メルセデス・ベンツが上海で電気自動車『EQB』を世界初公開〜宣言通りの電動化急加速

上海オートショーのプレスデー前夜にあたる2021年4月18日夜、メルセデス・ベンツは新しいコンパクトSUVの電気自動車『EQB』を上海会場で発表しました。上海ということもあり発表は中国語が中心で、急拡大する中国市場を中心に据えていることがよくわかるプレゼンテーションでした。

メルセデス・ベンツが上海で電気自動車『EQB』を世界初公開〜宣言通りの電動化急加速

EQシリーズ5車種目となるコンパクトSUV

ダイムラーグループのメルセデス・ベンツは上海オートショーのプレスデーが始まる前日夜、2021年4月18日午後10時半に、電気自動車(EV)のコンパクトSUV『EQB』を発表しました。発表会場は、上海です。

メルセデス・ベンツが『EQ』シリーズとしてラインアップを拡大しているEVは、4月15日に発表されたばかりの『EQS』、SUVの『EQA』『EQC』、欧州で販売しているミニバン『EQV』と、今回の『EQB』をあわせて5モデルになりました。

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ダイムラーは2019年に発表した『Ambition2039』の中で、2039年までに販売する乗用車を二酸化炭素(CO2)ゼロのカーボンニュートラルにする目標を掲げました。そのため、まずは2033年までにEVとPHEVの比率を50%にすることを目指しています。直近では、2022年までにEVを10車種以上にする計画も明らかにしています。

2021年になってから矢継ぎ早にEVを発表しているのは計画に沿ったものとはいえ、実際に次から次に車種が増えてくると、驚くと同時に企業として掲げた目標の重要性を改めて感じます。具体的な目標を出している以上、目標の未達は企業価値を下げることにつながるわけで、EVが実験的なものにとどまっていた数年前の位置付けとは一変していることに思い至ります。

発売は中国、欧州、米国の順番

今回の『EQB』の発表が上海オートショーにあわせて行われたことで、メルセデス・ベンツの中国重視の姿勢がはっきり見てとれます。まあ、今に始まったことではないですし、中国のEV市場の大きさを考えれば当たり前のことではあるのですが。

発表会は、場所が上海なので当然ですが、基本的に中国語で行われました。発表会で流れたプロモーションビデオも中国語が中心です。

【参考リンク】
『EQB』発表会(公式/英語の同時通訳あり)

『EQB』はまず、2021年後半に中国市場で発売します。中国市場向けの車は、ダイムラーと中国・北京汽車(BAIC)による合弁会社BBAC(北京奔驰汽车有限公司/北京ベンツ汽車)の北京工場で製造する予定です。BBACではすでに『EQC』なども生産しています。

『EQB』はその後、2021年内にハンガリーの首都ブダペストから南東に約80kmに位置するケチケメート(Kecskemét)の工場で、世界市場向けモデルの生産が始まる予定です。『EQB』はケチケメート工場で生産される、初めてのEVになります。今後は『EQA』もケチケメート工場で生産される予定です。発売時期は、ヨーロッパが2021年中、アメリカが2022年の予定です。

ヨーロッパで生産する車に搭載するバッテリーは、ドイツのカーメンツにあるメルセデス・ベンツの子会社『Deutsche Accumotive』(ドイツ・アキュモーティブ)や、ポーランドの工場で生産します。ドイツ・アキュモーティブではEQAやプラグインハイブリッド車のバッテリーも生産しています。

ところでリリースでは明確な説明がないのですが、中国向けのモデルは、バッテリーも中国で生産すると考えられます。というのも、リリースではヨーロッパなど世界市場向けのモデルと、中国市場向けのモデルを明確に区別しているからです。

リリースでは、中国市場向けは「the China-specific version」、ヨーロッパ向けは「the European version」と、「the」と付けて明確に区別していますし、公開されている動力性能はヨーロッパ版だけです。同じ『EQB』でも地域によって性能やパーツ構成が異なると思われます。

最大7人乗りのコンパクトSUVの電気自動車

『EQB』は、すでに報じられているようにメルセデス・ベンツのコンパクトSUV『GLB』をベースにしたEVです。メルセデス・ベンツのプレミアムモデル『Sクラス』に相当する『EQS』はゼロから開発したグランドアップですが、現行の他のEVは内燃機関の車をベースに電動化した、いわゆるコンバートカーということになります。

『EQB』は、フロントグリルのデザインはベースの『GLB』から変わっていますが、サイドパネルやドアの形状はほぼ同じで、インストゥルメンタルパネルのモニター画面やファンの形もほとんど変わっていません。

なにをもってEVらしいというのかは人それぞれとは思いますし、EVらしくないと販売に影響するかどうかもはっきりとはわかりません。いずれにしても、今のところメルセデス・ベンツはEV特有の車を出すというよりも、ラインアップの拡充を急いでいるように見えます。

それでも『EQS』だけはかなり特別な存在らしく、バッテリーの生産ラインも他とは違います。車体は既存の『Sクラス』と同じ工場で生産されます。先日の発表では、バッテリーはNMC811を採用することが明記され、生産はメルセデス・ベンツの本拠地であるシュトゥットガルト-ウンタートゥルクハイムの工場で手がけることになっているので、当面はこの最先端バッテリーは『EQS』専用になるのかもしれません。

話を『EQB』に戻しましょう。駆動方式は、最終的には後輪駆動と全輪駆動が用意される予定です。乗車定員は、ヨーロッパ仕様では2列の5人乗りが標準で、3列7人乗りがオプションで用意されます。一方、中国では7人乗りが標準設定です。とりあえず人がたくさん乗れた方がいいというのは、日本市場と似ているのかもしれません。

動力性能の詳細は公表されていませんが、一部のモデルでは最大出力が200kW以上になります。例えば中国では上級グレードがAMGラインとして発売される予定で、最大出力は215kWです。

バッテリー容量は最小でも66.5kWhを搭載。一充電での航続距離は、WLTPで419kmです。EVsmartブログの換算係数でEPA推計値にすると約373kmになります。長距離バージョンも予定されているので、AMGラインのように、上級グレードは大容量になる可能性もあります。

急速充電の対応出力はCCSの100kWです。中国市場では、充電方式は現地にあわせたものになる予定です。

ところで公表された『EQB』のバッテリー容量や急速充電の対応状況は、2021年1月に発表された『EQA』と同じです。航続距離もほぼ同じです。言わずもがなですが、『EQB』と『EQA』の基本仕様はかなり似ています。もしかしたら同じコンポーネントを搭載しているのではないかと思うくらいです。

ということから考えると、『EQB』の価格は発表されていませんが(北京ベンツ汽車のHPも4月19日時点では未開設)、『EQA』が約4万8000ユーロ(約624万円)からなので、概ねそのくらいになるのではないでしょうか。ベースになっている『GLA』と『GLB』も価格差は小さいため、EVになっても変わらないのかもしれません。

EQB 350 4MATIC スペック
駆動方式後輪駆動(RWD)または全輪駆動(AWD)
車体サイズ
(全長/全幅/全高
4684/1834/1664mm
バッテリー容量66.5kWh~
普通充電
最大対応出力
11kW
急速充電
最大対応出力
100kW(CCS)
航続距離419 km(WLTP)
約377km(EPA推計)
電力消費量
※ WLTP・複合
19.2~18.1kWh/100km
(5.2~5.5km/kWh・WLTP複合)

先日発表されたEQSもそうだったのですが、WLTP値で発表される一充電航続距離は419km(WLTP換算推計値は約377km)となっているものの、「WLTP・複合」値で発表される電力消費量は「5.21~5.52km/kWh」。長い方の「5.52km/kWh」で考えても「5.52km×66.5kWh=約367.4km」となり、計算が合いません。おそらく、419kmと発表している数値とテストサイクルが異なるのでしょうが、実用では厳しめに「約366km」と考えた方がいいでしょう。カタログができればどこかに小さい字で説明が出るとは思いますが、なんともわかりにくいのが実感です。WLTPで表記を統一し始めたののは最近のこととは言え、世界の自動車メーカーにはできるだけ早く改善を望みたいところです。

車と充電サービスをセットにする販売方法が基本

充電についてメルセデス・ベンツは、ヨーロッパ市場の場合は『Mercedes me Charge』を利用することで課金が簡単に行えるシステムを推奨しています。それだけでなく、『Mercedes me Charge』では再生可能エネルギーを使った電力供給を保証しています。

日本では今でも、EVが少ないから充電設備を増やせないのだ、充電設備が少ないからEVが増えないのだ、などと四半世紀以上も堂々巡りの議論が続いていますが、ヨーロッパ市場を見ていると、自動車メーカーによる充電インフラの拡充が基本的な流れになっていることがわかります。

もとはテスラのスーパーチャージャーに端を発するものですが、自動車メーカーによる合弁会社の『IONITY』の稼働も含め、インフラ整備と車の普及が完全にセットになっているようです。

加えて『Mercedes me Charge』が再エネによる電力供給を保証するのは、LCA(ライフ・サイクル・アセスメント)によるEVのCO2削減効果を確定させる狙いがあるのでしょう。

インフラは車作りとは別、という20世紀型の思考回路のままだと、次世代車の普及はおぼつかないのかもしれません。

とにもかくにも、メルセデス・ベンツはかねて発表したとおり、駆け足でEVを増やしています。次の予定は『EQE』なので『GLE』でしょうか。個人的には、早くコンパクトなセダンタイプが出ないかなあと思っているのですが、それよりも日本にもどんどん導入して、EVの車種バリエーションを増やしてほしいところです。

ちなみにイギリスやドイツのメルセデス・ベンツのサイト(UKサイトにリンク)では、ラインアップのタブの並びが『EQ』『AMG』『マイバッハ』の順なのですが、日本は『AMG』『マイバッハ』『EQ』です。優先順位の違いが見えるのですが、早く日本でもEVの位置づけが上がるといいなあと思うのです。

(文/木野 龍逸)

この記事のコメント(新着順)1件

  1. 今や中国は欧州を超えるBEVの主戦場ですね。
    次から次へと新車種が投入され、羨ましい限りです。
    ミニバンが多い日本でもEQBのような3列SUVは需要が大きいと思いますが、日本市場は後回しでしょうね・・・。

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					木野 龍逸

木野 龍逸

編集プロダクション、オーストラリアの邦人向けフリーペーパー編集部などを経て独立。1990年代半ばから自動車に関する環境、エネルギー問題を中心に取材し、カーグラフィックや日経トレンディ他に寄稿。技術的、文化的、経済的、環境的側面から自動車社会を俯瞰してきた。福島の原発事故発生以後は、事故収束作業や避難者の状況のほか、社会問題全般を取材。Yahoo!ニュースやスローニュースなどに記事を寄稿中。原発事故については廃棄物問題、自治体や避難者、福島第一原発の現状などについてニコニコチャンネルなどでメルマガを配信。著作に、プリウスの開発経緯をルポした「ハイブリッド」(文春新書)の他、「検証 福島原発事故・記者会見3~欺瞞の連鎖」(岩波書店)など。

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