日産「ポータブルバッテリー from LEAF」発売〜自治体などが安心して導入できる製品へ!

日産自動車が電気自動車の再生バッテリーを利用した「ポータブルバッテリー from LEAF」を発売しました。はたしてEV用バッテリーリユースの道を切り拓くプロダクトになり得るのか。自動車評論家でサクラオーナーの御堀直嗣氏が、関係者にオンライン取材を行ったレポートです。

日産が「ポータブルバッテリー from LEAF」を発売〜自治体などが安心して導入できる製品へ!

EV用バッテリーの二次利用とは?

日産自動車は、関係会社のフォーアールエナジー(リユース・リファブリケート・リセル・リサイクルの頭文字で4R。以下4RE)、そしてJVCケンウッドと3社で共同開発したポータブル電源を発売すると発表した。販売は9月1日から日産の販売店ではじまり、今後、JVCケンウッドの公式オンラインストアでも販売する。日産としては、当面年間2000台の販売を考えているという。

記者発表には参加できなかったので、改めて日産の開発担当者や4RE担当者にオンラインでインタビューする機会を得て、気になる点を確認したのでレポートする。

まず、背景を少し解説しておこう。EVで使い終えたリチウムイオンバッテリーは、一般に60~70%の容量を残しているといわれる。つまり、EV用としては力不足となるものの、蓄電などの用途には十分な性能を保持しているので、そのまま廃棄することはもちろん、素材へ戻すリサイクルをしたのでは、資源の無駄遣いとなりかねない。そこで日産は、初代リーフを発売する前に4REを設立し、EVで使命を終えたリチウムイオンバッテリーの二次利用を模索し、事業化してきた。

これまでは、系統電力の届かない場所でも機能するソーラーパネル付きの外灯や、JR東日本の踏切用バックアップ電源として鉛酸バッテリーから転換するといった用途に、二次利用の場面を模索してきた。また初代リーフの積み替え用として、新品のリチウムイオンバッテリーに比べ割安価格での提供も行ってきている。

そして今回、一般の消費者が広く利用できるポータブル電源という身近な商品での二次利用に販路を広げたことになる。

車載用LiBの長所を活用したポータブル電源

「ポータブルバッテリー from LEAF」は、その名の通り初期型日産リーフが車載する、正極にマンガン酸リチウムを使うリチウムイオンバッテリー(LiB)をリユースしたプロダクトである。本体の寸法は、全幅370mm×全高205mm×奥行282mmで、重さは14.4kg。電池容量は633Whである。AC出力が2口あり、100Vで600W(ハイパワーモード時900W)、瞬間最大出力は1200Wだ。

また、USB出力とシガーソケット出力にも適応している。充電時間は、ACアダプターで約9.5時間、シガーアダプターで約14時間になる。充放電のサイクル寿命は約2,000回で、動作温度範囲は-20℃~+60℃である。

開発に際し想定した用途は、スマートフォンなどへの充電や冷蔵庫といった家庭電化製品の利用の他に、災害時の電源として、暖をとるための電気毛布の利用、アウトドア活動など余暇での利用、出先での電動工具の利用など、多岐にわたる。

ポータブル電源は、すでに他社でも製品が出回っているが、今回のポータブル電源は、自治体や法人での災害用備蓄といった利用目的にも適応できる性能や耐久性を備えているのが最大の特長である。

具体的には、まず、作動温度範囲が-20℃〜60℃と、競合他社で想定される0℃(中には-10℃という製品もあるという)~40℃より広範囲な温度状況で使える強靭さを備えている。

また、自然放電が少なく、災害に備えあらかじめ充電しておいて保管する場合でも、満充電したあと1年間そのままにしている間の自然放電は16%にとどまり、84%の電力が残る(一般的な三元系LiBの場合は約65%程度とされている)という。頻繁な充電管理をせずに済む点も、バックアップ電源としての容易さと安心をもたらすことになるだろう。

これに限らず、自動車部品は、もともと民生用の電気製品に比べ、使用温度範囲はもちろん、雨や振動や埃など、使用環境が過酷な条件でも機能するよう設計・開発されている。EV用のLiBもまた、それらの過酷な使用条件下で適切に機能を保持できなければ、人命にかかわる懸念さえ出てくる。

そうした利用条件を満たしたうえで、EVでの使用を終えたLiBは、家庭電化製品などで使われる以上に厳しい条件下で機能することが、ポータブル電源としての新たな市場を拓く可能性を持っている。今回、JVCケンウッドとの共同開発となったのも、同社がポータブル電源と車載用製品開発の両方に豊富な知見と技術をもっていることを評価して、日産から声を掛けたということだ。

ちなみに、充放電を頻繁に繰り返すEVの場合、三元系LiBでは満充電で長期間放置するのは電池にストレスを与えるので好ましくない。そのため、製品(電池)を長く使うためには、長期保管の際は充電容量(SOC)を60〜80%とすることが取扱説明書でも推奨されている。自然放電が少ない特徴は、SOCを抑えた保管時にも有利となる。

安心と信頼性を重視するユーザーを想定

「ポータブルバッテリー from LEAF」の価格は、17万500円(税込)。競合製品の相場を考えると、かなり高めの価格設定である。

「リユースバッテリーにコストが掛かるのか?」と確認すると、むしろバッテリーの原価は新品に比べて低く抑えられているものの、車載基準の信頼性や機能、高出力などの性能を実現するため、配線ひとつにいたるまでの機構全体にコストが掛かっているということだった。

とはいえ、リユースバッテリーはそもそも性能が劣化しているのではないかといった不安を抱く方もいるだろう。

この点について、4REでは、4セルを1組としたモジュールごとに品質を点検し、A/B/Cの格付けを行っている。「A」ランクは車載用としてのリユース用途。「C」ランクは使用負荷が最も低いバックアップ電源などでのリユースを想定しており、今回のようなプロダクトには、EVの駆動用バッテリーとしては力不足になったものの、蓄電池などの用途には問題がないとされる「B」ランクのモジュールを選抜して利用しており、新品バッテリー並みに安心と信頼に足る性能を保証している。そしてもちろん、「ポータブルバッテリー from LEAF」は新品として発売されるのだ。

「ポータブルバッテリー from LEAF」は約2,000回の繰り返し充電に耐えられるとしているが、一般的な類似製品の場合は500〜1,000回程度であるという。レジャー用途などで単純に容量のコストパフォーマンスを求めるユーザーにとってはオーバースペックで高価なポータブル電源ということになるのだろう。しかし、災害用に備蓄する電源としての活用など、長期間の保管や繰り返しの利用、信頼性の高さを前提としているのであれば、十分な価値がある製品に仕上がっているということだ。実際、発表とともに多くの自治体や法人から関心が寄せられているという。

長期間の備蓄や高温になる車内での保管といった過酷な使用条件でも安心して利用できるのが強みだ。

車載用LiB有効活用への大きな一歩

V2XのできないEV関連の屋外イベントのテントで、エンジン発電機で扇風機を回している場面に出会ったことがある。ゼロエミッションのEVを体験しながら、すぐ横でエンジンが唸り排気ガスで喉が痛くなることになんとも不都合な矛盾を感じた。

たとえば、賢明なライフスタイルを演出する屋外イベント会場で、EVで役目を終えたリチウムイオンバッテリーが活用されれば、貴重なリチウム資源を使い切る一つの道にもなるはずだ。その先に、素材へ戻すリサイクルが待つ。

EV後のリチウムイオンバッテリーをどう活かすかという課題に正面から向き合ってきたのが日産であり、4REだ。海外では、ドイツのアウディがプロトタイプEVのバッテリーパックを実験的に活用することを始めているし、アメリカのレッドウッドマテリアル社が大規模な車載用LiBのリサイクルへの取り組みを進めているが、社会への実装や、消費者への市販まで進展している例は日産&4REしかないのではないか。

EVから降ろしたバッテリーパックを再利用するだけでは、中のセルの性能のばらつきによって、低い性能でしか利用できない状況が想定できる。それをモジュールまで細分化して点検し、性能を確認したうえで、改めて組み合わせて再利用する技術は、おそらく日産と4REしかまだ知見を持たないのではないかとも思う。

その日産や4REでさえ、消費者の手の届く商品としての二次利用は今回が初めてといっていい。4RE社設立から、十数年を経てようやくたどり着いた商品化だ。

ちなみに、4REで扱っているのは現在のところ初期型リーフのバッテリーのみではあるが、今後、新型リーフやアリア、サクラなどのバッテリーリユースについても対応できるよう検討や準備を進めているところであるということだった。

欧米を含め、EVを開発・生産する段階での脱炭素を謳う例は増えている。だが、LiBを使いつくす事業への目線はまだほとんどないといっていい。そもそも、EVを蓄電池としてV2HやV2Gとして社会のエネルギー管理・運用を行う視点をもった自動車メーカーも多くない。

そこにEVを発売する前から注目し、4REを設立し、また東日本大震災後はことにV2HやV2Lを推し進めてきた日産、そして三菱自動車工業といった日本の先駆者たちの知見は、世界最先端にあるといえるだろう。

EV個々の商品性や、充電環境の整備だけでなく、EV後の資源の有効活用と、それによる電源確保によって実現する将来の安心な暮らしにも目を向け、EV選びの一要素にする意識も、EV乗りの一つの大切な視点ではないだろうか。

また世界の自動車メーカーが早くそのことに気づき、単なる車体組み立てメーカーから脱却をはかることを願う。

取材・文/御堀 直嗣

この記事のコメント(新着順)1件

  1. 素晴らしい取り組みだと思います。絶えないように、応援の意味で買ってみようか。。

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					御堀 直嗣

御堀 直嗣

1955年生まれ65歳。一般社団法人日本EVクラブ理事。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。1984年からフリーランスライター。著書:「快走・電気自動車レーシング」「図解・エコフレンドリーカー」「電気自動車が加速する!」「電気自動車は日本を救う」「知らなきゃヤバイ・電気自動車は新たな市場をつくれるか」「よくわかる最新・電気自動車の基本と仕組み」「電気自動車の“なぜ”を科学する」など全29冊。

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