フィアットが新型電気自動車『600e』を日本発売/54kWhで585万円〜補助金は65万円

ステランティスジャパンがFiat(フィアット)ブランドで1年半ぶりの新モデルとして、EVのコンパクトSUV『600e』の日本発売を発表しました。バッテリー容量は54kWhで価格は585万円(税込)。国のCEV補助金額は65万円となります。

フィアットが新型電気自動車『600e』を日本発売/54kWhで585万円〜補助金は65万円

ターゲットは500万円以上のクルマを買えるヤングファミリー

2024年9月10日(火)、ステランティスジャパンがフィアットブランドの新モデルとして、100%電気自動車のコンパクトSUV『600e(セイチェントイー)』のの本発売を発表しました。日本に導入されるのはフル装備の「La Prima(ラ・プリマ)」グレードのみとなり、搭載する駆動用バッテリーの容量は54kWh。価格は585万円で、国のCEV補助金は65万円。補助金を引いた実質価格は520万円となります。

バッテリー容量42kWhの『500e ICON』が553万円(補助金額は55万円で実質498万円)。サイズアップやSUVとしての使い勝手向上などを考えると、フィアットブランドに魅力を感じる方、500eをオマージュしたという「チコちゃん」風の目が印象的な顔を「カワイイ!」と感じる方には、お買い得なモデルといえるかも知れません。

ステランティスジャパンの打越晋社長は、ドルチェ・ヴィータや「500+100」といったコンセプトを熱弁。

一充電航続距離(WLTCモード)は、500eの335kmに対して493kmと大幅に増加。実用的には8割になると考えても約398kmで、おおむね400kmを一気に走りきる性能を実現しています。

発表会では、想定する顧客のペルソナについて「予算500万円以上」で「SUVの購入意向が高く」「外観やブランドを重視」する「ヤングファミリー」であることが説明されました。また、デザインなどには「DOLCE VITA(ドルチェ・ヴィータ=甘い生活)」というコンセプトが込められたことが強調されて、この日の発表会会場となった東京・世田谷区の二子玉川ライズが「ヤングファミリーが DOLCE VITA を楽しむエリアとして完璧」だからということでした。

想定した顧客ペルソナを説明するブランドマネージャーの熊崎陽子氏。

かわいい顔して、しっかりモノ

フィアットブランドチーフデザイナーのフランソワ・ルボワンヌ氏。

600eのキャッチフレーズは「かわいい顔して、しっかりモノ」。発表会にはフィアットブランドのチーフデザイナーであるフランソワ・ルボワンヌ氏が来日して登壇し、600eのデザインは、1956年から1969年にかけて約260万台が生産された初代600と、すでに日本でも発売されている500eをオマージュしつつ、優れた点を踏襲しながら古さを消してモダンな印象を表現したという思いを紹介しました。

プロダクトスペシャリストの児玉英之氏は、機能などを紹介。フィアットの看板モデルである500(eを含む)はよりコンパクトなAセグメントのモデルです。日本国内における自動車登録台数は「Bセグメント」が最大のボリュームゾーンであり、600eがフィアットブランドのユーザー層拡大に果たす役割に期待していることを説明。600eはコンパクトなボディサイズでありながらも、ラゲッジルームは360Lの大容量、センターコンソールに15Lの収納部を備えているなど、大きく便利な収納力を実現していることなどが解説されました。

プロダクトスペシャリストの児玉英之氏。

「500+100」、つまり看板モデルである「500」からさらに「100」の魅力を加えたモデルとすることを目指して開発されたという600e。ACC使用時に任意の位置を設定しステアリングを握ることで、その位置を維持する「レーンポジションアシスト機能」。運転席にシートマッサージ機能を備えた「アクティブランバーサポート」。キーを所持してリアバンパー下に足を入れるとトランクゲートが開く「ハンズフリーパワーリフトゲート」。キーを所持して車両から1m遠ざかると自動で施錠、3m以内に近付くとロック解除される「キーレスエントリー(プロキシミティセンサー付)」という4つの新機能が、フィアットブランドとして初めて採用されました。

細かな印象は試乗してみなければ評価できないですが、キャッチフレーズ通り、なかなか「しっかりモノ」という印象です。

ホイールやテールランプのデザインには、デジタル化を象徴するピクセルモチーフを採り入れている。

急速充電は最大50kW対応

500eはチャデモ急速充電と普通充電2口の大きな充電口を設けるとデザインが崩れるという理由で、充電口はCCS1規格。日本国内で主流のチャデモ急速充電を行うためには、コードレス掃除機のような専用アダプターが必要でした。600eはチャデモの充電口もしっかり装備。アダプターは使わずに急速充電を行うことが可能です。

充電性能は、普通充電(AC)が最大6kW。チャデモ急速充電は、最大で50kW(125A)対応ということでした。

せっかくの新モデル発売のお祝いに水を差すようで恐縮ですが、「急速充電最大50kW」というのはかなり残念です。EVsmartブログではさまざまな記事で繰り返しお伝えしているように、日本国内の急速充電インフラは高速SAPAなどを中心に、最大出力90kW以上の複数口化が進展。インフラ拡充を担う株式会社e-Mobility Powerでは、最大150kWのマルチタイプや、規制緩和を踏まえた最大350kW器の開発などを発表しています。

【関連記事】
eMPが高速道路SAPAのEV用高出力急速充電器増強を発表〜経路充電への不安は解消するか?(2024年4月22日)
e-Mobility Powerが最大350kWのEV急速充電器開発を発表〜気になるポイント徹底解説(2024年5月28日)

バッテリー容量54kWの600eで急速充電が必要なのは、おもにロングドライブ時の高速道路SAPAになるでしょう。たくさん並んだ90kWや150kW器を使っても、最大50kWでしか充電できないのは、今どきの新型EVとしては力不足と言うしかありません。

欧州などで発売されているCCS2対応の600eのスペックを確認してみると、最大100kWの急速充電が可能です。ステランティスが日本で発売しているBEVはおしなべて最大50kW対応であり、今回の600eにも共通のシステムが搭載されているということなのでしょうが。グループとしても久々の新型EV投入となったことですし、「急速充電は100kWに対応!」というアナウンスを聞きたかったというのが、正直な感想です。

ともあれ、600eがかわいくて魅力的な新型EVであることは、実車を見て確認することができました。発表会では「フィアットブランドとしての選択肢拡大」が示されました。EVユーザー的には「日本国内で買える市販EVの選択肢拡大」であることを喜びたいと思います。

ボディカラーは、太陽をイメージした「サンセットオレンジ」、空をイメージした「スカイブルー」、人気の「ホワイト」の3色を用意。

600eの日本デビューを記念して、9月10日(火)〜9月23日(月・祝)、今回の発表会会場でもあった二子玉川ライズで「FIAT CIAO 600e FESTA」が開催されるほか、600eのスペシャルサイトでは発売開始記念のプレゼントキャンペーン実施中。

来週あたり、試乗レポートもお届けできる予定です。お楽しみに!

FIAT 600e La Prima
全長×全幅×全高(mm)4,200×1,780×1,595
ホイールベース(mm)2,560
車両重量(kg)1,580
乗車定員(名)5
駆動方式FF
タイヤサイズ215/55 R18
最小回転半径 (m)5.3
モーター
型式ZK02
種類交流同期電動機
最高出力 kw(ps)/rpm115(156)/ 4,070-7,500
最大トルク270 / 500-4,060
バッテリー
種類リチウムイオン
電圧(V)3.68
容量(Ah)145
個数102
総電圧(V)375
総電力量(kWh)54.06
一充電走行距離(km)493
※WLTCモード

取材・文/寄本 好則

この記事のコメント(新着順)3件

  1. 満充電で400㎞走行が可能→20%で充電し80%で停止するとなれば
    実質走行可能距離は400㎞×0.6=240㎞ですか?
    ライターさん達が表記される走行可能距離と実質走行可能距離の差に、何時も違和感を感じます。
    急速充電は80%充電までに留めましょう、制限が入ります、等の表記は彼方此方で見かけますから、またバッテリー残量20%を目処に急速充電しましょうという表記も彼方此方で散見されますから、
    80%で急速充電器を停め、20%で急速充電するという形ですよね。
    その為にコマメな継ぎ足し充電をしましょう!が、賢い使い方の様に表記されるのであれば、急速充電能力が欧州では100㎾h?実際には充電能力80㎾h程度ですか?
    これをそのままチャデモ化する程度の事も出来ないのか?実際には240㎞も走れば再度の充電が必要になるのに、
    バッテリー容量が50㎾hなのに、30分放置されて40㎾hも充電されたら様々な制限が入ってしまうから50㎾h急速充電能力に留めているという主張をされた場合には、反論は難しいんでは無いでしょうか?
    加えて、かなり相性の良い急速充電器でも50㎾hでは22㎾h程度ですよね、実際にはステランティスの車両の場合16㎾hとかしか入らない組合せも多いので、その50㎾h急速充電対応というのもかなりオーバー過ぎる擁護?狂言?では無いかとも、思ってしまいました。
    充電能力の実態との乖離は、貧弱な実態を糊塗する為の方便なのか、150㎾h対応でも実際には80~90㎾h対応程度の実力です。システム電圧が低いEVしか活用出来ない高出力電流値という実態では、あまりEVが市民権を得るまでには成長出来ないのでは?
    そこらでリセールバリューの低さが定着したのでは無いかなぁと、いつも思っていますけれど、如何でしょう?

  2. お書きのように、ロングドライブ時の高速道路SAPAで50kW(125A?)までしか対応していないのは、今基準だと「軽のアイ・ミーブやN-VAN e:レベル」(サクラやeKクロスEVの30kW・85Aは論外)です。
    急速充電は100kWに対応+駆動用電池冷却&加温までがセットでないと見に行く価値はかなり低く感じてしまいます。

    またステランティスで見ると、フィアット『600e』を「ニチコン製NQM-UCY04」で充電する際の上限出力が充電器の単一電源ユニットの出力(20kW)なのか?50kWで充電出来るのか?の情報はお持ちですか?
    https://www.e-mobipower.co.jp/news/4539/

  3. autocarのテストだと航続距離は300km弱のようですね
    日本でのテストを期待しています

    https://www.autocar.jp/post/1046114/8
    現実的な状況でのテストでは、平均電費が5.5km/kWhだが、バッテリーの実用容量は50kWhをちょっと超えるだけなので、280km弱しか走れない。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です


この記事の著者


					寄本 好則

寄本 好則

兵庫県但馬地方出身。旅雑誌などを経て『週刊SPA!』や『日経エンタテインメント!』の連載などライターとして活動しつつ編集プロダクションを主宰。近年はウェブメディアを中心に電気自動車と環境&社会課題を中心とした取材と情報発信を展開している。剣道四段。著書に『電気自動車で幸せになる』『EV時代の夜明け』(Kindle)『旬紀行―「とびきり」を味わうためだけの旅』(扶桑社)などがある。日本EVクラブのメンバーとして、2013年にはEVスーパーセブンで日本一周急速充電の旅を達成した。

執筆した記事