ハイパー電気自動車『ロータス エヴァイヤ(Evija)』が最初で最後? の日本上陸!

2019年9月8日、イギリスのロータス(Lotus)がフル電動ハイパーカー『エヴァイヤ(Evija)』を富士スピードウェイで発表しました。もちろん完全な電気自動車(BEV)です。7月16日にロンドンで世界初公開。8月15日にアメリカで開催されたモントレー・カー・ウィークからワールドツアーが開始されて今回の日本上陸も実現。この後はすぐにドバイへ旅立つそうです。

ハイパー電気自動車『ロータス エヴァイヤ(Evija)』が最初で最後(?)の日本上陸!

130台限定。価格は約2億5000万円

この日、富士スピードウェイ(静岡県小山町)ではロータスオーナーが集結する『JAPAN LOTUS DAY 2019』を開催。エヴァイヤはピットビル内の特設会場で午前中にメディア向けの発表会とフォトセッションが行われ、午後は一般参加者に公開されました。

アンヴェールの瞬間。

さて、どんなEVなのか。まずは端的に主要諸元を列記します。

Lotus Evija 主要諸元(目標値)

主要諸元または目標値
モデル名Lotus Evija(ロータス エヴァイヤ)
開発ナンバーType 130
パワートレインフル電動、4WD
最高出力2000PS(約1492kW)
最大トルク1700Nm(173.3kgm)※トルクベクタリング作動時
総電力量70kWh
0-100km/h 加速3秒以下
0-300km/h 加速9秒以下
最高速度200mph(約320km/h)以上
最大航続距離約250マイル(約400km)※WLTP
車重1680kg
全長/全幅/全高4459/2000/1122(mm)
価格180万〜200万英ポンド(約2億3600万〜2億6700万円)
予約方法25万ポンド(約3280万円 ※返金可)の予約金で生産枠を確保
生産開始2020年

先日、ポルシェ『タイカン』の2000万円超えに深いため息をついたばかりですが、エヴァイヤは軽く2億円超え。庶民としてはF1マシンを見ているようなものですが、LCI株式会社(ロータスの日本総代理店)営業ご担当者によると「アメリカでの発表会ですでに11台の予約が入った」そうです。ドバイでもきっと売れるのでしょう。

「Type130」というのは、70年以上の歴史の中でロータスが開発するロード&レースカーに与えられてきたプロジェクトコードナンバーで、この数字にちなんで生産台数を130台限定としたそうです。

発表会の中で、エヴァイヤという名前には「最初の存在」あるいは「命あるもの」という意味が込められており、ロータスの未来を象徴するマシンであることが強調されました。とはいえ、ロータスが今後EVスポーツカーにフォーカスしていくということではなく「ICEとともにEVをパワートレインのひとつとしてバランス良く取り組んでいく」とのこと。「たとえば、Elise EV のような、もう少し普通の人にも手が届くEVスポーツカーの発売計画は?」と尋ねると、「もちろん開発していくことになるけど、まだ時期などは明言する段階じゃない」ということでした。

電池は床下ではなくミッドシップレイアウトで搭載

今回、日本に上陸した実車もいわばまだモックアップ状態で、実際の走りを披露したわけではありません。出力やパフォーマンスも「目標値」だし、2億円超えのクルマのスペックに細かく突っ込むのも空しいので、発表会の内容と実車を目にして感じた私なりの「発見」を、いくつかレポートしたいと思います。

インアクスルモーターの電気駆動ユニットを前後に配置

発表会の中でパワーユニットの写真が紹介されました。電池はエリーゼベースのテスラ初代ロードスターと同様にミッドシップレイアウトで搭載。前後に配置されている白っぽい筒状のパーツは、それぞれ2つのモーターとインバーター、遊星歯車機構のギアボックスが納められた電気駆動ユニットです。

電気自動車開発では「インホイルモーター」の可能性が議論されてきましたが、これはいわば「インアクスル(車軸)モーター」。1台のクルマに4つのモーターを使う贅沢仕様ではありますが、EVならではのメカニズムとして、何か面白い仕組みのヒントになりそうな気もします。左右モーターの回転数を制御して、小さな半径でクルクル回る、みたいな。

ちなみに、モーター1基あたりの目標出力は500PS。これだけでも「今までにロータスが作ったどのロードカー1台分よりも大きな出力」を誇るそうです。つまり、ロータス史上最強のガソリンエンジンを4基積んでるようなもの。EVだからこそ実現できたモンスターマシンといえますね。

デザインの重要なコンセプトはポロシティ(多孔性)

プレゼンテーション中にボディの「孔」を指し示しながら熱弁を振るうデザインご担当者。

デザインのポイントとして何度も強調されたのが「ポロシティ(多孔性)」というコンセプトワードでした。EVのパワートレインがシンプルであることを活かして、大胆に車体の内部を空気が通り抜けるデザインが可能となり、電池の温度マネージメントに役立ち、驚異的なダウンフォースを生み出すことができた、そうです。

コックピット内のフロント部分やセンターコンソールも、大きなパネルがべたっと空間を埋めるのではなく「スポーツサイクルのような」ステーが組み合わされた構造になっていて、ポロシティのコンセプトを体現するとともに、軽量化に役立っています。

コックピット。フロント部分などがステー構造になってます。床がフラットじゃない理由は聞き忘れました。

ドアミラーは、ない!

外観の写真、もう一度じっくり見てください。何か気付きませんか? そうです。ドアミラーがありません。

走行時にはドア前方(かなり低い位置)からカメラが飛び出してきて、ドアパネル内側のモニタに映像が表示されます。バックミラー(ルームミラー)も、後方のカメラ映像を映し出すモニターになっています。

HONDA e もそうですが、ミラーをカメラ&モニターに置き換えていくのは、これから開発されるEVのトレンドになっていくのかも知れません。もうカメラ&モニターのコストは低廉化してるでしょうし、取り付け位置などの制約が少なくてデザインの自由度が増し画期的なデザインが生まれるとか、カメラ映像から人や障害物を検知して警告するみたいな機能を加えることができるのでは、とも思います。

800kWの急速充電に対応可能!

急速充電口はリア中央にありました。カバーは電動で開きます。

この車両に用意されていた受け口は欧州規格のコンボ2のみ。コンボ(CCS)規格では普通充電と急速充電のコネクタを一体化してるので、J1772など普通充電規格のプラグを差し込む口はありませんでした。ちゃんと確認しませんでしたが、このクルマは「1台ずつカスタマーの要望に合わせて手作りする」そうですし、CHAdeMO対応の場合、おそらく普通充電の受け口もここに取り付けられるのだと思います。既存の市販車では急速充電と普通充電の口がまったく別の場所にあるケースも多いですが、このクルマには他にそんな余計な穴は見当たりませんでした。

CHAdeMO協議会の会員にロータスの社名を見た記憶はなかったので「日本の顧客が買ったらCHAdeMO対応できるのか?」と挙手して質問したら、エンジニアリング担当の方から「今は世界で規格がバラバラだけど、そのうちコンボ2になるから大丈夫!」的な返事でちょっと面くらいましたが、LCIの営業担当の方と立ち話したら「CHAdeMO協議会に加盟するなどして対応できるよう本国に日本の状況を説明します」とおっしゃってました。

搭載する電池の規格やケミカル、また電池をどこで調達、もしくは製造するかといった詳細の説明はありませんでしたが、今回採用する電池は「Williams Advanced Engineering との提携によって出力800kWの急速充電にも対応できる」とのこと。欧州では350kWの急速充電設備の整備が始まっていますが、さすがにまだ800kWは存在しません。もし800kWの急速充電器が製品化されれば「わずか9分でフル充電できる」という説明もありました。

いずれにしても、日本ではCHAdeMOの新規格でも150kWとされてるし、800kWという超高出力な急速充電器が普及する可能性はゼロに近いと思うので、日本人としてはあまり関係ない性能ということになります。性能に余裕をもって急速充電できるから、きっと日本で使われるエヴァイヤは電池劣化が少なくて済むでしょう。

Williams Advanced Engineering は、フォーミュラEに参戦する全チームに共通化されていた2017−2018シーズンまでのバッテリーサプライヤーです。フォーミュラEのフィードバックが満載であることは間違いないでしょう。購入後にはロータスを通じてウィリアムズのサポートを受けられることも想像できます。130台限定のエヴァイヤを購入する2億5000万円は、130席限定の世界選手権参戦シートを手にする対価と考えていいのかも知れません。

発表会の中で、エヴァイヤの開発は親会社となった中国ジーリー(吉利汽車)の意思でもあるといった説明があったように、ジーリーにはロータスを「EV界のフェラーリ」としての付加価値をもったブランドに育てたい思いもあるようです。そう考えると、エヴァイヤは先出しの「F50」みたいなモデルということですね。そこに、2億5000万の投資価値があるかどうか、私にはとても判断できないですけど。

エヴァイヤを買うのは、どんな人?

どのようなカスタマーを想定しているかという説明もありました。ご担当者が語った、エヴァイヤにふさわしいカスタマーの条件を列記しておきます。

● すでに多くの自動車を所有している。
● EVもすでに所有していることでしょう。
● 自動車に詳しく、EVの知識も豊富。
● 先進的でイノベーティブな方。

いかがでしょう? 「すでに多くの自動車を所有している」を「所有してきた」に拡大解釈して自己採点でちょっと甘く採点すれば、私もエヴァイヤにふさわしいカスタマーの条件を満たすことはできます。そうですね。「200万ポンドの自動車をポンと買える方」という、最も大切な条件が抜けています。言うまでも無い、ということなんでしょうけど。

130台のエヴァイヤは、全てそれぞれの顧客の要望に細かく答えながら、ロータスの本拠地であるイングランドのヘセルのファクトリーで、1台1台手作りされるそうです。そういえば、テスラ初代ロードスターの組立もヘセルの工場で行われたはず。ロードスター製造の歴史から得た何らかのノウハウも、今後ロータスのEV製造に受け継がれていくのかも知れません。

また「カスタマーにはロータスの経験豊富なテストドライバーによるドライビングレッスンを受けることをお勧めする」そうです。たしかに、2000馬力のEVでポンと街に飛び出すのは危ないですね。

リアのタイヤサイズは「325/30 ZR21」、フロントは「265/35 ZR20」でした。ピレリP0の特注とのこと。エコタイヤ? ちっとも話に出ませんでした。
ラゲッジルームは無し。左右ドアの後ろ側に、ボタンを押すと飛び出してくるカーボンケースが用意されているそうです。試作車なのでこれはまだ動かず、ボックスの大きさはわかりませんでした。
ドライブモードはアナログなダイヤルで切り替え。ステアリングの形状といい、まるでフォーミュラレースやルマンのマシンのテイストです。
大画面液晶モニタ採用の風潮を蹴り返すロータスの矜持を感じるとでも言おうか、液晶表示だけどシンプルなメーターパネル。
ガルウィングドアを開いたところ。ドアは電動です。いい意味でかっこいいクワガタムシっぽくて、まじで空を飛べちゃいそうな印象です。

エヴァイヤの日本上陸は「最初で最後」?

冒頭でも紹介したように、この日は年に一度の『JAPAN LOTUS DAY』が開催されていて、エヴァイヤのメディア向け説明会が行われている間にも、コース上では全国から集まったロータスオーナーのみなさんがエキゾーストノートを響かせていました。

ピットビル前の広い駐車場に、エリーゼはもちろん、ヨーロッパやセブン、エランなどのヘリテージカーを交えたピカピカのロータス車がずらりと並んでいるのは壮観。ピットでサーキット走行の準備をするオーナーさんたちの表情も、とても楽しそうでした。こういう光景を見ていると、エンジンによるモータースポーツ文化の価値を改めて感じます。

午後からは参加者のみなさんにもエヴァイヤが一般公開されることになっていたので、会場内では「必見です!」的なアナウンスが何度もされていたのですが、その度にMCの方が「エヴァイヤの日本上陸は、これが最初で最後になるかも」と繰り返していたのが印象的でした。つまり「日本には輸入されない=日本に住んでる人は誰も買えない」かも、ということです。

それはちょっと寂しいですね。

勝手にお名前を挙げて恐縮ですが、ソフトバンクの孫さんとか、ZOZOの前澤さんとか、テスラオーナーでもあるはずのベネッセの福武さんとか。。。 2億3億なんのそのっていう方が「エヴァイヤ購入!」というニュースを見るだけでも、いい夢を見られそうな気がします。

(寄本好則)

【参考】
LCIによるエヴァイヤ初披露のニュースページ

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この記事の著者


					寄本 好則

寄本 好則

兵庫県但馬地方出身。旅雑誌などを経て『週刊SPA!』や『日経エンタテインメント!』の連載などライターとして活動しつつ編集プロダクションを主宰。近年はウェブメディアを中心に電気自動車と環境&社会課題を中心とした取材と情報発信を展開している。剣道四段。著書に『電気自動車で幸せになる』『EV時代の夜明け』(Kindle)『旬紀行―「とびきり」を味わうためだけの旅』(扶桑社)などがある。日本EVクラブのメンバーとして、2013年にはEVスーパーセブンで日本一周急速充電の旅を達成した。

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