チューンしたモデル3が筑波でタイムアタックするらしい?
実は、事前にほとんど情報がないまま「行かなきゃ何も見られない」と、とりあえず筑波へ駆けつけたのですが……。
到着してみて驚いたのが、平日だし「ちょっとした走行会のようなイベントだろう」と思っていたら、パドックはたくさんの出場車両で大賑わい。会場では実況中継のアナウンスが大音量で響いてました。1月23日、この日開催されていたのは、モータースポーツファンにはおなじみの雑誌『REVSPEED』が主催する『第31回 レブスピード筑波スーパーバトル』だったのです。
タイムアタックは「ストリート」「ストリート+」「ストリートEVO」など、チューンアップ度合いによってクラス分けされていて、タイムアタックはA〜Dの4グループに分かれて行う、ということが、会場に行ってからようやく理解できました(苦笑)。
アタック車両のチューンアップ費用は300万円程度
タイムアタックを行った「モデル3」は、アメリカでテスラ車のチューンナップパーツを開発&販売している『Unplugged Performance』のパーツをほぼフル装備した1台でした。
来日していたUnplugged Performanceの担当者は、Avi Fisherさん。Aviさんとは前夜LINEで繫がり、私の拙い英語でなんとか居場所を確認できていたので、アタックを前に、車検場横の200Vコンセントで充電しているところで無事に落ち合うことができました。
サーキットに到着したのは午前9時過ぎ。モデル3の最初のタイムアタックは10時からの予定です。到着時にはまだ雨はほとんど降っていませんでしたが、天気予報は午後に向けて下り坂。Aviさんからも「The conditions for today look rainy. Best chance for a good result in the first session.(今日は雨模様だから、最初のセッションがいいタイムを出すベストチャンスだね)」とメッセージが入っていました。
なにはともあれ、1回目のアタックに間に合って、無事にAviさんと会えてよかった。午後は予定があるので、私が取材できるのも11時ごろがタイムリミット。なんとか雨が降らずにアタックできるよう祈りつつ、モデル3の写真を撮影することになりました。
今回のモデル3は、スポイラーなどのエアロパーツのほか、車高を下げるスプリングや強化サスペンションで足回りを強化、ブレーキも交換し、チタン製のホイルナットや、フルバケットシートなどを装備しています。
【パーツの詳細はこちら】
『Unplugged Performance』ウェブサイト(英語)
詳細に個別のパーツや価格などを確認する時間はありませんでしたが、チューンナップに掛かった費用の総額は、Aviさんによると「工賃を含めて300万円くらい」です。日本で購入して装着するにはどうすればいいのか尋ねると、首都圏では『テスラサービスセンター東京ベイ』がある『A PIT AUTOBACS SHINONOME』が扱っているということで、このモデル3にも A PIT のステッカーが貼ってありました。
Unplugged Performance は、「メルセデス・ベンツにおけるAMGのようなオフィシャルなチューナーとなることを目指している」とAviさん。イーロン氏と交渉とかしているのか確認すると、Aviさん自身はまだイーロンとは話したことはないものの「テスラ本社の複数の幹部とは交流があり、Unplugged Performance でチューンアップしたテスラ車に乗っている幹部もいる」そうです。
さらに、モデル3をはじめとするテスラ車は高度にプログラム制御されているのが特長でもあります。タイヤを交換しただけでも設定を変えて……、と聞くのに、車高を下げたりブレーキディスクを交換したりして問題はないのか? と気になったのですが、「日本ではモデル3はまだ発売されたばかりだけど、アメリカではもう2年以上ノウハウを積み重ねている。ノープロブレム!」とのことでした。
立ち話取材の簡単レポート&裏付け不足で恐縮ですが、チューンアップに興味があるテスラオーナーの方は、テスラサービスセンターや、『A PIT AUTOBACS SHINONOME』に問い合わせてみてください。
タイムアタックするドライバーは久保凜太郎さんでした
今回、タイムアタックを行ったのは、スーパーGTなどでも活躍する久保凜太郎さんでした。実は「23日はプロドライバーがハンドルを握る」とは聞いていたものの、それが誰かも知らずに筑波へ行ったのでした。。。
久保さんがドライバーと知り「おおっ!」と期待したのですが、なんと、Aviさんに話を伺っている途中から、大粒の雨が落ちてきてしまいました。Dグループアタック開始の10時が迫り、久保さんが準備を整える頃には、路面に水が流れるほど最悪のコンディションになったのでした。
でも、そこは百戦錬磨のレーシングドライバーです。電気自動車でのタイムアタック経験は「初めてですよー!」と言いながらも果敢に攻めて、Dグループで走った中では2番目に速いタイムを叩き出してくれました。とはいえ、結果としては1分12秒台にとどまりました。
1回目のアタックを終えた久保さんに話を聞くと「トラクションコントロールが思った以上に効き過ぎて、コーナーで速度が上がらなかった。ここで少しリアを滑らせてと思って踏み込んでも、どんどん減速しちゃうんだよね……」とのこと。
モデル3には「トラックモード」と呼ばれるサーキット走行などに最適化したプログラム制御を行うモードがありますが、雨の悪条件の中、高度な制御機能が働いてしまうので、プロドライバーのメリハリの効いたドライビングとのマッチングがかなり難しかったようです。
このあたり、素人解説をしても詮無いですが、私が筑波を去った後の2回目のアタックでは1分9秒台前半までタイムを縮めることができたそうです。
2日間のアタックで最速タイムは「1分4秒730」
実は、今回チューンアップしたモデル3による筑波サーキットタイムアタックは、22日と23日の2日間にわたって行われました。22日はサーキットの「ライセンス走行」で身内のアマチュアドライバーが挑戦。23日は前述のようにコース貸切で行われるレブスピード筑波スーパーバトルで、久保選手のドライビングによるアタックだった、というわけです。
22日のアタックでドライバーを務めたのが、中古車販売やチューンアップを手がける株式会社UNPARALLELLED (アンパラレルド)代表取締役の根來玄さんです。
英語と北京語が堪能なトリリンガルの根來さん。Unplugged Performanceの社長やAviさんとも以前から懇意にしているということで、今回、Aviさんへの取材でも通訳していただきました。根來さん、ありがとうございました!
で、22日に根來さんが出したタイムは「1分4秒730」。2回アタックしたうちの、2回目のセッションでのタイムだったとのことで、結果としては、今回のフルチューンモデル3の最速タイムとなりました。
アマチュアドライバーとはいえ、「ロータスやシビックなどの軽いクルマでレースを楽しんでいる」という根來さんは筑波サーキットでのレース経験も豊富です。テスラはもちろん、電気自動車でサーキットを走ったのは初めてだったという根來さん。感想を伺うと「エンジン音がないことや回生ブレーキにもっと戸惑ってしまうのかと想像していたけど、走ってみたら思った以上に違和感なく楽しめました」と、笑顔で話してくれました。
Aviさんも「チューンしたモデル3でサーキットを走った人は、エンジン車のようにシリアスなストレスを感じることなく、思いのままにクルマを操ることができる楽しさに魅了されちゃうんだよね」と強調していました。
「1分4秒730」というタイムは、どんな感じ?
ところで、タイムが1分9秒とか4秒とかいっても、筑波でタイムアタックなんてしたことのない大多数の方々には、それがどの程度の速さなのか見当がつかないでしょう。この記事を書いている私自身、10年以上前、当時の愛車だったアルファロメオ155でサクッと1周だけ走った時(ライセンス不要の走行会で)のタイムはたしか「1分12秒」くらいだったので「4秒って、速いじゃん!」とぼんやり感じる程度です。
日本電気自動車レース協会(JEVRA)が主催する『全日本EV-GPシリーズ』のリザルトをみると、ウェット路面だった2019年の筑波第1戦、予選1位だったチームタイサンのモデルSが1分17秒397。ドライコンディションの第5戦では、同じチームタイサンのモデルSが1分11秒776でポールポジションを獲得しています。
日産LEAF AZE0型でこのシリーズに参戦している、LEAFオーナーの会の知人でもある髙橋勝之さんによると、このシリーズに参戦しているEVの中でモデルSのパフォーマンスは図抜けていて「レース中に抜こうと思えばいつでも抜けるから、予選でもそんなに攻めていないのでは」とのこと。「あまり軽量化もしてなくて車重が1400kgくらいある」髙橋さんのリーフでのベストラップは1分12秒台ということでした。
モデルSが本気でアタックすればもう少しタイムは縮められるのかも知れませんが、久保さんがグショグショのウェットコンディションで出した1分9秒台や、根來さんが記録した1分4秒台が市販電気自動車として十二分に「速い!」ことがわかります。
今回、23日が雨でなければ「3秒台が目安としての目標だった」(根來さん)そうです。
EVならではのサーキット走行を楽しみたい!
Aviさんによるとサーキットでレースをするようなシチュエーションで、モデル3はモデルSと比較しても優れたパフォーマンスを発揮するそうです。「電池温度のマネージメント技術などが格段に進歩しているからね。モデルSも優れたEVだけど、モデル3と比べると10年前に開発されたクルマだから」とのことでした。
ちなみに、23日の会場で響いていた声の主は、元レーシングドライバーで現在は「D1グランプリ」のMCなども努めるマナピーこと鈴木学さんでした。古くからの友人なので、東京に戻ってから電話してモデル3の取材に行ってたことを伝えると「なんだよぉ、あのモデル3の情報が何もなくて、謎だったんだよ。教えてくれればよかったのに!」などと久しぶりに盛り上がってしまいました。学さんによると、この日のスーパーバトルの模様は、2月下旬発売の号で紹介されるはず、とのこと。週明け、編集部に確認してみます。
最近はドリフト大会盛り上げ役のイメージが強いマナピーですが、実は日本EVクラブで長く改造電気自動車レースの競技長を務め、電気自動車のよき理解者でもあるのです。爆音や排ガスをまき散らすことなくアクセル全開を楽しめるのも電気自動車の魅力のひとつ。モデル3のオーナーになったなら「カーボンフリーなサーキット走行に挑戦してみる」という楽しみ方もいいですね。
いや、モデル3に限らず、私の30kWhリーフでもタイムアタックしてみたくなりました。サーキットで自分の限界に近い走りをすると、公道では体験できない(すると危ない)クルマの挙動や、クルマをコントロールする感覚を実感できます。
また、電気自動車だからこそ、ヒールアンドトゥとかややこしいことを考えず、シンプルなアクセルとブレーキの操作で軽快なコーナーの立ち上がりとかを楽しむこともできます。サーキットライセンス不要で参加できる走行会などの機会を見つけて、一度、チャレンジしてみよう、かな。
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●謎の「モデル3」が筑波サーキット1分3秒台を目指してリベンジに挑戦!(2020年3月14日)
(取材・文/寄本 好則)
吊るしで何秒出るのか知りたいですね
ベスモでTAしてくれないかな。
ロングレンジとスタンダートとパフォーマンス集めてサ
カーボンフリー警察だ!手を頭の後ろで組んで膝をつけ!
貴様がサーキットですり減らすタイヤにはカーボンが含まれ、そのタイヤの生産にも大量のエネルギーが使われているのだぞ!
冗談はさておき、EVでカジュアルなサーキット走行ってのは内燃機関車よりトラブル要因が少なそうでいいですね。どうしても車が重いのでタイヤだけは心配ですが、ブレーキは回生する分もあればある程度助かるでしょうし、燃料の残量で挙動が変わったりしなくなりますし。
アメリカにはチューナーさんが育ちつつあるってのも夢の広がる話です。