補助金込み約334万円で買える2代目コナ
渋谷の新名所、ヒカリエホールで行われた『KONA(コナ)』の発表会は、新聞・雑誌、テレビ、WEBなど数多くのメディア関係者が集まり、予想通りに盛況でした。
日本に導入されたコナはフルモデルチェンジされた2代目です。先代も今回の新型も、電気自動車(EV)のほかにガソリンエンジン、ハイブリッドがラインナップされていますが、日本に導入するのはEVのみです。従って、海外市場ではEVモデルを『KONA Electric』と呼んでいますが、ZEVのみで展開している日本では『KONA』だけになっています。
趙源祥(チョ・ウォンサン)Hyundai Mobility Japan 代表取締役兼CEOによれば、これまでにコナはグローバルで23万台を販売していて、11月からは北米とヨーロッパでも2代目を導入します。
日本では9月27日から先行予約を受け付けていました(関連記事)。正式な販売開始は11月1日からになります。
EVsmartブログでは、発表に先立って韓国で行われた試乗会の様子をお伝えしていますが、日本での販売価格や装備の詳細は明らかになっていませんでした。とにかく気になるのは価格で、400万円くらいからかなあと予想していたのですが、ほぼ当たりという感じです。
KONAのグレード別価格と概要
車両価格/バッテリー容量/航続可能距離
・Casual 399万3000円 48.6kWh/456km
・Voyage 452万1000円 64.8kWh/625km
・Lounge 489万5000円 64.8kWh/541km
・Two-tone 489万5000円 64.8kWh/541km
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PHPなので補助金上限が65万円に
399万3000円なら、国の補助金(65万円)を使って334万3000円。自治体によってはさらに補助があるので、東京都(個人の場合、補助額は45万円)のように実質300万円を切る地域もあります。
コナは給電機能を標準装備しています。本来なら補助金の上限は85万円ですが、コナは型式認定を取るのではなく、輸入自動車特別取扱制度(PHP)を利用しているので、CEV補助金で上限額の85万円になる条件を満たしていません。
補助金は65万円になりますが、PHPの上限は5000台なので、メーカーにとってはよほどまとまった数が見込めないかぎり数千万単位のコストがかかる型式認定を取得するメリットはないと言えます。
一方、型式認定のコストは販売価格に反映されるので、PHPにしている分、価格を下げることができていると考えられます。
なお販売はすべてオンラインです。ヒョンデはリアル店舗も増やしていますが、そこで実車を見た後に購入するのは、やはりインターネット経由になります。
同時に全国でヒョンデの車に触れてもらう機会を増やしていく方針です。そのためツタヤを運営するカルチュア・コンビニエンス・クラブと協業し、車の展示やカーシェアサービス『MOCEAN』を拡大していく方針です。
こうした対策により Hyundai Mobility Japan は、日本でのEV市場の5%を確保することを狙っています。なお現状(2023年4月~9月)では0.09%なので、まだ道は険しそうです。
航続距離はグレードにかかわらず十分
コナのグレードは4種類で、装備やバッテリー容量、航続可能距離に違いがあります。ざっと紹介していきましょう。
まず1充電での航続可能距離は、もっともリーズナブルなCasualでもWLTCで456kmあります。実用で2割減と仮定しても360kmは行けそうです。400万円を切る価格でこれだけのバッテリー容量があると、かなり嬉しくなります。
航続可能距離が長いのはVoyageで、なんと625kmです。電費は9.64km/kWhにもなります。コナはCd値が0.27と低いことをうたっていますが、それにしてもビックリの数字です。
趙CEOは発表会の壇上で、EVに慣れ親しんだ人もそうでない人も、「高い実用性を持ち、日常の相棒となるコナにぜひ注目してほしい」と自信を見せていましたが、確かに安心できる航続可能距離だと思います。
航続可能距離の違いはタイヤの違い
Voyageと同じバッテリー容量でも、上級グレードのLoungeとLounge Two-toneは航続可能距離が15%ほど短くなっています。これはタイヤサイズや車重の影響だと、ヒョンデの担当者から説明を受けました。
タイヤサイズは、Loungeが17インチ(215/60 R17)で、上級グレードの2つは19インチ(235/45 R19)です。また車重はVoyageが1730kg、Loungeが1790kg、Two-toneが1770kgです。車重は3グレードがそれぞれ違う一方で、航続可能距離は上位グレード2つが同じなので、もしかしたら車重よりもタイヤサイズの影響が大きいのかもしれません。
なお会場の『コナ』の19インチタイヤは、韓国KUMHOの『ECSTA PS71』が装着されていました。KUMHO公式サイトを見ると、このタイヤは普通のSUV用のようです。
17インチタイヤの種類は確認できていませんが、ひょっとするとEV用か、燃費を重視したエコタイヤかもしれません。だとすると、電費の違いは納得できます。
充電は最大で約80kWに対応
コナの急速充電性能は、受入可能出力が最大約80kW程度、最大電流値は230Aとのことです。カタログ上のシステム電圧は、バッテリー容量が少ないCasualが269V、他の3グレードは358Vなので、単純にかけ算をするとCasual=61.9kW、他の3グレード=82.3kW程度になります。
でも現状の日本の90kW器は最大200Aなので、そこまでの電力は出ません。推測ですが、90kWで充電した場合、実際にはCasual=53.8kW、他の3グレードは71.6kWになるのかもしれません。
これに対して、浜松SAなどに新設された150kW器は最大350Aが流れるので、コナが230Aで受け入れられるのかなどについて試乗の機会があれば確認してみたいと思います。
充電性能は、最大受入可能電流もそうですが、どれだけ長い時間、大きな電流を受け入れできるかが大事なポイントです(ここは急速充電器の性能や仕様にも依存します)。
コナの場合、暑い夏、寒い冬のいずれでもバッテリー温度を最適化して急速充電性能を確保し、90kW級の急速充電器を使うと10%から80%まで45分で充電できるそうです。これも単純計算ですが、60.5kWでの充電を続けられる性能であると理解できます。
ただ日本の高出力急速充電設備は「ブーストモード」という仕様になっていて、90kWを継続して流せるのは15分だけ、という機種が多いのが難点です。とくにダイナミックコントロールを採用している設備は複数台が同時に充電すると出力が落ちてしまうため、せっかくのEVの充電性能を生かせない可能性があります。
新しい設備も増えていますが、今後はぜひ高出力を維持できるタイプを増やしていってほしいと思うのです。
KONA スペック表
グレード | Casual | Voyage | Lounge | Lounge Two-tone |
---|---|---|---|---|
全長×全幅×全高(mm) | 4355×1825×1590 | ← | ← | ← |
ホイールベース(mm) | 2660 | ← | ← | ← |
トレッド 前/後(mm) | 1590/1600 | ← | ← | ← |
車両重量(kg) | 1650 | 1730 | 1790 | 1770 |
定員 | 5 | ← | ← | ← |
最高出力 | 99kW/3800-9000rpm | 150kW/5800-9000rpm | ← | ← |
最大トルク | 255Nm/0-3600rpm | 255Nm/0-5600rpm | ← | ← |
バッテリー | リチウムイオン | ← | ← | ← |
総電圧 | 269V | 358V | ← | ← |
総電力量 | 48.6kWh | 64.8kWh | ← | ← |
1充電航続可能距離(WLTC※) | 456km | 625km | 541km | 541km |
急速充電受入可能出力 | 60〜80kW程度(最大230A) | ← | ← | ← |
駆動方式 | FF | ← | ← | ← |
タイヤサイズ | 215/60 R17 | ← | 235/45 R19 | ← |
ブレーキ 前/後 | ディスク/ディスク | ← | ← | ← |
最小回転半径 | 5.4m | ← | ← | ← |
価格 | 399万3000円 | 452万1000円 | 489万5000円 | 489万5000円 |
※ 輸入自動車特別取扱制度(PHP)を使った輸入のため、テュフラインランド社が試験を実施、オランダのRDWが承認した⾃社測定値 |
回生ブレーキのパドルコントロールは標準装備
その他の装備のポイントは、回生ブレーキをパドルでコントロールできる機能を標準装備していることです。ヒョンデは『IONIQ 5』でもパドルコントロールを採用しています。
パドルコントロールは操作に慣れると、高速道路でも一般道でも、電費を落とさずとても気持ちよく走ることができるので、個人的には◎です。強さはコースティング~「3」までの4段階です。いちばん強い「3」にするとワンペダルで停止できます。
走行モードは、エコ、ノーマル、スポーツ、スノーの4種類です。各走行モードでのアクセル開度に応じた出力特性などは、日本の道路事情に合うように調整しているそうです。
自動運転関連では、LoungeとTwo-toneには自動運転時に前の車両との車間距離を維持したり、ウインカーレバーを操作すると自動で車線変更するHDA2を搭載しています。
この他、LoungeとTwo-toneは、ヘッドアップディスプレイ、カーナビに連動したAR(拡張現実)による道案内表示、後席シートヒーター、スマホやスマートウォッチでもドアのロックや始動ができるデジタルキーなどを装備しています。
これらの機能を省いてタイヤを17インチにし、価格を抑えたのがCasualとVoyageになります。
ボディカラーは、モノトーン6色、2トーン2色の8種類、内装は本革、合成皮革を組み合わせた3色と、豊富なバリエーションが用意されています。
こうした装備のほか、新車登録から5年または10万キロまではヒョンデのロードサイドアシスタンスが無料で利用できるサービスや、最初の3年間の点検や車検などを無償提供するプログラムも利用できます。
数にこだわるよりまずは経験してもらうことを狙った販売戦略
これだけのバリエーションやサービスを揃えるのはコスト的に大変だと思うのですが、ヒョンデでは今、カスタマーエクスペリエンスというチームの中で、ユーザーがインターネットやテレビのコマーシャルで車を見て、購入して、次もヒョンデの車を買おうという購入動機につなげるため、「できることは全部洗い出して考えている」(松本知之・乗用事業室ダイレクター)そうです。
発想の原点は、韓国の食堂や居酒屋などでどんどん出てくるキムチやナムルなどの惣菜、パンチャンです。
パンチャンの種類の多さや無料サービスになぞらえて、揃えられる装備やサービスなどをできるだけ提供することを基本方針にし、「企業によっては台数を増やすために値引きをすることもあるだろうが、我々は値引きはしない。その分(のお金)を他のことに使っていく」(松本さん)と言います。
ところでヒョンデの2023年上期の登録台数は、日本自動車輸入組合の統計によれば138台です。2022年には332台だったので、だいぶ減ってしまっています。
これほど苦しい日本市場に、さらに厳しさを増すようなEVだけを入れているのはなぜなのでしょうか。Hyundai Mobility Japanの趙CEOは、囲み取材の中でこう話しました。
「EVのみ、B2C(オンライン販売)のみというのがHyundai Mobility Japanの戦略。日本の電動化の初期から参戦して一緒に成長していくというビジョンがある。だから日本には他のパワートレインを入れる計画はない」
「販売台数が欲しければ、もう少し時間が経って(日本のEV市場が)跳躍するところでディーラーを揃えて入ればいい。でも今は世界のいろいろなところで大きな波が来ている。そこで自動車業界が今度、どうなるかを我々も研究している。保守的で厳しい日本の自動車業界で、(オンラインの)B2Cのみ、EVのみで顧客体験を高度化するという課題をどう解決するのか、これからいろいろなことを仕掛けていく」
そして、次に仕掛ける具体的な策のひとつとして、来年、『IONIQ 5』の高性能バージョンを日本に導入する予定があると、趙CEOは明らかにしました。時期は、「おそらく第2四半期」になるそうです。
ヒョンデの高性能バージョンと言えば、『N』ラインです。そういえばイギリスのグッドウッド・フェスティバル・オブ・スピードで、『IONIQ 5 N』がお披露目されていました。これはちょっと楽しみです。
世界でも特殊な日本市場にどう参入するかは、全輸入車メーカーにとっての課題です。ヒョンデは再参入からまだ2年。これからどういう展開になるのか、焦らずゆるゆると見ていきたいと思います。
取材・文/木野 龍逸