原付二種クラスの電動スクーター『E01』で実証実験
ヤマハは2022年3月に電動スクーター『E01』を使用し、日本、欧州、台湾、インドネシア、タイ、マレーシアの国・地域で実証実験を開始することを発表しました。世界全体で500台を投入予定で、そのうち日本に100台を割り当てています。実証実験は7月から順次、始まる予定です。
実験では、各車両に通信機能を持たせて充電情報や駐車位置、車両情報を収集し、今後の開発にフィードバックします。
日本では5月9日から実証実験に参加するユーザーを公募しています。応募期間は5月22日までで、抽選の後に7月1日から車両の受け渡しを開始します。ただ、実証実験とはいえ無料というわけではなく、月額の利用料は2万円になります。
応募は、小型限定普通二輪免許(AT限定含む)を持っていることや、満20歳以上でクレジットカードを持っていること、利用後にアンケートに回答することなどが条件です。
実証実験の期間は3か月で、終了後はバイクを回収して、2回目以降の実証実験に使用する予定です。そのため、残念ながら『E01』がそのまま市販される予定はないのですが、ヤマハの開発担当者は「これで終わりと言うことはない」と明言していました。
ということで、4月18日に行われたプレス試乗会に行ってきました。哀しいかな、かなり本格的な雨でしたが、開発担当者のお話はゆっくり聞くことができました。
電動らしいトルク感で乗りやすさアップ
試乗会が行われたのは千葉県野田市の公園内駐車場。パイロンを設置したコースは、スラロームでの操縦性と、直線での加速感を重視した2種類が用意されていました。
が、あいにくの雨です。しかも結構本気で降っていて、寒いです。二輪試乗会は初めての筆者は、雨だと延期になるのかなあなどと甘いことを考えていましたが、そんなことはありませんでした。
ヤマハの方によると、専門誌の人たちは「雨だからこそわかることがある」という意識で参加しているそうです。昔から、雨が降るとバイクより車に乗っていた軟弱ライダーの筆者は感心するしかありませんでした。それでも、短いコースの中で小型電動スクーターの良さはしっかり感じられました。
自動遠心クラッチを搭載しているスクーターは、乗るのは楽ですが、アクセル開度と加速感やトルクの出方にズレが出てしまいます。そのためアクセル操作にちょっと気を遣うことがあります。
でも、あたりまえですがクラッチを使っていない電動スクーターはアクセルに応じて気持ちよく加速するし、トルク感もとても自然です。タイヤが2つしか付いてないバイクだと、このダイレクト感があると安心感倍増なのです。
●ヤマハ『E01』仕様
全長×全幅×全高:1930mm×740mm×1230mm
車重:158kg
定格/最高出力:0.98kW/8.1kW
最大トルク:30Nm
モーター:永久磁石式交流同期モーター
駆動方式:ベルト駆動
バッテリー:リチウムイオン電池
バッテリー容量:4.9kWh
1充電航続距離:104km(60km/h定地走行)
種別:原付二種(125cc以下クラス)
パワーは、「スタンダード(STD)」「エコ(ECO)」「パワー(PWR)」の3モードがあり、アクセルを戻せば走行中でも変更可能です。PWRとSTDの時は最高速が時速約100kmですが、ECOの時には時速約60kmに制限されます。
原付クラスの電動スクーターとは大きく違うパワーも、乗りやすさにプラスになっています。特にトルクは、250ccクラスの最大トルクを上回っていて、低速域ではとくに扱いやすさや加速感を感じます。
このほか、トラクションコントロールシステムも搭載しているのも乗りやすさにつながりますが、試乗は駐車場内だけなのでよくわかりません。それでも、ガソリンエンジンのスクーターより乗りやすいのは間違いないと思います。
充電はヤマハ独自規格で日本の既存インフラは使用不可
今回試乗した『E01』は、バッテリーは交換式ではなく固定式です。
電動バイクは、今ではよく知られているように中国では年間一千万台市場になっているほか、台湾などでも普及が進んでいます。ヤマハもこの3月に、台湾の現地法人が設計、生産を手がけたバッテリー交換式の原付クラスの電動スクーター『EMF』を台湾で発売したほか、欧州でもバッテリー交換式の電動バイク『NEO’S』を同じく3月に発売しています。
一方でバッテリー固定式の小型以上の電動バイクはまだ種類が限られています。日本で買えるのはXEAMで導入している『ZERO』やBMWの『CE 04』などです。いずれも充電コネクターはJ1772を使った普通充電に対応しています。
これに対して『E01』は、ちょっと特殊なコネクターを使っています。
まず、充電は100Vと200Vの普通充電と、もう少しパワーのある直流急速充電(CHAdeMO規格ではない)の3種類に対応しています。100Vはバイクの座席下に収納できるポータブル充電器を使用します。200Vは専用の充電器が必要です。
充電の受け入れ電力は、100Vでは400W、200Vでは1.2kW、急速充電の電力は非公開です。ただし普通充電がちょっとやっかいで、J1772ではなくヤマハの独自規格になっています。コネクター形状が違うのです。
このため、日本では街中の充電インフラを使うことができません。基本的には100Vのポータブル充電器で充電することになります。この場合、充電時間は0%→100%に14時間かかります。ちょっと長いですね。
もうひとつの方法は、自宅に独自の200V普通充電器を設置することです。これなら0%→100%の充電時間は5時間程度になります。
ただ、自前で設置工事をしなければいけないので工事費がかかるうえ、リース料が月額1000円になります。工事費は13万円程度と発表されていますが、設置場所などによってコストは変わるため、ヤマハから個別に連絡することになっています。なんにしても、3か月の実証実験の時だけしか使えないことがわかっている充電器のために十数万円を負担するのはちょっと厳しいですね。
ヤマハは今後、販売店などに、0%→90%を1時間で充電可能な直流の急速充電器を設置する予定としていますが、何千台も設置するわけではないので日常の用足しには難があります。設置場所や利用料金は未定です。
せめてJ1772が使えれば充電には困らないと思うのですが、なぜ独自規格になったのでしょう。またCHAdeMO規格の急速充電対応は考えられないのでしょうか。
2輪車の充電方法はまだまだ模索中
せっかくなので、どうして充電がこうなったのか、開発責任者の丸尾卓也主査に聞いてみました。
ーチャデモ対応にしていないのはなぜか。
丸尾主査「急速充電をしたいので直流を想定していたが、チャデモは4輪用なので、2輪だと入ってくる電力が大き過ぎる。また電線も太くなりコネクタも大きくなる。今回は2輪に最適な急速充電というのを提案したかった」
ー普通充電でJ1772を使わないのはなぜか。
丸尾主査「プロジェクトを始めた頃よりもEVの普及率は上がっているし、車のインフラを使いたいというのはある。ただ、4輪の駐車スペースにバイクを停めたときに、4輪の皆さまからいい顔をされないという率直な悩みもある。だから、2輪専用の充電器の方が堂々と充電できるのではないかというのはあった。ただ、4輪のインフラを共有したい、家に(EVの)充電器を入れたので共有したいという声は、モーターサイクルショーに出展したときにたくさんいただいたので、今後は検討していきたい」
丸尾主査はそう言って苦笑いしました。駐車スペースの懸念は、元バイク乗りとしてはなんとなく理解できました。でも、ただでさえ不足気味の充電インフラを考えると、規格の乱立がプラスになるとは思えません。
なお、今回J1772を使っていない理由は他にもあるようです。実は『E01』の通信規格はヤマハ独自のものなのですが、コネクターは台湾で普及が始まっているCNS規格(台湾工業規格)で定められている形状を使っているそうです。『E01』は台湾でも実証実験を予定していて、その時には通信規格も台湾の規格に合わせる予定です。
ところで電動バイクの充電について改めて考えてみると、バッテリーの容量が5kWhくらいなら、普通充電でも2~3時間あれば満充電になります。6kW対応ができれば1時間程度です。それに4輪車なら11kWのACに対応しているEVは珍しくありません。
そう考えるとなおさら、車の普通充電器が使えるといいなあと思います。駐車スペースの占有は気になりますが、充電器の数が増えれば解消できそうです。規格を変えて新たに充電器を設置するよりは、短期間で対応が進むように思います。ということで、ますます目的地や経路での普通充電設備の必要性が増してくるような気がしました。
バッテリーは交換式か固定式か
ところで冒頭でも紹介したようにヤマハは台湾で電動スクーター『EMF』を販売しているほか、欧州でも交換式バッテリーのスクーター『NEO’S』をこの3月に発売。電動化対応では先行していると言えます。
ではオートバイが電動化する時には、バッテリーは交換式がいいのでしょうか。固定式がいいのでしょうか。ヤマハの丸尾主査は、「使い方によると思う」と述べて、こう言いました。
「限られた範囲を走るのなら電池交換をした方が便利だろうし、人口密度の少ない所であれば固定式の方が便利と言うことかもしれない。このあたりはユーザーの使い方次第の部分もあるので、そこも今回の結果を見ながら考えていきたい」
この選択は2輪車メーカーにとって、悩みどころになりそうです。例えばバッテリー容量の少ない原付バイクなら、交換式でも簡単に人力で運べますが、容量が5kWhくらいになると持ち運ぶには大きすぎます。また、バッテリー交換式は確かに便利ですが、交換ステーションの整備に労力を要します。
現在、日本の2輪車メーカーは、コンソーシアムを組んでバッテリー交換式にする場合の規格作りを進めています。最近では、ENEOSホールディングスと2輪車メーカー4社が共同出資をし、新会社『ガチャコ』を設立してバッテリー交換サービス(バッテリーのシェアリングサービス)を進める動きもあります。
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他方で固定式バッテリーは、2輪車だと搭載できる容量が限定的で、1充電の後続距離は100km~150kmがいいところでしょう。充電時間は短くても、充電回数は増えます。どちらの方法でも課題はあり、悩ましいところです。最後は、電動バイクの使い方、大きさによって、作る側がエイヤ! で決めるしかないかも知れません。
なんにしても、パッケージを考えると2輪車のEV化は4輪車より難しいのは確かです。それでも電動化に取り組むのは、「4輪(の規制)が厳しくなってきているのに2輪だけ緩やかなままという話はない」からだと、丸尾主査は言います。
「パリなどのように都市として規制を厳しくしたり、今後の規制実施までの期限がタイトな地域もあり、これを4輪車だけの話と気軽に見ることは難しいと思っている」
ということで、今後はバイクでも電動化は進みそうです。そういえばハーレーダビッドソンが別ブランドを立ち上げた話もあります。ドカティとかモト・グッツィとかもEV化したりするのでしょうか。ちょっと楽しみです。新しい乗り物は、ぜひ体験してみたいものです。まあ都心に住んでいる限りは、所有ではなくレンタルでいいのですが。
(取材・文/木野 龍逸)
絶対にEVバイクを乗りたい❣️
宜しくお願いします。