レクサスがEVのFWDモデル『RZ300e』を発売〜電池急速昇温システムを全モデルに採用

トヨタは2023年11月30日に、レクサスの電気自動車(EV)にFWDモデル『RZ300e』を追加するとともに、『RZ』の全シリーズでバッテリーの温度管理システムを改良して発売しました。極低温下での急速充電時間が最大30%短縮できるとのことです。

レクサスがEVのFWDモデル『RZ300e』を発売〜「電池急速昇温システム」を全モデルに採用

バッテリー昇温で充電時間短縮

レクサスはEV専用のプラットフォーム「e-TNGA」を初めて採用したAWDの『RZ450e』のラインナップに、FWDモデルの『RZ300e』を追加して発売しました。価格はAWDモデルの『RZ450e』が880万円に対して、RZ300eは820万円(ともに税込)です。

同時にいくつかの「一部改良」が発表されました。とくに気になったのが「急速充電速度の向上に寄与する電池急速昇温システム」の部分です。バッテリーの温度管理システムを見直し、極低温時に急速に温めるシステムを採用して急速充電に必要な時間を短縮させたそうです。

急速昇温システムは、10月にトヨタのEV『bZ4x』が一部改良したタイミングで採用したものと同じです。リリースによれば、外気温がマイナス10度の環境で出力90kWの急速充電器を使用した場合、駆動用バッテリーの充電残量警告灯が点灯した状態からSOC80%までの急速充電時間が最大30%程度、短くなります。

出力50kWの急速充電器の場合は、同じくマイナス10度で約20%程度の時間短縮が見込めるようです。外気温25度といった常温環境では、システムの有無で充電時間に差はありません。

レクサス『RZ300e』スペック

レクサスRZ300e
全長×全幅×全高(mm)4805×1895×1635
ホイールベース(mm)2850
トレッド 前/後(mm)1610/1620
車両重量(kg)1990(※)
駆動方式FWD
タイヤサイズ215/55 R18
ブレーキ 前/後ベンチレーテッドディスク/ベンチレーテッドディスク
最小回転半径5.6m
定員5
最高出力(モーター)150kW
最大トルク(モーター)266Nm
バッテリーリチウムイオン
総電圧355.2V
容量201Ah
総電力量71.4kWh
セル数96
一充電走行可能距離(WLTC)599km
交流電力量消費率(WLTC)120Wh/km
急速充電対応出力150kW
価格(税込み)820万円〜
※18インチタイヤ装着時。20インチタイヤでは2000kg

温度管理システムは難しい

トヨタ『bZ4x』やレクサス『RZ』シリーズに採用されているEV専用プラットフォーム「e-TNGA」では、バッテリー底面にクーラントを流して温度を調節しています。クーラントの温度は室内の空調と同じシステムで管理しています。

以前、自動車部品の展示会に出展されていたbZ4xのバッテリー温度管理システムについて、会場にいた担当者に聞いた話では、欲を言えばバッテリー上部にもクーラントを流したいのだが、もし液漏れなどがあった場合にバッテリーにそのままかかってしまうとリスクが大きいので、底面だけにしているとのことでした。

パウチ式や箱形の形状はスペース効率は良いのですが、温度管理のクーラントを流す流路を底面に絞らざるを得ないとしたら、痛し痒しなところがありそうです。一方でテスラのように円筒形のバッテリーを多用した場合、側面から冷却ができる反面、スペースがどうしても増えてしまいます。

あちらを立てればこちらが立たずで、自動車メーカー各社の悩みどころであるのは間違いなく、今後も温度管理システムはEV開発のポイントになると思われます。

充電できる宿泊施設も増えてほしい!(写真はRZ450e)

急速充電能力を推察してみた

ところで、駆動用バッテリーの警告灯がSOC何パーセントで点灯するのかについては、リリースやカタログに明示されていません。これがわからないと、80%までの充電時間が実際にどのくらい短縮されたのか、よくわかりません。

また、この急速昇温システムがどのような状況下で作動するのか、昇温にかかる時間がどのくらいになるのかなどの詳細はトヨタに確認中です。わかり次第、改めてお伝えしたいと思います。

ともあれ、警告灯については、何かヒントがないものかと探すと、RZ300eのカタログに「満充電から駆動用電池充電警告灯が点灯するまでに使用できる電池容量=55kWh」という表記がありました。

RZ300eの総電力量は71.4kWhなので、55kWhは総容量の77%です。

ただ、一般的には駆動用バッテリーの劣化を抑えるため、実際に使用可能な容量には上下に余裕をもたせています。RZではどのくらいの余裕があるのかは明示されていませんが、上下数パーセントずつと仮定すると、駆動用として使用可能な容量は60~65kWh前後になります(bZ4XはNET値で64kWhなので、おそらく同程度と思われます)。

だとすると、消費電力量55kWhで警告灯が点灯するということは、メーター表示のSOCは警告灯点灯時には10~15%くらいと推察できます。

この仮定で、90kW器を使用して10~15%→80%(充電電力量は最大で45.5kWh)にした場合、温度による平均出力はこんな感じになります。

マイナス10度 60分=平均45kW前後
0度 約45分=平均60kW
25度 約40分=平均68kW

時間はいずれも、リリースのグラフの見た目から推定しています。なおRZ300eは最大150kWの急速充電に対応しています。ここではいろいろ想像をしていますが、実際にどのくらい流れるものなのか、いずれ実車でテストしてみたいと思います。

インバーターにSiC素子採用で航続距離延伸

その他の改良点を見ていきます。まず、AWDからFWDにしたことでリアサスペンション周りを新規に開発しています。

駆動方式の変更は軽量化にもつながっていて、AWDのRZ450eと比べて約100kg軽くなっています。それでも車重は2トン近くありますが、バッテリー搭載量が多いので仕方ないですね。

電気系では、駆動用インバーターに電力ロスが少ないSiC素子(シリコンカーバイド)を採用したことで、航続距離が伸びたことが強調されています。RZ300eはWLTCで599kmなのに対し、RZ400eは494kmなので100km以上カタログ値が良くなっています。

ちなみにテスラのモデル3(RWD)とモデルY(AWD)は、EPAのデータでは電費の差が1割程度なので、RZシリーズで2割改善できているとしたら効果が大きいと言えます。

それ以上に、航続距離がリアルワールドで500km以上になっているのなら、外出先で急速充電をする機会は大きく減りそうです。

予約可能な充電ステーションを追加

レクサスは、専用のオーナーサービス「LEXUS Electrified Program」(LEP)を実施しています。

LEPのサービスに加入するとレクサス店や商業施設に設置されたレクサス充電ステーションで150kW以上の急速充電器が利用可能になります。予約もできるのは便利です。

レクサス充電ステーションは現在、ミッドタウン日比谷に設置されています。これに加えて、12月11日には軽井沢コモングラウンズにも開設します。

今後は、2024年度に名古屋駅直結のJRセントラルタワーズの地下駐車場に開設予定なほか、2030年には全国100カ所程度まで拡充する計画です。

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レクサスは2035年に、販売する車をすべてEVにすることを表明しています。今回のRZ300eはその第3弾になります。

一方、トヨタは、世界のEV化の流れが当初予想より早く進んでいるとして、車種の拡充を急いでいます。当面の目標は、2026年に年間150万台のEVを販売することです。

そんな中、2022年10月にロイターは、トヨタ『bZ4x』やレクサス『RZ』シリーズに採用されているEV専用プラットフォーム「e-TNGA」について、ガソリンエンジン車の生産ラインで混流させているため生産効率が悪く、今後も使い続けるかどうか検討しているというトヨタの内部事情を報じました。混流ラインでEVを作っていたのでは、どう頑張ってもテスラ社のような収益性は確保できないということなのでしょう。

ということは、新規プラットフォーム開発の状況次第で当初の製品投入は遅れる可能性がある反面、全体の電動化は予定より早まることも考えられます。もちろん、これから発売するモデルがたくさん売れることが条件ではありますが。

RZ300eは、初めてのEVだったbZ4xに比べると改良が進んでいるように見えます。詳細は実車で確認したいと思いますが、バッテリーマネジメントで使い勝手や性能が変化するEVならではの進化が、どんどん進むことを期待したいと思います。

文/木野 龍逸

この記事のコメント(新着順)1件

  1. e-TNGAを使ったEVは、最初は10車種ぐらいを予定していたようですが、bz4xの失敗もあり、新しいプラットホームを開発中のため、今はちょぼちょぼしか出てきませんが、こんな状態では大衆EVの登場など考えられず、本当に2026年に販売台数150万台を達成できるのでしょうかね。
    どんなに優秀なバッテリーが控えているにしても本当に難しいと思っています。
    更にそれを難しくしてるのは、「トヨタの全方位路線は正しいんだ」「日本は、日本独自の方法でカーボンニュートラルに向かうんだ」「ハイブリットがあるから大丈夫なんだ」等々、見事に醸成された反BEVの空気です。
    クルマは高いものです。それこそ新車を購入するときは嬉しくワクワクしますが、どんなクルマにするかは真剣に考えます。その真剣な考慮の元、BEVを選ぶ人は僅かです。また、購入したクルマは複数年大事に使用します。誰もが、自分の選択は正しいと思っています。こういう多くの人たちの気持ちを変えることは至難の業でしょうね。それこそ、地球温暖化を止めることより難しいかも知れないですね。
    そんなことを、今回の記事を読みながら思ってしまいました。

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					木野 龍逸

木野 龍逸

編集プロダクション、オーストラリアの邦人向けフリーペーパー編集部などを経て独立。1990年代半ばから自動車に関する環境、エネルギー問題を中心に取材し、カーグラフィックや日経トレンディ他に寄稿。技術的、文化的、経済的、環境的側面から自動車社会を俯瞰してきた。福島の原発事故発生以後は、事故収束作業や避難者の状況のほか、社会問題全般を取材。Yahoo!ニュースやスローニュースなどに記事を寄稿中。原発事故については廃棄物問題、自治体や避難者、福島第一原発の現状などについてニコニコチャンネルなどでメルマガを配信。著作に、プリウスの開発経緯をルポした「ハイブリッド」(文春新書)の他、「検証 福島原発事故・記者会見3~欺瞞の連鎖」(岩波書店)など。

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