ホンダの商用軽EV『N-VAN e:』をチェック〜次期『N-ONE』EVへの妄想が膨らんだ!

「JAPAN MOBILITY SHOW(ジャパンモビリティショー)2023」に、いろいろ気になるホンダの商用軽電気自動車『N-VAN e:(エヌバン イー)』が展示されました。量産ガソリン車ベースですが、どこが変わっているのか。開発担当者への取材を交えてお伝えします。

ホンダの商用軽EV『N-VAN e:』をチェック〜次期『N-ONE』EVへの妄想が膨らんだ!

当たり前ですが外見は普通の軽商用バン

ホンダ『N-VAN e:』は、EVsmartブログでもすでにお伝え(関連記事)している通り、量産のガソリン車をベースにした電気自動車(EV)です。価格は100万円台、一充電での航続距離は210kmを目標に、来年(2024年)春の発売を目指しています。

そんな『N-VAN e:』の、開発中の実車が「JAPAN MOBILITY SHOW(ジャパンモビリティショー)2023」に展示されたので、見に行ってみました。プレスデーには説明員として開発担当者の方もいたので、少しお話を聞くこともできました。

まず見た目ですが、当たり前ですけども、何の変哲もない「軽商用バン」です。ガソリン車ベースなので当然です。でも見方を変えると、そのくらいうまくバッテリーを床下に収めているということでもあります。

床下にバッテリー搭載するためフロア部分はほぼ作り直し

そんなことを考えながら車を見ていると、『N-VAN e:』の近くに開発を担った説明員の方がいました。突っ込んで話を聞いてみると、いろいろなことがわかったのでした。ざっくりと解説していきます。

ボディは、ほぼ『N-VAN』になっています。わかりやすく違うのはフロントグリルで、『N-VAN e:』はラジエーターの隙間を埋めていることです。また、リサイクル材を積極的に使っているのも特徴です。

バッテリー搭載に関して、説明員の方は「かなり開発メンバーが頑張った」と強調していました。もともと『N-VAN』はセンタータンクだったのでスペースがまったくないわけではないのですが、それでは足りないので、ボディ下部のフロアはほとんど作り直したそうです。

どの辺を作り直したのかというと、ざっくり、前輪の後ろから後輪の前のフロア部分です。足回りは『N-VAN』と共用にしてコストを抑えています。

そんな努力の結果、車高はガソリン車の『N-VAN』四輪駆動モデルと変わっていなくて、室内空間も同じ広さを確保できたのだそうです。

何がほんとうに必要なのかを見極めていった内装

内装ではインパネは『N-VAN e:』専用になっています。ガソリン車ではシフトレバーがありますが、『N-VAN e:』はスイッチで切り替えます。メーター周りもシンプルになっています。

ドアトリムもフラットな形状になっていて、小物入れやドリンクホルダーなどは付いていません。このあたりは、取り付けられる用品を準備しているそうです。

解説員の方によれば、量産車ではいろいろと付けすぎた部分があったが、今回、お客さんにとって使い勝手がいいのはどんなものなのかを見極めていった結果、簡素化する方向になったと言います。

最後は好みの問題ですが、そもそも商用軽バンでもあり、個人的にはこういうシンプルさは好感度高いです。

電費の違いは車高の高さとタイヤの違いが原因

ところで『N-VAN e:』は、一充電での航続距離200km以上を開発目標としたという話がよく出てきます。

200kmというのは日常の使い方をする中でちょっと安心できる最低限の距離という印象を持っているのですが、『N-VAN e:』の仕様決定にあたっては「夏場のエアコン、冬場の暖房、都市部のようにストップアンドゴーが多いのか、郊外ならどのくらいの距離を走るのかなどを見極めていったら」、210kmになったそうです。

さてここからが大事な所です。筆者は以前の記事で『N-VAN e:』のバッテリー搭載量について、日産『サクラ』の電費をベースに、25kWh~30kWhくらいではないかと予想しました。『サクラ』は1kWhあたり10kmくらいの電費を出すことができるので、『N-VAN e:』が210kmなら少し余裕を見て25kWhくらいなのかなあと考えたのでした。

それでも『サクラ』よりだいぶ電費が落ちます。このことについては解説員の方も、いろいろな人から「なぜ電費が悪いのか」という質問を受けたそうです。

今回、明確な理由がわかりました。もっとも大きな要因は「前面投影面積」だそうです。簡単に言うと、『N-VAN e:』は車高が高いのです。

車高は、『サクラ』1655mmに対して、『N-VAN e:』はFWDモデルで1945mmあります。約30cmも高くなっています。

このため前から見た面積は単純計算で、『サクラ』が2.44m2、『N-VAN e:』が2.86m2と、約16%ほど『N-VAN e:』の方が面積が広くなっています。細かい計算をするとボロが出るのでやめておきますが、ざっくりと、空気抵抗は速度、および前面投影面積の2乗に比例して大きくなっていくので、16%の違いはかなり響くはずです。

加えて、WLTCでは時速100kmの高速域があるので、前面投影面積の影響はさらに大きくなります。

仮にWLTCの測定の中で30%程度の電費の違いが出るとしたら、『N-VAN e:』で210kmの航続距離を確保するためには約30kWhのバッテリーが必要になります。なお最近のEVは、車体の大きさなどを考慮しない基本的なシステムの電費は、車による差はあまりないと、解説員の方は言っていました。

この他、『N-VAN e:』のタイヤは普通の軽商用バンと同じだそうです。『サクラ』は低転がりのエコタイヤを装着しています。

そんなこんなで、『N-VAN e:』は『サクラ』に比べるとだいぶ電費の条件が厳しいのは間違いなく、前述したように航続距離から推測すると、バッテリー容量は30kWhくらいになりそうです。

次の『N-ONE』EVに期待が膨らむ

ここまできて、「お」と思ったのは、もし30kWhのバッテリーを積んでいるとしたら、200万円という価格は「かなり」というか「ものすごく」お得なのではないかということです。EVsmartブログ的にバッテリーコストを計算してみると、1kWhあたり約6.7万円になります。

SUVタイプで1kWhあたり10万円を切れば安い方だと思うのですが、7万円を切るのは相当なものです。ヒョンデの『KONA(コナ)』のロングレンジ版「Voyage」がぎりぎり7万円弱なので、ちょっと勝っています。もちろん装備が違うのですが。

そしてもうひとつ、楽しみになってきたのが、2025年に発売する計画が発表されている『N-ONE』ベースのEVです。

ホンダは2023年4月26日に発表した「電動化を含む企業変革に向けた取り組みについて」の中で、「日本では2025年に「N-ONE」ベースのEV、2026年にはSUVタイプを含む小型EV2車種を発売」することを発表しました。

そして解説員氏は、「今回商用から始めたのは、商用の使われ方が厳しいから。eアクスルも、たくさん荷物を積む商用の方が厳しい。だから、商用ができれば、乗用への展開は比較的容易」と話していました。

つまり今回の軽商用バンは、『N-ONE』に向けた布石になるようです。

だとすると、もし『N-ONE』にも30kWhのバッテリーを搭載した場合、電費はサクラ以上に良くなりそうです。なにしろ『N-ONE』は、4WDでも車高が1570mmしかありません。

机上の空論ですが、電費がサクラより10%くらい良くなるとすると、航続距離は最長で330kmくらいいくかもしれません。

ここまでいけば、バッテリー容量を減らして車両価格を下げるという選択肢もあります。装備を削っていけば、今の材料高でも今度こそ200万円を切ることができるかもしれません。東京都なら100万円ちょっとになるかもしれません。

話半分としても、お買い得になるのは間違いないと思います。願望ですが。

などと、『N-VAN e:』の詳細を知ったために今後の妄想が膨らむ一方になってしまった深秋の夜なのであります。みなさんも、JMSで『N-VAN e:』を見て妄想を膨らませてみませんか?

取材・文/木野 龍逸

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					木野 龍逸

木野 龍逸

編集プロダクション、オーストラリアの邦人向けフリーペーパー編集部などを経て独立。1990年代半ばから自動車に関する環境、エネルギー問題を中心に取材し、カーグラフィックや日経トレンディ他に寄稿。技術的、文化的、経済的、環境的側面から自動車社会を俯瞰してきた。福島の原発事故発生以後は、事故収束作業や避難者の状況のほか、社会問題全般を取材。Yahoo!ニュースやスローニュースなどに記事を寄稿中。原発事故については廃棄物問題、自治体や避難者、福島第一原発の現状などについてニコニコチャンネルなどでメルマガを配信。著作に、プリウスの開発経緯をルポした「ハイブリッド」(文春新書)の他、「検証 福島原発事故・記者会見3~欺瞞の連鎖」(岩波書店)など。

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