ポルシェ初の完全電気自動車『タイカン』をワールドプレミアで発表。第一印象は「すごいっ!」

2019年9月4日、ポルシェが初めてのBEV=純電気自動車となる『タイカン(Taycan)』のワールドプレミアを開催。その全貌が明らかになりました。発表会はドイツ(欧州)、中国(アジア)、カナダ(北米)の世界3カ所で同時開催。全世界にストリーミングライブで配信されました。

ポルシェ初の完全電気自動車『タイカン(Taycan)』をワールドプレミアで発表。第一印象は「すごいっ!」

会場選びにもサステイナブルをアピール

ライブ配信されたワールドプレミアの様子は、YouTubeのポルシェチャンネルでアーカイブされています。

World Premiere Porsche Taycan

日本時間22時からと伝えられていましたが、実際に始まったのは22時50分過ぎ。地球儀が回転するカウントダウンが始まって、あと3分! となったところで突然会場前にMC(Mark Webber氏)が立ち「あと3分だぜ!」と宣言するなど、期待感を盛り上げる演出は「気合い入ってるな」という印象でした。

ストリーミングからのキャプチャ画像です。

今回の発表会は世界で3カ所で同時開催されました。ドイツ本国ベルリン近郊の太陽光発電所。中国、福建省の風力発電所。そして、北米はナイアガラの滝の水力発電所、アメリカとカナダ国境に位置するため会場はカナダに設定されました。

ドイツ

中国

カナダ

自然エネルギー発電所を会場に選定したことには、純電気自動車であるタイカンがサステイナブル(Sustainable=持続可能)なスポーツカーであることを強調する意図があることは明らかです。

会場の3カ所について、ポルシェのグローバルニュースルームでは「最も重要な販売市場は3つの大陸」として「北米、中国、ヨーロッパ」であるとしています。やむを得ないこととはいえ「アジア」ではなく「中国」となってしまうあたりは、世界の中で、そしてEVの世界で、日本のプレゼンスがどんどん希薄になっていることを突きつけられるようで、日本人としてはちょっと寂しい気持ちにもなったりして……。

“This day marks the start of a new era.”
ベルリン会場で登壇したポルシェAGの経営責任者である Oliver Blume氏は「今日は新しい時代の始まりです」と宣言。2022年までに、ポルシェは電気自動車に60億ユーロ(約7000億円)以上を投資することも明示されました。

気になる価格やスペックは?

今回デビューしたのは、タイカンのなかでも上位モデルと位置づけられる「ターボ」と「ターボS」の2車種。ちなみに「ターボ」といっても、エンジン車のターボチャージャーを搭載しているわけではありません。「ターボの呼称はポルシェの最高峰車種であることを意味していて、社内では『ターボ』のことを『トップ』と呼ぶこともある」(ポルシェジャパン広報ご担当者)ということで、タイカンの最高峰車種であることを意味しています。

「ターボS」のドイツでの価格は18万5456ユーロ(約2180万円)〜。「ターボ」が15万2136ユーロ(約1790万円)〜と発表されました。アメリカの価格を確認してみると、ターボSが18万5000ドル(約1972万円)〜、ターボが15万900ドル(約1609万円)〜となっていました。試しにアメリカサイトのコンフィギュレーターでターボを選び、ブレーキのアップグレードとかチョイスしてみた見積価格は18万7420ドル。くぅぅ、痺れる値段です。

スペックなどについては、まずプレスリリースでわかりやすい画像にまとめられていたので、それをご紹介しておきましょう。

これはターボSのデータです。ターボとターボSを並べた表にしてみました。

TurboTurbo S
価格15万2136ユーロ〜18万5456ユーロ〜
最高出力500kW/680PS560kW/761PS
最大トルク850Nm1050Nm
全長4963mm4963mm
全幅(ミラー抜き)1966mm1966mm
全幅(ミラー込)2144mm2144mm
全高1381mm1381mm
車重2305kg2295kg
総電池容量93.4kWh93.4kWh
実質電池容量83.7kWh83.7kWh
航続距離(WLTP)381-450km388-412km
最高速度260km/h260km/h
0-100km/h3.2秒2.8秒
0-200kn/h10.6秒9.8秒
80-120km/h1.9秒1.7秒
タイヤサイズ(前輪)245/40 R20265/35 ZR21
タイヤサイズ(後輪)285/40 R20305/35 ZR21

タイヤサイズが「305/35」とか「ターボは680馬力しかないのか」とつい感じてしまうあたり、苦笑レベルのスペックです。

航続距離については、アメリカのサイトでもEPA値は示されていなかったので、正式に発表されたWLTP値を記入しています。EPA値がWLTP(WLTC)の8割程度だとすると、ターボで約360km、ターボSで約330kmと推定できます。

ワールドプレミアの中では、先日の記事『ポルシェ「タイカン」がニュルブルクリンクで7分42秒を記録』でも紹介したニュルブルクリンクでの4ドア市販EV最速記録や、南イタリア・ナルドのテストで記録した「24時間で3425kmを走破」といったことにも触れられていました。やはり、タイカンが今までにないEVスポーツカーであることを実証するために、ポルシェにとっては不可欠なテストだったということでしょう。

以下、発表されたタイカンの全貌について、注目ポイントをチェックしておきます。

モデルのバリエーションを順次追加。
今回発表されたのは上位モデルのターボとターボSですが、年内にはAWDのベースモデルが、2020年にはSUV仕様の「クロスツーリスモ」が追加されることにも言及。ベースモデルの価格は、はたしていくらくらいになるのでしょうか。

システム電圧は800V。
かねて発表されていたように、タイカンのEVシステム電圧は従来普及している400Vではなく800V。急速充電時の受容可能な最大出力は270kWであることが正式に発表されました。自宅などでの普通充電でも最大11kWのAC充電が可能です。ただし、日本では電力供給に関する法律の関係で、800Vでの急速充電には対応できない(その仕様の急速充電器が設置できない)見込みです。11kW(200Vで55A)の普通充電が可能な受電契約になっている家庭もほとんどないでしょう。

電費は、26kWh/100km。
電池容量にグロスとネットの表記があってわかりにくいですが、要するに、搭載電池容量の10%程度は電池寿命を考慮したマージンとして確保してあり、実際に走行に使用する電池容量は83.7kWhだけということなのでしょう。電費については、ターボで「26kWh/100km」、ターボSで「26.9kWh/100km」であることが示されました。

26kWh/100km ということは、約3.8km/kWh です。ポルシェに電費(燃費)を求めるニーズは少ないでしょうが、はっきりいって「悪い」です。ハイパワーということは、電力を一気に放出する性能に優れているということであり、電費が二の次になるのはしょうがないところもあるのでしょうが。ちなみに、テスラモデルSでEVsmartブログチームの安川氏が東京-淡路を実走(2015年11月)した際の電費は約5.6km/kWh(631km/113.3kWh)。先月、私がジャガーアイペイスで東京-兵庫を往復した際の電費はおおむね5km/kWhでした。タイカンの実用電費がどの程度なのかは気になるところです。

2速トランスミッションを採用。
ターボ、ターボSともに前後車軸を駆動する2モーターAWD(全輪駆動)のメカニズム。一般に電気自動車は低回転で強いトルクを発揮するのでトランスミッションは不要とされていますが、タイカンには「2速トランスミッション」が採用されました。発進時加速を重視した1速と、高速域での高効率とパワーを保つための2速。電気モーターは高回転になると出力が落ちる特性があるので、2速トランスミッションの採用はことに高速走行時の性能を引き上げるための選択だと考えられます。

運転モードは4パターン。
用意されている運転モードは、「Range」「Normal」「Sport」「Sport Plus」の4種類。また、好みに応じて設定できる「individual」モード(機能?)が用意されているそうです。試乗してみないと何とも言えませんが、きっと「Range」モードでも十分にパワフルなんだと想像します。日産リーフのエコモードはもったり感が強烈ですが、先日乗ったアイペイスのエコモードは、エアコンが自動で停止したりするものの、走りの印象はさほどスポイルされない印象でした。

ブレーキの90%は回生ブレーキ。
2つのモーターは両方とも回生システムを備えており、ポルシェが行ってきたテストによると、日常的な運転の場合ブレーキを操作した際の停止力の90%は回生ブレーキによるもので、油圧式ディスクブレーキへの負荷が少ないことも示されました。

ポルシェデザインのDNAを継承。
エクステリアデザインについては「紛れもないポルシェデザインのDNAを継承」していることが強調されました。たしかに、4ドアとはいえシャープでスポーティな印象が鮮烈です。 Cd値は0.22と空力性能も申し分ありません。

前後にラゲッジスペース。
リアのラゲッジスペース容量は366ℓ。フロントにも81ℓの収納スペースを備えています。

レザーフリーのインテリアも用意。
インテリアにはリサイクル素材を使い、ポルシェ初となる「レザーフリー(皮革不使用)」のインテリアが用意されています。センターコンソール上には10.9インチのモニターを配置。助手席ディスプレイ(オプション)も用意され「従来のハードウェアコントロールの数が大幅に削減」されたことが強調されました。また「『Hey Porsche』コマンドに応答する音声制御機能を備えています。

日本では年内発表、2020年に発売予定!

こうして記事を書いていると、ますます「タイカン欲しいっ!」という気持ちがふつふつします。ただし、ポルシェジャパンのウェブサイトを訪れても、まだタイカンの予約や見積はできません。日本での価格も未定のまま。

日本では年内に発表、発売は2020年であることがすでに公表されています。

タイカンのキャッチフレーズは「Soul, electrified.」=「魂の電化」です。きっと、EVsmartブログ読者の魂はすでに「電化」済みですね。自分がほんとに買えるかどうかはさておいて、タイカンが日本の道を駆ける日が楽しみです。

(寄本好則)

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この記事の著者


					寄本 好則

寄本 好則

兵庫県但馬地方出身。旅雑誌などを経て『週刊SPA!』や『日経エンタテインメント!』の連載などライターとして活動しつつ編集プロダクションを主宰。近年はウェブメディアを中心に電気自動車と環境&社会課題を中心とした取材と情報発信を展開している。剣道四段。著書に『電気自動車で幸せになる』『EV時代の夜明け』(Kindle)『旬紀行―「とびきり」を味わうためだけの旅』(扶桑社)などがある。日本EVクラブのメンバーとして、2013年にはEVスーパーセブンで日本一周急速充電の旅を達成した。

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