東名300km電費検証【10】『EQE SUV』~100km/h巡航で航続距離約470kmの性能を確認

市販電気自動車の実用的な電費性能を確かめる「東名300km電費検証」シリーズ。第10回はメルセデス・ベンツ『EQE 350 4MATIC SUV Launch Edition』で実施した。幅2m、車重2.6トン超えの電気自動車SUVはどんな電費を記録したのだろうか。

東名300km電費検証【10】『EQE SUV』~100km/h巡航で航続距離約470kmの性能を確認

【インデックスページ】
※計測方法や区間などについては、下記インデックスページ参照。
東名300km電費検証【INDEX】検証のルールと結果一覧

80km/h巡航の電費なら560km超の航続距離

EQE SUVは2023年8月デビュー、メルセデスのBEVラインナップの中では最も新しいモデルだ。前後に各1基のモーターを搭載したAWDのSUVという特徴は、2023年5月発売のEQS SUVと同じだが、フロントモーターにDCU(ディスコネクトユニット)を採用し、モーターの抵抗を極力低減させることで電力消費の抑制につなげて、航続距離の伸長に向けた改良が加えられている。

EQE SUVの主なスペックは、全長4,880mm、全幅2,030mm、全高1,670mm、ホイールベース3,030mm、車重2,630kg、Cd値は0.25。前後のモーターによる出力は215kW(292ps)、トルク765Nmと、トルクに比べると出力は控え目だ。

カタログスペックの一充電走行距離である528kmを、バッテリー容量の89kWhで割った電費(目標電費)は5.93km/kWhになる。4月某日の計測日の外気温は最高26℃、電費検証に臨んだ深夜は16℃~19.5℃だった。

今回の注目ポイントは、1年前の6月(外気温17~21℃)に検証したEQS SUVとどれほどの差が出るかだった。なお、EQS 450 4MATIC SUVのスペックは、全長5,130mm、全幅2,035mm、全高1,725mm、ホイールベース3,210mm、車重2,900kg、Cd値は0.26。前後のモーターによる出力は265kW(360ps)、トルク800Nmだ。

この2台の主な差は、全長が250mm、全高が55mm、車重が270kgというくらいで、Cd値は0.01しか違わない。乗車定員は3列シート7人乗りのEQS SUVの方が2名多い。

EQE SUVの各区間の計測結果は下記表の通り。目標電費を上回った区間を赤太字にしている。

【今回の計測結果】

目標電費を超えたのは、往路のD区間、復路と往復のBとC区間の5区間だった。往復では80km/hが6km/kWh台、100km/hが5km/kWh台、120km/hが4km/kWh台ときれいな階段状になった。

120km/h巡航でも約380kmの航続距離性能

各巡航速度の電費は下記の表の通り。「航続可能距離」は実測電費にバッテリー容量をかけた数値。「一充電走行距離との比率」は、528kmとするカタログスペックの一充電走行距離(目標電費)に対しての達成率だ。

【巡航速度別電費】
巡航速度別の電費計測結果を示す。80km/hの電費は、80km/hの全走行距離(97.4km)をその区間に消費した電力の合計で割って求めている。100km/hと総合の電費も同じ方法で求めた。

各巡航速度
の電費
km/kWh
航続可能距離
km
一充電走行距離
との比率
80km/h6.35565.3107%
100km/h5.25467.288%
120km/h4.30382.772%
総合5.18460.787%

総合電費の5.18で計算すると、満充電からの実質的な航続可能距離は約460kmになる。100km/h巡航では約467km。80km/h巡航であれば約565kmを走り切れる結果だ。

EQS SUVとの電費比較

EQE SUVEQS SUV電費差航続可能距離の差
km/kWhkm/kWhkm/kWhkm
80km/h電費6.356.310.04
航続可能距離565.3680.2114.9
100km/h電費5.254.980.27
航続可能距離467.2536.869.6
120km/h電費4.303.850.45
航続可能距離382.7415.032.3
総合電費5.184.860.32
航続可能距離460.7523.662.9

EQS SUVとの電費比較では、80km/h巡航はほぼ同値、速度が上がるにつれて差は大きくなるが、それでも0.45km/kWhでしかない。EQS SUVの方が、バッテリー容量が18.8kWh大きいため、100km/h巡航で約70kmなど、航続可能距離はEQS SUVの方が長い。

両車比較の結論としては、5m超の駐車スペースを確保できて、7人乗車の機会が多い方にはEQS SUVの方をおすすめというくらいで、EQS SUVに電費や航続可能距離で大きなデメリット(EQE SUVと比較して)はないことが確認できた。

各巡航速度の比率は以下の通り。80km/hから100km/hに速度を上げても17%しか電費は悪化しない。120km/hから80km/hに下げると航続距離を約1.5倍(148%)に伸ばすことができる計算になる。

ベースの速度比較する速度比率
80km/h100km/h83%
120km/h68%
100km/h80km/h121%
120km/h82%
120km/h80km/h148%
100km/h122%

ACCによる停車時の制御はレベルアップしている

この東名300km電費検証では、毎回同じ区間を3つの速度で定速巡航している。そのため巡航中は基本的にACC(アダプティブクルーズコントロール)を使用する。さらに、交通量の少ない深夜の検証とすることで、渋滞に遭遇する可能性を極力低下させ、ブレがでないよう留意している。

EQE SUVのACCは、ステアリング右スポークの下側にあるスイッチで操作する。走行中に「SET −」スイッチを押すと、その時点の速度で定速走行がスタート。速度調節は「SET +」か「SET −」スイッチを押すと10の倍数で増減する。「SET +」か「SET −」スイッチをスワイプすると1km/hごとに調整できる。先行車との車間距離は左上のスイッチで、4段階で調整可能だ。

自動車線変更機能がEQSセダンと同様にこれまでで最も滑らかだった。東名高速のカーブが連続する区間でも、LKA(レーンキープアシスト)により、ステアリング操作を気にせずに安心して乗っていられる。

なお、渋滞中のACCによる停車はEQSセダンと異なりブレーキを抜きながら停まるので、前後の揺れ残りもEQSセダンの2回から1回になっており快適だった。

その一方、先行車が減速しているのに、こちらは定速走行を続ける、もしくは加速するというクセはEQE SUVにも発生したので、この点が改善すればより快適性が向上し、安心感も高まると感じた。

スピードメーター表示とGPSによる実速度の差はどの速度でも3km/hだった。実速度を100km/hにしたい場合は、メーター速度を103km/hに合わせる。

80km/h
巡航
100km/h
巡航
120km/h
巡航
メーターの速度
km/h
83103123
ACC走行中の
室内の静粛性 db
646861

巡航時の車内の最大騒音(スマホアプリで測定)は、80km/hが64dB、100km/hが68dB、東名よりも路面がきれいな新東名での120km/hは61dBだった。

最大出力127kWでの充電を確認

充電結果

●クリックすると拡大表示します。
※「外気温」は車内メーター表示の温度。
※「充電時最大出力」は、車両もしくは充電器で確認できた数値。
※「航続距離表示」は、エアコンオフ時に確認。
※「SOC推計充電電力量」は、充電前後のSOC値から算出した電力量。
※「充電器表示充電電力量」は充電器に表示、もしくはアプリなどに通知された電力量。

駿河湾沼津SA上りで行った急速充電ではSOC31%からの開始直後、最大127kWの出力を確認した。EQE SUVの発売当初は、「急速充電は150kWまで対応」だったが、今年の3月に「150kWまで対応と記載していたが非対応のため削除」とプレスリリースに追記になっていた。

改めてメルセデス・ベンツ日本に確認したところ、「バッテリーの最大電圧の関係で120kW程度になる」との回答を得ているため、127kWは最大限のパフォーマンスを発揮したことになる。性能が低下するにもかかわらずきちんと情報を公開するメルセデス・ベンツ日本の真摯な対応には頭が下がる。

充電の結果は上記の通り30分で47.070kWhをチャージして、航続可能距離表示は236km増えた。「30分で47.070kWh 」は、最大150kW対応のEQSセダン(49.218kWh)と2kWhほどしか変わらない上々の結果だ。

検証結果の総合電費である5.18km/kWhでは約243km分、80km/h巡航の6.35km/kWhであれば約300km分を補給できたことになる。充電出力の経過は、充電開始時に120kW、10分後に127kWを記録、その2分後から充電終了直前までは75kWほどだった。

充電中のセンターディスプレイ。電池マークの下に出力表示がある。助手席側のスターマークがアンビエントカラーに合わせてカラフルに光っている。

タイヤ・ホイールはオプションの21インチ

タイヤとホイールは7.7万円のオプション「21インチAMGマルチスポークアルミホイール」により21インチサイズだった。標準の19インチの場合のタイヤサイズは前後ともに235/55R19だ。

【装着タイヤ】
メーカー/GOODYEAR
ブランド(商品名)/EAGLE F1 MO ASYMMETRIC 5

サイズ空気圧製造週年
左側右側
フロント265/40R21 105H26043223922
リヤ265/40R21 105H26042223922

※製造週年は「4322」の場合、2022年の43週目に製造されたことを意味する。

EVの高級SUVとしての有力な選択肢

EQE SUVのパワーフローの画面を確認すると、駆動、回生に加えて頻繁に「セーリング」になることがある。EQE SUVフロントモーターのDCUは、このセーリング中やRWDの状態で、モーターの抵抗を低減して電力消費を抑えることに貢献している。なお、セーリング中も、少なくともリヤモーターで回生はしているので電費は伸びていく。

軽い加速時は、速度によるモーターの使い分けも垣間見えた。100km/h未満はフロント、100km/h以上はリヤをメインに使用しているようだ。100km/h未満時は出力の小さいフロントモーターを使うことで消費電力を抑える制御としているのだと思う。

EQE SUVのCd値0.25もSUVとしては良好な数値で、車重は2630kgと重いが、610kgも軽い『EQA』(Cd値0.28 ※関連記事)と同等の電費(100km/h巡航でEQE SUVが5.25、EQAは5.66)を記録したことは本当にすごいことではないだろうか。

最大127kWでの急速充電を記録するなど充電性能も申し分がない。EVの高級SUVを検討している方に、おすすめできる1台であることを確信した。

取材・文/烏山 大輔

この記事のコメント(新着順)1件

  1. メルセデスのセダンタイプのEQE、EQSの残価率は非常に悪く約1年で買い取り価格が半額近くなってしまうと言われています。かなり性能も使い勝手もEVとしては良いように見えますがなぜこのような低い残価率になってしまうのか解説してもらえるとありがたいです。

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					烏山大輔

烏山大輔

1982年生まれ、長崎県出身。高校生の時にゲームソフト「グランツーリスモ」でクルマに目覚め、 自動車整備専門学校を卒業後は整備士、板金塗装工、自動車カタログ制作、 自動車雑誌カーグラフィック制作、ALPINA総輸入代理店のNICOLEで広報・ マーケティングと一貫してクルマに関わる仕事に従事。 現在の所有車はインテグラ・タイプR、ハイゼットとガソリン車のみだが、BEVにもFCEVにもとても興味を持っている。

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