました。

軍と電気自動車のこの先

しかし祝砲を打つのはまだ早いです。NDAAは国防総省の政策を定めましたが、実際に資金が出るかは米国連邦議会に委ねられているのです。

加えて、ビルド・バック・ベター(より良い再建)法案の反対派が、動きを遅くさせる可能性もあります。この法案は連邦議会で今月、たった一人の民主党議員(誰だか分かりますよね ※編集部注/ジョー・マンチン上院議員が民主党で唯一の反対票を投じました)が、50人全員一致した強力な共和党の反対票に一票加えたせいで廃案となりました。

しかし、12月8日にバイデン大統領がサインした気候に優しい大統領令(米国政府が2035年までにガソリン車の購入をやめ、電気自動車などのゼロエミッション車に切り替える「バイ・クリーン政策」推進する内容)により、国防省の電気自動車調達を再び軌道に乗せられる可能性があります。

大量の戦車を保有する軍に注目が集まっていますので、バージニア州フォート・リーの陸軍複合武器支援部隊所属、Mark Simerly少将による最新の分析を見てみましょう。

Simerly氏は以前、第19遠征支援部隊を率いていた経歴があり、この分野についてはちょっとした見識があります。また国防大学で国家資源戦略の修士号を取得しており、そこでの主な研究対象には石油エネルギーなども含まれていました。

明確なことを大袈裟に言うものではありませんが、Simerly氏はそのように表現するようです。「早期に収拾するリスクを取らず、適切な持続性を持たない部隊展開では、究極的にはミッション失敗となる」と、12月16日に投稿された軍のウェブサイト上の記事冒頭でSimerly氏は警告しています。

記事の中で、Simerly氏は軍の遠征用エネルギーが大きく増えてきており、これから数年のパイプライン開発のために設置された新しいシステムが非常に多くのエネルギーを使うと書いています。またこれらのシステムに必要なレベルのサポートに関して、あまり進展がないとも。エネルギー需要に追いついていないのです。彼は、「要するに、軍は部隊がエネルギーを使い切る前に確保しなければならないのです」と結論付けました。

電気を切らさないためにはどうしたら良いのか~電気自動車編~

以上は記事の始まりにすぎません。Simerly氏は将来のエネルギー需要を制限するための軍用プログラムや政策の長いリストを提示し、優先事項を5つに絞っています。

中でも重要なのが、マルチフューエル(複数の燃料を使える)、モバイル・マイクログリッド、次世代蓄電技術などの、有効性と効率性です。Simerly氏が書いている通り、この2つはさらに多くの電気自動車を遠征オペレーション用に導入できるかのポテンシャルに繋がっているのです。

具体的には、Simerly氏はeLRVプログラムに関して声高に話し、eLRVファンの心を温めています。「機動中核的研究拠点(MCoE)は特殊利用のためのハイブリッドかバッテリーで動くeLRVプロトタイプを現在開発中です。eLRVはすべての偵察部隊でハンヴィー(高機動多用途装輪車両)に取って代わるかもしれません」。

ハンヴィー

良いニュースがたくさん入ってきましたね。さらに良いことに、Simerly氏のリストによれば、電気自動車の持つアドバンテージは同等の化石燃料車のそれを上回ります。「もし成功すれば、新しい車両ではオペレーションの時間が延び、静かな移動と観察が可能になるため、偵察隊は察知されるリスクを低くしながらさらに長い時間、遠くまで行けるようになります」。

米国軍では最終的に、さらに多くのディーゼル車が電気自動車に追いやられる

化石エネルギー産業と繋がりのある国会議員は火を踏み消そうとするかもしれませんが、多大な労力が必要になるでしょう。Simerly氏は現行のハンヴィー群を電動化する動きがすでに出ているとしています。最初のeLRVが戦場に出る前に、電気自動車として仕事に戻ってくるかもしれません。

ハンヴィーは恐らく、エイブラムスなどのさらにマッチョな戦車ほどは世間の注目を集めません。しかし、軍の中でこのクラスでは単一のフリートとして最大のものになります。そのすべてを電気自動車に変えるのは大変な仕事になりますが、化石燃料消費量を減らす目標は、他の大型戦術車両に比べてかなり簡単に達成できます。

エイブラムス戦車

ハンヴィーのルーツは、軍が新しい軽戦術車両を開発するプログラムを始め、AMジェネラルと契約を結んだ1979年まで遡ります。同社と長い期間再契約を繰り返したのち、ハンヴィーを『ジョイント軽戦術車両(JLTV)』と呼ばれるものに切り替えるため、2015年に軍はOshkosh社と新しい契約を結びました。

Defense Newsが報じたところによると、ハンヴィーとJLTVは一気に交換されるわけではないようです。少なくとも短期間にはありません。今のところ、2041年度までに10万台の車両の内訳を、ハンヴィー5万台、JLTV4万9,099台とする計画です。

米国軍のどこに電気自動車は入り込めるのか

この青写真のどこにeLTVや似たような車種が大量に入り込めるのか疑問に思った方、良い質問です。答えを知っている方はコメント欄に書き込みをお願いします。

当面の間は、Simerly氏が書いたように既存車両群を改造するのが、最も抵抗の少ない道かもしれません。記事で言及されている軍の研究開発プログラムの他に、レガシートラックメーカーのOshkoshがJLTVの電動化を助けてくれる可能性もあります。Oshkoshは悪名高い郵便局長官Louis Dejoy氏が業務用に新しくガソリン車を同社に発注したということで、好ましくない注目を最近集めました。しかしOshkoshのDefense支社では電気トラックを生産しているのです。

またAMジェネラルが仕事をしていても、驚かないでください。100年の歴史を持つ防衛契約会社も、電気モビリティにシフトし始めているレガシー自動車メーカーなのです。11月23日、AMジェネラルと電気ドライブスペシャリストのQinetiQはハンヴィーのハイブリッドコンセプトカーから始めて軍用車の電動化を進めるため、戦略的パートナーシップを結びました。

「防衛の中でも最もアイコニックなハンヴィー・ファミリーにハイブリッドドライブシステムを採用することにより、QinetiQとAMジェネラルは防衛セクターの炭素排出量を減らしながら、次世代テクノロジーを運ぶ電気戦車の未来のための基礎を作っています」と2社は説明しており、完全電動化よりもハイブリッドのアプローチの方が、戦略的アドバンテージがあるとしています。「ハイブリッド電気ドライブシステムのおかげで、車両はより静かに観察・走行する時間を伸ばして殺傷能力を高めながら、さらに敵対的な地域にタックルできます。ここでの(有利となる)対象には車両から出る音と、熱の痕跡が含まれます」。

AMジェネラルの電気自動車への転換は、軍用ハンヴィー数千台の先を行っています。社は世界中で70以上の国とビジネスをしています。

Oshkoshもダラダラしてはいません。社は現在約20の国に戦術車両を提供しています。

さらに多くの電気自動車を米国軍へ。より良い再建となるか

バッテリーEV活用の他、Simerly氏は燃料電池技術も改めて支持しており、自動前進する榴弾砲や戦車など、主な武器システムの電動化をより効果的に進められると見ています。

Simerly氏のリスト上にある他4つも電気自動車を支持しています。有効性と効率性の下には電気自動車とグリッドを繋ぐテクノロジーにより蓄電、需要への対応、その他エネルギー保存システムなどを含めて「環境への意識が改善される」としています。

3つ目に来るのは、ロボティクスと自動システムへのより強固な注力で、特に電気自動車の観点から見ると面白いものとなります。最近米国空軍は、遠征軍が地上作戦を即座に電動化できるようにロボティック太陽パネル、ワイヤレス伝達システム、マイクログリッドなどを活用した最先端のシステムを発注しました。

4つ目は必要な時に需要に応える、というものです。燃料で言えば、物資の運搬に必要な燃料に伴うエネルギー消費量を減らすという意味です。現場にある太陽光パネルや風力タービンなどの発電装置と電気自動車の組み合わせが鍵となるでしょう。

Simerly氏はまたメッシュ・パワーシステムと呼ばれるグリッドタイプのアプローチにも言及しています。ここでリストに載っていないのがサテライトを使って太陽光発電を宇宙空間で行い、地球上のどこにでも24時間送れる『スペース・ソーラーパワー』です。宇宙分野寄りですが、空軍はこれから数年でデモ用サテライトを打ち上げる予定です。

需要の観点から可能性を探っている分野としては他に3Dプリントのさらなる活用や、廃棄物の再利用技術などが挙げられます。

戦場の戦士が気候変動と向き合う

リストのトップ5をまとめると、行動を変える、ということになります。

「軍内部の消費行動を変えるのが、需要を減らすのに最も重要な要素です」とSimerly氏は言います。「現在のフォーメーションは、エネルギーリソースの制限をかなり少なくして成り立っています。部隊は頻繁に夜明けから日没までエンジンを動かしていますし、集合区域にあるジェネレーターは発電量に関係なく365日24時間稼働しています。需要と供給の差が広がれば、こんな贅沢はできなくなり、司令官は時間や弾薬と同じようにエネルギー供給の管理をするしかなくなるでしょう」。

Simerly氏が主張する行動変化に賛成し、国防総省が出した2021年持続可能性計画は「軍教育の特殊なスキルから士官学校の新卒訓練まで、すべての訓練と教育に気候変動の内容を組み込む」ことを優先します。

軍の行動が民間部門へ与えるインパクトを考えると、気候変動に関する教養を持った戦士を育てることにより、大きな変化が起こるかもしれません。

(翻訳・文/杉田 明子)

この記事のコメント(新着順)3件

  1. 軍での音声通信は「盗聴されている」前提で運用するので、エンジン音のように聞かれて困るものは一々停止しておく必要があるのですよね。
    電化すればそのへんが解決するので、早く電化したいのでしょうか。

  2. 車両に限らず軍事用機器は汎用品とは訳が違いますよね。徹底的に理想にこだわり抜いたものが多いとか。「機動戦士ガンダム」でいうならランバラルの名言「ザクとは違うのだよザクとは」でしょうか(笑)
    静音化・ステルス技術・瞬発性など、軍事車両の電動化はアドバンテージだと思います。内燃機関とくにディーゼルエンジンだとエンジン起動までに時間がかかる・五月蝿い・激しい振動・比較的重たいなどのネガがあり、それら弱点を克服するなら蓄電池式にするのもアリやないですか。ただ蓄電池もミルスペックにしなきゃいけませんが現地点で対応可能なのは東芝SCiBしか考えられませんよ(爆)逆にそんなスゴイ電池が存在するからこそ電動化の発想が出たんやないですか!?

  3. いきなりBEVというのはチャレンジが過ぎるるなぁ。
    M1エイブラムスがガスタービンを採用した時も驚いたけど。
    レンジエクステンダー式のそう輪装甲車なんかは有りだと思う。

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この記事の著者


					杉田 明子

杉田 明子

2010年代に住んでいた海外では'94年製のフォード→'02年製のトヨタと化石のような車に乗ってきました。東京に来てからは車を所有していないのですが、社用車のテスラ・モデル3にたまに乗って、タイムスリップ気分を味わっています。旅行に行った際はレンタカーを借りてロードトリップをするのが趣味。昨年は夫婦2人でヨーロッパ2,200キロの旅をしてきました。大容量バッテリーのEVが安くレンタルでき、充電インフラも整った時代を待ち望んでいます。

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