東名高速海老名SA上下線に90kW急速充電器増設〜NEXCO中日本に質問してみた

2020年7月、東名高速道路海老名SA上下線にそれぞれ3基目となる急速充電器が増設されました。増設された充電器の出力は90kW。待機スペースは3基の充電器共用で「縦一列」に変更。現地の様子を紹介するとともに、気になる点をNEXCO中日本にメールで質問してみました。

東名高速海老名SA上下線に90kW急速充電器増設〜NEXCO中日本に質問してみた

※冒頭写真は下り線の充電スペース。SAに入ってすぐの左手にあります。

90kW器の恩恵を受けられるのは……

全国のSA/PAに先駆けて2基目の急速充電器を設置したものの、休日の午後などには充電待ちになることもあった海老名SA(上下線)に、3基目の急速充電器が増設されました。増設されたのは、日産ディーラーを中心に増え始めている新電元の90kW器です。下り線は手前から2番目、上り線は一番手前が90kW器。そのほかに2基、従来同様の40kW器が設置されています。

海老名SA下り線の充電スペース。待機区画は3台分。

待機スペースは、3基の充電器共用で縦一列に変更されました。今までは2基の充電器それぞれに待機スペースがありました。タイミング悪く2基とも先客がいた場合など、どちらの後ろに付くかが悩みどころだったりしましたが、縦一列になったことで先に並んだ人から順番に空いた充電器を使うことができるようになります。

ただし、下り線は3基が連続して設置されていますが、上り線は1基だけ数10メートル先にあるので要注意。手前の待機スペースに先客が並んでいるからと、勘違いして先に進んでそっちに並んでしまうと「こっちが待機スペースだよ」とクレームになるでしょうし、逆行して戻るハメになります。

EVsmartブログでは今までにも様々な記事で「高速道路SA/PAへの急速充電器複数台設置が急務」と叫んできました。3基といわず、最低でも4基を基準に他のSA/PAにも複数台設置がさらに広がって欲しいところではありますが、まずは、東京都心から最寄りのSAである海老名に、高出力の3基目が設置されたことを喜びたいと思います。

90kW器のケーブルは太くてやや短めです。

40kW器のケーブルはこんな感じ。

PHEVは90kW器を使っても充電速度は変わらない

さて、海老名SAに立ち寄って、3基とも空いていた場合、みなさんはどの充電器を使いますか?

「空いているんだから、先着順でどれを使ってもいいでしょ」も正解ですが、電気自動車(EV)や急速充電可能なプラグインハイブリッド車(PHEV)のユーザーとして、基礎知識として知っておくべきことがあります。

それは、90kW器で高出力の恩恵を受けられるのは「日本国内で市販されているEVやPHEVの中では、日産リーフe+だけ」ということです。e+でこの高出力器を使えば、条件次第ではありますが最大出力70kW程度(車両側での制限がある)で充電することができます。

先に充電中だったe+。379V×176A=約67kW出ています。

でも、同じリーフでも40kWhのモデルや旧型リーフは、受け入れ可能な最大出力は50kWまで。あえて90kW器を使うメリットはあまりありません。ジャガーアイペイスやメルセデスベンツEQC、テスラ車などの輸入電気自動車も、チャデモ対応はしているものの、最大出力は50kWまでになっています。

さらに、三菱アウトランダーPHEVやトヨタプリウスPHVなど、急速充電可能なPHEVの場合、急速充電の受け入れ可能出力はおおむね20kW程度です。

ほかの2基の出力は40kWなので、e+以外の電気自動車でも90kW器を使えば最大の50kWで充電できる10kW分のアドバンテージはありますが、PHEVの場合は高出力器の恩恵はまったくないということを心にとめておきましょう。

【参考記事】
EVの航続距離が不安ならPHEV(プラグインハイブリッド=PHV)を選ぶのが賢明?(2020年4月23日)

上り線充電スペース。1基だけ少し離れて設置されています。

NEXCO中日本にメールで質問してみた

さて、なにはともあれ、NEXCO中日本がさらなる充電インフラ拡充に踏み出してくれたのはうれしいニュースです。はたして、これからぐんぐん急速充電器は増えていくのか。気になる点をメールで質問して、回答をいただくことができました。回答に対する編集部としてのコメントとともにご紹介します。

●今回、90kW 出力器を選択した理由は?

【回答】
EV のバッテリー容量の増大に合わせて高出力充電器対応EV 車が発表され、高出力充電器のニーズが高まることが予測されるため、90kW 出力器を選択設置しました。

【コメント】
前述のように、50kWを超える高出力に対応しているのは現状リーフe+だけ。年内の日本発売が期待される Honda e は欧州コンボ規格では100kWに対応しているので、チャデモでも100kWへの対応を期待したいところです。また、先日発表された日産アリアは130kWの高出力に対応します。

●草津PA のように「ケーブル2本出し」にしなかったのはなぜですか?

【回答】
EV充電用駐車スペースが、構造上縦列での駐車とならざるを得なかったため、1本出しとなっています。

【コメント】
2020年1月、NEXCO西日本が名神高速道路草津PA(上下線)に増設した90kW器は、ケーブルが2本出しで、並列で2台が同時に充電できる設置方法(参考記事はこちら)になっています。

現地で設置された実機を見ると、90kW器は40kW器に比べてケーブルがかなり短くなっています。90kW器のケーブルは従来の50kW以下のケーブルに比べて太くて重いし、損失などの関係から長さの制約もあるのでしょう。ともあれ、2本出しの場合、2台が同時に充電すると90kWを分割して使うことになりますが、海老名はケーブルが1本なので、高出力を独り占めできます。

●待機スペースが縦一列になった理由は?

【回答】
海老名SAでは充電利用者も多く、充電待ち車両が発生した際に、並んだ順で充電器をご利用いただけるように縦一列に変更しました。

【コメント】
さまざまなSA/PAごとに場所の制約はあるでしょうが、縦一列方式はとてもいいと思います。先客が必ずしも30分フルに充電するとは限らず、並列だと「先に並んだのに、あっちの方が早かった」なんてことが起こりがちなので。

上り線の充電スペースは出口寄り、GSの手前にあります。待機区画は2台分。

●今後、海老名SA にさらなる増設の計画はありますか?
●今後、他のSA/PA への増設計画があればご教示ください。

【回答】
今後の計画は現時点で公表できるものはありません。

【コメント】
「これからもどんどん増やしますよ!」的なポジティブなお返事を期待していたのですが、今後の計画についての質問には「公表できるものはない」と同じ回答でした。

改めて「どんどん増やしてください!」とお願いしておきます。

●増設を決める際、根拠としているデータなどがあればご教示ください。

【回答】
利用回数や現地の状況などを検討の上、増設を決めています。以下に中日本高速道路管内の利用回数を参考にお示しします。

中日本高速道路管内 利用回数全国Top10(充電機器単独)

道路名設置拠点年間利用回数基数
1東名高速道路海老名SA 上り約5000回2基
2東名高速道路海老名SA 下り約5000回2基
3東名高速道路足柄SA 下り約5000回2基
4東名阪自動車道御在所SA 下り約4000回1基
5東名阪自動車道御在所SA 上り約4000回1基
6東名高速道路足柄SA 上り約4000回2基
7新東名高速道路浜松SA 上り約4000回1基
8中央自動車道談合坂SA 下り約4000回2基
9新東名高速道路浜松SA 下り約4000回1基
10中央自動車道談合坂SA 上り約4000回2基

※「年間利用回数×基数」が当該SA/PAの全体利用回数となります。
※海老名の「基数」は今回増設前のもの。

【コメント】
上位3カ所は年間利用回数5000回、1日平均は約13.7回ということになるので、各30分利用されたとすると、1日のうち約7時間は充電器使用中ということになります。4位から10位までは約4000回で横並び。1日平均は約11回、1日約5.5時間が使用中。それぞれ、休日は平均の倍になると仮定すると、海老名上下線と足柄下りは1日のうち14時間は使用中。4位以下の場所は1日11時間は使用中という計算に。そりゃ、充電待ちが多発するわけです。

TOP10の中では、足柄や談合坂にもそれぞれすでに2基ずつ設置されていますが、浜松や御在所は50kWが1基のみ。あと、たとえば静岡とか、ロングドライブの中継点として頻繁に利用される人気SAには、1日も早く、できれば最低4基くらいをメドにした複数台設置を進めていただきたいと思います。

●深夜の海老名で、大型トラックが充電スペースを占拠して寝ているのに何度か遭遇したことがあります。また、ほかのSA/PAでも充電待機スペースにエンジン車が駐車していることは、もう当たり前になっています。このような状況に対して、何か具体的な対策などは実施、計画されていますか?

【回答】
EV急速充電器のご利用の案内につきましては、利用者の皆さまのモラルに頼らざるを得ない部分が大きいところであることから、弊社としてはマナーの啓発の促進として以下のような施策を実施させていただいております。
(1)EV急速充電器本体への張り紙による案内設置
(2)コンシェルジュによる館内放送による案内の実施

【コメント】
充電スペースを占拠しているエンジン車やトラックに「移動して」と言うのは、EVユーザーとしても嫌なものですよね。深刻なトラブルが起きないことを願っています。

はたして、充電待ちは緩和されるか?

海老名SAへの3基目増設は大歓迎。とはいえ、今まで2基の充電器がそれぞれ年間約5000回利用されていたということは、合計の利用回数は約1万回。3基になっても1基当たりの利用回数は約3300回程度となりますし、海老名は3基あるからという期待から、さらに利用率が上がるのではないかとも推察できます。

新型コロナの影響で、おそらくは東名の交通量も減ってるのだろうとは思いますが、この日も連休中だったとはいえ、早朝5時過ぎだった(実は前日、昼間行ってみようと思ったら東名が海老名ー川崎間15kmの大渋滞で断念しました)のに上り下りともに先客と遭遇しました。はたして、お盆の交通集中時など、期待通りの充電待ち緩和の効果が発揮されるのかどうか、気になります。

ちなみに、上り線の90kW器が故障中でした。これも悩ましいんだよなぁ。

(取材・文/寄本 好則)

この記事のコメント(新着順)5件

  1. 以前i-MiEV(M)10.5kWhで東名浜松SAの充電をしようとしたら先客(40kWhリーフ)に20分待たされた経験があります…1台しかないからしゃーないですが、SA各駅停車必須のi-MiEV(M)ではツライっすわホンマ(もっとも自作した意思表示カードで場を和ませはしましたが!)
    その浜松SA上りが年間4000回ですか…ここなら90kW2口があってもおかしくはないですよね。ただ今後を考えれば先行投資で200kW3~4口でもよさそうな気がします、というのも充電インフラが10年スパンで更新となれば大容量EVも想定せねばなりませんので。
    さらに小容量でも大電流吸収タイプの蓄電池が使われる可能性がありますよ。すでにi-MiEV(M)搭載の東芝SCiBがEV通に人気を博していますから(僕もその一人w)

  2. 2020/07/17に一般社団法人次世代自動車振興センターより発表された「電気自動車・プラグインハイブリッド自動車の充電インフラ整備事業費補助金」 公募兼交付申請 採択結果のお知らせによれば、「東名阪自動車道 大山田パーキングエリア上り線・下り線」が対象として上がっていました。
    東名阪自動車道 御在所SAの近くですので、少しは充電渋滞が分散されるのではないかと思います。

    1. Eddy さん、コメント&情報ありがとうございます。

      なるほど、NEVの採択結果ですね。遡ってみると、海老名上下線は西日本管内の草津などと同時に、昨年7月に採択されてますね。
      採択から約1年、そして、その後は、、、ということは、当面、高速道路SA/PAの劇的な拡充は見込めないということか。。。日産がアリアデビューに向けて自腹でも150kW器を増強! に期待?

  3. 大変興味深いデータありがとうございます。

    高速道路上の充電器に関して、先日の日産アリアのワールドプレミアにおける、「21年度までに150kW級急速充電を公共性の高いエリアに順次設置していく」、という趣旨の発言がSA・PAのことを指していることを個人的には願っています。
    現状の日産ディーラーの充電器をリプレイスするよりSA・PAに設置した方が結果的に、急速充電は出先、基本は自宅充電(もしくはそれに準ずるもの)という考え方が長期的に醸成されるのではないかと思うから(バッテリーの大容量化に伴い、ディーラーにわざわざいって50kW充電器で充電するとかなり時間がかかり不便になるから)です。
    また、日産の150kW級充電インフラ計画が今後どう展開されるのかについて、以前は日産を始めトヨタやホンダが出資者となってNCSが中心となって日本の充電網を整備してきましたが、これからはe-Mobility Powerが中心になるとはいえ、出資者に自動車メーカーが外れていますので、この辺りがどう絡んでくるのかが気になります。
    さらに上記に関連して付け加えると、充電課金制度にほ本格的に手をつけていくべきなのかなと思います。今後2−3年は高出力充電対応者=EVとして価値のある車、という認識が広まると思いますが、
    長期的には、シティコミューターなどの、通常は普通充電による運用で50kw充電対応車種、のような存在と二極化するのかなとは思いますので、
    語弊を恐れずにいうと、ZESP3のような規制の中でうまくやりくりするのではなく、やはり従量課金制も視野に入れる必要があるのではないかと感じました(テスラの出力に応じて金額を変えるというのも作戦の一つではありますね)。

    話が逸れてしまいましたが、一点確認なのですが、「中日本高速道路管内 利用回数全国Top10(充電機器単独)」、と記載されていますので、充電器が二機存在するSAは約二倍の回数利用されているという認識でよろしいんですよね?
    きちっと読めばわかることではあるのですが、この表だけが出回ってしまうと少し誤解が生じるとも思いました。
    例えば充電回数の欄に二機設置されている場合は、
    5000回(✖︎2機=10000回)
    のような記載方法ですと、一目でどのSAに複数台設置されているのかもわかるのかなと思いました。

    何れにしても興味深いデータですので、今後も東日本などにも機会がありましたらぜひインタビュー記事を期待しています!

    1. EV_Native さん、コメントありがとうございます。

      また、設置基数の件、おっしゃる通り、少々わかりづらいですね。表に設置基数を付記します。
      NEXCOへのインタビュー。今後、日本国内でどのように充電インフラの拡充が行われていくのかまだ未知数のところはありますが、日本各地のNEXCOが「設置場所」として重要な役割を担うことは間違いなく、ご担当部署がどのように構想してらっしゃるのかはEVsmartブログとしてもとても気になるところです。引き続き、ご期待に応えられる有意義な情報をお届けできるよう考えてみます。

      ありがとうございました。

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この記事の著者


					寄本 好則

寄本 好則

兵庫県但馬地方出身。旅雑誌などを経て『週刊SPA!』や『日経エンタテインメント!』の連載などライターとして活動しつつ編集プロダクションを主宰。近年はウェブメディアを中心に電気自動車と環境&社会課題を中心とした取材と情報発信を展開している。剣道四段。著書に『電気自動車で幸せになる』『EV時代の夜明け』(Kindle)『旬紀行―「とびきり」を味わうためだけの旅』(扶桑社)などがある。日本EVクラブのメンバーとして、2013年にはEVスーパーセブンで日本一周急速充電の旅を達成した。

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