ヤマト運輸と日野自動車が電気トラック『デュトロ Z EV』による実証実験開始を発表

ヤマト運輸と日野自動車が、小型BEVトラック『日野デュトロ Z EV』を用いた実証実験の開始を発表。日野自動車本社でメディア向け撮影会が開催されたので参加してきました。ゼロカーボン社会実現に向けて応援しつつ、ちょっと焦燥を感じる発表でした。

ヤマト運輸と日野自動車が電気トラック『デュトロ Z EV』による実証実験開始を発表

実証実験は2022年5月末までの約半年間

2021年11月22日、ヤマト運輸株式会社と日野自動車株式会社が、11月24日から日野自動車が開発して2022年初夏の発売を予定している、超低床・ウォークスルーの小型BEV(Battery Electric Vehicle)トラック『日野デュトロ Z EV』による集配業務の実証実験を開始することを発表。東京・日野市内にある日野自動車本社でメディア向けの撮影会を実施しました。

『日野デュトロ Z EV』については、中国・BYDからのOEMで発売された小型電気バス『日野ポンチョ Z EV』を紹介する今年6月の記事中でも紹介しています。

実証実験の期間は、2021年11月24日~22年5月末までの約6ヶ月間。東京都日野市のヤマト運輸日野日野台センターと、埼玉県狭山市のヤマト運輸狭山中央センターに各1台の『日野デュトロ Z EV』を導入し、「温室効果ガス排出量削減効果や、集配業務における効率性・作業負荷低減の効果」などを確認するということです。

実際に見ると、使いやすそうなトラックでした

発表された『日野デュトロ Z EV』のスペックは以下の通り。4月に発表されたスペックと同じです。

『日野デュトロ Z EV』スペック
全長×全幅×全高約4.7×1.7×2.3 m
床面地上高約400 mm
車両総重量3.5t未満
乗員2人
モーター種類永久磁石式同期モーター
最高出力50kW
バッテリー種類リチウムイオンバッテリー
容量40kWh
充電方法普通充電
急速充電(CHAdeMO方式)
主な安全装備PCS※(プリクラッシュセーフティシステム)
誤発進抑制装置(前進&後退)
電動パーキングブレーキ
電子インナーミラー
車線逸脱警報
※ "PCS"はトヨタ自動車(株)の商標です。

充電口は、普通・急速ともに前面のロゴ下にあるパネルを専用のキーで開けるスタイルです。普通充電は最大3kW、急速充電はチャデモ1.0規格の最大50kW対応ということでした。バッテリー容量が40kWhと控えめなので、使い勝手として十分な対応出力だと思います。

一充電航続距離はスペックとして明示はされていませんが、おおむね100km程度とのこと。単純計算で2.5km/kWhの電費です。日産リーフX(40kWh)のEPA航続距離は243km=約6.1km/kWhなので、車両総重量が倍ちょっとで、電費は半分以下になってしまうようで、このあたりは商用車EVの大きな課題といえそうです。

最大積載量もスペックにはありませんが「1トン程度」。ヤマト運輸では「1日に80〜100個程度の荷物を配達するラストワンマイル用車両」として活用することを想定しているということでした。

EVであることはさておき、この車両の最大の特徴は、普通免許で運転が可能な小型トラックであること。そして、運転席から荷室にウォークスルーで移動できて、荷室路面の段差が約40cmの超低床構造で、ドライバーの作業がしやすいことです。撮影会ではヤマト運輸社員の女性(配送する部署ではないそうです)がモデル役で実演してくれました。私自身宅配便の集配はやったことないですし、ほかにどんなトラックが使われているのか詳しくないので明解な評価はできないですが、なるほど、使いやすそうなトラックだと感じました。

説明でも「現場の使いやすさ」を強調

撮影会の会場では、ヤマト運輸 グリーンイノベーション開発部の小澤直人モビリティ課長、また『日野デュトロ Z EV』チーフエンジニアの東野和幸氏による説明がありました。

ヤマト運輸の小澤氏(左)と、日野自動車の東野氏(右)。

ヤマト運輸としては、経営構造改革プラン「YAMATO NEXT100」(2020年1月発表)の長期目標として「2050年CO2排出実質ゼロ」を掲げており、BEV導入など環境に配慮した取組を持続可能としていくためにも「働くドライバーにとって実用性の高い車両でなければならない」という点を重視して6カ月間の実証実験を行うとのこと。

日野自動車としては、商用BEVへの強い要望に応えて、物流のラストワンマイルの現場における声を聞きながら、さまざまな課題を解決するために企画・開発を行ったこと。BEVの市販モデルとして早期立ち上げを目指した車両であることが説明されました。

ヤマト運輸では、2019年3月にドイツDHLグループ傘下のストリートスクーター社と共同開発した小型商用EVトラックを導入。2030年までに5000台の導入を計画していたものの、初年度分の500台が導入された時点でストリートスクーター社が生産中止を決めて頓挫しているニュースが報じられたところです。

とはいえ、ヤマト運輸のゼロカーボン車両への取組はそれだけではありません。2017年には世界初の量産電気小型トラックとして発売された三菱ふそうの『eCanter』を導入。さらに2020年4月には、中型商用EVトラックの本格導入に向けて、いすゞ自動車が開発した『エルフEVウォークスルーバン』1台を神奈川県藤沢市のセンターに導入してモニター稼働を実施するなど、幅広くBEV導入へのチャレンジを続けてきています。

シンプルで使いやすそうなメーター表示。平均電費(1.9km!)が表示されている中央部は切り替え可能とのこと。バッテリーSOCも表示されています。

いつまで「実証実験」が繰り返されるのか

バッテリーは荷室床下に搭載。まだ余裕があるのでは? と東野氏に確認しましたが「さほど余裕はない」とのこと。液冷の温度マネージメントシステムを搭載しているそうです。

撮影会での質疑応答で、ヤマト運輸の小澤課長に「今回の取組はヤマト運輸で採用する車両を絞り込むためのものなのか?」と質問してみましたが、今のところ「まずはドライバーにとって実用性が高い車両であるかを検証するため」の実証実験であるというお答えでした。

今回の発表は、ゼロカーボン社会実現に向けたEV普及への取組として評価し、応援していることは前提とした上で。電気自動車関連の取材を続けていて少々辟易としているのが、あちこちで「実証実験」ばかりが繰り返されて、社会への実装がなかなか前進しないことです。

車両の信頼性に難があったと伝えられ、そもそも生産が中止してしまったストリートスクーター社のEVは論外として、実績や信頼性十分な日野自動車が開発した『日野デュトロ Z EV』には、さらに一歩先にある車両価格や航続距離、充電設備などを含めた実用性を語って欲しい、と感じるのです。

今回、車両価格は発表されず、「ディーゼルよりは高い」としか教えてもらえませんでした。バッテリー調達先なども非公表とのこと。4WDモデルの予定も質問してみましたが「今回はBEVの早期立ち上げが目標であり、4WD化などは将来的に」(東野氏)ということでした。

日野が提携しているBYDをはじめ、世界で台頭する中国メーカーと価格勝負をしていくためには、バッテリー調達、もしくは生産の合理化は不可避な課題。ユーザーとなる物流業者のニーズに応えるためにも、「さすが日野!」と思えるバッテリー調達の計画や、より幅広い車両のバリエーション開発の知らせを、すぐにでも聞きたい気持ちになるのです。

EV導入に積極的なヤマト運輸といえども、今回導入するセンターには「新たに充電設備を設置する」(小澤氏)ということで、商用車へのEV普及はまだまだこれからスタートというのが実状です。もっとも、今回の実証実験は「2030年までに5000台のEV導入」を表明しているヤマト運輸への、日野自動車からのお試しモニターサービス的な側面があるのかも知れないですが。多くの物流業者さんにとって最も気になるはずの「で、1台いくら?」がわからないのはじれったい思いです。

先日、三菱ふそうが『eCanter』の販売台数が300台に達したことを発表し「サステナブル・モビリティ・フォーラム」を開催したり、いすゞのEVトラック量産開始が日経新聞で報じられたり。11月22日には、小型商用電気自動車ベンチャーのHWエレクトロが軽トラEV『ELEMO-K』の受注を開始するなど、最近、電気商用車の話題がさかんに飛び交っています。

私の拠点である世田谷区三軒茶屋あたりでは、郵便局の集配車はほとんどミニキャブMiEVしか見かけなくなったし、郵便配達のバイクはホンダの『BENLY e:』ばかりになってきました。わざわざ出してる電子音が「うるさいな」と感じるほど、静粛で走りもスムーズそうな電動車文化の拡がりを実感しています。

ニッポンも世界に誇れる電動車社会となるために。日野自動車をはじめとする商用車メーカーには、世界で勝負できる価格のバリエーション豊富な電気商用車ラインナップを、一日も早く世に出して欲しいと願います。

(取材・文/寄本 好則)

この記事のコメント(新着順)2件

  1. 軽貨物さんも書かれているように「トヨタ クイックデリバリー」の後継車両と見るべきでしょうね。
    https://bestcarweb.jp/feature/column/311377

    個人的に気になる点は3点。
    1点目:スリーサイズ「全長×全幅×全高 約4.7×1.7×2.3 m」のうち全高部分。
    キャビンのハイルーフ部分を削って「全長×全幅×全高 4.7×1.7×2.0 m」の4ナンバー小型貨物車にならないか?と思います。
    4ナンバーになれば、高速料金も乗用車と同じになりますし。(現状だと1ナンバーの中型車料金)
    個人使用のキャンピングカーベースには最適になりそう。
    法人使用でも、駆動用電池を荷室内でも使えるようにして移動オフィス、移動ATM(移動銀行)など様々な用途に活用できそう。

    2点目:軽貨物さんもご指摘の「チャデモ1.0規格」
    最大受入電流125A以上に制限される以上にCHAdeMO協議会で言う「ダイナミックコントロール機能」に未対応なこと。
    新電元では、パワーシェアと呼んでいます。

    新電元CHAdeMO充電設備 パワーシェア
    https://www.shindengen.co.jp/products/eco_energy/ev_quick/sdqc2f/

    これが機能しないと2口で2台同時充電中に片方の充電電流に余裕が出来ても、もう一方の充電電流が増えていかないので。

    3点目:寄本さんもお書きですが、「いつまで「実証実験」が繰り返されるのか」
    これまでの実証実験と何が違うの?と思ってしまいます。

  2. 元々ウォークスルーバンだったのですからね。
    エライ遠回りをしたものです。
    航続距離が300kmぐらいにまで伸ばせたらキャンピングカーにいいですねぇ。

    しかしながら
    今さらチャデモ1.0規格準拠というのは将来的なことも考えるとどうなのかな?
    と思いました。

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					寄本 好則

寄本 好則

兵庫県但馬地方出身。旅雑誌などを経て『週刊SPA!』や『日経エンタテインメント!』の連載などライターとして活動しつつ編集プロダクションを主宰。近年はウェブメディアを中心に電気自動車と環境&社会課題を中心とした取材と情報発信を展開している。剣道四段。著書に『電気自動車で幸せになる』『EV時代の夜明け』(Kindle)『旬紀行―「とびきり」を味わうためだけの旅』(扶桑社)などがある。日本EVクラブのメンバーとして、2013年にはEVスーパーセブンで日本一周急速充電の旅を達成した。

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