フォルクスワーゲンが新しいEV工場に22億ドルを投じ、技術部門を再編成

ドイツのフォルクスワーゲンが、巨額を投じて既存ガソリン車工場をEV用に転換することが分かりました。生産部門だけでなく、開発部門から抜本的な改革を進めていきます。全文翻訳記事でお届けします。

フォルクスワーゲンが新しいEV工場に22億ドルを投じ、技術部門を再編成

元記事:Volkswagen Decides On New $2.2 Billion EV Factory In Wolfsburg, Realigns Tech Department by Steve Hanley on 『CleanTechnica

権力闘争の果てに新工場設立が決定

フォルクスワーゲンは同社最大の工場があるヴォルフスブルクに22億ドル(約2,549億1,600万円)をかけて電気自動車用の新しい工場を建てることを今週認めました。ここでの車両はトリニティ・プログラムと呼ばれる計画の一部として開発された、新しいSSPプラットフォームをベースに作られます。この決定の裏には、ヴォルフスブルクから遠いロケーションを推したVWグループCEOのヘルベルト・ディース氏と、ヴォルフスブルクを推したVWブランドCEOのラルフ・ブランドシュテッター氏の権力闘争がありました。

トリニティのシルエット。画像はVW公式より。

フォルクスワーゲンの管理委員会がブランドCEOの職をディース氏から剥奪してブランドシュテッター氏に渡す前だった昨年の今頃、ディース氏は両方の職に就いていました。2021年後半、新しい工場を巡る権力闘争によってディース氏は窮地に陥り、職を失いかけました。ヴォルフスブルクに新しい工場を据えることは、EV生産への方針転換により生産ラインでの3万人の雇用がなくなると断言したディース氏に不快感を持つ、社の労使協議会を宥めるための動きと見られています。

Electriveのレポートによると、ブランドシュテッター氏は「したがって私達はしっかりと長期視点で見た雇用を提供し、メインの工場を強化・維持しています。自動車業界にはトリニティと新しい工場でベンチマークをセットし、ヴォルフスブルクを最先端で効率的な車両生産をする、世界の灯台にします」と話しました。また労使協議会会長のダニエラ・カヴァロ氏は「ヴォルフスブルクの歴史に残る流れが見られる」としています。彼女は昨秋ディース氏に最も批判的だったうちの1人でした。またブランドシュテッター氏は常にディース氏よりも従業員寄りと見られてきました。

管理委員会開発責任者のトーマス・ウルブリッヒ氏はある文書で、新しい工場では10時間に1台車を生産できるとしています。これはテスラの新しいグリューンハイデ工場と同等、もしくは自社のツヴィッカウ工場の3分の1のスピードです。社によるとこれから鍵となるのは、「より少ない車種・部品、さらなる自動化、よりコンパクトな生産ライン、そして新しいロジスティクスのコンセプトです」。

年間生産量が25万台と予想される新しい工場は2023年の春に建設開始、作られる車は2026年に出てくる予定です。これらの車は「バランスシート上でカーボンニュートラル」になると社は言います。

Handelsblatt紙によると、フォルクスワーゲンはトリニティ工場が開拓した生産技術を使って2030年までにSSP生産をヴォルフスブルクにある既存のメイン工場に統合しようとしています。現在ゴルフとティグアンに使われている既存生産ラインの転換は2027年に始まりそうです。ブランドシュテッタ―氏は4つあるうちの2つの生産ラインがまず変更されると示唆していますが、各ラインの年間生産量も25万台ほどです。したがってヴォルフスブルク工場のEV年間生産量は合計75万台になります。

技術開発の再編成

VWの開発プロセスの再編成。画像はVW公式より。

フォルクスワーゲンの技術開発プロセスの再編成は、ヴォルフスブルクをEV生産ハブにする全体計画の一部です。これから社は「ハードウェア・ファースト」ではなく「ソフトウェア・ファースト」を主眼に置くと言います。これは社のID.シリーズで生産から顧客に渡すまでに経験した大きな困難からきているのかもしれません。

トーマス・ウルブリッヒ氏は「ソフトウェアは私達のトランスフォーメーションにとって核であり、原動力でもあります。かつて世界はシンプルで、ビートルはハードウェアでしかありませんでした。ID.モデルはハードウェアよりもソフトウェアなのです」と話し、ヴォルフスブルクで作られるトリニティには、現行のID.3に比べて2~2.5倍のコンピューターコードが使われるとしています。「車両開発のスタート地点は顧客のニーズに沿う、新しい機能です。したがって新しい開発プロセスでは部品よりも機能やシステムにフォーカスを当てていくでしょう。相互依存性の要件は早めに明確にしなければなりません」。

ウルブリッヒ氏によると、一日中静かに割り当て分の最適化を進めていた各スペシャリストの個人オフィスは、コミュニケーションの取れるオープンスペースに変わります。サンドキャンプの新しい開発センターでは、買い付け、生産、品質管理など他部署の職員が開発者とともに働く統合ゾーンが設けられます。これにより手短で効率的な協業への道が拓けると氏は考えています。

技術開発部は現在1万1,500人を雇用しています。彼らを新しい開発プロセスに移すのは非常に骨の折れるタスクです。最大のチャレンジは、複雑な仕事の融合と、社員の考え方をサイクルの速いソフトウェア開発に合わせる事です。

以上を踏まえ、新しい車両のプロジェクトは54ヶ月ではなく40ヶ月で終わるはずです。新しいヴォルフスブルク工場のおかげで開発と生産がより良く繋がり、車両一台当たりの生産にかかる時間は魔法のように10時間に収まると見られます。

ハードウェアも開発時間の短縮に貢献します。新しいSSP(スケーラブルシステムプラットフォーム)と呼ばれる電気自動車用プラットフォームは2026年にトリニティでデビューします。ウルブリッヒ氏によると、MEBとさらに大型のPPEを統合したこのプラットフォームにより、ハードウェアの標準化が進みます。電気ドライブシステム、ドライビング・アシストシステム用のセンサー、インフォテイメントの種類が少なくなれば、生産も簡単で安くなります。ウルブリッヒ氏は「生産・供給用の種類はかなり少なくなるかもしれません。ソフトウェアはモデルによってハードウェアの違う使い方をするので、同じハードウェアの車両でもかなり多岐にわたる機能を提供する事はできます。また後々アップデートによって変更することも可能です」。

氏によると、MEBプラットフォームのようにSSPもサードパーティの顧客にも開かれています。パサートサイズのセダンがトリニティ主導で出されるのは分かっていますが、ウルブリッヒ氏はエントリーレベルのSSPモデルがどれ位小さいのか明確にしていません。「長期ではMQB位の航続距離を出したいです。ただ現時点ではそれがMQB-A0のような車両になるのかは言えません。車は近年どんどん大きくなっています」。(このトレンドはどれ位続くのでしょうね)。

ウルブリッヒ氏はまた、現行のVW電気自動車で使われているソフトウェアバージョン3.0に取って代わる3.1で、双方向充電も登場すると話します。「インフラにもよりますが、3.1で車両は双方向充電ができるようになります。私達フォルクスワーゲンはこの未来の分野にコミットしています。また車両を市場に送り出す際には全体的なシステムの中でこの先出てくるプロセスに関する開拓事業を行う必要もあり、それが法整備にまで及ぶことも承知しています」。

読者の中で電気自動車を作るのが簡単だと考えていたのは誰ですか?

(翻訳・文/杉田 明子)

この記事のコメント(新着順)1件

  1. ARIYAとかもなんで販売開始がここまで遅れてしまったんでしょう。
    コロナで半導体不足なのはわかりますが
    とりあえず出すだけならもっと早くできても良かった

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					杉田 明子

杉田 明子

2010年代に住んでいた海外では'94年製のフォード→'02年製のトヨタと化石のような車に乗ってきました。東京に来てからは車を所有していないのですが、社用車のテスラ・モデル3にたまに乗って、タイムスリップ気分を味わっています。旅行に行った際はレンタカーを借りてロードトリップをするのが趣味。昨年は夫婦2人でヨーロッパ2,200キロの旅をしてきました。大容量バッテリーのEVが安くレンタルでき、充電インフラも整った時代を待ち望んでいます。

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