横須賀市と逗子市で公用車のEVカーシェアがスタート/電気自動車活用の新しいカタチ

2023年2月、神奈川県横須賀市と逗子市で公用車を使った「EVカーシェア」がスタート。両市で13日に行われた開始式を取材してきた。導入したEVは平日は公用車として業務に使用して、週末や祝日(閉庁日)に一般に貸し出して使ってもらうという取り組みだ。13日から職員が使い始めていて、一般利用は週末の18日からスタートする。

横須賀市と逗子市で公用車のEVカーシェアがスタート/電気自動車活用の新しいカタチ

両市とも、代表事業者はコスモ石油マーケティング株式会社。公用車のEVシェアリングは今回が第一号になるそうだが、EVのカーシェアリングサービスは以前から手がけてきた(関連記事)。車両のリースや点検整備などを担うのは、コスモ石油の特約店として神奈川県でサービスステーションを展開する株式会社富士オイル。予約管理システムは、EVカーシェア事業をサポートする株式会社REXEV(レクシヴ)が担当している。

横須賀市はリーフとサクラの2台体制

横須賀市でのテープカット。左から森山幸二さん、田中茂さん、森洋さん。

まずは13日午前中に行われた「横須賀市EVカーシェア」のデモンストレーションの様子を。市役所本館わきに設けられた専用スペースに並ぶのは、公用車として導入された日産リーフ(40kWh)と日産サクラ(20kWh)各1台。それぞれに専用の充電器(3kW)が設置されていて、職員は使ったら同じ場所に戻すことになっている。2台の駐車スペースが、閉庁日にはそのままカーシェアの発着場所となる。

借りたい人は、横須賀市EVカーシェア公式サイトで会員登録をした上で、予約アプリ「みんなのカーシェア」をダウンロードして利用する。車の近くでアプリを操作すると、リモートでロックが解除される(通信によるタイムラグがけっこうあるので、あわてずに)。解錠されたら助手席前方のグローブボックスに収められた車のキーを取り出し、車につながれている充電用コードを取り外す。あとは普通に乗り込んでドライブへ。

返却時は逆の手順。駐車したら充電コードをつないで、グローブボックスにキーを戻す(差し込み式になっている)。車外で予約アプリを操作すると、リモートで施錠されて返却完了。「あっ、忘れ物!」という事態も想定して、返却後30分以内は、もう一度だけドアを開けられるようにしている。

返却の際には、充電コードを繋ぎ充電状態すること、グローブボックスにキーを返却することにより、アプリでの返却手続きが完了できる仕組みとなっている。これは、次に利用する方のため、充電の差し忘れや、キーの持ち帰りを防止するためである。充電コードの取り扱いや充電口の開閉など、EVに不慣れな人は戸惑うこともありそうだが、アプリや車載の説明書でもわからなければ、24時間対応のフリーダイヤルで問い合わせもできる。いろいろと優しい仕様だ。

利用開始や終了時はアプリで操作。

利用料金は15分200円。初期費用や月額料金は不要で、距離による加算もない。一般的なカーシェアリングと比較してもリーズナブルな方だろう。ちょっと気になったのは、充電残量のことだ。他の記者からも質問が出ていたが、設置された充電器は3kW。別の人が返した直後など航続可能距離が短くなっているケースも考えられる。無料で使える充電カードが車載されていて、いざとなれば公共の急速充電器でチャージできるとはいえ、せっかく借りている時間を充電に費やすのはもったいない。

そこで、車の充電残量と走行可能距離をアプリでリアルタイムに確認できるようにしている。予約するときに、利用する時間にバッテリーがどれぐらい充電されている(見込み)かが表示される。リーフは減っちゃっているからサクラで、といった選択も可能だし、残量によっては利用時間を変えるなどすれば、電欠のリスクを回避できる。

車両ごとに充電量と走行可能距離を確かめることができる。

デモンストレーションに先立って庁舎内で行われた開始式では、コスモ石油マーケティング代表取締役社長の森山幸二さん、同市副市長の田中茂さん、富士オイル代表取締役会長の森洋さんの3人がそれぞれ挨拶したあと、テープカットが行われた。

森山さんは「カーボンニュートラル実現への第一歩となる両市の取り組みに、心より敬意を表します」とあいさつ。石油製品を中心にしたエネルギー供給を担ってきたコスモ石油マーケティングが「時代に合った使命の果たし方」を模索して、再エネやEVをパッケージする商品「コスモ・ゼロカボソリューション」の販売に取り組んでいることなどを説明した。

横須賀市は2021年に「ゼロカーボンシティ宣言」を行った。国の指針に沿って2050年までに二酸化炭素排出量「実質ゼロ」の実現を目指していて、アクションプランでは次世代自動車の導入促進も掲げている。ちなみに同市庁舎はごみ処理施設「エコミル」で発電した電気を使っている。廃棄物を燃やしているため「ゼロカーボン」とみなされる電気がEVカーシェアにも使われる。田中副市長は「EVの良さを実感する機会になることを期待している」と話していた。

市の担当者によると、EVカーシェアの拠点である市役所があるのは市街地の中心部。近年はマンションも増えていて、車を持たない市民も少なくないそうだ。どう使われるかは未知数ながら、地域モビリティとして買い物や送迎用などに活用してもらえることを期待しているそうだ。

逗子市は観光需要を期待

逗子市での記念撮影。左から森洋さん、桐ケ谷覚さん、森山幸二さん。

引き続き、13日午後に逗子市で開始式が行われることになっていたので、報道陣や関係者はそれぞれ横須賀から約10キロを移動。マイカーのホンダeで行った私も30分程度で到着できると見積もっていたが、うっかりしていて電池残量がギリギリになってしまった。道中にあったセブンイレブン葉山木古庭店(葉山市)の急速充電器へピットイン。EVカーシェアでドライブするみなさん、充電残量にはお気をつけて。

さて、到着した逗子市役所。庁舎の地下にある駐車場に「逗子市EVカーシェア」用のスペースが確保され、ステッカーを貼った日産リーフ(40kWh)が止まっていた。こちらは1台で運用をスタートする。アプリの使い方や料金などは、共通しているので省略します。

逗子市もまた「カーボンニュートラル2050」を宣言していて、二酸化炭素排出実質ゼロを目指した施策を進めている。市庁舎は実質再エネ電力を利用しているので、横須賀市と同様に、EVカーシェアでは実質ゼロカーボンのドライブが可能だ。

この日は、市長の桐ケ谷覚さん自らがPRを担当。司会者の説明に合わせてアプリを操作し、リーフの発着まで実演。さっそうと運転席に乗り込むと、地下駐車場をぐるりと一周。返却するところまで、しっかりお手本を演じていた。

さらに、EVが災害時に電源車として活用できることもアピール。災害対策は横須賀市でも同様にEVを導入する理由のひとつになっているが、逗子市では、どうやって活用するかを実際に見せてくれた。登場したのはEVユーザーにはおなじみニチコンの「パワー・ムーバー」。走行用バッテリーから電気を取り出せる可搬型給電器で、100V/1500Wのコンセントが3口使えるようになる。過去にも災害の被災地で使われてきた実績がある。

パワー・ムーバーを実演する桐ケ谷市長。

「パワー・ムーバー」には、タコ足配線で携帯電話やパソコンなどがぞろぞろと接続されていた。被災直後の避難所などで想定されている光景だ。市長がスイッチを入れると、リーフから取り出された電気が通って、携帯電話やパソコンの画面がパッと明るくなる。そのうちに電熱ポットからは湯気も。

桐ケ谷市長にEVの魅力を聞いてみた。「音もなく走るEVには、これが自動車!?という驚きがある。加速も良くて(エンジン車とは)違った楽しみ方ができる。加えて、災害時の電源として助けになるのも大きい。カーシェアがEVの利点を知るきっかけになるといいと思っています」とのこと。

同市の担当者は、EVカーシェアをまずは市民に周知したいと考えているが、いずれは観光客の利用にも期待しているという。市役所は京急逗子駅前にあって、JR逗子駅も近い。電車で逗子を訪ねて、EVを借りて海岸をドライブしたりするのはたしかに楽しいかも。鎌倉や江ノ島まで足を伸ばしてもいいし、満充電のリーフなら三浦半島一周も楽々だ。

コスモ石油マーケティングは、公用車のEV化やカーシェア利用について、今後も各地の自治体との連携を進めていくそうだ。まだ事例は限られているが、そのうちに公用車の「EVカーシェア」は常識になるのかもしれない。

取材・文/篠原 知存

【編集部注】
地方自治体の公用車EVをカーシェア活用することについては、今年度、環境省の「再エネ×電動車の同時導入による脱炭素型カーシェア・防災拠点化促進事業」補助金制度が実施されていました。でも、今回の横須賀市や逗子市では「再生可能エネルギー発電設備との同時導入」といった条件に合致せず、この補助金は活用していないということでした(経済産業省のCEV補助金は利用しています)。

公用車をEVにして休日はカーシェア活用するなど自治体によるEVカーシェアリングの取り組みは、平成25年(2013年)に鳥取県がいち早く開始したのをはじめ、現在では、群馬県、愛媛県、沖縄県などの都道府県庁や、兵庫県尼崎市、大阪府堺市、山口県宇部市、福岡県北九州市、東京都板橋区など全国各地の市区町村などで実施されています。補助金の存在はさておき、広く日本各地に拡がる可能性や意義がある試みだと感じます。

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この記事の著者


					篠原 知存

篠原 知存

関西出身。ローカル夕刊紙、全国紙の記者を経て、令和元年からフリーに。EV歴/Honda e(2021.4〜)。電動バイク歴/SUPER SOCO TS STREET HUNTER(2022.3〜12)、Honda EM1 e:(2023.9〜)。

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