ジープ初の電気自動車『アベンジャー』日本発売/航続距離486kmで価格は580万円〜

ステランティスジャパンは、ジープブランド初となる電気自動車にして最もコンパクトな1台となる『Avenger(アベンジャー)』を、2024年9月26日に発売した。ジープらしさを踏襲するエクステリアデザインと「本格オフロードも可能」な走りが個性のモデルとして、グループ内でのEV選択肢拡大を図る。

ジープ初の電気自動車『アベンジャー』日本発売/航続距離486kmで価格は580万円〜

※冒頭写真はプレス発表会でプレゼンするステランティスジャパン代表取締役社長の打越晋氏。

ジープブランドで最もコンパクトなモデル

ジープというと、山道や砂漠などでのオフロード走行のイメージが強く、電動化とは縁遠いように思えるが、実はすでに『レネゲード』、『ラングラー』、『グランドチェロキー』の3車種にプラグインハイブリッド(PHEV)をラインナップしている。

そして、いよいよ同ブランド初の完全電気自動車(BEV)である『アベンジャー』が日本に上陸。2024年9月26日、ステランティスジャパンが東京都内でプレス発表会を開催した。

アベンジャーのボディサイズは、全長4105mm、全幅1775mm、全高1595mm、ホイールベース2560mm、車重1570kgの5人乗り。兄貴分のレネゲード(4255mm)より全長が150mm短く、ジープラインナップで最もコンパクトなモデルとなる。

希望小売価格は580万円(税込)〜。国のCEV補助金額は65万円に決定した。

搭載するバッテリー容量は54.06kWh、一充電走行距離(WLTC)は486km(EPA基準換算推計値374km)。同じプラットフォームのフィアット『600e』(関連記事)と比較すると全長が95mm短く、車重が10kg軽いこと以外はほとんど同じ数値だ。

ボディカラーはサン(黄色)、スノー(白)、ボルケーノ(黒)、グラナイト(グレー)の4色。

とはいえ、フィアットとジープという際立ったブランドのEVとしての個性が与えられている。たとえば、アベンジャーのエクステリアデザインでは、同ブランドの象徴である「7スロットグリル」や、フロントドアに配置された車名ロゴが、ジープであることを明確に主張している。

レネゲードから受け継いだテールランプの「X字」デザイン(燃料携行缶がベース)からもジープファミリーであることが分かる。車幅は1,775mmとレネゲードよりも30mm狭いものの、前後フェンダーの張り出しが強調されて、視覚的に4輪がしっかりと踏ん張っているような安定感を感じさせるデザインになっている。

ジープブランドのグローバルプロダクトプランニングを担当するマット・ナイクイスト氏がアベンジャーに込めた思いやノウハウをオンラインで解説した。

FWDながらオフロードの走破性にもこだわった

「600eと同じプラットフォーム」であることから想像できるようにアベンジャーは前輪を駆動させるFWDだ。ジープ=AWDとのイメージとも合わないが、「本格オフロード走行も可能」とのこと。

ポイントのひとつが「セレクテレイン」と呼ばれるドライブモード。600eのノーマル、エコ、スポーツに加えて、スノー、マッド、サンドの3種類が追加されている。また、急な下り坂を一定速度で走行するようにアシストする「ヒルディセントコントロール」機能も標準装備された。

この新たな3種類のドライブモードによるオフロード走破性能の向上は、おもにモーター(コントローラー)やサスペンションのチューニングで実現していることが説明された。トルクフルかつ瞬時の制御と相性がいいモーター駆動であるBEVは、そもそもの素性として雪道やオフロードの走破性に優れているということでもあるだろう。

ドライブモード選択画面。選択スイッチはセンターコンソールにある。

また、アプローチアングルとランプブレークアングルは20°、デパーチャーアングルは32°、最低地上高は200mm、渡河性能は230mm(欧州仕様値)とするなど、ジープブランドならではのノウハウが投入されている。本格的なトライアル競技のようなオフロード走行はさすがに厳しいだろうが、自然の中でのドライブを楽しむ際に遭遇するちょっとした悪路や雪道では、心強い味方になってくれるだろう。

写真の「ローンチエディション」とメーカーオプションのスタイルパックのタイヤサイズは215/55R18、通常モデル「アルティテュード」は215/60R17。インチは異なるが幅は変わらないこともあってか18インチでも一充電走行距離は485kmと17インチと1kmしか違わない。

欧州で10万台以上を受注

アベンジャーは欧州では2023年1月から販売されている。日本導入までに1年半以上の時間を要したのは最近の輸入車では珍しい。というのも、欧州で受注台数が10万台を超える大ヒットになっていることが理由のひとつかもしれない。昨年はジャーナリストの選出による欧州カーオブザイヤーにも輝いていることから、ユーザーからの人気もプロの評価も高いことがうかがえる。

内装色はブラックのみ。コンパクトカーだが身長172cmの筆者が後席に座ってもルーフに頭がつかない広さを実現していた。

日本国内に目を向けると、2023年のBEV販売台数は、輸入車(22,804台)が国産車(21,135台、軽自動車を除く)の台数を上回り、輸入ブランドEVの人気が高まっている。様々なブランドの豊富な車種ラインナップがあることもこの数字を後押ししていると思う。欧州での確かな実績とジープらしさを持つアベンジャーが、日本でもヒットするのかに注目したい。

限定150台の特別仕様車

アベンジャーの日本発売を記念して、150台限定の特別仕様車「ローンチエディション」が用意された、価格は595万円。パワーサンルーフ、ブラックペイントルーフ、18インチアルミホイール、イエローダッシュボードの特別装備4点に加えて、1/43サイズのダイキャストモデルも付属。総額約33万円相当の装備がベースモデルから15万円アップのお値打ち価格で提供される。

特別仕様車ローンチエディションのイエローダッシュボード。通常モデルはシルバー。

また、アベンジャー購入者の先着500名には「Jeep Chargingカード」がプレゼントされる。e-Mobility Powerと提携したこのカードは、全国の充電スポットで使用できることはもちろん、カード発行手数料、急速・普通併用プランの月額会員料金および月180分相当の充電料金が、6か月間無償で提供されるという。

ちなみに、eMP提携の充電カードを用意するのは、ステランティスグループのブランドでは初めてのことになる。従量課金制導入の大変革が迫る今のタイミングで、なぜ独自充電カード導入に踏み切ったのかなど、EVsmartブログ編集部として気になる点は機会を改めて取材したいところではある。

ブランド内で絶妙な価格設定

ジープのラインナップは、コンパス(全長4420mm)、コマンダー(同4770mm)ラングラー(同4870mm)、グランドチェロキー(同4900mm)、グラディエーター(同5600mm)と4.7m超えのモデルが多い中で、前述のようにアベンジャー(同4105mm)とレネゲード(同4255mm)の2モデルは、明らかに小さく、全長の差が150mmしか違わないので、街中の取り回しもさほど変わらないだろう。

アベンジャーの標準グレード(Altitude)は580万円。レネゲードはICEとPHEVがあり、価格はそれぞれ455万円と635万円。大きなバッテリーで高価になると言われがちなBEVのアベンジャーがこの間に位置する価格で発売されたことになる。しかもCEV補助金を加味するとアベンジャーが515万円(補助金額は65万円)、レネゲードのPHEVが590万円(補助金額は45万円)で、アベンジャーの価格設定の絶妙さが感じられる。

ICE、PHEV、そしてBEVの車種選択肢が納得感の高い価格設定で並んだということもできるだろう。これは「FREEDOM OF CHOICE」(選択の自由)というジープブランドの哲学に基づいたマルチエネルギー戦略で、様々なパワートレインを選択できること、そしてBEVが価格的にも選びやすくすることを目指した成果でもあるだろう。

どうしても気になる2つの弱点

ジープブランドのEV として魅力的なデザインや走行性能を実現してデビューしたアベンジャーだが、ライバルとなる他の輸入ブランドのEV車種と比べると弱点になると思うことが2つある。

1点目は急速充電性能で、欧州仕様では100kWに対応しているが、日本仕様は50kWになる。高速道路のSAPAを中心に90kWや150kWの充電器が充実し始めている。筆者自身、実際に最大出力150kW器30分の充電で、急速充電能力が100kW超のライバル車で40kWh以上を充電した経験が何度もある。

実車での充電は未確認ではあるものの、アベンジャーは90kW器や150kW器を使ってもおそらく30分で20kWh以下しか充電できないはず。これは明確な弱点になってしまう。改めて確認すると、ステランティスジャパンではできるだけ早く日本のチャデモ規格でより高出力充電できるよう準備を進めているということではあった。とはいえ、充電性能はEVの基本性能ともいえるだけに、後手に回っているのは残念である。

2点目は 1595mmの全高だ。欧州仕様を確認すると1527mmになっており、68mmの差がある。このうち45mm分を下げることができれば多くの立体駐車場に入庫可能な1550mmになる。ステランティスではこの車のキャッチコピーを「その日常に電気が走る」としている。取り回しの良いサイズに、駐車場を選ばない全高が加われば、さらに日常で使いやすい1台になると思う。ちなみに価格とサイズで真のライバルになりそうなボルボEX30(559万円)は、開発段階で本国に要望し全高を1550mmにおさめている。

今回の発表会では、「Recon(リーコン)」と「Wagoneer S(ワゴニアS)」というBEVの2モデルの導入を検討しているとの説明もあった。アベンジャーの急速充電性能や全高が今後のイヤーモデルなどでどのように改善されるのか、さらには今後のジープブランドのBEVモデルの展開にも注目していきたい。

主要スペック

ジープ
アベンジャー アルティテュード
全長(mm)4105
全幅(mm)1775
全高(mm)1595
ホイールベース(mm)2560
トレッド(前、mm)1540
トレッド(後、mm)1530
最低地上高(mm)200
車両重量(kg)1540
乗車定員(人)5
最小回転半径(m)5.3
車両型式ZAA-FH1JE
プラットフォームeCMP2
交流電力消費率(WLTC、Wh/km)127
一充電走行距離(km)468
上記のモードWLTC
EPA換算推計値(km)374
モーター数1
モーター型式、フロントZK02
モーター種類、フロント交流同期電動機
フロントモーター出力(kW/ps)115/156
フロントモータートルク(Nm/kgm)270/27.5
バッテリー総電力量(kWh)54.06
急速充電性能(kW)50
普通充電性能(kW)6
駆動方式FWD
フロントサスペンションマクファーソンストラット
リアサスペンショントーションビーム
フロントブレーキベンチレーテッドディスク
リアブレーキディスク
タイヤサイズ(前後)215/60R17
荷室容量(L)355
0-100km/h加速(秒)9(欧州仕様値)
最高速(km/h)150(欧州仕様値)
Cd値(空気抵抗係数)0.338
車両本体価格 (万円、A)580
CEV補助金 (万円、B)65

取材・文/烏山 大輔

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					烏山大輔

烏山大輔

1982年生まれ、長崎県出身。高校生の時にゲームソフト「グランツーリスモ」でクルマに目覚め、 自動車整備専門学校を卒業後は整備士、板金塗装工、自動車カタログ制作、 自動車雑誌カーグラフィック制作、ALPINA総輸入代理店のNICOLEで広報・ マーケティングと一貫してクルマに関わる仕事に従事。 現在の所有車はインテグラ・タイプR、ハイゼットとガソリン車のみだが、BEVにもFCEVにもとても興味を持っている。

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