軽EV『日産 サクラ』で「ジャパンEVラリー白馬」へ参加【後編】走りと充電をレポート

長野県白馬村で開催された「ジャパンEVラリー白馬」に愛車の電気自動車『日産 サクラ』で初参加した中尾真二さんのレポート。後編は道中や宿での充電や遠距離ドライブの感想などを紹介します。

軽EV『日産 サクラ』で「ジャパンEVラリー白馬」へ参加【後編】走りと充電をレポート

【レポート前編はこちら】
「ジャパンEVラリー白馬」の楽しみ方〜愛車の日産サクラで参加してきた(2023年8月3日)

EVに優しい白馬の宿の充電環境

白馬村は長年にわたってEVラリーの開催地となっている。地元にも村長以下、EVオーナーが少なくないようだ。そのため充電環境整備も頑張っている。2日目の表彰式で登壇した丸山俊郎村長は、来年度の予算にも充電器の刷新計画を組み込むと述べていた。現在、白馬村役場と道の駅に設置されているDC急速充電器の出力は25kW。高出力化や充電口数の増強を考えているそうだ。

道の駅白馬P急速充電器(2022年撮影)。今年度中にも高出力器への更新が検討されている。

高速道路やディーラーの高出力化にも追従する姿勢をみせているEVオーナーにとってありがたい自治体だ。自治体だけでなく、村内の宿泊施設が目的地充電設備の整備にも協力的である。前述したように、30か所以上のホテルやペンション、ロッジに200Vの普通充電器やEV充電用コンセントが設置されている。私が泊まった宿では充電時間自己申告制の有料(1時間100円~)だったが、機器の管理コストやサービス継続を考えるとリーズナブルな設定といえる。なお、この料金設定は実証実験中の値段だそうだ。

【関連記事】
白馬村でEV充電「自己申告課金」の実証実験開始~村長の宿泊施設も参加(2023年1月18日 )

筆者は2泊とも夜間にサクラの充電をさせてもらった。NissanConnectアプリはバッテリー残量とフル充電までのおよその時間を調べることができる。初日、2日目ともに残りが50%を少し下回った状態で(AC200V2.9kWで)5時間と表示された。

宿泊した「ミーティア」には普通充電器が2基設置されていた。昨年、3G回線の廃止で「Toyota Wallet」による課金に変更するかどうかの判断を迫られたそうだが、EVオーナーでもあるご主人の福島さんがToyota Walletを試してみて、あまりの使い勝手の悪さに辟易して通信での認証を断り暗証番号方式を採用。白馬EVクラブの仲間と「自己申告課金」の実証実験を立ち上げて、料金は1時間100円という設定で運用している。5時間を2回ほど行ったので、チェックアウト時に1000円を支払った。

ミーティアの普通充電器。Toyota Wallet 認証は採用せず、暗証番号を入れて充電する。

自己申告なので充電停止(プラグの挿抜)は自分が責任をもって行う。また、後ろに使う人がいる場合は、クルマの移動も自分で行う。今回、ほかにもラリーに参加するEVが複数台宿泊していたので、充電終了が夜中になったケースでもケーブルを抜いて車両を移動しておいた。

後続がいなければ車の移動までしなくていいだろうが、充電時間の自己申告はきちんと行ってほしい。というのは白馬村の宿泊施設の充電設備は、実証実験中でもある。充電時間の虚偽申告があるようだと面倒なルールを導入せざるを得なくなり、白馬を訪れるEVオーナー全体のマイナスとなる。

ストレスフリーな充電環境の理由

前述のように、ミーティアの充電器はToyota Wallet対応機種だ。このタイプの充電器は、かつてJTBが斡旋したこともあり全国各地の宿泊施設に多いが、auの3G回線廃止とともに従来のeMPカード認証ができなくなってToyota Walletを導入した経緯がある。

ところが、Toyota Wallet決済用のカードはトヨタファイナンス系に制限されており、非常に使い勝手が悪い。トヨタ系カード(TS3カード)以外でも、アプリのインストールとチャージは可能だが、トヨタ系カード経由の決済となるため他社カードはアプリ上で暗証番号等の認証が必要になる。これが充電器の前での設定となるとトラブルとストレスの元だ。また、他社カードや銀行口座と連携させる場合は、純粋なカード決済ではなくウォレットにチャージして決済する仕組みになっている。チャージした金額は他の口座やカードに移動できないので、端数の無駄がでやすい。

今回筆者が簡単に充電できたのは宿の配慮により、宿のスタッフが暗証番号で認証してくれる運用だったからだ。充電開始には宿のスタッフに立ち会ってもらう必要があるが、操作は任せられるのでストレスフリーで充電ができた。

筆者もToyota Wallet機で苦労した経験があるので、ミーティアの方式は快適だった。料金設定は宿によってばらつきがでてもかまわない。宿泊客は簡単に、確実に充電できることを求めている。

本来これは自動車メーカーや充電器メーカー、充電プロバイダーが対処すべきことだ。今後、充電器の大出力化が進むほどに従量課金が必要となるだろう。現状のほとんどの充電設備は時間課金となっているが、バッテリー容量、車両側の充電能力、充電器側の出力が多様化する中、同じ時間で充電できる電力量の差が顕著になり不公平感もでている。米国ではNACS(テスラ方式:従量課金、車体認証、満充電超過課金あり)がデファクトスタンダードになろうとしている。

国内車両メーカー、充電器メーカー、eMP含む充電ネットワーク・プロバイダーには、せめてどのクレジットカードでも手軽に決済できるようにしてほしい。

同様な意見は2日目午前中に開催された「EVミーティング」でも出されていた。なお、その席には充電器メーカーや充電ネットワークの関係者も参加して、参加者やモデレータと意見交換を行っていた。もちろん彼らも問題は認識している。改善には取り組んでいるとのことだ。上記は批判ではなくユーザーの意見としてぜひ今後の取り組みの参考にしてほしい。

長距離こそ電費が落ちないサクラの性能を実感

最後に今回のサクラの行程(アイテナリー)についてまとめておく。夏場で冷房をそれなりに使っていたにもかかわらず、3日間の平均電費は9.1km/kWhだった。走行距離は3日間で675.5kmだった。走行ルートは往路と復路で違う道を選んだ。往路は川崎の自宅から環八、関越道、上信越道、長野道を使った。復路は白馬村をそのまま南下し長野道から中央道、圏央道、東名高速を経由して帰宅。

日付走行距離電費急速充電回数普通充電回数充電場所備考
7月21日288.7km8.6km/kWh31嵐山PA/横川SA/姨捨SA/ミーティア(AC)関越・上信越道経由
7月22日78.6km8.7km/kWh01ミーティア白馬村周辺
7月23日308.2km10.0km/kWh30梓川SA/八ヶ岳PA/談合坂SA長野道・中央自動車道・東名高速

エアコンは普通に利用したが、日が落ちた白馬村周辺(標高700〜800mほど)は過ごしやすいので、エアコンをOFFにして窓を開けるタイミングもあった。

高速道路ではプロパイロットを多用した。設定は80~90km/h。右車線はほとんど使わない。追従型のクルーズコントロールは長時間一定速度の走行を続けても疲れない。充電ごとにじっくり休憩がとれるので、つなぎの区間は一定速度で距離を稼ぐことができる。

プロパイロットがない車だと、同じ速度を維持しながら長時間の運転は単調となり眠気も感じやすい(自分の場合とくに)。速度にメリハリをつけた走行になるが、アベレージスピードとしては100km/h以上を出すことは難しい。個人差や好みがあるので絶対とは言わないが、自分の場合は、高速道路はプロパイロットにまかせて、自分はなるべく「運転しない」(主にアクセル操作について)スタイルがあっている。

バッテリーが小さい(20kWh)のサクラは、猛暑にもかかわらず安定した充電性能を示した。といってもサクラの場合、どんなDC急速充電器でも30分で最大10kWhくらいしか入らない。今回は30分あたり8kWh前後をキープしていた。

残量が50%を切ったくらいで次の充電場所を探し始めて30~40%台からのスタートで80~90%まで回復する。80%くらいあると走行可能距離は120~140キロくらいになるが、実績として100キロほどの走行を充電でつないでいく感じだ。今回の猛暑の高速道路でもこのルールは適用できた。

姥捨PAで充電中。

往路はナビの設定が距離優先となっており、関越道の花園ICを一度降りて上信越道の吉井ICで再び高速に乗るというルートになっていた。気づかずに花園ICを降りてしまったので、そのままナビの指示に従った。長野道では、更埴ICで降りるはずが、今度は標識を見誤り出口をパスしてしまった。麻績ICから県道55号などを使い白馬村までの移動となった。初日3回目の急速充電が姥捨PAになっているのはそのためだ。

山道でも軽快なサクラの走り

なお、軽自動車とはいえ200Nmのトルクを誇るサクラは、長野のワインディングや峠道でも非常に軽快に走ってくれる。山道をもっと軽快に駆け抜けるにはもう少しダンパー(ショックアブソーバー)を硬くしてもよいと感じたが、EV特有の低重心のせいかS字なども安定していて安心感がある。なにより上り坂でエンジンがうなるようなこともなく、アクセルペダルに妙な力をいれなくても安定して走ってくれる。

サクラの場合、回生ブレーキによるバッテリーの回復は感覚的にはリーフより劣る。復路の中央自動車道の下り坂ではバッテリーの残量が増えることはなかった。ただし、消耗はそれなりに抑えられていたのだろう。復路の電費は春先のエアコンを使わないときと同じくらいの10km/kWhという数字だった。

標高約1500mまで駆け上る黒菱スカイラインでは、5kmほどの上り坂でおよそ15%を消耗した。帰りの下りでは5%ほど残量が戻った。回生ブレーキの減速感はリーフより大きいくらいなのだが、出力が小さいモーターのせいか、バッテリー容量のわりには回復量が多くない印象だ。

黒菱スカイラインのワインディングもサクラは軽快に駆け上った。

今回サクラで670km以上のドライブを経験した。一度の用事での距離としてはサクラで最長の移動距離(500kmの移動は経験済み)だが、EVラリー白馬にももっと遠くから参加する人も少なくない。話を聞いた範囲では、福島県からという人がいた。岡山県倉敷市からの参加者が2名もいた。しかもi-MiEVでの参加だという。倉敷市は三菱自動車の水島製作所がある。この工場はi-MiEVが生まれた場所でもある。

日本でもようやくEVの種類が増えてきた。EVについては充電や航続距離を気にする声をよく聞く。しかし、オーナーにしてみれば長距離移動での充電さえ楽しみのひとつになりえる(と言ったら言い過ぎだろうか)。少なくとも、車両ごと、オーナーごとにEVの楽しみ方は存在する。EVラリー白馬では、そのことを再認識することができた。

取材・文/中尾 真二

この記事のコメント(新着順)2件

  1. 江部広治 さま、コメントありがとうございます。

    サクラやeKクロスEVなどバッテリー容量20kWhのEVでちょっと遠出は、慣れるとなかなか楽しいです。ただ、ご指摘のように電費良く走る方がラクなので、高速道路での巡航速度は流れを見ながら80〜90km/h程度がオススメですね。
    のんびり走る時「軽自動車だもんね」と、走行車線をまったり走っていても気が楽なところもメリットだと感じます。
    エンジン車を置き換えるだけでなく、EVならではの走り方。いろんな記事でこれからもお伝えしていきたいと思っています。

  2. 電費や回生ブレーキ感覚のレポート、ありがとうございます。あの山越えルートで3日間の平均電費9.1km/kWhとは、素晴らしいの一言です。低電費なのでバッテリー容量20kwh車でも長距離に使えるんですね。驚きです。(リーフ30kWhオーナだったのですが、ザックリと同じようなルートで登り4-6km/kWh 下り9km/kWh ぐらいだったと思います。90km間隔での充電というイメージでした)また、宿等では普通充電器が多いので一晩で充電できる充電量には上限があります。その場合には低電費車のほうが走行可能距離の回復量が大きくなりますね。長距離用EVではバッテリー容量の大きさが重要視されがちですが、このレポートは電費の重要性を改めて示している感じがあります。

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					中尾 真二

中尾 真二

アスキー(現KADOKAWA)、オライリー・ジャパンの技術書籍の企画・編集を経て独立。「レスポンス」「ダイヤモンドオンライン」「エコノミスト」「ビジネス+IT」などWebメディアを中心に取材・執筆活動を展開。エレクトロニクス、コンピュータのバックグラウンドを活かし、セキュリティ、オートモーティブ、教育関係と幅広いメディアをカバーする。インターネットは、商用解放される前の学術ネットワークの時代から使っている。

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