メルセデスベンツがコンパクトSUV電気自動車『EQB』発売を発表〜日本導入は未発表

メルセデス・ベンツが、コンパクトSUVに新型の電気自動車『EQB』を追加しました。2021年末にヨーロッパと中国、2022年にアメリカ市場で発売予定です。日本導入時期はまだ発表されていません。これでメルセデス・ベンツの電気SUVは『EQA』『EQB』『EQC』が揃いました。

メルセデスベンツがコンパクトSUV電気自動車『EQB』発売を発表〜日本導入は未発表

3列シート7人乗りのコンパクト電気SUV

メルセデス・ベンツを擁するダイムラーは2021年9月5日、電気自動車(EV)の新型SUV『EQB』の詳細なスペックを発表しました。『EQ』シリーズでは2番目のコンパクトSUVになります。

発売予定のラインナップは『EQB 300 4MATIC』と『EQB 350 4MATIC』の2種類で、いずれも4WDモデルです。乗車定員は、標準仕様では5人乗りですが、オプションで3列シートの7人乗りも選ぶことができます。ちなみに3列目は、身長165cmまでの人なら快適に乗れるそうです。

また今後は、時期は未定ですが、前輪駆動モデルや、バッテリー搭載量を増やして航続距離を伸ばしたロングレンジモデルも追加予定です。

生産は、グローバル市場向けはハンガリーのケチケメート工場で行います。これまで『CLA』『CLAシューティングブレーク』『Aクラス』を生産してきたケチケメート工場では、初めてのBEVになります。中国市場向けは、中国との合弁会社『BBAC』の北京工場で生産します。生産開始時期はいずれも2021年10月の予定です。

発売は、ヨーロッパと中国が2021年末、アメリカが2022年になります。価格はまだ発表されていませんが、WEBサイト『Electric Vehicle Database』は『EQB 350 4MATIC』についてイギリスで5万ポンド(約756万円)、ドイツで6万ユーロ(約778万円)と予想しています。

ちなみにベースにになっているICEの『GLB』は、上級グレードの『AMG GLB 35』の価格になりますがイギリスで5万205ポンド、日本では税込み782万円なので、同等というところでしょうか。

『EQB 350』とICEの『AMG GLB 35』では最高出力や加速力などに多少の違いがあるので単純に比較はできません。でも電動化による車全体のアップグレード感は間違いなくあるので、同じくらいの価格ならAMGにするかEVにするか、みたいな選択肢もこれからはあるのかもしれません。というか、そんな選択になったらいいなあ、という願望です。

前後で種類の違う2モーターの4WDシステム

ではいつものようにEVの『EQB』を見ていきましょう。ベース車は前述したようにICEの『GLB』です。車体サイズを見ると、『EQB』の方が50mm(AMG仕様からは34mm)延びているほかは、全幅、全高、ホイールベースともに同じです。リリースによればホイールベースが長めにとってあるため、3列シート7人乗りにすることができたようです。

『EQB』スペック(2021年9月26日時点)

EQB 300 4MATICEQB 350 4MATIC
全長/全幅/全高(mm)※4684/1834/1701(1706)
ホイールベース(mm)2829
最小回転直径(m)11.7
車両重量(kg)2175
定員5人/7人
動力系
駆動方式AWD
モーター(前)誘導モーター
モーター(後)永久磁石式同期モーター
最高出力168kW215kW
最大トルク390Nm520Nm
最大回生出力190kW190kW
0-62mph加速8秒6.2秒
最高速度160km/h
電気系
システム電圧367V
バッテリー容量66.5kWh
AC充電対応出力(kW)11kW
DC急速充電対応出力(kW)100kW
消費電力等
一充電航続距離(WLTP)419km
一充電航続距離(EPA推計)約373.8km
電費(WLTP)5.5km/kWh
※全高のカッコ内は7人乗り
※EPA推計はWLTPを1.121で割っています。

グレードのラインナップは今のところ『300』と『350』の2種類で、いずれも4WDの『4MATIC』です。でも前述したように、時期は未定ですが前輪駆動やロングレンジバージョンが追加される予定です。

4WDは、前後にひとつずつモーターを配置した2モーター方式です。モーターは、前輪が誘導モーター(ASM)、後輪が永久磁石式同期モーター(PSM)になっています。低負荷時には後輪のPSMを中心に使い、パワーを出すときには前輪のASMをアクティブにします。

バッテリー容量はいずれのグレードでも66.5kWhで、5つのモジュールで構成しています。1回の充電での航続距離もグレードによる違いはなくて、WLTPで419kmです。EVsmartブログの係数でEPAモードでの数字に換算してみると、約373.8kmになります。

最大出力は大きく違っても電費は同じ

ところで最高出力は『300』が168kW、『350』が215kWで、最高速度はともに時速160kmです。0-62mph(0-99.2kkm/h)加速は『300』は8秒ですが、出力の高い『350』は6.2秒です。ICEの『AMG GLB 35 4MATIC』が5.3秒なので、ほぼ同等です。

まあこれもEVの不思議というかですが、『300』と『350』は最高出力も最大トルクも大きく違うのに、電費は同じになっています。詰まるところ、EVの場合はまったく同じ中身でも、ソフトウエアのエネルギーマネジメントを変えれば、まったく違うスペックの車ができるということの現れでしょう。

一方、電費計測は規定のモードで測定するだけなので、スペック上の出力は大きくても最大パワーになる領域を使わなければ良好なデータが得られます。結局、リアルワールドでどうなるかは実車で試してみないとなんとも言えないということになりそうです。早く日本にも入ってきて、試乗がしたいなあと思います。

ところで『EQB』のバッテリー容量は、すでに市場に出ている『EQA』シリーズとまったく同じです。1回の充電あたりの航続距離も、『EQA 300/350 4MATIC』はWLTPで408~422kmなのでほとんど変わりません。

【関連記事】
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ちなみに前輪駆動の『EQA 250』は航続距離が少し短くなります。4WDよりFWDの方が電費が悪くなるのはICEの車だと考えにくいことですが、2モーターの4WDはモーターの使い方の加減で効率が上がるようです。

してみると、電気系の基本構成は『EQA』と『EQB』とで違いはないのかもしれません。はっきりした違いは、3列シートのオプションがあるかどうか、でしょうか。もちろん、ベース車両が違うので乗り心地や運転感覚は同じではないのでしょうが、数字で表されるスペックは、ほぼ同じと言って差し支えなさそうです。

急速充電は100kW対応

メルセデスベンツがコンパクトSUV電気自動車『EQB』発売を発表〜日本導入は未発表

次はバッテリーの種類ですが、プレミアムクラスの『EQS』『EQE』は、コバルトなどの割合を抑えた「NMC811」を使っているとアナウンスされている一方で、『EQB』のリリースにこの記載はありません。

バッテリーの生産は、ヨーロッパで作られる『EQB』はドイツのカーメンツにあるメルセデス・ベンツの子会社『アキュモーティブ』の工場や、ポーランドのヤヴォル工場で行います。ヨーロッパ以外で作られる『EQB』は、中国や北米の工場でバッテリーを作る予定です。

なお現在は『EQA』のバッテリーも、『EQB』と同じ工場で生産されています。このことからも『EQB』と『EQA』のシステム構成がほぼ同じということが推察できます。

充電は、急速充電対応出力は100kW、普通充電は11kWです。これも『EQA』と同じです。

プレミアムクラスでは急速充電の対応出力はもっと大きいのですが、バッテリー容量を考えるとこの程度が適当だとメルセデス・ベンツは考えているのでしょう。あまり大きくても負荷が増えるだけですし、バッテリーの残量がよほど減った状態にならないと大出力は受け入れられません。

バッテリーは、インテリジェントナビゲーションを使用している時には、『EQE』や『EQS』と同じように、急速充電をするポイントに合わせて適温になるように、加熱、冷却されます。ただ、バッテリーを保持するフレームの中に冷却剤を通している『EQS』や『EQE』などと違い、バッテリー下部に設置したプレートに冷却剤を流す構造になっています。

一見すると、底に敷いたプレートだけだと温度調節の効果が限定的になりそうな印象を受けます。実際にどのくらいの違いがあるかを検証するのはなかなか難しいですが、それでも寒いときに加熱、暑ければ冷却をするシステムがあれば充放電の効率は上がるでしょうし、バッテリーの寿命も延ばしてくれそうです。

ちなみにバッテリーの保証は、8年間、16万キロです。これもやっぱり、プレミアムクラスの『EQS』『EQE』の10年、25万キロとは大きく違います。

『EQ』シリーズの当面のラインナップが出そろった感

『EQB』の登場によってメルセデス・ベンツのEVラインナップが下から上まで出揃った印象です。今のところコンパクトクラス(といっても日本では小さくはないですが)はSUV、プレミアムはセダンという違いはありますが、来年にはプレミアムクラスでもSUVが登場予定です。

ということで、ちょっと全体を並べてみたいと思います。

●『EQC』 2019年生産開始 ドイツと中国BBACの工場で生産
●『EQV』 2020年生産開始 スペイン・ビトリアの工場で生産
●『EQA』 2021年生産開始 コンパクトカー初のICE派生車 ドイツ・ラシュタットと中国BBACの工場で生産
●『EQS』 2021年生産開始 ドイツ・ジンデルフィンゲンの第56工場で生産
●『EQE』 2021年後半に生産開始予定 ドイツ・ブレーメンと中国・北京の工場で生産予定
●『EQE SUV』『EQS SUV』 2022年にアメリカ・タスカルーサの工場で生産開始予定

このほか、スマートのEVも揃っています。

●『smart EQ fortwo』『smart EQ fortwo cabrio』 フランス・ハンバッハ工場(2020年12月にINEOS Automotiveが工場を買収
●『smart EQ forfour』 スロベニア・ノボメストの工場で生産

なお、次世代の『smart EQ』は、中国の浙江吉利控股集団とメルセデス・ベンツAGの合弁会社「スマートオートモービル」が開発、生産をする予定です。時期はまだ明らかではありません。

この他、メルセデス・ベンツは2021年5月にミニバン『Tクラス』のEV版『コンセプトEQT』を発表。ワールドプレミアのビデオでは、サッカーママの車とも言われたミニバンを、スケートボードで遊ぶ若者の車としてPRしています。EV化によってマーケットを変えようとしているようです。

こうやって改めて見てみると、メルセデス・ベンツのEVは言葉通り「続々」という感じで出てきているように感じます。EV専用設計の車はまだ、プレミアムクラスだけですが、コンパクトクラスもそれほど遠くない時期に切り替わりそうです。

2020年代はまだ始まったばかりだし、ラインナップが揃っているからと言って販売台数が急激に増えているということでもありませんが、ちょっと目を離すとあっという間に状況が変わっていきます。

ということでこれからも、焦らずじっくりと、新しい変化をお伝えできればと思っています。

(文/木野 龍逸)

この記事のコメント(新着順)2件

  1. プレミアム車以外で、EV専用プラットフォームの車を出すというのは、既存メーカーではなかなか時間がかかるようですね。 一方で、ID3, ID4を出したVWは、動きが早かったんだなと。

    1. おっしゃるとおり、ルノーカングー EV(2011~)、ゾイEV(2013~)、VW e-UP(2013~)、e-ゴルフ(2014~)など、大衆ブランドはいわゆるコンバージョンです。
      電動車両の黎明期に、どこも電動化に半信半疑で市場の反応を見るため的な意味合いで市場に出したのではないでしょうか? しかし、想像以上にこれらモデルは売れて、結果として、本格的にBEVの開発が進みました。
      それにしても、欧州ではもうこのころからコンバージョンとはいえ、魅力的な選択肢が多かったのですね。

      その時代で2013年に発売されたBMW i3がEV専用PFです。モデルのLCAとしてカーボンニュートラルを目指した、世界的にBEVの先駆者ではないでしょうか?
      そこそこ売れているようですが、BMWブランドには似つかわしくないコンセプトで、現在のGen5のBMW iシリースはプレミアム感を前面に押し出していますね。

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					木野 龍逸

木野 龍逸

編集プロダクション、オーストラリアの邦人向けフリーペーパー編集部などを経て独立。1990年代半ばから自動車に関する環境、エネルギー問題を中心に取材し、カーグラフィックや日経トレンディ他に寄稿。技術的、文化的、経済的、環境的側面から自動車社会を俯瞰してきた。福島の原発事故発生以後は、事故収束作業や避難者の状況のほか、社会問題全般を取材。Yahoo!ニュースやスローニュースなどに記事を寄稿中。原発事故については廃棄物問題、自治体や避難者、福島第一原発の現状などについてニコニコチャンネルなどでメルマガを配信。著作に、プリウスの開発経緯をルポした「ハイブリッド」(文春新書)の他、「検証 福島原発事故・記者会見3~欺瞞の連鎖」(岩波書店)など。

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